翡翠はなんだかよくわからないけど燃えているみたいだし。
「だーるまさんが……」
まあいいや。気にしないでゲームを続ける事にしよう。
「ころんだ!」
「アルクェイドと遊ぼうの続き」
「そんなてわけで続いちゃったわけですが」
「いや何がそんなわけで?」
「いまひとつ盛り上がりに欠けますねー」
「……うーん」
確かに琥珀さんの言う通りなんだよな。
「ちょっとー。真面目にやりなさいよー!」
アルクェイドはものすごく不満そうな顔をしていた。
何故かというと。
「今度こそ……だるまさんが……」
アルクェイドが数えだしても。
「ころんだ!」
「……」
「あー! また全然進んでないっ!」
俺たちがほとんど前に進まないからである。
「しょうがないだろ」
「だるまさんがころんだ」は先にあせったほうが負けってゲームなのである。
だからこうやって地道に進むのが最大の攻略法だったりするのだ。
早い数え方にも遅い数え方にも対応できる最良の方法。
なのだが。
「面白くありませんよ兄さん! もっと奇抜な動きをしてください!」
「そうです! さっさと負けてください! じゃないとメシアンがっ!」
ギャラリーには大不評だった。
「そうですねー。動きが無いとつまらないですし」
「じゃあ琥珀さんが何かどうぞ」
ネタと言えばやはり琥珀さんである。
「直接的にも間接的にも関わらないのが最良の方法なんですよ?」
「……つまり琥珀さんは何もしないと」
「はい。わたしは翡翠ちゃんと仲よく歩いて行きますよー」
「……」
翡翠には悪いけど、こんなペースでやっていたら日が暮れてしまうだろう。
「じゃあ……」
仕方ない。俺が行くか。
「姉さん」
「ん?」
すると翡翠が何かを決意したような顔をしていた。
「姉さんはわたしと一緒に来るんですね?」
「え、ちょっと翡翠ちゃん?」
「だー」
アルクェイドが数えはじめた。
「行きます」
「ちょ、ちょっと!」
スカートの裾を掴んで走り出す翡翠。
「昔取った杵柄です」
「るまさんが……」
そういえば昔の翡翠は活発だったんだっけ。
こういう遊びをやってるうちに、かつての情熱が甦ってきたのかも。
「ころん……だっ?」
ぴたっ。
しかしさすがは翡翠というかなんというか、数え終わると同時に綺麗にストップしていた。
「……メイドが先に出てくるとは予想外だわ」
目を見開いているアルクェイド。
「志貴さん、翡翠ちゃんにばっかり活躍させていいんですか?」
「そうだなあ」
俺もちょっとは頑張ってみるか。
「で、琥珀さんは?」
「わたしはゆっくりと行きますよ」
これだ。
「まったくしょうがないなあ」
琥珀さんに頼るのは諦める事にしよう。
自分の力で勝利を勝ち取るのだ。
「だ……」
アルクェイドが数えだすと同時に猛ダッシュをかける。
長距離走は駄目だが、短距離だったら苦手ではないのだ。
「あっ」
翡翠を抜き去りさらに走る。
「ころん……」
「……っと!」
終わりそうなところでストップ。
「だっ! ……うわっ?」
「ふっふっふっふ」
今のダッシュでかなりの距離を稼げた。
「む……攻めてきたわね」
「つまらないって言われちゃな」
俺だってやる時はやることを見せてやる。
「遠野君! 早く負けてくださーい!」
「兄さん! ここまで来て負けたら承知しませんからね!」
「……はははは」
近づけば近づくほどプレッシャーも増えるけどな。
「だるまさんが」
「うおっ」
今回のカウントはかなり早かった。
これはさすがに距離を稼ぐわけにはいかないだろう。
「翡翠ちゃんっ!」
「え」
俺の真横を通り過ぎて行く翡翠。
「だ、駄目だ!」
そのスピードじゃいくらなんでも……
「ころんだっ!」
「……っ!」
不安定な形で翡翠。
「……!」
堪えるんだ!
堪えろ!
かくん。
「……あ」
願い空しく翡翠の体が揺れた。
「はーい、メイドアウトー!」
「……くっ」
ここで翡翠のリタイヤ。
「大丈夫だ。翡翠のカタキは俺が討つ!」
「兄さん! 私のぶんもですよ!」
「ああ!」
みんなの力を合わせればアルクェイドにだって勝てるさ!
「ふっふっふー。そんな事言って、志貴に期待すると痛い目見るわよっ」
怪しげな笑いを浮かべるアルクェイド。
「……む」
何か作戦でもあるんだろうか。
一応警戒しないとな。
「それと琥珀! 何か企んでるみたいだけどわたしには通用しないわ!」
「あはっ。買いかぶりすぎですよー」
琥珀さんが近くに来るにはまだ時間がかかるだろうし。
「いくわよ。だーるま……」
「よし」
慎重に、かつ大胆に距離を縮める。
余計な動きは一切ナシだ。
「さんが」
まだいける!
「ころ」
もうちょっと!
「ん」
ここで止まる。
「だ!」
あとは何が起きても動じずにいればいいだけだ。
有彦とのバカ騒ぎのせいで変な顔とかそういうのにも耐性は出来ている。
来るなら来い。
俺は負けない!
……ちらっ。
お?
ちらちら。
白い太ももが?
「……」
「あー! 志貴動いたっ!」
「はっ!」
しまったつい!
「何してやがるんですか遠野君!」
「色香に惑わされるなんて……最低ですよ!」
「しょ、しょうがないじゃないかっ!」
スカート長いせいで普段見えないアルクェイドのふとももが見えたら、そりゃ顔を動かすって。
「くそぅ……」
男の本能に訴えてくるとは。
これで俺もリタイアになってしまった。
「後は琥珀さんだけか……」
「ま、予想通りだけどね」
後は琥珀さんがどんな作戦を立ててくるかだ。
「アルクェイドさーん」
「ん?」
口元を隠して怪しく笑う琥珀さん。
「だるまさんがころんだっていうのは、鬼が動いた相手を指名して、そこではじめて捕まるんですよね?」
「ええ、そうよ?」
細かく言うと、例え動いたとしても鬼が気付かなければそれはセーフなのである。
「逆に、誰かが鬼を捕まえたらこっちの勝ちですよね?」
「……? ええ」
何故か当たり前のルールを確認してくる。
「それがわかればいいんですよ」
「……怪しい」
「怪しいですね」
「不穏な気配です」
どうやら琥珀さんもここで勝負に出るつもりらしい。
「だーるま……」
「だぁーっしゅ!」
まるでマンガのキャラみたいな走り方をはじめる琥珀さん。
「……なんだ?」
まさかただ突っ込むだけってわけじゃないよな?
「さんが……」
琥珀さんはひたすらつっ走る。
まるで止まる事を考えていないようだ。
「ころん……」
だがあの速度では距離が絶対的に足りないだろう。
どうするつもりなんだ?
「だっ!」
まだ琥珀さんは走っている。
「琥珀うご……」
アルクェイドが満面の笑顔で琥珀さんの敗北を宣言しようとした瞬間。
しゅっ!
「えっ」
俺の足元から何かが飛び出してきた。
「……全て読めてたわっ!」
そしてそれをジャンプで交わすアルクェイド。
「レンも動いたっ!」
そしてその何かを指して叫ぶ。
「レン……?」
くるくるくるくる……しゅたっ。
「……」
「あ」
なるほど、確かに黒猫のレンだ。
「いつの間に……」
「琥珀がこっそり歩かせてたんでしょうね」
「なるほど」
鬼が指名したらとこだわっていたのはそのせいか。
「でも、そんなのわかってたのよ。レンの元々の飼い主はわたしなんだから」
「……くっ。詰めを謝りました」
残念そうな顔で近づいてくる琥珀さん。
「えへへ。わたしの完全勝利ね」
「でも」
「でも?」
「わたしが動いたとはまだ完全に宣言してないですよね?」
「……っ!」
言葉の意味していることに気付き飛びのこうとするアルクェイド。
だが真後ろは木だった。
「はい。タッチです」
琥珀さんがアルクェイドの肩に触れた。
「……ず、ず、ずるいわよっ!」
「だって確認したじゃないですかー」
「そうねえ。この場合は琥珀の言い分が正しいんじゃないかしら」
自分の敗北もかかっているのでロコツに琥珀さんを擁護する秋葉。
「どうでもいいから私はメシアンにー!」
「先輩、カレー絡むとキャラ変わりすぎだから」
「失礼な! カレーを疎かにするとバチがあたりますよ?」
「シエル先輩、行ってらっしゃい」
「行ってきます!」
先輩は風になった。
「結局姉さんにいいところを持って行かれてしましましたね」
「でも翡翠も活躍してたよ」
「……そう言って頂けると嬉しいです」
翡翠はとても満足そうである。
「あー、ではそろそろご飯を作りますよー。みなさんお疲れでしょうからー」
琥珀さんも嬉しそうに屋敷へ戻っていった。
レンも一緒に後をついていく。
「はぁ。暇つぶしにはなったかしらね」
秋葉もぶつぶつ言いながらも満足そうだった。
「で、どうだったんだ? おまえは」
最後に残ったアルクェイドに尋ねる。
「結果的には負けちゃったけどね」
伸びをして空を見上げるアルクェイド。
「楽しかったからいいわ」
「そっか」
こいつが満足してくれたなら、まあそれでいいんだろう。
「また遊ぼうね」
「おう」
「しっきー。あっそぼー」
「……いや、夜中はさすがに勘弁して欲しいんだけどなあ」
「えへへ。今度は大人の遊びよ」
「ばか」
「嬉しそうな顔しちゃってー」
終われ