ただでさえ暑いのにますます暑苦しくなってきた。
「SO2中最も有名なセリフですよね」
「……確かになあ」
あの技のインパクトもあって印象に残っているプレイヤーは多いだろう。
「で、何故にセカンドストーリー?」
「ああ、いえ、別にあれだけにこだわるつもりはないんですが」
「……なに?」
なんだかいやな予感がする。
「毒を持って毒を制すという言葉がありますが」
「うん」
「暑いときには暑苦しいセリフを持って暑さを制しましょう!」
ほらまた変な事考え出すんだから。
「暑苦しい話」
「もえつきろー!」
「……それは琥珀さんのセリフとしても正しいからやだな」
「骨まであっためてやるよ!」
「うーん」
あのセリフは骨太な声で言われるからこそ暑苦しいのであって、琥珀さんが言っても正直。
「なんかかわいい」
「うわー、それは熱いですねー」
ぱたぱたと顔を扇ぐ琥珀さん。
「あついぜー! この俺さまはつえーだろーが!」
「……ミカエルだけでたくさんあるね」
「なんせ熱さの塊ですから」
あの技のせいで何度全滅した事か。
「最初は負けるイベントだと思った」
「ですよね。あんなの勝てるなんて思いませんよ」
ところが全滅したらゲームオーバー。
「初見でクリア出来た人っているんでしょうか」
「どうだろうなあ」
それでも対策をちゃんとすれば勝ててしまうのが面白いのだが。
「余談ですが」
「うん」
「カモンバーニィでのクロードの声がゲボンバービィ! と聞こえます」
「い、いくらなんでもそれはないんじゃないかなあ?」
確かになんか他の声に比べて違和感はあったが。
「あれも暑苦しいといえば暑苦しかったですね」
「プリシスとかは暑苦しくないじゃない」
「かぁーもんばぁーにぃ」
「あ、似てる」
確かにそんな感じだった。
「志貴さんはロリコン……と」
「いや違うから」
どうしてそういう展開になるんだ。
「やはり炎系の技を使うキャラクターは暑苦しい傾向にあるようですね」
「まあね」
そのほうがキャラとしてわかりやすいからだろう。
「あるゲームに炎系の暑苦しさを究極にまで高めたキャラがいます」
「ふーん?」
「侍よりも忍者が多いゲームですが」
「……あー、サムスピ?」
「ドォグゴラァー! ドォグゴラァー! ドォグゴラァー!」
「うん、熱いから止めようね」
いちいちポーズを真似しているのがかわいいけど。
「ダッシャァァ! タァーーッ! ドルァゴルァヴァーッハッハッハッハッ!」
「だーかーらー」
「ぐるじおっ」
「失敗かよ!」
そこはチェストー!といって欲しかった。
「あれほどロマンに溢れたキャラはそういませんよ」
「のるかそるかだもんな」
究極の博打キャラといえよう。
「零SPのCPU炎邪の六道成功率は異常でした」
「……ほとんど100%だった気がする」
一瞬の油断が即死に繋がるという恐ろしい勝負。
「まさに侍魂でしたねー」
「忍者だけどね」
いや、忍者かどうかすら怪しいけど。
「もう一方の火月も暑苦しさでは負けてません」
「炎邪には負けるけどね」
「ねんしょぉー!」
「……うん、いちいち叫ばなくていいからね」
野郎キャラが叫ぶと鬱陶しい事この上ないのだが、琥珀さんが叫ぶとなんか和む。
「サムスピはセリフが暑苦しいキャラが多いですねえ」
「うん」
「ズィーガーなんか特に」
「……あ、あれは」
何もしてなくても暑苦しいというか。
「ティーガー! ファルケナーゲル! エレファングリード!」
「ヴァー!」
「ヴァー!」
やたらめったら暑苦しい。
「うふふ、志貴さんノリがいいですねー」
「はっ」
いかん、ついつられてしまった。
「格闘ゲームで暑苦しさを語るならば、もう一人欠かせない人がいます」
「うん?」
「喧嘩百段、28歳の高校生!」
「あー」
「ごぉっついタイガーバズーカじゃ!」
「溝口ね」
主人公でもないのに主人公よりも有名な男。
「ちなみに主人公は誰だか知ってます?」
「え? う、え、えーと……」
「レイ・マクドガルですよー」
「あー……あー?」
溝口はわかるのにそいつはどんなのだったか思い出せない。
「サムチャイとカルノフならわかるんだけど」
あのゲームにおいて重要なのはキャラの濃さだ。
むしろ他はどうでもいい。
「画面端でごっついタイガーバズーカから立ちD、チェスト×4の通天砕で8割越えですよー」
「……わかる人少ないと思うなあ」
プレイした人にとっては常識かもしれないが。
いやそうでもないか?
「というわけでデゴゲーの話に入ります」
「……だんだんコアになってくるなあ」
デコゲーは理不尽な演出や展開が盛りだくさんなのだ。
琥珀さんなら大好物だろう。
「ばれたかげろげろ」
「……いきなりそれですか」
トリオ・ザ・パンチなんて何人の人がわかるんだか。
「デコゲーは色々ありますが、ナンセンスさで言ったらトリオ・ザ・パンチには勝てません」
「うん」
あそこまでデコゲーというものを表現したゲームはない気がする。
「なんていうかもう……あれは全てが凄いです」
「どうしようもないくらいにね」
タフガイサントス、忍者カマクラくん、剣士ローズサブ。
にょき、勝ち、呪ってやる、弱点は鈴、だるまさんが転んだ。
意味がわからないだろうが、全てトリオ・ザ・パンチの中に込められている。
「赤城山ミサイルなんて名前普通考えつきませんよね」
「誘導ミサイルでいいと思うんだけどなあ」
「OWATTE SIMATTA」
「……はいはい」
チェルノブも色んな意味で凄い作品だった。
「アツクテシヌゼェー!」
「……色々あるね」
「このセリフは本来北斗の拳のセリフなんですけど色々パロディにされてますね」
「ミカエルも言ってなかった?」
「言ってましたねー」
それだけ使い勝手のいいセリフなんだろう。
日常生活じゃ使いようがないけど。
「暑いですねー」
「……そうだね」
なんだか周囲の気温が二度くらいあがったような気がした。
「そろそろ暑苦しさでは類を見ない作者さんの名言地獄で締めようと思います」
「……それってまさか」
「廃部だっ!」
「やっぱりそれか!」
炎の漫画家、島本和彦。
「勝てるか勝てないかの問題じゃありません……絶対に無理でも、勝たなければならないんです!」
「敵をのんでも、のまれるなッ!」
「あ……」
対抗して俺がセリフを言うと琥珀さんは嬉しそうな顔をした。
「志貴さん……ありがとうございます」
「いやいや」
どうも琥珀さんに感化されてしまったようだ。
「わたしは……わたしたちは」
「なにがあろうと絶対に勝つ!」
「以上ですっ!」
笑いあう二人。
暑いのになんだか爽やかな気分だ。
「これが逆境ですね!」
「……違うと思うよ」
暑い日に敢えて暑苦しい事を。
気力の充実には最適かもしれない。
「あはは……なんか汗掻いちゃいました」
「そりゃまああれだけ叫べばね……」
「シャワー浴びてきますー」
「あ、うん」
「覗いちゃやーですよー?」
ばたん。
「今のセリフが一番熱い気がする」
いや、何がどうしてとは言わないが。
「……暑い」
俺はこれからどうするべきなんだろう。
ひょっとしたら、ものすごく熱い展開が待っているかもしれなかった。
完