琥珀さんが何故かいつもと違ったトーンで笑い出した。
「あはー」
「いやそれも違う」
普段そんな笑い方しないから。
「あはっ」
「そうそれ」
それこそが正しい琥珀さん……って何をそんなにこだわってるんだ俺は。
「はっはっは……でわかりません?」
「いや何をわかれと」
何か元ネタがある笑い方なのか?
「ヒントは手足が大きくなることと秘密の花園です」
「手足……秘密の……ああ……」
アレか。
「知る人ぞ知る屈指の名作、ワーヒーパーです!」
「……いや、その略し方はどうかと思うんだけど」
とにかくまあ、わかりやすく言えば暑苦しい話である。
「またも暑苦しい話」
「わかる人どれだけいるのかなあ」
ワールドヒーローズパーフェクト。
知らない人はまったく知らないんじゃないだろうか。
「風雲拳やファイターズヒストリーよりは知名度があるんじゃないかなと思いますが」
「……比較対象に問題がある気がするんだけど」
しかもどっちも暑苦しい事この上ない。
「パーフェクトはよく出来たゲームだと思うんですよー。究極的にたどり着くのはハメなんですけど」
「駄目じゃん」
「バランスでいえばJETのほうですね。ただゲームシステムとしてはちょっと」
「うーん」
そのへんは余程のマニアじゃないとわからない気もするんだが。
「表面的な面で言いますと」
「うん」
「パク……ごほっ、色んなモノをオマージュしたキャラが多かったですね」
「そ、そうだね」
手前の二文字については聞かなかったことにしよう。
「ブロッケンなんてシュトロハイムとダルシムですもんねー」
「いや思いっきりバラしてるし!」
「一般常識ですよ?」
「そんな常識ないよ!」
下手したら格ゲーやってた人でも通じないぞ?
「だって手足が伸びてドイツの科学は世界一ィィィィですよ?」
「……ブロッケンはポチッとなが一番印象的だったなあ」
琥珀さんとまともな会話をするのは無理だと諦めて流れに乗る事にした。
「あー、あれもいいですねえ。コマンドといい演出といい」
ジャーマンエクスプローション。
ロボットであるブロッケンが粉々になる自爆技なのだが、本体の体力はまるで減らない。
しかも体力点滅時だったら使い放題。
「しかもヒーロゲージが溜まってたら根元がガード不能! 起きあがりに重ねてジ、エンドですよー」
「……あったなあそんなの」
「必殺技ではマッスルパワーのトルネードブリーカーが好きです」
「トルネードブリーカー……」
はてそんな技あったかな。
「ナンバーワーンって言って投げる技です」
「ああ!」
あれか。
「あの人ナンバーワーンって言ってる記憶しかない」
「そこがいいんですよ。ナンバーワン、ナンバーワーンって」
「投げなくても強いから怖いんだよなあ」
「ですねー。リョウコのほうは投げが怖いですけど」
「そうだっけ?」
リョウコというのは言わずもがな、ヤワラちゃんのパロディみたいなキャラだ。
「牽制技がメインだった気がするんだけど」
「いえ、ゲージ付きの究極奥義がものすごい減りでして」
「も、ものすごい?」
「7割持っていきますからねえ」
「……それは恐ろしい」
まさに捕まれたら終わりということか。
「まあ真の投げキャラは体力が点滅したキャプテンキッドなんですが」
「投げ技なんて……あ」
点滅した時に使えるのは究極奥義だ。
「キッドの究極奥義は投げ技なんですが、コマンドが逆昇竜BCという簡単なものなんですよ」
「逆昇竜BC」
テンキーで言ったら421BCだ。
「しかもガードキャンセル気味に発動可能。一瞬でも攻撃に間が空いたら投げられます」
「……とんでもないな」
「そこがいいんですよ。とんでもない技を持っている相手にいかにして勝つか。面白いじゃないですか」
「なるほど……」
そういう楽しみ方をしてるのか。
「その代表例がラオ……ゼウスですね」
なんか違う名前が聞こえた気がする。
「パーフェクトのゼウスはイベント扱いだからなあ」
「ええ。ですからものすごい強いんですよ」
「うん」
俺もボコボコにやられた記憶がある。
「下手にメガトンパンチが空中ヒットしたらそれだけで即死ですもんねー」
「……あれは泣いたなあ」
連続技もへったくれもない。
本当にただ突き出しただけの拳に連続で当たって死ぬのだ。
「あれぞまさに必殺の拳」
「うん」
「でもそのゼウスもNEO-DIOにやられちゃうわけで」
「……ラスボスだね」
あの登場には結構驚いた。
「これがまた、純粋に強いんですよねえ」
「うん」
プレイヤーが使える状態と全く同じ性能なのにやたらと強い。
「人間が使うとまたそれはそれでタチが悪いんですが」
「ま、まあそれはそれで」
さすがにラスボスというだけの力はあるわけだ。
「アルティメットビーストのガード不能に目を奪われがちですが、本当に怖いのはショートジャンプでしたね」
「そうなんだ」
「ええ、まるで隙のない中下段投げの三択は地獄ですよ?」
「……聞いてるだけでやだな」
やってる側は楽しいんだろうが。
「まあ使ってて楽しいのは中堅キャラですね。シュラとかものすごいやりがいありますよ?」
「……シュラ?」
「負けたっスー!」
「ああ! あの地味な!」
「そうです! WHP界のシエ……地味キャラ!」
実際はそんなに地味じゃないんだけど、とにかく地味ということをネタにされるキャラである。
「タイガークローからのルンピニーダンスを決められるようになってからが楽しいんです」
「ふーん」
メインキャラじゃなかったのでそのへんを語られてもよくわからなかったりする。
「俺はドラゴンのほうが好きだったかも」
「ドラゴン。いいですねえ。アタタにワッチョー! ドラゴンキックがそんなに強くないけど好きです」
「シンプルだけどかっこいいんだよね」
これでもかってくらいにステレオタイプなカンフーキャラだが、そこがまたいいのだ。
「相手に何もさせずに勝つ事すら可能ですからね」
「あ、あはは」
それはやりこんでいたであろう琥珀さんだからこそ出来る芸当である。
「あとはゴツいキャラが多いのが特徴でしたねえ」
「あー」
Jカーンにエリック、Jマキシマムにリョフと。
「イロモノは言わずもがなですし」
「うん」
マッドマンをはじめ、ジャックにラスプーチン。
「ジャンヌは昔の強さが印象強すぎてイマイチですねえ」
「昔の?」
「初代のジャンヌがフラッシュソードを連発してるだけでマッスルパワーは何も出来なくなっちゃうんです」
「へえー」
「ザンギダルなんかよりよっぽど絶望的なダイヤだったんですよ」
「……終盤は結婚ばかり気にしてる感じだったけどね」
ずいぶんとまあ丸くなったもんだ。
「ハンゾウとフウマはどう?」
「パーフェクトの疾風燕落としよりはJETの忍者レッグラリアートのほうが好きです」
「……ハンゾウ派ね」
「はい。疾風の術で簡単にハメられますから」
「……」
酷い理由だった。
「フウマはオラオラ忍者だというのは常識ですが」
「また変な常識を……」
「オラ! オラァ! だぶるれっくぅざぁん! にんぽうふうりんかざん!」
「……確かにうるさかったけどね」
あれだけやかましいキャラは他に……結構いるんだけど、まあ少ない気がする。
「というわけで志貴さん」
「う?」
なんだかいやな予感がする。
「わたしの部屋にネオジオがあるんですけどー」
「え、いや、それはちょっと?」
俺をサンドバックにするつもりですかっ?
「大丈夫ですよー。ハメ技は一度だけにしてあげますからー」
「使うんですかいっ!」
「だってほらー」
琥珀さんは俺の耳元でそっとこう囁くのであった。
ほんと、こういう変な言葉遊びだけは得意なんだから。
「いつも志貴さんにはめられてるのは、わたしなんですから……ね?」
完