「あれ?」

気付くとオレは見知らぬ森の中に立っていた。

「どこだ……? ここ」

見覚えがあるような無いような。

「……夢だよな? これ」

直前までの記憶がまるでない。

多分これは夢だろう。うん。

なんとなく懐かしい感じもするが……思い出せない。

「……腹減ったな」

そしてものすごい空腹感を感じる。

「何かないか……」

しばらく歩いていると、小さな建物を見つけた。
 
 

「注文の多い……」




「……こんなところに料理店?」

しかも西洋ときたもんだ。

「怪しい……」

なんかこんな話をどっかで聞いた事がある気がする。

「ま、いいか」

どうせ夢なんだし。

玄関は白い瀬戸のレンガで組んである立派なものだった。

「ん……」

ガラスの開戸に金色の文字が描かれている。

『どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません』

「……ますますどっかで見た気がするぞ」

どこで見たんだっけな。

「……」

しかし不思議と中へ吸い込まれるように入ってしまう。

中は妙に扉が多かった。

「ん」

そして妙な看板が立っている。
 

『ここではきものをぬぎましょう』
 

「……履き物だよな?」

まさか着物を脱げというわけないだろう。

「なんだっけな……」

どっかで聞いた話なんだけど。

「思い出せない……」

また進むと扉に文字が書かれていた。
 

『武器の類はここへ置いてください』
 

「……」

黒い台に短刀を置く。

「まあ飯を食べるのはいらないだろうけど……」

それにしたってなんでこんな?

「……」

さらに進む。
 

『タマゴを割ってください』
 

「客に作らせるのかよ!」

どんな料理店なんだここは。
 

『貴方が作る事に加わる事で美味しさが倍増するのです』
 

「……なるほど」

なんだかおかしい理屈なのだが納得してしまった。

「タマゴを割って……」
 

『砂糖を混ぜてよく泡立ててください』
 

「ぐりぐりぐりぐり!」

無駄に気合を入れてかき回す。

「……はあ」

こんなもんだろうか。
 

『どうぞお進みください』
 

「さいですか……」

文字に従って先に進む。
 

『ボウルの中の生クリームを角が立つまでよくかき回してください』
 

「うおおおおおお!」

ぐりぐりぐりぐり。

「なんでこんなのばっかりなんだ……!」

割としんどい作業なんだぞ、これ!

「……はぁはぁ」

ボウルをテーブルの上に置く。
 

『先へどうぞ』
 

「次はなんだ……?」

肩を自分で揉みながら先へ進む。
 

『お疲れさまです。しばらくお休みください』
 

そんな文字と共に椅子が置かれていた。

「やれやれ……」

ため息をつきながら椅子に腰掛ける。

「一体なんなんだここは……」

さっぱりわけがわからない。

客にこんな注文ばっかりして……

「……注文?」

注文。

料理店。

その二つのフレーズから連想されるものはひとつしかない。

「注文の多い料理店……!」

話の概要はこうだ。

ある二人の猟師が山奥で山猫亭という西洋料理店を見つける。

その建物の中にはドアがたくさんあり、進むたびにいちいち注文が書かれている。

進んでいくうちに何かおかしいと思い始め引き返そうとするのだが、時既に遅し。

男たちの目の前には巨大な猫の瞳が……

「……じょ、冗談じゃないぞ」

いくら夢の中の話だからって猫に食べられるだなんて。

「なんとか逃げる方法は……」

ドアを引っ張ってみるものの、ぴくりともしない。

かつん、かつん。

「!」

足音が聞こえる。

「なんだ……何が来るんだ……!」

俺は椅子を掴んで身構えた。

くそっ、夢の中だからって好きかってやられてたまるか……!

ばたん。

「……あら?」
「あ、あれ?」

扉を開けて出て来たのはどこかで見た事のある少女だった。

「レン……?」

いや、違う。

着ている服も白いし、雰囲気もどこか異なっている。

「どうしたのかしら? そんなに怖い顔をして」
「……注文の多い料理店なんだろ」

油断しちゃ駄目だ。

なんせここは夢の中。

何があるのかわからないのだから。

「それは正しいけれど、今は貴方に危害を加えるつもりはないわ」

くすくすと笑う白いレン。

「何が目的なんだ」
「目的はもう達成したわよ」
「え?」
「ほら」

そこで白レンの持っていたものに気がついた。

「……ケーキ?」
「ええ。貴方が作るのを手伝ってくれたモノよ」
「あ」

タマゴにクリーム散々かき回して。

「なるほど……」

アレはケーキの材料だったわけか。

「食べたくなったから貴方を呼んだの」
「……なんだよ、ずいぶんワガママだな」
「いいじゃない。貴方にもちゃんと食べさせてあげるわよ」

そう言って切り取った部分を差し出してくる。

「そりゃどうも」

苦笑いしながらそれを受け取った。

「いただきます」
「どうぞ」

さっそく一口。

「ん、美味い」
「でしょう?」
「俺が頑張ったからだよ」

クリームやスポンジの下地をしっかり作るとケーキは美味いのだ。

「そうね、褒めてあげるわ」
「……偉そうだなあ」
「当然よ。わたしが貴方に食べさせてあげてるんだから」
「はいはい」

適当に流してケーキをかっくらう。

「甘さも丁度いいな」
「でしょう?」
「ああ。確かに途中に書いてあった看板の通りかも」
「感謝なさい?」
「うん。ありがとう」
「なんで素直にお礼なんか言うのよ……」
「あ、あれ?」

俺何かおかしい事言ったかな?

「で、俺はこの後どうすればいいのかな」

目的がケーキを作らせる事だったならこれで役目は果たせたわけだが。

「あら、貴方自分で言ってたのにわからないの?」
「うん?」

白レンはくすくす笑いながらオレに近づいてきた。

「注文の多い料理店は猫が獲物を食べるために作ったのよ?」
「え、ちょ、まさか?」

体が動かない。

「うふふふふ……」
「いやなんで服を脱いで……ちょっと?」
「美味しく頂かせて貰うわ」
「そういう意味かー!」
 

こうして。

俺は白いレンに美味しく食べられてしまいましたとさ。
 
 
 
 
 
 

「はっ!」

目が覚めた。

なんだかとんでもない夢を見たような。

一体どうして白いレンと……?

しかもなんでケーキ?

「志貴さまお目覚めですか?」
「あ、う、うん。翡翠おはよう」

ぺこりと頭を下げる翡翠。

「アルクェイドさまがいらっしゃってますが」
「アルクェイドが?」
「はい」

翡翠の言葉を聞いてようやくケーキの謎が解けた気がした。
 
 

「今日はレンさまの誕生日だそうです」
 
 




あとがき
白レンオンリーの話ってのもなかなか難しいもんですな(^^;
というわけでレン誕生日記念ー。
白レンはエロくてツンデレ。完璧。
とかく、ツンデレは注文が多いものです。
でも本来は受けだと思(ry


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