また例えがずいぶんだなぁ。
「しかしわたしの思い出の隠し要素といえば」
「うん」
「散々逃げた後に取ったブレイブブレイドの弱さです」
「……あれはなあ」
エクスカリパーみたいに数値だけの武器なのかと落胆したものだ。
「一度も逃げなきゃ文字通り最強なんですけどね」
「そんな事もあったね……それじゃ」
俺は適当にあしらって話を終わらせる事にした。
「志貴さーん?」
「う」
やっぱり逃がしてくれないらしい。
「志貴さんの思い出の隠し要素は何かありませんかー?」
「……思い出の隠しって」
どんな話なんだよ、まったく。
「琥珀さん大技林」
「FF5にはかくしつうろってアビリティがあったよね」
仕方ないので無難なものを出してみる。
「ええ、シーフのやつですね」
「あれは斬新だと思った」
「個人的には忍者のアビリティでいいんじゃないかって気もしましたが」
「あー」
なるほど確かに忍者と隠し通路はマッチしそうな気がする。
「しかしそのアビリティをも逆手に取ったブレイブブレイドの隠し場所」
「まあね」
なんせ隠し通路が意味のない森の奥だからな。
「あれ、情報一切なしで見つけられた人いるんでしょうかね」
「どうだろうなあ」
昔はインターネットなんか無かったけど、口コミで嫌でもそういう情報は入ってきた気がする。
「第三世界の自由度はとんでもなかったですね。ある意味全てが隠し要素だと言えそうです」
「6もそうじゃないか」
「あはは。4が一本道ですからねー」
「うん」
このあたりがFFの全盛期だったろうか。
「5の魔剣士……暗黒騎士は噂になりましたねえ」
「あったあった。モアイ像でなんとかとか……」
結局それはデマだったのだが。
「6のものまねしゴゴも結構な隠しですよね」
「全員吸われないと駄目ってやつか」
「はい。あれも普通は気付かないような」
「でも、それ以前にシャドウがあるよ」
「あー! 魔大陸ですね」
「そ。ギリギリで戻ってくるってやつ」
ちなみに初プレイの時は気付かずに見捨ててしまった。
「シャドウの夢もレアですよねえ」
「宿屋に泊まると見れるやつ?」
「はい。あれを全部見るのにも苦労しました」
その夢というのはシャドウの正体に関する夢なのだが。
「あれでシャドウへの愛着がすっごい沸きましたねー」
「エンディングでシャドウの曲のくだりがすっごい好き」
「あれは……泣けます」
「ああ」
その夢イベントを見ていると特に泣ける。
「っていうかFFだけで永遠に語れそうですね」
「だなぁ」
あのゲームは隠し要素の宝庫だもんな。
「瀕死の状態で1/16の確立で超必殺技」
「あったあった」
「普通にやってたらまず見れないのでドリルを装備してわざと瀕死に」
「ドリルは基本だよね」
バグ技の機械装備。
邪道技だが一度はやった気がする。
「バニシュデス」
「バニシュデジョン」
「恐竜狩りですねー」
「スリースターズもね」
敵にバニシュをかけて100%魔法が効く状態にしてデジョン。
「誰が最初にやったんでしょうね」
「普通思いつかないよな」
使うまいと思っていてもつい誘惑にまけて使ってしまう技のひとつである。
「魔石ラグナロック」
「ハイポーションになるがいい!」
「あれ、最初見た時、半熟英雄のエクスカリバー思い出しましたよ」
「また懐かしいもの出してきたね……」
「エーーーークスカリバァーーーーーッ!」
「マァーサァームネェー!」
勇者よわたしを受け取るがいい……なに、いらないだと?
「半熟英雄は素晴らしいゲームでした」
「隠し要素あんまりないけどね」
話も一本道だからな。
「クーモンにエッグモンスターをたくさん吸収させればボイルドが完全体になりますよ」
「え、マジで?」
「まあさせないほうがかっこいいですけどね」
「そうなのか……」
それは知らなかったなあ。
「こういった隠し要素は狙って作られたものからバグ的なものまで幅広いですね」
「うん」
さっきの例で言えばドリルなんかは明らかなバグ技である。
「5の謎のアイテムえふえふは有名でしたが」
「有名だっけ?」
「マイナーですかね?」
「……うーん」
このへん知っている人と知らない人の境界線が微妙な気がする。
「情報源はだいたい決まってるんですよ」
「なに?」
「ファミリーコンピューターマガジンのオマケの……」
「大技林」
「そうです。金田一技彦ですよ」
「……あはははは」
ファミマガの名前で大技林が出てくる自分もどうかしてる。
「あれこそはバイブルと言っていい程のものでしたね」
「逆にあそこに出てる裏技を見て欲しくなったりとか」
「ありましたねー! ヘラクレスの栄光はそれで買っちゃったんですよ!」
「懐かしいなヘラクレス……」
ヘラクレスの栄光。
微妙にマイナーではあるが、あのデータイーストが作った名作RPGである。
特に3の終盤展開と4のシステムは秀逸であった。
「伝統の余計な一言も忘れてはいけませんね」
「わるいことしたかいすうもね」
あれも隠し要素というか余計な要素が多いゲームだった。
「4の隠しダンジョンのボスの多さはあり得なかったです」
「下手したら本編より長いでしょ、あれ」
ちゃんとクリアした人は世の中に……
「一番強いの倒したらまた最初からループなんですけどね」
いるらしい。
「昔はああいう雑誌にそういう情報を投稿するっていう楽しみかたもありました」
「あー」
確かに新しい要素や雑誌に乗ってないことを知ると心がときめいたものだ。
「今はなんか……詰まったら攻略本とかインターネットに頼ってしまう感じで」
「そうだなぁ」
自力でクリアするって事があまりなくなってしまった気がする。
「あれやこれやと試して見る事がゲームの楽しさのひとつだと思うんですが」
「琥珀さん……」
琥珀さんはどこか寂しそうな顔をしていた。
「便利さの代償というものですかね、これも」
「うん……」
ファミコンの頃なんて、そりゃあもう理不尽なゲームばっかりだった。
それでも何度も諦めずにプレイして、攻略法を見つけていく。
そうしてクリアした時の喜びといったらもう。
「……懐かしいな」
今はもうそんな情熱を注げなくなっていた。
「そうか……」
もしかしたら琥珀さんはそんな思い出を甦らせるために話してくれたのかもしれない。
まあ、単に暇だったからという可能性のほうが高いけど。
「というわけで」
「ん」
もしかして昔懐かしいゲームに挑戦しろとでもいうんだろうか。
「なに?」
しかも攻略情報一切なしで。
「実はですね」
なるほど、これは面白そうだ。
昔の事を思い出してやってみるか。
「どうしたの?」
心のわくわくを悟られないように平静を装って尋ねる。
「その隠し要素にあやかって」
「うんうん」
「ポチッとな」
「え」
なにか聞きたくない言葉を聞いてしまった気がした。
気付けば、足元の床が、ない。
「わあああああああー!」
落下していく最中聞こえた声。
「わたしも隠し部屋を作っちゃいましたー」
ああ、そうだった。
あの人は想像のナナメ上を行く人だったのだ。
はてさて、この先隠し部屋で遠野志貴を待っている運命はいかにっ!
「……はぁ」
この隠し要素ほど、胸ときめかない要素は他にはないだろうな、きっと。
完