俺は大きなため息をついていた。
ここは遠野家の地下。
どうして地下にこんな広い空間が、とかいうのは割とどうでもいい。
肝心なのは琥珀さんの罠で落とされてしまったが、帰れる保障はあるのかということだ。
「マンガとかだったらトホホで終わってもいいだろうに」
いきなり変なところから始まるのはクソゲーにありがちなことである。
コンボイの謎とか。
「さて……」
取り合えずここで琥珀さんが俺にやらせたい事は。
「アレを踏めって事なんだろうな……」
少し先に見える階段の上で左右にぶれている亀を踏み続ける事である。
いわゆる無限アップ技というやつであった。
「琥珀さん大技林2」
「……やれやれ」
仕方なく階段に向かって歩き出す。
「多分裏技を色々やっていけば脱出できるんだろうな」
穴に落ちる前に話していた話題がヒントだ。
今度はアクション編といったところだろうか。
「……」
途中、いかにもアクションゲームにありがちな大穴が開いていた。
そしてこれまたありがちなブロック。
「やれやれ」
こんなものいつの間に作ったんだか。
とにかく乗り越えるためにブロックの上に昇る。
ぶぅーん。
「え」
次の瞬間足元のブロックが消え去っていた。
「ちょ……!」
これはまさかロックマンの……!
ティゥンティウンティウンティウン
「……!」
プレイヤーにとってはものすごく聞き慣れた死亡音が響く。
「……あれ?」
ところが俺は落っこちた穴の中でぴんぴんしていた。
「ロックマン3か……」
IIコンの右押しっぱなしでハイジャンプと無敵。
「ジャンプはどう再現するんだ?」
などと思いつつ飛んでみる。
「うおわっ!」
途端に空中に投げ出されてしまう俺。
スプリングでも仕込んでいたんだろうか。
「なんて冷静に分析している場合じゃないっ」
このスピードで地面に落ちたらやばいぞ。
スペランカー先生でなくても大ピンチだ。
ぶぃーん。
「ぶっ!」
再び現われたブロックに顔面を強打。
「いてて……」
しかしそれに捕まったおかげでなんとか落下を免れる事が出来た。
「まったくもう」
ため息をつきながら地面へ。
「ん」
そこには剣とハンマーと傘が置いてあった。
「FCカービィかよ」
いずれかの能力を持っている時、ダメージを食らった瞬間にセレクトボタン。
それで本来ならなくなるはずの能力が継続して使用可能になるというバグ技である。
「誰がセレクトボタン押すんだ……」
まあさっきのロックマン裏技みたいにそういうところは触れないのかもしれない。
「とりあえずハンマーにするか」
担ぎ上げると案外それは軽かった。
「ん」
ハンマーの下には何か文字が書かれてる。
DKUZOSKNRMCYDWGT
「なんだ……? これ」
何か意味があるんだろうか。
「パスワードっぽいけど……」
さすがにちょっとわかりそうになかった。
「レッキングクルーの最終面パスワードですよー」
「わかるわけないでしょそんなのっ!」
ってちょっと待て。
「琥珀さん?」
「はい、琥珀ですよ」
どこからともなく琥珀さんの声が聞こえてくる。
「いやはや、志貴さんが予想通りの反応を示してくれてとても嬉しいです」
「俺は早く帰りたいんだけど」
「いやー、アクションゲームはコンテニューのやり方すら裏技なのが多いんですよねえ」
「話を聞いてってば」
「まさか実際にコンテニューさせるわけにもいきませんし」
「物騒な事言わないでください」
さっきだって危うく死にかけたというのに。
「パスワードにしたってわかりにくいんですよねえ」
「せめてゲームをひとつに固定してくださいよ」
流石に膨大な数のゲームの中からこれだってのを思い出すのは大変すぎる。
いや、まずはそれ以前の問題なのだが。
「さなえちや のおつぱい はとてもや らかい」
「キャプ翼ネタはもういいから」
いつぞや散々やったような気がするし。
「こうああああああ」
「……うん、全然わからない」
「キテレツ大百科の無敵パスワードです」
「昔だったらわかったかもしれないけどなあ」
流石に今はそこまで覚えてはいない。
「こがねむしで必殺技とお金持ち」
「……それはまあ、わかるけど」
くにおくんの時代劇の有名な技である。
「とおますないとでクレジットはわかります?」
「え、えーと」
「ケルナグールなんですがー」
「……ごめん、わからない」
っていうか今気付いた事がある。
「なんでファミコンゲームばっかりなの?」
アクションゲームはSFCになってからもいくつかあったはずなのに。
いや、それどころか多様化を極める一方だったろう。
「それはファミコンのほうがクソゲ……数が多いからですよー」
なるほどつまり琥珀さんの変なゲーム大好き症候群を刺激するゲームが多いと。
「とにかく早く帰りたいんですが」
俺が実際に裏技を実践しながらというのは無理がありすぎる。
「そうですねえ。じゃあ無限1UPをやったらおしまいということで」
「100回踏めって?」
「11回目から1UPなんで110回ですかね」
「……うわぁ」
ゲームならともかくリアルでそれをやるのはものすごくしんどそうなんですが。
「上上下下左右左右BA」
「自爆ですか?」
「……ファミコンだと最強装備だったはずだけど」
これぞ伝説のコナミコマンド。
「あ」
「なんですか?」
「俺がコマンドを言いまくるからさ、それで琥珀さんが外したら返してよ」
「……ふむ」
しばらく声が止まる。
「いいでしょう。言ってみてくださいなー」
「よし」
これなら俺にも分があるからな。
「下R上LYBXA」
「カプコンコマンド!」
「上X下BLYRA!」
「カカロットォ〜」
「う」
……琥珀さんの声で言われるとなんか可愛い。
「これを連打するのが基本ですよね」
「最高で9回くらい出来るんだっけ」
「本編よりも白熱するんですよねー」
まあカカロットで盛り上がってもしょうがないので次。
「上X下B左L右R」
「でれれーん、できたぁっ!」
「……よくわかるね」
「あれ、滅茶苦茶に入れても成立するから大抵覚えてないですよね」
まあこれは超武闘伝つながりで分かりやすかったかな。
「後は……」
「はい」
「……」
じっと沈黙する俺。
「志貴さん?」
琥珀さんが尋ねてきても何も言わない。
そして五分ほど経ったろうか。
「はい、不正解」
俺は琥珀さんにそう告げた。
「あるでしょ。何もしないと隠しメッセージが見れるって裏技」
「あーっ!」
しまったと言わんばかりの叫び。
「……迂闊でした。そんなシンプルなものを忘れていたなんて」
そう、これも昔のゲームにはよくあった事だ。
「助けてくれるよね?」
「はーい」
その声と同時にがたんという音がした。
「隠し階段か……」
これもゲームではありがちだけど。
「……実際に作られるとなんともなぁ」
苦笑するしかなかった。
「ふう」
ようやっと地上だ。
出てきた先は離れのすぐ傍であった。
「いかがでしたか」
そして俺の出てくるのを待っていたらしい琥珀さんが尋ねてくる。
「ものすごいクソゲーだったよ」
そう答える俺。
それは琥珀さんにある言葉を言わせるためだ。
琥珀さんもそれを知っているので笑顔だった。
それは、何も操作しないことで見れる隠しメッセージ。
こんな げーむに まじになっちゃって どうするの
完