そしてなんでかわからないけど翡翠と琥珀さんと一緒にすごろくをやる事になった。
その途中の事である。
会話の流れは忘れたが、ふいに有彦がこんなことを言った。
「いざゆかん! ステージ1へ!」
「きゃあああっ!」
琥珀さんが悲鳴のような歓声をあげた。
「すごろクエストですかっ? すごろクエストですねっ?」
「え……まさか知ってるのかアレをっ?」
「当然です! 最初に鍛えたキャラ突っ込ませて後悔は基本ですよー」
「うおおっ? マジですかっ!」
なんだかわからないけど二人は異常に盛り上がっているようだった。
「ダイスの戦士たち」
「初プレイの時はようこそ魔界への進み方がわからなくて苦労しましたー」
「オレはエルフを鍛えてたから余裕だったなー」
「だって魔法弱いんですもんー」
「……」
残念ながら俺には二人が何を話してるのかさっぱりわからない。
「翡翠、わかる?」
同志を求めるつもりで尋ねてみる。
「はい」
「だよねーって嘘ぉっ?」
翡翠がゲームの話題だって?
「あの、何か不味い事を言ってしまったのでしょうか」
「いや、そんな事はないけど」
ものすごく意外だったというだけであって。
「機種はFCとSFCで発売されました。姉さんたちが話しているのはFCのほうの話ですね」
「ふーん。どんなゲームなの?」
「すごろクエスト 〜ダイスの戦士たち〜 1991年テクノスジャパンより発売されたソフトです」
「テクノスってあのくにおくんのテクノス?」
「そうです。姉さん曰くテクノスファンなら誰もが持っていたであろう名作です」
それはどうかと思うのだが。
「灰色のカセットが印象的でしたね。キャラクターが可愛く親しみもあり、ゲーム内容も優秀でした」
「すごろくってつくくらいだからやっぱサイコロを使うのかな」
「はい。攻撃も移動もすべてサイコロです。キャラクターによって様々な個性があります」
「へえ」
話を聞いているだけでもなんだか面白そうだ。
「ファイターはオールマイティな戦士。ドワーフは力自慢で序盤の要」
「ふんふん」
「エルフは魔法タイプ、ハーフエルフは魔法寄りのオールマイティですね」
「ファイターだけ職業なんだな」
他は全部種族名なのに。
「にんげん、ではわかりにくでしょうし」
「まあそらそうだな」
某サガシリーズではそのまんまだけど。
「この4人を上手く使ってステージを攻略していくのです」
「やっぱバランスよく育てたほうがいいのかな」
「最低でも2名は必要ですね」
「どうして?」
「……物語の内容をばらす事になってしまいますが」
「あー」
よくわからないけど琥珀さんの言っていた「最初に鍛えたキャラ突っ込ませて後悔」がそれっぽい気がする。
「かわいいのはエルフとハーフエルフです。また、敵キャラにも愛らしいものが多いですね」
「響きからしてよさそうだもんな」
やはりエルフは綺麗なお姉さんなんだろうか。
「エルフは幼い感じで、ハーフエルフはアダルトな印象を受けます」
どうやら違うらしい。
「姉さんがよく使う萌えという単語がありますが、あれを当てはめて差し支えないと思います」
「そうなんだ」
「はい。ダイスを敵にぶつけられてしまう時があるのですがそのセリフが愛らしいです」
「どんなの?」
「きゃいんっ、でもまけないっ。エルフはつよいこだ!……と」
「……それはかわいいなぁ」
都古ちゃんがそんな事を言うのをイメージしてしまった。
「逆にハーフエルフは面白いです」
「へえ?」
「いたいっ! きもちいいっ! ハーフエルフはへんな人だ!」
「……Mか」
「はい?」
「いやなんでも」
口調からすると姉さん系っぽいからどっちもいけるんだろうか。
「どっかにすごろクエストの絵とかないかな?」
「ありますよ?」
「うわっ?」
いきなり有彦と絡んでいた琥珀さんが首を突っ込んできた。
「こんなこともあろうかと」
絶対嘘だ。
「えーとどこにありましたっけ……」
「姉さんの部屋の右の棚の真ん中です」
「あー! ちょっと待っててくださいねっ?」
琥珀さんは光の早さで明日へダッシュしていった。
「いやすげえな琥珀さんって」
有彦が関心したような顔をしていた。
「オレダイスグロウとかダイスドレインとか全然使わないでクリアしたんだけどさ」
「いや専門用語を使われてもわからないんだが」
「グロウは自分の出目の強化、ドレインは相手の弱化ですね」
翡翠が親切に説明してくれた。
「そしたら逆に褒められちったよ。アレをナシでクリアするなんてって」
「ほー」
「あのゲームラスボスがアホみたいに強くてさ」
「最高レベルでも勝てるかどうかは運が関与します」
「いいなぁそれ」
最近はそういう手ごたえのあるラスボスが少ないからな。
「ラスボスは音楽がものすごくいいんですよー」
とか言ってるうちに琥珀さんが戻ってきた。
「微妙にオープニングアレンジっぽいところが……いえ、あれはアレンジなのだとわたしは確信してます」
「そんな熱烈に語られても」
「確かにあの曲は燃えたなー」
有彦も共感しているあたり、かなり熱い曲なんだろう。
「ダイスマンのえさを大量に用意しましたね」
「きせきのくすりもな」
名前からして便利そうなアイテムである。
「ファイアーホルンが10回使っても壊れなかった時は感動しました」
「オレなんか初回でぶっ壊れたぜ」
再び盛り上がる有彦と琥珀さん。
「こちらが本物です」
翡翠が琥珀さんの持って来たソフトと説明書を見せてくれる。
本当に灰色のソフトだった。
「これ、絵がくにおくんの人かな?」
確かにキャラは可愛い感じだ。
「これがエルフですね」
「ふーん」
緑のショートかっとにだぼだぼっぽいローブ。
「なるほど」
とても人気が出そうだった。
「使い辛いので愛がなくては厳しいですけどね」
「ハーフはまたすごい格好だなあ」
レオタードにエルフ耳、姐さん。
これほどの属性持ちだったとは、恐ろしい。
「敵キャラもクマの被りものをした女性モンスターなどがいましたね」
「なんだってー!」
実は萌えの先取りをしていたゲームだったんだろうか。
そういえば某サッカー部マネージャーもXXXしてあげちゃうとか言ってたし。
恐るべしテクノス。
「興味を持たれたのでしたらプレイするのも一興かと」
「え、でも」
俺ファミコンなんか持って無いぞ。
「わたしの部屋にニューファミコンがありますよ。無論旧型も」
ああそういえばそうでした。
「ウィーとかいうやつでも出来るようになるんじゃねえか?」
それはどうなんだろうなぁ。
多分ものすごくドマイナーな作品だぞ。
「知名度は低いですが、わたしは自信を持って名作だと言えます」
「ははは……」
んじゃまあ有彦の真似をするわけじゃないけれど。
「いざゆかん! ステージ1へ!」
完