かちっ。
『ファイルが壊れています』
「うわああああああああああああああ!」
「逆境アキラ3」
「せ、瀬尾……」
「……ふ」
「アキラちゃん?」
「ふ、ふふふふふ!」
「つ、ついに頭にきちまったのか?」
「いいえ、大丈夫です!」
本当は大丈夫じゃないけどわたしはそう断言した。
「今のCGは出来がよくなかったんです! だから、削るべきだという天からの掲示なんですよこれは!」
「そ、そうなのか……?」
「そうなんです!」
そうでも思わないとやってられない。
「……泣いても同じだから泣かない!」
さてこれで大分時間がなくなってしまった。
「蒼香先輩、羽居先輩」
「なんだ?」
「どうしたの?」
「……削らなくてはいけない部分が出来てしまいました」
残りの時間で同じものを作るのは無理がありすぎる。
「削るってどれを?」
「それが悩みどころなんですが……」
中途半端に削るとそこだけが浮いてしまう。
「このシチュエーションを全部削ってしまおうかと」
「ええっ?」
驚いた声をあげる羽居先輩。
「せっかく書いたのにっ?」
「ここはCGがないと駄目なんです……!」
つまりそれが今駄目になったCGなんだけど。
「だからここは無かった事に!」
「……ふむ」
「そのぶん他のところのクオリティをあげます!」
そこがなくてもまるで気にならないくらいに!
「……が、頑張れよ」
「はい!」
さあ、今まで以上に気合を入れないと。
「よしっ!」
まずは他のCGを……
「……あれ」
ぐらりときた。
「……お、おかしいな」
画面が見えない。
またフリーズしちゃったんだろうか。
「おい! 瀬尾! 瀬尾!」
「あ、アキラちゃーん!」
慌てた蒼香先輩の声と、羽居先輩の悲鳴に近い声が聞こえた。
いったいなににおどろいているんだろう……
「あはははは」
「うふふふふ」
花園の中を追いかけっこ。
「待ってくださいよ、志貴さーん」
「つかまえてみなよ。はははは!」
志貴さんとわたし。
楽しい。
なんて楽しいんだろう。
こんな幸せがずっと続けばいいのに。
せーおー!
「うえっ?」
急に空が暗くなった。
「え、えっ?」
志貴さんもいつの間にかいなくなっている。
せーおー!
こ、この声はまさか!
「瀬尾ー!」
「きゃあああああああ!」
なんかでっかい遠野先輩がドリルパンチをしながらむかってくるー!
「……はっ!」
気付くとそこはわたしのベッドの上だった。
「目が覚めたか?」
「えっと……」
「倒れたんだよ。気張りすぎだろ」
「……あはは」
確かに先輩たちの助けが来る前は徹夜とか無理しちゃったからなあ。
「一応出来るところまではやっておいたけど……」
「あ、ありがとうございます」
確かに原稿はさっきより進んでいるようだった。
「い、今から急げば間に合いますよ!」
「……いや」
「え?」
「約束の期日は過ぎているのよ、瀬尾」
「と、遠野先輩!」
部屋の隅に遠野先輩が座っていた。
「貴方は一昼夜寝込んでいたわ。つまり」
「え」
ってことはまさか。
「〆切まであと一日……!」
もはや遠野先輩との約束どころじゃない。
大ピンチだった。
「もう諦めなさい瀬尾。無理よ」
ぎろりと私を睨む遠野先輩。
「私との約束の期日は過ぎた。スペースは蒼香と羽居に任せて貴方は休んでいなさい」
「で、でも……!」
せっかくここまで、ここまで作ってきたのに……!
「あとちょっとで完成するんだよ!」
羽居先輩が遠野先輩に駆け寄った。
「だから、だからもうちょっと待って……待ってあげて!」
「そうそう。あたしらも巻き込まれてるんだ。投げ出す気にはならないさな」
蒼香先輩も間に入る。
「み、みなさん……」
「……」
「綺麗ごとを言っても……時間がないじゃない」
「まだ……まだあります!」
わたしは叫んだ。
「まだあと10数時間あります! 間に合わなかったわけではありません!」
「最初予定していたクオリティと同じモノは作れないでしょう! でも!」
わたしには熱い想いがある。
わたしの作品を作りたい。
多くの人に読んでもらいたい。
全然力の足りないわたしだけど!
「可能性のある限りは全力を尽くしたいんです!」
「1時間で1ページやれば大丈夫だよ!」
「無理を承知で言ってるの?」
「確かに無理かもしれません……いえ、そんな事は無理でしょう! でも!」
やってみなければわからない!
「無理が通れば……道理は引っ込む!」
「……!」
「わたしはこっちのページをやります! 出来次第トーンをお願いします!」
「会場のセッティング用の道具とか、用意しておいたほうがいいよねー?」
「小銭も必要だな。両替してくるわ」
再び慌しく動き出す。
「待ちなさい!」
遠野先輩が叫んだ。
「先輩、わたしは……」
「蒼香。小銭の両替くらい私にやらせなさい。貴方は他の手伝いが出来るでしょう?」
「え……」
「おまえ……?」
「……見てみたくなったわ」
くすりと笑う遠野先輩。
「貴方たちの同人誌をね……」
「あ……」
「さっすが秋葉ちゃーん!」
「ちょ、こら! 抱きつくんじゃないわよ!」
羽居先輩が遠野先輩に飛びついていた。
「あ、あはは……」
羽居先輩が飛びつかなかったらわたしが飛びついてたかも。
なんちゃって。
「これもネタにしちゃえ!」
抜けたぶんをネタでフォロー!
「ラミカとかも作ろうよ!」
「そっちはおまえさんに任せる。あたしゃベタ塗りだ」
「はい! お願いします」
「……ふふ」
全員の気持ちがひとつになって作品を作り上げる。
これほどまでに楽しい、一体感は初めてだった。
そして。
「できたあっ!」
〆切30分前。
ついにわたしの作品が完成した。
「急いで入稿しちゃいます!」
「おう」
「おつかれさまー!」
「……まあ、よくやったじゃないの」
数々の逆境、修羅場を乗り越えて。
わたしたちは戦い続けた。
だが本当の戦いはこれからなのだ。
イベント会場という戦場で、わたしの力が試される。
おおいなる荒波に飲まれ、わたしは様々な経験を得ることが出来るだろう。
そしてまた次のイベントと、戦いは続くのだ。
その度に新たな試練が待ち受けているかもしれない。
けれどそれも乗り越えてみせる!
わたしを応援してくれる人と、仲間がいる限り!
頑張れ瀬尾晶!
頑張れ全ての同人作家!
負けるな!
完