世の中色んな語呂あわせがあるからな。
どんな日があったっておかしくはない。
「11月23日はいい兄さんの日ってか」
「その時は志貴さんに頑張ってもらわないといけませんねぇ」
「え? 俺が頑張るの?」
父の日とか母の日はその人物に感謝する日なのに。
「しかしまあ月日が経つのは早いですね」
誤魔化されてしまった。
「まあ2月は日が少ないからな……」
来週にはもう3月になってしまう。
「3月といえば暇な釣りー」
「ひな祭りね」
「もうすぐ春ですねえ」
琥珀さんが感慨深いような口調で呟いた。
「春か……」
1年ってあっという間だよなぁ。
「もうすぐ春ですね」
「あんまり実感沸かないな」
「春がですか?」
「いや、もう1年経ったってことが」
「あー」
納得したように頷く琥珀さん。
「やってる事あんまり変わってもんね」
「確かにな」
琥珀さんと下らないことで笑いあい、怒ったり呆れたり。
「まあでも充実はしてたと思うよ」
おかげで退屈するという事がほとんどなかった。
これで静かにしたい時にそっとしておいてくれれば最高なんだけどな。
「それは嬉しい事を聞きましたねー。これからはもっと頑張らないと」
「……あはは」
それは敵わぬ望みのようだった。
「でもさ。世間的にそういう話増えたよね」
「といいますと?」
「いや、なんとなくなんだけどさ」
昔はなんかこうヒーロー系キャラが活躍して、ヒロインがサポートするって話が多かった。
「今はなんかこうヒロインが主人公を引っ張ってくみたいな展開がさ」
もっと言えば主人公が巻き込まれるて感じのが増えた気がする。
「あー。確かにそうかもしれませんねえ」
ヒロインが強いと言い換えてもいい。
「時代を象徴しているんでしょうか」
「だろうね」
熱血スポコンが廃れたわけじゃないんだけど。
いわゆるへっぽこな主人公が強気な少女に引っ張られるという展開。
よく考えたら俺の私生活もそんな感じなのだが……そういうのが受けている気がする。
「まあつい最近って程じゃないですけどね。スレイヤーズの辺りからそんな雰囲気はありました」
「……また懐かしい名前を」
「天地無用とかもそうじゃないですか」
「あー」
そのへんがもしかしたら走りだったのかもしれないな。
「細かく調べたら面白くなりそうですけど」
「遠慮させて貰うよ」
調べ出したらそれこそキリがなさそうだ。
「あはは。そうですねー。中国人が〜〜アルっていうのの発祥も謎ですし」
「わからないほうがいい事もあるよ」
「そうですねえ。わたしはそういうの色々知っちゃってますから……」
ふふふと怪しく笑う琥珀さん。
「言わないでいいからね」
「ちぇー」
まあこういうやりとりをずっと続けてきたわけである。
「もうそろそろネタが無くなってきたんじゃない?」
一時期はそれこそネタがないと騒いでいたような。
「そうですねー。ネタはあっても面白く発展できるかどうかが問題ですし」
「あー」
「政治ネタなんか面白くないでしょう?」
「そういうのは遠慮したいなぁ」
「ちゃんと志貴さんが好きそうなものを選んでるんですから」
「……そうだったのか」
思いつきでなんでもかんでも言ってるんだと思ってた。
「ネタというものは基本は相手がわかっている前提でやるものですから」
「前もなんかそんな事言ってたね」
「まあ知らなくても楽しい、知っていればより一層楽しいというのが理想でしょう」
「そうだね」
それをやるには案外苦労があるものなのだ。
「いっそもう全く理解されなくてもいいや……ってやるのは楽なんだけどね」
秋葉相手にマンガの説明をする時なんかは大抵そうだ。
「そうなるともう自己満足の世界ですからね。一割でもわかってくれればいいやと」
「うん。それで逆に秋葉が圧倒されて言う事聞いてくれたりさ」
「窮鼠猫を噛むという例えの通りですね」
「あははははは……」
なるほど、俺がネズミという辺りが実にしっくりくる。
「そういや猫の日って言ってたけど」
「ええ」
「何するの?」
「……猫を可愛がるんじゃないですかね?」
「そのまんまだね」
「それがいいんです。まあ何もなくたって猫は可愛がりますけど」
きゅーっと猫を抱きしめる仕草をする琥珀さん。
「猫好きだけど嫌われるよね、琥珀さんって」
レンなんかあからさまに警戒してるもんな。
「どうしてでしょうねー」
それは琥珀さんの黒い部分を警戒して……ごほごほ。
「翡翠ちゃんにはあんなに懐いているのに。わたしが同じ格好しても駄目なんですよ」
「俺だったら騙せそうなのになぁ」
「いえ、実際何度か騙してますし……」
「さらりと怖い事言わないで下さいよ」
そう言われてみれば翡翠のうっかりと称してなんかひどい目にあった事もあるような……
「しょうがないんで自分で猫耳つけて遊んだりして」
ひょいと猫耳をつける仕草。
「似合いそうだね」
むしろ何もつけてなくても生えているような錯覚すら覚える。
「今度猫娘キャンペーンでもやりましょうか?」
「いいねえ」
ただ俺のテンションがおかしい事になりそうなのが問題だな。
「……で、何の話してたんでしたっけ?」
琥珀さんがふいに思い出したように言った。
「あー、ええと……」
琥珀さんと話してると、最初なにを話していたんだったかわからなくなる事が結構ある。
まあ会話ってのは常に流れ流れていくもんだから当然なんだけど。
「1年が早いなあって話だった気がするけど」
何故か女性が強いマンガが増えたという話になって、猫の話になってしまった。
「あー。そうでしたそうでした」
ぽんと手を叩く琥珀さん。
「とするとまとめとして相応しいのは……」
それからんーっと考える仕草をして、それから笑顔でこんな事を言った。
「これからも宜しくお願いしますね」
「こちらこそ程々に宜しく」
「なんですか? それ」
「いや、本気だされたら勝てっこないからね」
そりゃもうありとあらゆる面で。
「そうでもないですけど……まあ、そういう事にしておきましょうか」
「ん?」
「夜は逆転だなんてベタにも程がありますからねー」
「……あはははははは」
言わないで黙ってようと思ったのに。
「そんな事言うなら襲っちゃうぞー!」
「きゃーっ」
そんなこんなで実にお約束なベタベタ展開をやりあう俺たちであった。
完