そして気付いたらエロ話になっているという事もよくあることだ。
「やっぱ時代はブルマだろ! ブルマ!」
「……いや、完全に衰退してると思うんだけどな」
「かーっ! わかってねえなオマエ!」
有彦はぱんと自分の膝を叩いた。
「いいか? ブルマってのはもう尻そのものみたいなもんだ」
「訳のわからん事を言わんでくれ」
「あのくっきり浮き出たラインがいいんじゃないか! 想像してみろ!」
「……」
「ときめけ! 尻への食い込み!」
「……う」
なるほど、確かにいいかもしれない。
「萌えよブルマ!」
「ジークブルマ!」
気付いたら俺は有彦と同じバカになっていた。
「ハイルブルマー!」
「サー! ブルマー!」
「もいっちょ!」
「志貴さま、失礼いたしま……」
「ブル! ……マー……」
「……す」
そして、大声で叫ぶ姿を翡翠に見られてしまった。
完。
「翡翠がブルマを履いたなら」
「はぁ……」
夜。ベッドの上に横になる。
有彦の野郎は俺を見捨てて逃げたので俺だけがみっちり怒られる羽目になってしまった。
けど後悔なんかしてないぞ。
「ブルマ……」
有彦が散々力説していた萌え道具、ブルマ。
なるほど、確かに意識して見てみるとそのエロっぽさはなんともいえないものがある。
「でもあれは学校限定のアイテムだからなあ」
だからこそ欲望を掻きたてるのかも。
「ウチの連中には関係ない話だな」
お嬢さまにメイド、家政婦さん。
秋葉はともかく琥珀さんと翡翠は絶望的だろう。
「……残念だ」
いや何が残念なのかわからないけど。
こんなこと愚痴ってるの有彦に聞かれたらどつかれるかもしれない。
「寝よう……」
今日は変な夢を見そうだった。
「志貴さま」
「……ん」
目が覚めた。
なんだかいやに朝が早いような。
そんなに熟睡してたのかな。
「ねえ翡翠」
「はい?」
「……」
俺は目の前にある光景を疑った。
「なに? それは」
震える手で指差したそれ。
紺色のブルマ。
「ブルマですが……」
「さ、さては琥珀さんの変装だな! 騙そうったってそうはいかないぞ!」
昨日の騒動を知ってるから、翡翠の真似をして俺をからかおうっていうんだろう。
「わたしは翡翠です」
翡翠は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「……ほんとに?」
「はい」
「……」
メイド服という翡翠の象徴がなくなってしまうと翡翠であるという判別は難しいものである。
しかし目の色や表情を見る限りは、確かに翡翠本人で間違いないようだった。
「オーケー。わかった。そこは理解しよう。でも」
「何故ブルマなのかと仰りたいのですね」
「うん」
昨日俺が秋葉や琥珀さんにいぢめられたのを知ってるだろうに。
「それは……志貴さまがブルマが好きと仰せられていたからです」
そう言って翡翠はさらに顔を赤くする。
「マジで?」
「はい」
「じゃあ、その、なんだ、俺の為にわざわざ?」
「ブルマと体操着自体は姉さんの所有物ですが……内緒で借りてきてしまいました」
「……なんてこった」
俺は思わず天を仰いでしまった。
「志貴さま?」
「ありがとう翡翠」
ブルマの神様ありがとう。
「気に入って頂けましたか」
「いいよ、すごくいい」
なんだか自分がすごく変な人になっている気がするが、そんなものは些細な問題だ。
ブルマという魔性の道具の前では理屈など無用なのである。
活発、元気を象徴するような体操着、ブルマと大人しい翡翠というギャップがたまらない。
「ちょっと背中ごしに振り返って貰えるかな」
「かしこまりました」
翡翠は一旦俺に向かって背を向けた。
「……おお」
思わず感嘆を漏らしてしまった。
有彦が散々主張していたお尻のライン。
なるほど確かにこれはお尻そのものだと言ってもいいかもしれない。
ぴったりとフィットしたそれは絶妙のラインをかもし出していた。
そしてさらに隅の部分の食い込み。
「これで宜しいですか?」
「……最高」
照れくさそうにはにかむ見返り姿。
胸に手を当てる仕草が女性特有のラインを強調するようで、なんともたまらなかった。
「有彦や琥珀さんがこれを見たら卒倒するだろうなあ」
もはや芸術と言ってもいいかもしれない。
そんな翡翠を俺が独り占めに。
素晴らしい。最高のショーだとは思わないかね?
「……次は、そうだな。前転をして貰おうか」
「前転……ですか?」
「そう。床じゃやり辛いだろうからこうやって……」
ベッドの上の布団を床に広げる俺。
「やってみて?」
「は、はい」
緊張しがちな表情で布団の端に手をつける翡翠。
「……えいっ」
ころんと。
「ブラボー!」
「え、あ、はい」
翡翠は俺がどうして喜んでいるのかわからないようだ。
多分わからないほうが幸せだろうけど。
前転を前から見るということはどういう事か。
下半身から前に迫ってくるのである。
しかもブルマで。
何度も主張しているが、お尻のラインがくっきりとわかるブルマでである。
「おお、ブラボー!」
「……志貴さま?」
「いや少し興奮しすぎたみたいだ」
これじゃどっかのヘンタイオヤジじゃないか。
「いえ。喜んで頂けて嬉しいです。他に要望がありましたらお答えいたします」
翡翠は照れくさそうに笑っていた。
「え? そう? 悪いなぁ」
まあ翡翠がいいって言うんだからいいかな。
「じゃあええと、壁に両手をついてくれるかな……」
俺はいよいよマニアックな展開に進む事にした。
「壁にですか?」
「うん」
「かしこまりました」
翡翠は不思議そうな顔をしていたが、俺の指示どおり壁に両手をつけてくれた。
「これで宜しいですか?」
「もうちょっと下がって。肘が伸びるくらいに」
「ええと……」
ゆっくりと後退していく翡翠。
ブルマだとふとももが妙に強調される気がする。
「こうですか?」
「そうそう。それで、その手をだんだんと低く」
「はい」
言われるがまま手の位置を下げていく翡翠。
「腕は曲げちゃダメだよ」
「は、はい」
そうすると必然的に体のほうを動かさないといけなくなる。
「あ、あの志貴さま……」
「ん。なに?」
俺は気付いていながら気付かないふりをしてみた。
「この格好は……」
両足を広げ、お尻を突き出した形になる。
まるで俺を誘っているかのようだ。
「かわいいよ翡翠」
俺はふらふらと翡翠に近づいていった。
「は、恥ずかしいです志貴さま……」
顔を赤らめイヤイヤと首を振る翡翠。
だが逃げ出す様子はなかった。
期待しているのだ。翡翠も。
「……」
俺は紺色のブルマに向かってゆっくりと手を。
「……っていう超展開になったら最高だと思わねえか?」
史上稀に見る悪友、乾有彦は傷だらけの顔だというのに妙に爽やかな笑顔で尋ねてきた。
「……ないな」
「だよなぁ……」
翡翠が悲鳴を上げた直後、秋葉たちによってボロゾーキンにされた俺と有彦は、むなしく夜空を眺めて語りあっていたのであった
。
つまりその後の話は全部有彦との妄想話だったわけで。
悲しいけどこれが現実である。
「いいじゃないか別にブルマについて語ったってさ」
「おうともよ」
そりゃ翡翠には悪い事したけどっ。
俺たちなんかもっと酷い目に遭ってるんだぞっ。
「……お、流れ星」
「ブルマブルマブルマ」
「懲りてねえな」
「お互いにな」
笑い合う二人。
本当に翡翠がブルマを履いてくれる日は、来るのだろうか。
いつか、そんな日を夢見て。
「ジーク、ブルマー」
完