文字通り、燃える炎がネロを襲い。
「ギャアアアアアアアアッ!」
ネロ・カオスは今度こそ完全に消滅したのでした。
「君も今日から魔法少女!」
その17
「お、終わった……のか」
「……多分」
周囲は魔法で浄化されたのか、爽やかな空気が漂っていました。
「ネロの気配はありません。完全勝利ですよ」
「勝ったんですね……」
そう思った瞬間急に体の力が抜けてしまいました。
「こ、琥珀さんっ?」
「あは、ちょっと気疲れしただけですよー。精神張りっぱなしだったんで」
途中ギャグみたいなことも考えていましたが、そうでもしなければやってられないくらいだったのです。
「ごめん、そんな時に気を失ってて」
「志貴さんは悪くないですよ」
そう言って志貴さん顔を見ると、急にさっきの言葉が思い出されました。
『うん、さっき聞いたからね』
それってつまり、わたしのあの恥ずかしい告白を聞いたってことなんですか?
「……えと、あの、それでつかぬ事を伺うんですが」
「なに?」
「いつ頃から気がつかれていたんです?」
「んー……琥珀さんが『わたしの愛……』とか呟いてた頃かな」
「うああ」
滅茶苦茶全部聞かれるぢゃないですかっ!
「どうしてもっと早く起きてくれなかったんですかっ!」
「い、いや、意識はあったんだけど体が動かなくてさ。ホント、マジで」
「……っ!」
ああもうあんな告白やっぱりするんじゃありませんでしたっ!
「笑っていたんでしょう……」
「え?」
「わたしの告白を聞いて笑ってたんでしょうっ? 似合わないって」
「そ、そんな事ないよ」
「嘘ですっ! わたしが告白なんて滑稽な……」
「琥珀さんっ!」
「っ!」
志貴さんが叫びました。
「滑稽だなんて思ってない」
「……」
「あれは琥珀さんの本心からの言葉だと思った。だから俺も立ちあがれたんだ」
「え……え?」
ぽんぽん。
「……?」
横を見るとわたしの肩を叩いているななこさんが。
「あのですね、ラブラブバーニングファイアーは名前の通り二人が愛し合ってないと使えない技なんです」
「そ、それって、つまりどういうことなんですか?」
わたしはななこさんに尋ねたつもりでした。
ところが志貴さんはななこさんの姿が見えないので、自分に尋ねられたと思ったようです。
「そりゃ……まあ、なんつーか……俺も琥珀さんの事が好き……だからさ」
ぼんっ!
わたしの顔は一気に熱くなってしまいました。
「あ、いや、え、あれ、ちょっとその、え? いや、あの?」
「深呼吸深呼吸」
「す、すーはーすーはー」
ってなんですかこれじゃわたしと志貴さんの立場が逆転してるじゃないですかっ?
「し、志貴さんも新手のジョークを覚えたんですか?」
「いや、すごい本気」
「……」
やばいですやばいですやばいです。
耳が熱いです心臓がばくばくいってます、ああああああ。
「ほんとは俺の方が先に言うべきだったんだろうけど、逆になっちゃったな」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ志貴さん?」
「ん? なに?」
「冷静に考えません? わたしなんぞより性格のまともな人とか可愛い人が志貴さんの周りには沢山要るでしょう?」
「うん、いるね」
いるねってあっさり言われるのもそれはそれで腹が立つんですが。
「そっちを選んだほうがいいんじゃありません?」
「……いいって言われても」
ぽりぽりと頬を掻く志貴さん。
「俺は琥珀さんがいい」
「あう」
「琥珀さんは俺じゃ不足かな」
ごめんなさい、すいません、わたしもう無理です。
意地張るのも限界ってモノがあるんです。
「わ、わたしもその、志貴さんが……いいです」
「ありがとう」
二人は見つめあい、そして。
「……ん」
口付けを交わしました。
まるで初々しい、控えめなキス。
「な、なんか恥ずかしいな」
「わたしもです」
なんだか自分が少女マンガのヒロインになった気分ですよ。
「あ、わ、わたしはちゃんと目つぶってましたからっ」
「自分からわざわざそんな事言うようじゃ信用出来ませんね」
これでななこさんという外野がいなければ最高だったんですけれども。
「えーとそれはそのう……あ」
「なんですか? ごまかしは通じませんよ」
「い、いえ、マスターの気配が」
「……マスターさんの?」
しゅたっ!
「わっ!」
いきなりわたしたちの目の前に人が現れました。
「お疲れさまです、琥珀さん。いえ……ほうき少女マジカルアンバー」
「……マスター……さん?」
「いかにも、わたしが第七聖典のマスターです」
わたしのものと同じようなフードを被っているマスターさん。
そのフードの下は何やら法衣っぽい感じのものが見えました。
なんかどこかで聞いたような声なんですけど気のせいでしょうか。
「あなたの活躍でネオ=カオスの残骸を全て消去する事が出来ました。大変感謝しております」
「あは、気になさらないで下さい。魔法少女としての仕事をまっとうしただけですから」
「ええ。あなたは大変優秀な魔法少女でした。しかし」
「……ネロが滅んだ今、もはやわたしが魔法少女をやる必要はありませんよね」
「え? いや」
そう、ラスボスを倒した今、わたしが魔法少女を続ける必要はありません。
「い、いいんですか琥珀さんっ? あんなに魔法少女になりたがってたじゃないですかっ!」
驚きの声をあげるななこさん。
「わたしななこさんには魔法少女になりたいだなんて言ってないですけど」
「雰囲気でバレバレでしたよっ!」
「……う」
「わたしとしては有能な助手は欲しいところなんです。いかがですか? 魔法少女を継続するつもりはありませんか?」
「……」
そりゃもちろんわたしにとって魔法少女は大変魅力的なお仕事です。
けれど。
「わたしは……」
「……琥珀、本当に何もなかったっていうの?」
「本当ですって。疑っちゃ嫌ですよ秋葉さま」
「ぬう……」
翌日、わたしは秋葉さまに昨日のことについて責め立てられていました。
どうやらマスターさんが気を利かせて秋葉さまの記憶を消してくれたようなのです。
「一日記憶がないだなんてあり得ないわ。あなたが何かやったんでしょう?」
まあ、おかげでわたしが一服持った疑惑をかけられてるんですけど。
「秋葉がぼけてるだけなんじゃないのか?」
「兄さんっ!」
「じょ、冗談だって」
苦笑している志貴さん。
「秋葉さま、姉さんの悪戯にいちいち腹を立てていてはキリがありませんよ」
「ひ、翡翠ちゃん酷い……」
ちなみに昨日現れたメカ翡翠ちゃん。
あれはネロに洗脳された本物の翡翠ちゃんだったそうです。
つまり翡翠ちゃんのメカ翡翠ちゃんコスプレといったところでしょうか。
どうもメカ翡翠ちゃんプロジェクトはもう一度考え直さなきゃ駄目みたいですねえ。
あんな性格悪いのになっちゃったら困りますもん。
「……はぁ。もういいわ。下がりなさい」
「はーい」
あんまり喜ばしくありませんが秋葉さまも納得していただけたようですし、わたしはさっさと部屋を後にしました。
「琥珀さん琥珀さん」
「はい?」
振り返ると志貴さんが。
「どうなさったんです?」
「あ、いや、その、いいのかなって思って」
「昨日の記憶がないのをわたしのせいにしたことですか? 構わないですよ」
どうせわたしはそんなキャラなんですから、今更評価が変わるはずないですもんね。
「うん……魔法少女も辞めちゃったし」
「あー」
そう、結局わたしは魔法少女を続けるのを辞退したんです。
そして志貴さんの記憶もちゃんと残っています。
せっかく二人の気持ちが通じ合ったのに記憶消されちゃたまりませんからね。
「全然問題ありませんよ。今のわたしに怖いものなんてありませんもん」
「え? なんで?」
「またまたー」
毎度ボケてくれますねえ志貴さんってば。
まあだからこそわたしもこう言えるわけですが。
志貴さん相手じゃなかったら絶対わたしこんなセリフ言いませんからねっ?
「魔法少女よりももっと大切なものを手に入れたから……ですっ」
完