だって実際に犯人じゃないか。
「日頃の行いのせいでしょ」
「それは認めますが、わたしへの評価が間違っている事に不満を感じます」
「評価って何の?」
「例えばこの間アルクェイドさんが庭に大穴を開けましたよね?」
「うん」
「あの時も真っ先にわたしが疑われました」
だから日頃の行いのせいだってば。
「わたしにだって出来る事と出来ない事があるんですよ? 万能なんて面白くないじゃないですかっ!」
「琥珀さんと悪戯」
「えーと、つまりどういう事?」
「どうも何も、言葉通りですが」
「ごめん、よくわからないんだけど」
「犯人はわたしだけじゃないと言いたいんです」
「あー」
つまりなんでもかんでも琥珀さんが犯人扱いされるのが面白くないと。
「あるいは秋葉さま、もしくは意表をついて翡翠ちゃんが犯人って事もあり得るじゃないですかっ!」
「いや……」
それにしたって琥珀さんが犯人である確率が高いんだけどなあぁ。
「じゃあなんですか、志貴さんはネロさんやワラキアさんがこの町に来たのもわたしの仕業だと言いたいんですか」
「そ、そんな事はないけど」
「わたしは悪夢を具現化出来て666のバケモノを扱えるんですか。凄いですねー」
「落ち着いてって」
琥珀さんの怒りっぷりは尋常ではなかった。
「そういう超常現象はあっちの世界の人の担当なんです。なんでもわたし扱いされては困ります」
「別に琥珀さんが犯人だなんて言ってないじゃないか」
「いいえっ!」
ぶんぶんと首を振る琥珀さん。
「言ってないだけで心の中では思ってるんです。どうせまた琥珀さんだと」
「ないないないない」
いくらなんでもそれは極端すぎるだろう。
「じゃあどこからがわたしの仕業ですかっ?」
「え?」
「基準はどこからですかっ?」
「え、えーと……」
今まで琥珀さんが起こした最大の事件は……と。
「メカヒスイを作って秋葉を巨大化させて……」
あれは文字通り悪夢のような出来事だった。
ワラキアの夜という超常現象の力を借りての事だけど。
「あれはわたしの力だけじゃないからナシです」
「……そう?」
「そうです。ホントの翡翠ちゃんは暗黒翡翠拳なんて使わないし、メカヒスイちゃんだっていませんから!」
「確かになあ」
あの悪夢の世界では真祖がなんちゃって拳法に負けたりするもんなあ。
「あれを許容範囲にすると色々とおかしな事になる」
あくまであれは何でもありの夢の世界だからオッケーなわけであって。
「そうなんです。現実と混同されては迷惑ですよ」
「……」
あの悪夢の中においても琥珀さんのはっちゃけぶりが凄かったのは確かなのだが。
「やっぱりキャラクターの問題だと思うよ」
「わたしを全否定ですかっ?」
「否定ってわけじゃないけどさ」
イメージの問題である。
「琥珀さんだったらやりかねないっていうのがね」
結局日頃の行いが悪いという最初の結論に戻るわけだが。
「うー」
相変わらずしかめっ面をしている琥珀さん。
「何が不満なの?」
「犯人がわたし以外だった場合の対応です」
「……あー」
「大して謝りもしないじゃないですか。それどころか日頃の行い日頃の行いと……」
だって事実じゃないか。
「わたしはそんな事を求めているんじゃないんですっ」
「ああ、うん、疑ってごめんよ」
まあ、毎度疑われてたら気分も悪いか。
「そういう事じゃありません」
「じゃあ何さ」
「……犯人は」
「犯人は?」
「犯人は琥珀さんじゃなかったのかー! ってリアクションが欲しいんです!」
「はい?」
いやちょっと待ってくださいよ貴方。
「それは琥珀さんを犯人として疑えってことじゃないか」
「いえ違います」
「何が違うの」
全然同じだと思うんだけど。
「疑ったからには疑ったぶんの反応を見せて欲しいんですよ」
「……普通に謝るんじゃ駄目なの?」
「それは最低限のレベルです」
「……えーと」
じゃあどうしろっていうんだ。
「考えても見てくださいよ」
「何を?」
「わたしが動くのはそれなりの規模がある時です」
「そう?」
割とつまらないイタズラをする事のほうが多いと思うんだけど。
「普段のイタズラなんてわたしから言わせればただのお茶目です。カウントになりません」
「そ、そうですか」
「しかし塵も積もれば山となる。といってその細かい事を無視していると大変な事になってしまいます」
「いや、ちょっと待って」
「なんですか?」
「あのさ……」
琥珀さんは自分を犯人扱いするなという。
しかし疑ったらそれなりの反応をして欲しいともいう。
イタズラはカウントにならない。
けれどそれを無視すると大変な事に。
「……」
全てが矛盾している。
何かがおかしい。
琥珀さんがこんな理屈にあわない事をするはずがないのだが。
「志貴さん?」
「うーん」
「もう。無視しないでくださいよー」
「……イタズラ」
無視。
「あ」
俺の頭の中にある悪友の姿が浮かんだ。
「どうかしました?」
「いや……」
アイツの言っていた変な理論を思い出す。
『好きな子に悪戯してするのは構って欲しいから理論』
小学生かおまえは、とその時は言ったものだが。
「ねえ琥珀さん」
「はい?」
「悪戯をするのって構って欲しいから?」
「……な、なんの事ですかぁ?」
琥珀さんの笑顔が崩れた。
そりゃあもうヤバイ!って感じがありありと感じられるものに。
「そうか……」
そういうことなのか。
それなら矛盾にも説明がつく。
要するにどれもこれも……構って欲しいが故の行動だったと。
だからイタズラをしたのに「また琥珀さんか」と適当にあしらわれるのが嫌だった。
「琥珀さんがイタズラをしただってー!」と大騒ぎ……はやりすぎだとしても、反応が欲しかったわけだ。
だからといって常に疑われるのもイヤ。
琥珀さんが怒っていたのは自分を理解されていないと思ったからなのだろう。
琥珀さんにだって出来る事と出来ないことがある。
けれど、だがしかし。
それはハリネズミのジレンマであった。
「し、志貴さん何を仰られてるんですか? わたしにはさっぱり……」
「そっか」
さて俺はこれから一体どんな対応をしていけばいいんだろうか。
「し、志貴さん笑い方が邪悪なんですけど」
「さぁ、何の事やら……」
「もう。志貴さぁん」
「はははっ」
その後、なんだか妙にしおらしくなってしまった琥珀さんと楽しい時間を過ごすのであった。
完