琥珀さんが言い出すからにはきっとろくでもない言葉のような気がする。
「クロスオーバーとはある媒体において、別々な作品のキャラクターや世界観が交錯することを差します」
「……ああ」
「有名なところだとスーパーロボット大戦ですね」
「あれはずるいよなあ」
一つでも好きな作品があれば興味を持ってしまう。
二つ三つあれば尚の事だ。
「というわけでわたしはクロスオーバーに挑戦したいと思います」
「いやいやいやいや」
俺は琥珀さんの肩を掴んだ。
「あのね。琥珀さんがいくら非常識だからって、出来る事と出来ない事があるの。ね?」
「それくらいわかってますよ。いくらわたしが魔法使いの格好して、魔法陣描いて英雄出ろーなんて言っても出てくるはずはないんです」
「……わかってるならいいけど」
じゃあ挑戦ってのはどういう意味なんだろうか。
「わたしが挑むのは懐かしのクロスオーバー作品についてです」
「懐かしの?」
「ええ。それは……」
琥珀さんはどこだかわからないけど、遥か彼方を指差してこう叫ぶのであった。
「コナミワイワイワールドですっ!」
「琥珀ワイワイワールド」
「……あれか……」
確かにクロスオーバーの先駆けと言えない事もない。
コナミのキャラクターが勢ぞろいという、なんとも豪華な作品であった。
「割とバランスよく使っていかないと進めないんだよね」
「はい。ゴエモンの対空性能もモアイの使えなさ具合も忘れられない思い出です」
「何気に敵がグロかったりね」
「シモンステージのが怖いんですよねー」
「子供の頃トラウマになった気がする」
目玉に足の生えた巨大な黄土色の物体が跳ねてくるのだ。
しかもファミコンなのに異常にリアル。
「……ってこれじゃただ懐かしむだけじゃないか」
「あはは、そう結論を急がないで下さいなと」
「うん?」
「ワイワイワールドには色んな味方がいましたよね」
「ああ。コナミマンにコナミレディ、ゴエモンとシモン」
「マイキー、コング、そしてフウマにモアイですねー」
「それが基本クリア順番だろうなあ」
というより他のパターンだとただでさえ難易度の高いゲームがさらに難しくなる。
「このへんを身内の方々に割り当ててみようかと」
「……というと?」
「シモンはシオンさんですね。名前も似てますし」
「ああ」
つまりゲームのキャラクターと実際の知りあいで似通っている部分がある人を当てはめるわけか。
「バンパイアハンターシオンか。いいな」
シオンの目的とも一致している感じがするし。
「でも、他はどうするの?」
上手い具合にかみ合うのはシオンくらいの気がするんだが。
「マイキーはレンちゃんでしょう」
「低いとこ抜けられるから?」
「イエスです。ちなみにマイキーはしゃがむと攻撃が出来ないという弱点があったりしました」
「元々攻撃位置が低いからあんまり弱点にはならないけどね」
むしろ攻撃位置の高いゴエモンやモアイのほうが、低い位置にいる敵に苦戦していた気がする。
二人とも対空には役立つんだけどなあ。
「秋葉さまがゴエモンでしょう」
「……何故に?」
「赤いからです」
「うわ、すげえ安直」
「あはは、お金投げて攻撃してますしね」
「なるほど」
って納得してどうするんだよ。
「色繋がりでシエルさんがフウマですねー」
「妖怪退治の仕事ってのもまあ間違ってはないからね」
西洋妖怪専門っぽいけど。
「……で。残りコングとモアイだよ?」
この二人に当てられるのは正直イヤだと思う。
そりゃコングは強いけど、ゴリラだもんなあ。
「コングはアルクェイドさんでしょう」
「……」
一瞬まるで違和感ないなと思ってしまった自分がイヤだった。
「全キャラ中最高のジャンプ力アンド攻撃力。アルクェイドさんを除いて誰に勤まるというんですかっ」
「ちょ、止めて琥珀さん……それっ……」
ヤバイ、今度アルクェイドの顔を見たら爆笑してしまいそうだ。
「……問題はモアイですねぇ。こればっかりはやりたいって人もいないでしょうし」
「顔のでかい奴とか?」
「うーん」
実際モアイって仲間になるのは遅いけどあんまり役に立たないんだよなあ。
「っていうかマンとレディは?」
そこが一番肝心だと思うんだけど。
「何言ってるんですか。それはわたしと志貴さんに決まってるでしょう」
「……決まってるんですか」
「最強コンビですよー」
最悪の間違いじゃないだろうか。
「琥珀さんはマントよりホウキで飛んでるほうが似合ってるよ」
「ええ。実際やる時はそれを採用しようと思ってます」
さらりと物騒な事を言う琥珀さん。
「勘弁してってば」
俺にあのコナミマンの奇天烈な姿をしろというのか?
「……はっ」
そこで俺は重大な事に気がついた。
「ねえ琥珀さん」
「なんですか?」
「原作を忠実に再現するならば、格好もあっちに順ずるべきだよね?」
「あー。どうでしょうね。雰囲気作りにはそれがいいと思いますが……」
「……」
想像してみる。
シモン姿のシオンとフウマ姿のシエル先輩はきっと凛々しいだろう。
マイキー姿のレンはかわいい感じだ。
ゴエモン姿の秋葉は多分ギャグ担当で。
「……コングのアルクェイド……」
コングは何も着ていない。
つまり素っ裸。
どう考えても最強キャラだ。
無敵すぎる。誰も勝てない。
「そしてコナミレディといえば!」
ドットだというのに異常に想像を掻きたてられるあのコスチューム。
「琥珀さんもあれを着るんだね?」
「そ、それは……!」
「そうだ! それならモアイは翡翠に決定だ! それがいい!」
モアイも裸。
っていうかあれ石像だし。
「腕もないから隠せないというドリームコンボ!」
まさにラストを飾るに相応しい存在といえよう。
「……ま、想像するだけなら誰にでも出来ますからねー」
「ってえええっ?」
琥珀さんがいやに冷めた顔をしていた。
「ただ組み合わせればそれだけで面白いと思ったら大間違いですっ!」
「発案者の琥珀さんがそれを言うんですかっ! アルクェイドがコングだって言ったのはそっちでしょう?」
「何言ってるんです! 志貴さんがえろえろな方向に持っていくのが悪いんでしょう? このスケベ大魔神っ」
「琥珀さんが!」
「志貴さんがー!」
ばたんっ!
「やかましいですよ貴方たち! 静かになさい!」
そこに秋葉が鬼の形相で現れた。
何の因果なのか、全体的に赤系の衣服である。
「ゴ、ゴエモンスタイルっ? まさかわたしの願いが現実にっ?」
「ちょ、そんなのあり得ないって! いやまさか?」
じゃあまさか翡翠もっ?
「秋葉! 翡翠はどこにいるんだ! 教えてくれっ!」
「ちょ、志貴さん何を考えてるんですかっ! 絶対に翡翠ちゃんの肌は見せませんよっ!」
「ああもう、二人とも何を訳のわからない事を言っているんです!」
この後、騒ぎを聞きつけてやってきたのがシオン。
それでさらに事態がややこしくなって来た所に来たのがレンとアルクェイド。
そしてシエル先輩……と。
「なんか順調に仲間が増えてるんだけどっ?」
「これはあれですよ! わたしたちにワイワイワールドをやれという天の啓示なんです!」
「そうかもなっ!」
集団心理というやつなのか、みんなで騒いでいるうちにだんだんとハイになってきてしまう。
「あとは翡翠だけだ!」
「みなさん行きましょう!」
いざ秘境イースター島に魅惑の翡翠を……!
かち。
「……かち?」
「こ、ここはある一定の体重がかかると落とし穴になる仕掛けを作っておいたー……!」
「ちょ! なんでそんなもの作ってるのさあああああああっ!」
ツッコミを入れた時には既に俺たちは落下した後だった。
ボロボロになった俺たちを助けてくれた翡翠が一言。
「弾丸100個でおまえの仲間を生き返らせて差し上げます。誰か生き返らせて欲しい奴はいらっしゃいますか?」
「……すいません、勘弁してください」
クロスオーバー、それは成功と失敗が紙一重の諸刃の剣である。
完