そんなキャラいたっけ?
「クックックックックック」
不気味に笑うワラキア。
「まあ……うん、そこまで言うなら」
チームメイトを信頼するのもキャプテンの役目だからな。
「頼むぞ!」
「任せておきたまえ」
同点への期待をかけたコーナーキック。
果たして上手く行くのであろうか。
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その18
「さあ、参ろうか!」
ちょこんと軽くボールを蹴りだすワラキア。
「んにょ?」
そこにはネコアルクが立っていた。
「ほうほう。このアチキに再び点を取れというのか?」
「何をしている。早く返したまえ」
「お……おお?」
言われるがままボールを渡すネコアルク。
「フフフフフ……」
滑るようなドリブルで進むワラキア。
「な、何考えてるんだあいつっ」
相手ディフェンダーが密集しているところにわざわざ向かっていくように見えた。
「舐めた真似を……っ!」
シオンが怒りの表情でワラキアへ迫る。
「吹っ飛びなさい!」
勢いのあるタックル。
おそらくイーグルタックルだろう。
断じて鉄砲水タックルではない。
「グギャッ!」
ワラキアは空高く吹っ飛んでいた。
「言わんこっちゃない……」
なにやってるんだあいつは!
「さあカウンターですっ!」
シオンがボールを蹴りあげる。
ピイィィィィーッ!
「え」
笛の音が鳴った。
「おおっと反則だー!」
「な……なんですって!」
どうやらワラキアを吹っ飛ばしたシオンのタックルが反則に取られたようだ。
「……おまえ、もしかして」
これを狙って敵に突っ込んでったのか?
「フフフ、フハハハハハハハ!」
笑いながらむくりと起き上がるワラキア。
「では、ペナルティだ」
「……セコイ真似してくれるよ」
「何とでも言うがいい」
ペナルティエリア内での反則は、PKである。
キーパーと一対一で勝負できるので、入る確立はかなり高い。
「キャプ翼ゲーのPKの成功率は1/3……」
右か左か真ん中。
キーパーの飛ぶ位置と違う場所に蹴る事が出来ればまず決まる。
「頼むぞワラキア!」
ここで外したらただの悪役だぞっ。
いや、ほんとに悪役なんだけどさ。
「ウリィィィィィィ!」
ボールに向かって助走するワラキア。
イチゴさんが構える。
しゅっ。
ワラキアの足がボールを蹴った。
かのように見えた。
「何ィ!」
だがそれはワラキアの影で、実際の足は後ろに存在していたのだ。
既に右側に飛んでしまった一子さん。
「キャスト!」
ばしっ!
ワラキアは左側にボールを蹴った。
これはイチゴさんでも止められるはずもなく。
「決まった! ゴール!」
ついに同点まで巻き返す事が出来た。
「フフフフフ、ハハハハハハ、フハハハハハハハ!」
勝ち誇ったように笑うワラキア。
「滅茶苦茶悪役だなぁ」
なんだか琥珀さんチームが気の毒になってきてしまった。
「い、いや、同情しなくたっていいんだ」
琥珀さんにはもっと酷い目に遭わされてきたからな。
「ここで一気に叩く!」
それぐらいの非常さでなくては。
「まずいですよ翡翠さん、このままでは……」
「……」
向こうのチームの動きが慌しくなってきていた。
「さつきからゴールを奪うのは至難かもしれませんが、やるしかないんです」
いくらSGGKがいると言っても油断は出来ない。
「みんな、勝ちに行くぞ!」
「任せとけー!」
でも俺は森崎だからなあ。
とてもじゃないけど活躍出来そうになかった。
大人しく後方で指示に徹するとしよう。
「……琥珀に頼らなくたってこのチームが強いって事を証明してあげるわ」
かなり苛立った様子の白レン。
「何よ。わざと反則取らせてペナルティキックって……それが主人公のやる事?」
「いや、主人公とか言われても」
翼補正がかかってるのは琥珀さんだし、やったのはワラキアだし。
「絶対に決めてやるんだからっ!」
白レンがパスを出した。
「アキラくんパスキャッチ!」
「貸してっ!」
「え、あ、はいっ」
すぐに白レンへリターン。
「8人抜きくらいわたしにだって……」
「……っ」
そうだ、白レンはサッカーサイボーグ、カルロス補正がかかってるんだった。
「みんな! なんとしてでも止めるんだ! はんそ……」
反則してでも、と言い掛けて慌てて口を塞ぐ。
いかん、そんな事やったら悪役そのものだぞ。
「レンくんかわしたっ!」
「うおっ」
とかなんとかやってるうちに白レンは蒼香ちゃん、羽居ちゃん、有彦をも抜き去っていた。
「カット!」
「そんなバカの一つ覚えでっ!」
ワラキアをかわし。
「やるな貴様……!」
「おじさまもディフェンスはまだまだよっ!」
ネロをもかわす。
「げ」
既に白レンとゴールの間には弓塚しか残っていなかった。
「ちょろいわねっ」
さらにドリブルでペナルティエリア内へと切れ込む白レン。
「やらせてなるものですか!」
フォワードの秋葉が白レンを止めようと向かっていく。
「くっ……」
おそらく白レンはネコアルクと同じようにドリブルで切れ込んでいくつもりだったんだろう。
「仕方ないわねっ!」
秋葉に邪魔される事を恐れたのか、早々とシュート姿勢に入った。
「行くわよミラージュシュート!」
ペナルティエリア内からの必殺シュート。
「弓塚っ!」
弓塚は止められるんだろうか。
ボールに向かって構える弓塚。
「あはははははは!」
そして笑いながら腕を伸ばす。
ぶおっ。
「なっ?」
弓塚とボールの間に竜巻のようなものが見えた。
ばしっ!
そしてボールは弓塚の手に。
「な……」
「す、すごいぞ弓塚!」
あんな技、若林だって使えない。
「なんだなんだ? 弓塚オリジナルの必殺技か?」
「強いて言うなら届かないユメを掴むさっちんアームだニャ」
ギャラリーは無駄に能天気だった。
「さあいくよっ」
「……そうか」
俺はキャプ翼補正を生かす事ばかりを考えていたけれど。
さっきのワラキアの影のフェイントや、今の弓塚の技。
それぞれ本来の動きをして貰ったって全然問題ないわけだ。
「なら俺だって……」
活躍が出来るかもしれない。
「……けど」
直死の魔眼で何が出来るんだろうか。
十七分割シュートとか。
「意味がわからないな……」
まあそれはおいおい考えていこう。
「ほれ兄さん、パスだ」
蒼香ちゃんが俺にパスを出してきた。
「ここで一気に逆転だ!」
ボールをトラップする俺。
てれってれってれっ。
「ん?」
するとフィールドに突如緊迫感のあるBGMが流れ出した。
「これは……」
キャプ翼ゲーをやった事のある人間なら誰もが聞いた事のある音楽だ。
時計を見る。
時間は五分を切っていた。
もうすぐ前半が終わる。
「……ここで点差をつけておけばっ!」
後半でも余裕を持ってプレイできるはずだ。
「行くぞみんな!」
どちらのチームにとっても、この五分が重要な勝負のしどころである。
続く