ボールは大きく転がって、センターサークル付近へ。
「……」
そこには琥珀さんがキックオフの時のまま、突っ立っていた。
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その20
「今の琥珀さんからならボールが取れるぞっ!」
ボールが目の前にあるというのに琥珀さんは動こうともしない。
「頂こうっ!」
ワラキアがタックルをしかけた。
ひょんっ!
「なにィ!」
なんと琥珀さんがボールを持って宙を舞ったではないか。
「バカなっ」
ショックで動けないんじゃなかったのかっ?
「……ふふふ、ふふふふふ」
怪しく笑う琥珀さん。
「わかりましたよっ! SGGKの弓塚さんからゴールを奪う方法がっ!」
そしてそう高らかに宣言した。
「そんな!」
それじゃあ動かなかったのはまさか。
「姉さん、今までずっと考えていたんですかっ?」
「みなさんには迷惑かけちゃいましたけど、こっから猛反撃の始まりですっ」
やばい。滅茶苦茶にやばい。
「琥珀さんからボールを取るんだ!」
何を思いついたのかはわからないけど、実行されるのだけは阻止せねば。
「甘いですよっ」
琥珀さんがボールを蹴りあげた。
「翡翠ちゃんっ!」
「姉さんっ!」
「冗談じゃないっ!」
絶対にいかせてたまるかっ!
「うおおおおおっ!」
琥珀さんから翡翠へのボールへ向けて懸命に飛ぶ俺。
ぼんっ!
顔面にボールが激突した。
「ああっ?」
「……そ、阻止……してやったぜ」
これで必殺ワンツーは発動しないっ!
「よくやったぜ下僕そのいちー!」
「……誰が下僕だ」
こぼれ玉を拾ったのはネコアルク。
「再びアチキの華麗なドリブルが火を噴くぜー!」
小細工など一切なしに、正面から切れ込んでいった。
「調子に乗ってぇっ!」
アルクェイドの鋭いタックル。
「うおおっ、あぶニャい、あぶニャい……」
すれすれでかわすネコアルク。
「琥珀さんが作戦を思いついたのに、ここで攻められるわけにはいきませんっ!」
「ま、守りきってみせますっ」
シエル先輩とななこさんが立ちはだかった。
「ふん、バカシエルなんぞ、このアチキが相手するまでもないニャ」
「なんですってえっ!」
タックルを仕掛ける先輩。
「にゅふふふ」
それを確認してネコアルクはパスを出した。
「しまっ……!」
「任せてくださいマスター!」
ななこさんが飛ぶ。
ばしっ。
「にゃんですとーっ!」
再びボールがこぼれ玉に。
「まだまだ、終わらせないさっ!」
蒼香ちゃんがボールを拾った。
「お姉ちゃんっ」
「……いや、防がれたら意味がない。ここは……」
慎重にライン際をドリブルして行く蒼香ちゃん。
「そう簡単にっ!」
シオンが向かっていった。
「来たね!」
シオンに向けてボールを蹴る蒼香ちゃん。
「えっ」
ボールはシオンの膝に当たり、跳ね返ったボールがライン外へと転がっていく。
「志貴チームのスローインだー!」
「……こ、このわたしにそんな作戦を……っ!」
シオンは怒り心頭という感じだった。
「遠野の兄さん! 攻めるよっ!」
「お、おうっ!」
「しまっ……!」
大きくボールをスローする蒼香ちゃん。
「ナイスパスよっ!」
秋葉がトラップした。
「ペナルティエリアまであとわずか……!」
「一気に切れ込んでシュートだ!」
「わかっていますっ!」
ドリブルでペナルティエリアへ向かって行く秋葉。
「と、通しませんっ!」
そこにはアキラちゃんが待ち構えていた。
「フォワードの貴方がこんなところにいていいのかしら? 私に殺されるつもりだったの?」
「……ど、どうせわたしは前半のみの存在ですっ。命を賭けてゴールを守ってみせますっ!」
「そう……いい度胸ねっ!」
「う、うわああっ」
秋葉がドリブルしていくと、アキラちゃんは反射的に身をかがませてしまった。
「貰った!」
空いた隙間を狙ってシュートを放つ秋葉。
「そう簡単に点はやらんさっ!」
しかしその空間には既にイチゴさんが待ち構えていた。
「……せいっ!」
正拳でボールを弾くイチゴさん。
「取るんだ!」
「させません!」
高いボールをトラップするシオン。
「い……いい勝負だっ」
これぞまさに終了間際の攻防。
「ここです! ここで決めるんです!」
「なにっ」
シオンは自軍ゴール付近だというのにいきなりシュート体勢に入った。
「シオンくんのイーグルショットっ!」
「でやああああーっ!」
「……どういうつもりなんだ……?」
そんな所からシュートを撃っても。
「やらせるかよっ!」
有彦によってイーグルショットは止められていた。
「頂きですっ!」
「げっ」
すぐさまこぼれ玉を拾うシエル先輩。
「シュートをパスとして使うとは……」
つまり、防がれる事を前提としてシュートを撃ったのである。
「決めますよっ! スライダーシュートっ!」
ペナルティエリアに切れ込んでシュートを放つ先輩。
「そんなシュートネロさんでも止めてたよっ!」
あっさり弾く弓塚。
「まだまだ行くわよっ! アルクシュートッ!」
「それも通じないっ!」
まさにSGGK。
来るシュート来るシュート、弓塚は全て防いでいた。
「やりますね……」
顔をしかめている琥珀さん。
「……」
おかしい。
琥珀さんはSGGKを破る策を思いついたと言っていたのに。
ただ無意味に必殺シュート連打しているだけとは。
「甘いわ!」
混戦の中、おっさんが大きくボールをクリアする。
「……と、とにかく反撃だ!」
先に点を取りさえすれば、こっちが有利なんだからなっ!
なんとしてでも点を取るんだ。
「……」
ボールを取ったのはレンだった。
華麗なドリブルで琥珀チームを抜いていく。
「ぬう……!」
「やらせんっ!」
そうしてディフェンスを集めたところでピンポイントのパス。
ぱしっ。
ペナルティエリア直前に待機していたネコアルクにボールが渡った。
「おおっと残るはロスタイムだけとなったー!」
チャーリーが叫ぶ。
「多分これが前半最後の攻防だな」
「おっしゃー!」
ドリブルで突き進むネコアルク。
またドリブル突破でシュートだっ!
「……あたしを舐めるなっ!」
イチゴさんがネコアルクに向かっていった。
どごっ!
「うにょー!」
「……っく!」
二人同時に吹っ飛ぶ。
「ボールはっ!」
空高く飛んでいた。
「誰でもいいからシュートだ!」
イチゴさんは吹っ飛んでゴールは空っぽ状態なのだ。
「やらせませんっ!」
「取りますっ!」
「そうはいくかっ!」
周囲にいたメンバー全員がボールへ向かう。
「……っ!」
「レン!」
集団の中でボールに追いついたのはレンだった。
ボールを思いっきり頭で打ちつける。
「レンくんのヘディング!」
今の攻防でディフェンスは全員抜いたはずだ。
決まる!
「アキラくんフォロー!」
「なにィ!」
そうだ、さっきもアキラちゃんはゴール付近にいたんだ。
「点を取らせるわけにはいかないんです……!」
アキラちゃんの蹴ったボールは大きく転がっていった。
ボールに誰も追いつけない。
「待ってたわ、この時を……!」
「……っ!」
そのボールに最初に追いついたのは白レン。
「さあ、決めてもらうわよ……キャプテン琥珀っ!」
白レンから琥珀さんへ向けての、ラストパスが放たれた。
続く