シキの登場で琥珀チームのプレイに乱れが出ているようだ。
「貰ったっ!」
「っあっ!」
そんな最中、シオンに蒼香ちゃんがボールを奪われてしまう。
「口論しているヒマはありません! 時間がありませんよ!」
二人に向けて怒鳴るシオン。
「……っ」
時計を見ると残り十分を切っていた。
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その31
「さつき! わたしは貴方のプレイを見ていて弱点に気付きました!」
オーバラップしながらそんな事を叫ぶ。
「な、なんだって?」
あの弓塚に弱点なんかあるのか?
「それは……!」
ペナルティエリア外だというのにシュートを放つシオン。
地を這うシュート、イーグルショットだ。
「……っ」
弓塚はボールへ向かって走っていった。
「っとと……」
少し行き過ぎて慌てて戻る。
「えいっ!」
そしてパンチング。
「……普通に防げてるじゃないか」
一体どこが弱点なんだ?
「貰ったわ!」
白レンが高く浮いたボールへ向かい。
「これで決める!」
ばしいっ!
オーバーヘッドキックを放った。
「それっ!」
地上から手を伸ばす弓塚。
ボールは弓塚の腕にあっさりと吸い込まれていった。
「これでも弱点があるっていうのシオンっ!」
「ふふふ」
意味ありげな笑い。
「……?」
何がいけないっていうんだろう。
不安が俺を襲う。
「軌道が低い球に弱いとか?」
羽居ちゃんがそんな事を言った。
「そうなのか……?」
確かにペナルティエリア外からのシュートにパンチングをしていた。
一方高いボールからのシュートはやすやすとキャッチ。
「でもそれは今回だけの話であって」
今まで弓塚はマッハシュートを除いてどのシュートも万遍なく防いできたはずだ。
「さつき。あなたは自分に出番がある事を恐れているのではないのですか」
「……っ」
後ずさる弓塚。
「図星でしょう。長い間日陰の存在となっていたあなたにこうも光が当たっているのが……」
「そ、そんな事ないっ!」
弓塚は明らかに動揺していた。
「そんな言葉に耳を貸さなくていいんだぞ!」
俺は叫んだ。
「……うう」
まずい、弓塚の目に迷いが浮かんできている。
どんなに優秀なキーパーでも、迷いがあると取れるボールすら取れなくなってしまう。
「さあ、ここが正念場です! みんな! あがってください!」
シオンが叫んだ。
「ここで雪崩攻撃かよっ……!」
さすがはシオンだ。容赦がない。
琥珀さんチームのディフェンスが全員あがってくるって事は。
「よーし、いっちょ行きますかっ」
「貴様にボールは渡さん!」
「ふふ、いつまでついてこれるかしらねー」
危険人物筆頭の先生。
ネロのおっさんがマークし続けているとはいえ、油断は出来ない。
「必ず得点です」
目立った活躍はないが、総じて能力が高く、必殺ワンツーを持つ翡翠。
「さて、どうなるかね」
キーパーからディフェンスへ戻ったイチゴさん。
「くっくっく……」
そしてあらゆる意味での問題児、シキまでもが攻撃に参加してくるのだ。
「弓塚! 今のうちにボールを!」
「え、あ、うんっ」
大きくボールを投げる弓塚。
「よーしっ」
ボールは都古ちゃんの元へ。
「都古ちゃん! 無理して攻めなくてもいい! ボールを遠くへやるんだ!」
「わかったっ!」
ライン外へ向けてボールを蹴る都古ちゃん。
「その手はお見通しですよっ!」
「うええっ!」
琥珀さんが空中でボールを止めてしまっていた。
「翡翠ちゃん!」
そしてそのまま翡翠へのパス。
「姉さん!」
それを受け取った翡翠。
「ここで負けたらわたしたちゴールデンコンビも終わりになってしまいます……なんとしても!」
気迫の篭ったドリブル。
「にゅおおっ?」
「ちっ!」
ネコアルクを抜き、蒼香ちゃんをも抜き去る。
「こちらです!」
「お願いします!」
そしてシオンへのパス。
「ここは通さんよ!」
ワラキアが向かっていった。
「一年中土の上で……グラウンドでサッカーが出来る奴らに……負けてなるものですか!」
いや、ワラキアは多分これが始めてのサッカーだと思うんだけど。
「うぬっ……」
ワラキアの執拗な攻めにも関わらず、ボールをキープし続けるシオン。
「ここです!」
一瞬の隙を突いてパスを出した。
「来たわね!」
白レンがペナルティエリア内でボールを待ち構えている。
「弓塚!」
今の弓塚で白レンのシュートを止められるんだろうか。
「さつき。貴方は精神的動揺に弱いみたいね。なら……」
胸元あたりに手を寄せる白レン。
手と手の間に光が集まっていた。
「……鏡?」
それと同時に白レンの周囲に鏡のようなものが現れる。
「うふふふふふ……」
「んなっ!」
その鏡に白レンが映り、さらに鏡の中の鏡にしろレンが映る。
「ちょ、ちょっと……」
十体以上の残像が、その場に現れていた。
「お気に召しまして?」
不敵に笑う白レン。
「こ、これじゃ誰がシュートを撃つのか……」
弓塚はますます困惑していく。
「落ち着け! いくら白レンがいたってボールは一つだ!」
「ええ。一つよ。けど……」
ボールを傍の鏡の中へ蹴り飛ばす白レン。
鏡の中にボールが吸い込まれ、右へ左へと反射していく。
「うわっ」
「これがわたしのミラージュショット……」
まさにその軌道は幻影のようであった。
「うふふふふ」
反射したボールの軌道を、鏡の中の白レンがさらに変える。
「わ、わ……」
右へ左へ目線を泳がせる弓塚。
「……このままじゃ……」
得点されるのは明らかだった。
「せいやっ!」
だん!
「っ……!」
都古ちゃんが地面を勢いよく踏みつけていた。
「もいっちょ……せいやっ!」
だんっ!
「っあっ!」
一人の白レンがバランスを崩す。
ガシャン!
その瞬間、全ての鏡が砕け散った。
「偽者がいくら多くたって! 本物を叩けばいいんだよっ!」
「ナイスだ都古ちゃん!」
残ったのは真の白レンと、空中に浮かんだボールのみ。
「こ、これならっ!」
弓塚がボールへ向かって飛ぶ。
「貰ったぁーっ!」
「っ!」
シキがボールにヤクザキックを放っていた。
まずい、弓塚ごと吹っ飛ばす気だ。
「うわっ……」
一瞬手を出すのを躊躇する弓塚。
「甘いんだよ!」
そのままボールを蹴り飛ばすシキ。
「まだまだっ!」
加速したボールへ腕を伸ばす弓塚。
腕は届かない。
「ここで登場びっくりどっきりネコー!」
だがなんと、弓塚の影に隠れていたネコアルクがボールへ向かってダイブしていた。
ばしっ!
足の先端が当たり、ボールの軌道が大きく変わる。
ボールはエリア外へと転がっていった。
「……ふ、防ぎきったか……」
俺は額に流れる汗を拭い、大きく息を吐いた。
「琥珀チームのフリーキックです」
だがなおもピンチは終わらない。
「これが最後の攻防になるかもしれないな……」
残り時間は、あと五分。
続く