これは翡翠さんに頼んで本当のパンツを貰ったほうがいいのかも。
ってそんなの許してくれるはずがないし。
とすると洗濯物あたりから拝借して……
「あうううう」
女子学生とは思えないへんてこりんな悩みで揺れるわたしであった。
ライブアライブ
未来視編
「流動」
その8
「はぁぁ……」
ため息をつきながら帰路につく。
途中襲ってきたウロボロスたちはタロイモさんがキントト砲でやっつけてくれた。
正直この武器さえあれば他に何もいらないくらい強い。
「……」
そして浅上に到着してしまった。
「どうしよう」
本当にやっちゃうのか、わたし。
「あ、姉に妹のパンツを貸すだけだから」
それだけなのだ。
深い意味はないのだ。
……多分。
「あうぅ」
我ながら不審な動きで中に入る。
「あ。アキラちゃん。おかえり〜」
「は、ははははいっ?」
するといきなり羽居先輩が出迎えてくれた。
「どうしたの〜? そんなに驚いて〜」
「い、いや、その、なんていうか、あは、あはは」
まさか下着ドロボウをしようと考えていたとは言えない。
「その袋、何かなー?」
「え? あ」
羽居先輩に言われて思い出した。
「これ、秋葉先輩に貰ったんです」
バイトの報酬として貰ったたい焼き一式。
「秋葉ちゃんの? わあ、美味しそう〜」
「よかったら食べます?」
「いいの〜? ありがとう〜」
「あはは……」
羽居先輩はこういう些細なことでも凄く嬉しそうな顔をしてくれる。
「お礼にこれあげるねー」
「あ、どうも」
何かキャラクターのついたキャップだった。
「よかったら他のみんなにあげてください」
「うん、わかった〜」
羽居先輩はたい焼きの袋を持ってぱたぱたと駆けていった。
「……さてと」
わたしはその間に脱衣場に向かう。
さっき洗濯するとか言ってたから……
「ないしっ?」
洗濯物の中は既にスッカラカンだった。
「……外っ!」
光の早さで外へダッシュ。
「あった!」
パンツゲット!
「ってわたしのパンツじゃねーか!」
思わず口調が変わってしまった。
自分のを取ってどうするんだ。
「ええと翡翠さんのは……」
どれだろう。
「……これは弓塚さんのだし……」
断っておくがわたしはパンツマニアではない。
単にお風呂で一緒になる事もあるから見覚えがあるぞってだけで。
「あーうー」
ここには翡翠さんのパンツはなさそうだった。
「翡翠さんのぱんつー」
そんな事を呻きながら歩くわたしは不審者そのものである。
「……」
ふと後ろを振り返ると、無言でタロイモさんがついてきていた。
「あの」
「ナンデショウ」
「……こっそり翡翠さんのパンツを持ってきて欲しいんですが」
こんな頼み聞いてくれるんだろうか。
「了解シマシタ」
「え」
聞いちゃったよ。
「じゃ、じゃあ、えっと、わたしトイレあたりをうろうろしてるからっ」
「イエス、マスター」
タロイモさんはぺこりと一礼して去って行った。
「……大丈夫かなあ」
まさか本人から脱がせたりしないよね。
「……ああ、不安だ」
あんなこと言わなきゃよかったかも。
「アキラちゃーん」
「うわあっ?」
タロイモさんと入れ違いで羽居先輩がこっちに向かってきた。
「ななななななな、なんでしょうっ?」
「これ、みんなからたい焼きのお礼〜」
「そ、そうですかっ。どうもっ!」
「パワーリストにー、シャンプーハットでしょー?」
「そ、それはいいものですねっ!」
気持ちはとっても嬉しいけど!
「それからミサンガにーグラブがあってー」
タロイモさんが戻ってきちゃったらぁっ!
「オマタセシマシタ」
「っきゃあー!」
こんな予感ばっかり的中。
「あれぇ?」
羽居先輩はタロイモさんの持っている物をみて首を傾げていた。
「わたしのパンツだ〜。どうしたの〜?」
よりにもよって羽居先輩のですかっ!
「え、ええと、それはそのう」
「ぱんたろん、ぱんすとモアリマス」
「余計な事しなくていいのおっ!」
翡翠さんのパンツって言ったのにいっ!
「マスターガ御所望デス」
「きゃあああああっ! 違う、違うんですっ!」
合ってるけど違う!
「アキラちゃん女の子のパンツ好きなんだ〜?」
「そ、そっちの趣味はありませんっ!」
その趣味があるのは琥珀さんで……!
「ちょっと待っててね〜」
「あ、いやちょっと!」
何をするつもりですか羽居先輩っ!
「ドウゾ、マスター」
「ああもうっ! それは返してきてえっ!」
このままじゃわたしにあらぬ誤解が……!
「持って来たよ〜! 蒼香ちゃんのパンツー!」
ってえええっ!
そんな大声で叫びながら来ないでくださいっ!
「くおら瀬尾ぉっ! 羽居に何言ったんだぁっ!」
「思いっきり誤解されてるうっ!」
ごんっ。
蒼香先輩のパンチを貰ってしまう。
「いたたたた……」
「蒼香ちゃんいたい〜」
羽居先輩も頭を抑えていた。
「ったく何をバカな事を」
「そ、それはそのぅ」
「……何の騒ぎですか?」
「はっ!」
まずい、翡翠さんだ。
一番ばれたくなかったのにっ。
「いや瀬尾のやつがみんなのパンツをな」
「ああああっ! もう話します! 全部話しますからっ!」
わたしは大人しく正直に事のあらましを説明した。
「……姉さん……」
翡翠さんはものすごく暗い表情だった。
「……まあ、大変だな、アンタも」
蒼香先輩もなんともいえない顔をしている。
「そういう事情なら……仕方ありませんね」
翡翠さんが脱衣場のほうへ入っていく。
え、まさか?
「これを」
「ひ、翡翠さんのパンツじゃねーか!」
しかもおそらく今の今まで履いてたものっ!
「これで、満足してくれると思います」
「い、いいんですかそんなっ!」
「……これ以上パンツの話題になるほうが恥です」
それはまあ確かに。
いくらなんでもパンツパンツ言いすぎた気がする。
「姉さんが二度とこのような事をしないよう、強く言っておきますので」
「あ、あはははは……」
たかがパンツ、されどパンツ。
なんだかものすごい大事になってしまった。
「しかしパンツの事が気になって先に進めないとはね」
蒼香先輩が呆れた顔をしていた。
「仕方なかったんですよぅ」
わたしだってやりたくてやったわけじゃ!
「とにかく、急いで返しに行ってきます!」
こんなバカな話はさっさと終わらせたいし。
「気を付けてね〜」
「はいっ!」
わたしはかけ足で玄関に向かった。
そんな時である。
「え……」
何か頭に嫌なものがよぎった。
重い重い鉛のような感覚。
「きゃああああああっ!」
刹那、絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
「今の声は……」
まさか!
ててんてんてん、ててん。
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