「困りました志貴さんっ」

琥珀さんが珍しくあせった表情で俺の部屋に駆け込んできた。

「……何が困ったの?」

どうせまたろくでもない事だろうと思いつつ尋ねてみる。

「ネタがありませんっ!」

ほら、やっぱり。

「最近ゲームばっかりやってたからじゃない?」

俺はそれだけ言って寝転がった。
 
 


「なつげーの話」






「うわ、酷いですよ志貴さんっ。それは大変だとか、何とかしなきゃとかないんですかっ?」
「ないよ」

琥珀さんのネタがないという事は、俺が被害に巻き込まれないということである。

「し、志貴さんがそんな薄情な人だとは思いませんでしたっ」
「意外と俺はクールなんだ」

変に絡むと事態がややこしくなってしまう。

俺は我関せずの姿勢を徹底する事にした。

「ぬう……」
「……話は終わり? 俺眠いんだけど」
「ふ、ふんだ。いいですよ。そんな事言うんだったらこちらにだって考えがあるんですからっ。覚悟していてくださいましっ」

琥珀さんは丸っきり悪役そのもののセリフを吐いて部屋を出て行った。

「大人しくゲームやってればいいのに」

どうしてこう人にちょっかいをだしたがるんだろうか。

「……これも琥珀さんのサガ、か」

どこかで聞いたようなセリフを真似して呟いてみる。

まあいい、気にしたら駄目だ。寝よう寝よう。
 
 
 
 
 

「……くそう」

何度目かわからない寝返りを打つ。

やはり琥珀さんの最後の言葉が気になって仕方がなかった。

覚悟してくださいまし……か。

「しょうがない。付き合いにいくか……」

こういうところが琥珀さんにちょっかい出される原因なんだろうけど。

性分なんだからどうしようもない。

「俺がただ寝てましたじゃ話にならないもんな」

なんだかんだで琥珀さんの影響をしっかり受けてしまっている自分に苦笑しつつ、琥珀さんの部屋へと向かった。
 
 

「琥珀さーん」

ドアをノックする。

「どうぞー」

すぐに返事が返ってきた。

「開けるよ」

中へ入ると琥珀さんは相変わらずゲームに熱中しているようだった。

「何やってるの?」
「例のシリーズの最新作です。これがなかなか面白くてですねー」

そう言って画面へ目線を戻す琥珀さん。

「そうなんだ」

どうも俺の事なんかすっかり忘れていたらしい。

ちょっとゲームにジェラシーを感じてしまう。

「へえ、絵は綺麗だな」

取りあえず琥珀さんのプレイを眺めていたが、さすがは最新作だけあって画像はとても綺麗であった。

「絵はあくまでおまけにしか過ぎないですけどね。真に重要なのはプレイしてて楽しいかどうかです」
「楽しいんでしょ?」

これだけ熱中してるんだから。

「はい。でもFC時代のしょぼいドットの頃も好きなんですよー」
「そんな昔からあるやつなんだ」
「ええ。ですが基本は昔からあんまり変わっていませんね」

なるほど、その昔に出来たゲームの基礎をしっかり受け継いでるって事かな。

「志貴さんは何か思い出のゲームとかあります?」
「思い出……うーん。あんまりいい思い出はないかなぁ」

昔のゲームはそれこそバランスもへったくれもなかった。

プレイヤーいじめとしか思えないようなゲームばっかりで、やると逆にストレスが溜まったりして。

「コンボイの謎とか」
「あー」

通じる人にはこれだけでもうわかってしまう。

「開始一秒で撃墜」
「敵の弾が見えない」

にっこり。

笑いあう二人。

「あれを現在の技術で完全再現したら面白いかもしれませんね」
「……いや、どうだろ」

ネタとしては最高に面白いと思うけど。

「昔のゲームはネタに溢れてましたねー」

どこか懐かしむ感じの琥珀さん。

「IIコンのマイクで叫ぶと敵が即死とか」
「ジャイアンですね」
「……あれ、子供むけのキャラなのに難易度高すぎだったよね」
「そうですねー。当時クリア出来た人っていたんでしょうか」

まあこういう会話が出来てしまう時点で結構ゲーム少年だったわけだ。俺も。

「最近のゲームは主人公が強すぎだよな」
「そうですねー。少しはスペランカーを見習って欲しいです」
「……いや、あれは酷すぎ」

スペランカー。

それはゲーム史上に名を残す最弱の主人公である。

どれくらい弱いかというと、自分の膝程度の段差から落ちたら死ぬ。

「ギャグですよね、あれ」
「ジャンプ強化すると着地しただけで死ぬもんな」

あれはもう見た瞬間爆笑するしかない。

「まあやり込めばクリアは出来るんですけれど」
「……で、出来るの?」
「クリアしても二週目が始まるんですよー」
「……」

二週目。

それはファミコンソフトではお約束のひとつである。

アクション、シューティング、大抵のゲームはクリアしても二週目が始まってしまうのだ。

しかも難易度の上がった状態で。

「……それ系の悪夢はボコスカウォーズかな」
「すすめ、すすめ、ものーどもー……ですか?」
「シミュレーションRPGの基礎を作ったともいえるゲームだけど」

これもまた迷作なのである。

「なんせ100のユニットが10のユニットに負けるし」

おまけに主人公のスレン王が負けると即ゲームオーバー。

「しかもラスボスは主人公じゃないと倒せないし……」

勝つためには戦略云々以上に運の必要なゲームであった。

「クリアするとまた二週目なんですね……」
「二週目の最初で死んだときゲームの寿命も終わった」

ほろ苦い青春の思い出である。

「ま、まあそういう話はさておき」

もっと楽しい話題にしよう。

「みんなで集まって大運動会とかやってたなあ」

そう言うと琥珀さんの表情が変わる。

「ダウンタウン熱血行進曲?」
「そう。それゆけ大運動会」
「こばやし禁止?」
「うちでは誰でもOKだったけど、アイテム投げ稼ぎは絶対禁止」
「しょうがいべやのみ可?」
「だいたい殴り合いになっちゃうけどね」

ふふふふと怪しい笑みを浮かべあう二人。

お互いわかっている。

いや、わかりすぎている。

ぷち。

琥珀さんはゲームの電源を切った。

「秋葉さまと翡翠ちゃん呼んでやりませんか?」
「……あるの?」
「そりゃもちろん。バリバリ現役ですよー」

そんな琥珀さんの傍から懐かしい赤と白の機械が出てきた。

「うわ、すげえ……」
「ソフトはあんまり持ってないんですけどね。コンボイとかスペランカーはありますけど」
「いや、そういうネタはもういいから」

取りあえず先にあげたゲームらは知らないと絶対後悔する迷作である。

他にもバントでホームランとかすごいゲームがあったけれどそれはまあ割愛ということで。

「で、やりましょうよ大運動会」
「でも二人とも初心じゃなんじゃ?」

翡翠はまだしも秋葉はファミコンを見たことすらないんじゃないだろうか。

「だからこそですよ。二人チームでやりましょう。コントローラー4つもないんで」
「琥珀さんは冷峰禁止ね」
「ふっ。冷峰に頼るような甘ちゃんプレイヤーではないですよわたしは」
「……まあうん、呼んでくるよ」
 

そんなこんなで遠野家ゲーム大会が始まった。
 

「な、なんですかそのやたらと足の速い人はっ! 卑怯です!」
「いや、俺のつかってるのはこっちの目がでかいやつだから……」

クロスカントリー。

「ひ、翡翠ちゃん、そこで武器振られてると先に進めないんだけど」
「どうぞご自由に」

しょうがいべや。

「……あの、兄さん。玉を割らなくていいのですか?」
「いや、俺はちょっとりゅういちを始末しておくから」

たまわりゲーム。

そして。

「さあついにやってきました! かちぬきかくとう! これのために生きてきたと言っても過言ではないですねー」

最後の種目かちぬきかくとう。

これの面白さは今までの競技の非ではない。

当時、ここまで面白いゲームは他にないと思えたくらいだ。

「水を得た魚……棒を得たごだい。覚悟しろよ」
「ふ、甘いですね。左右おーらぱんちの力、見せてあげますっ!」

今や退屈なんぞすっかり吹っ飛んでいた。

ノスタルジーと思われるかもしれないけれど。

退屈を感じたときには古いゲームを引っ張り出して遊んでみると。

「あーっ! 画面下方で人間魚雷を食らってしまうなんて……」
「え? もしかして私の勝ちですか?」
 

新たな楽しみ、発見がもたらせるかもしれない。
 
 

終わる



あとがき
ネタに困ると琥珀さんが(ry
それはともかく昔のゲームはいろんな意味で面白かったと思いますw
3Dとかエフェクトバリバリのゲームをやっていると反動でこういうのをやりたくなりますね。
なんかひとつでもネタがわかっていただけたのならば幸いですw



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