琥珀さんの妙な会議ネタにもいいかげんなれたので、たまには俺から攻めてみることにした。
「なんでしょうか?」
「うん。ちょっとリアル志向で行こうかなと」
四次はリアルがやたらと強かったしな。
「リアル……ですか。ガンダムパロディってことですか?」
「……微妙に違う気もするけど」
それはそれで面白そうな気もしてきた。
「第四次遠野家ネタ会議」
「例えばですねー。わたしが遠野家転覆を企んでいたことのパロディですが〜」
過去の悪行をあっさりネタにする姿は実に潔いと思う。
「この琥珀は3年待ったんです! 貴方たちのような分別の無いものどもに、わたしの理想を邪魔されてたまるか!」
「……ガトーかよ」
「ガトーさんは一人だけで一日持つくらいの名言揃いキャラですからね〜」
まあアクが強いからなあ。
「さあ、志貴さんもわたしの言葉にのってきてくださいっ!」
「え、えーと……わ、わたしの理想?」
元ネタなんてほとんど覚えてないので適当なセリフを言ってみる。
「わたしは感応者の真の解放を掴み取るんです! 遠野家からの悪しき呪縛を我が正義の剣によって!」
「……以外と間違ってないのがやだなあ」
確か翡翠と琥珀さんって感応者の唯一の生き残りって話しだし。
「はい、まだセリフがありますよ?」
「……うーんと……解放……? 何を……こんな戦術レベルの戦いの最中に何を!」
確かこんなんだったような。
「志貴さんも遠野の人間でしょう! ただの人でないのなら、大局的にものを見てください!」
「は、はい」
「なっ……! わたしは敵ですよっ!」
と言い終えた後に琥珀さんはにこやかに笑った。
「あーっ、たまりませんね〜。ガトーさんの渋さもコウさんの初々しさも〜」
身もだえする琥珀さん。
「もう終わっていい?」
「駄目です。まだやりますよ〜」
「……」
ああもう手がつけられない。
「志貴さんがわたしが犯人だと気付き、刃を向けたというシチュエーションでー」
いや、そんなシーンどこにもなかった気がするけど。
「わからないでもないですね。ずいぶん肝を舐めたようです……聞いてあげましょう!」
しかもまたガトーかよ。
「戦いの始まりはすべて怨恨に根ざしています。当然のことです!」
「くっ!いつまで減らず口を……!」
しょうがないので付き合うことにする。
「しかし怨恨のみで戦いを支える者にわたしはは倒せません! わたしは義によって立っているんですからねっ!」
「いや、琥珀さんの逆襲ってすんごい私的な恨みじゃなかったっけ?」
「……そこを冷静に突っ込まれると厳しいですねー」
「あ、ごめん」
「いやいや気になさらないでくださいな。ネタなんですし」
「うーん」
この辺の寛容さというか大雑把さは琥珀さんのいいところでもあり悪いところでもある。
「ではガトーさんを止めて他にいたしましょう」
「まだやるのかよっ」
「これで終わりにするか続けますか! シャア!」
「だから終わりにしようって」
「まだです! まだ終わりませんよ!」
今度はどうやらZ路線らしい。
「はぁ。わかったよ。Zやるの?」
「いえ、逆襲ということで逆シャアにします」
「……」
琥珀さんの思考回路はまったくもって謎である。
こうなっったら先手を打つまでだ。
「世直しのこと、知らないんだな。革命はいつもインテリが始めるが、夢みたいな目標を持ってやるから、いつも過激なことしかやらない」
これはアムロのセリフ。
「……四方から電波が来ます」
「しかし革命のあとでは、気高い革命の心だって官僚主義と大衆に飲み込まれていくから、インテリはそれを嫌って、世間からも政治からも身を引いて世捨て人になる。だったら……」
「わたしは世直しなど考えてません! 愚民どもにその才能を利用されている者が、言うことですか!」
「そうかい!」
にらみ合う二人。
「逆シャアはやはりこの二人の絡みがいいですよねー。最後のところとかもう何度見たかわかりませんよ」
「そんなに好きなの?」
「はい。王道的な名言『νガンダムは伊達じゃない!』からマイナーどころ『この左上のプレッシャーはなんだ?』まで大好きです」
「後ろの……誰のセリフ?」
「ギュネイさんです。ロリコンでしつこい男ですよ」
「……」
間違ってないけどそんな印象しかないとは実にかわいそう人である。
「まあガンダムの美形は大抵ロリコンなんですけどね」
「……言われてみればそんな気もしなくもない」
まあヒロインが幼すぎってのがあるのかもしれないけど。
「この琥珀みたいな美女をヒロインにしたら人気爆発だと思うんですけどねー」
「それはカテジナさんをヒロインにするようなもんじゃないのか?」
「え? Vのヒロインってカテジナさんでしょう?」
「……」
確かにシャクティ途中まで滅茶苦茶影薄いけど。
「あとはですねー。秋葉さまがウイングのヒロインになってもまるで違和感がないと思います」
「早く私を殺しにいらっしゃーい……なんて言うと思うか?」
「ええ。逆に返りうちにしちゃうんです」
「……ああ」
それならあり得るかもしれない。
「もしくはハマーン様?」
「……ハマーンはどうしても様ってつけたくなっちゃうんだよなぁ」
あとカトルとか。
「カリスマですからねー。あれで20歳くらいだってんだから世の中信じられないですよ」
「え? マジで?」
「はい。0083の時点ですんごい若いですから」
「恐ろしい……」
「まあもっと恐ろしいのはキシリアさまの年齢なんですが」
「……いくつなの?」
「設定上は24です」
「……あり得ねえ」
あんな24歳いくらなんでもあり得ない。
「設定さえ問題なければロリっ子でもえっちなゲームが出来るんですよー」
「……」
世の中不思議が一杯である。
「というわけでわたしはキシリアを落とせるガンダムギャルゲーを」
「却下」
「えー」
「絶対却下」
「ハマーン様も落とせますよ?」
「……それはちょっと惹かれるけどキシリアは却下」
「つまらないですねぇ……」
まったく琥珀さんは人が悪い。
こんこん。
ノックの音がした。
「はいはい。誰?」
「失礼します」
ドアを開けて翡翠が現れる。
「あ。もうそんな時間?」
琥珀さんがひょいと立ち上がった。
そして頭のリボンを外す。
「?」
何をするんだろうと思っていたら翡翠のほうも頭のフリフリを外していた。
そうしてお互いそれを交換する。
「ディアナ・ソレルからディアナ・ソレルへ」
「キエル・ハイムからキエル・ハイムへ」
「また、お会いしましょう……」
そうして今部屋にいたほうが去っていった。
「さて、お話を続けましょうか?」
「え? いや、だって、ちょっと待って? え?」
今目の前にいるのは琥珀さんのリボンをつけ、翡翠のメイド服を着た女の子。
さっきまで俺が話してたのは琥珀さんじゃなかったのか?
「えと、その……ひ、翡翠? 琥珀さん? どっち?」
俺は混乱する頭で尋ねた。
「わたしは彼女です。彼女はわたしです……」
目の前にいるどちらかわからない少女はそう不適に笑うのであった。