琥珀さんが意気揚々と部屋に入ってくるのは、大抵妙てけれんな事を言い出す前兆だ。
内心では身構えているものの敢えて俺はそれを顔に出さないでいた。
「わたしと志貴さんでやってきた会議もはや八回目を向かえたわけですが」
「……そんなにやってたっけ」
琥珀さんは会議以外にもろくでもないイベントを何度も起こしてくれるので、会議の印象だけが特別強いということはなかった。
「はい。そんなにやってたんですよー。わたしと志貴さんの仲むつまじさの証明と言えますね」
「いや、俺巻き込まれてるだけだから」
琥珀さんに付き合ってしまうのは俺の押しが弱いせいというかなんというか。
「まあグチは言いっこなしですよ。楽しく行きましょう」
「はぁ。今日のお題はなに?」
惚れた弱みと言うのがもっとわかりやすいかもしれないけど。
まったく厄介な人に惹かれちゃったもんだなぁ。
「今日のお題はこれです!」
「……これは」
それは俺が琥珀さんに勧めた事のある作品であった。
遠野家ネタ会議α
「……琥珀さん、これ見た後に秋葉を巨大化させた事、覚えてる?」
「え? 何の事ですか?」
「いや……なんでもない」
あれはワラキアの夜の中の出来事だから記憶にないのかもしれないな。
むしろ記憶に残ってないほうがいい。
「ジャイアント秋葉さまですか……胸は大きくなってなさそうですけど」
「それは禁句」
確かに体はでかくなったけど胸は全然……って回想してどうする。
「で、そのジャイアントロボがどうしたって?」
別名スーパー横山光輝大戦。
巨匠のキャラクターがところ狭しと暴れ回る熱血ロボアニメだ。
「ええ、この作品って主人公は衝撃のアルベルトですよね」
「……いや、草間大作とジャイアントロボだから」
確かに一番目立ってるのはアルベルトのおっさんだけど。
「ならば志貴さんはどちらに憧れます?」
「……それはまあ、そのなんつーか」
いけーロボとかの命令だけの大作君より格闘バリバリの衝撃のアルベルトがかっこよく見えてしまうのは男としてしょうがないことで。
「と、とにかく主役は大作君なの」
「そうですか……残念ですねえ」
ため息をつく琥珀さん。
「ちなみに志貴さん、一番好きなキャラだったら誰をあげます?」
「んー……」
スーパー横山光輝大戦だけあって魅力的なキャラは盛りだくさんだ。
「静かなる中条とか」
「あー。あの人はいいですよねー。渋い中に溢れる熱さ。銀鈴君も、戴宗君も、楊志君も、それに大作君も、皆自分との戦いだった……」
「だがわたしは長官として誰一人として救えなかった」
「友として何もしてやれなかった」
『そんな自分に腹が立つ!』
見事なハモリ。
「くあーっ! たまりませんねーっ。なんですかこの熱血ぶりはっ! これで萌えないほうがおかしいですよっ?」
「いや、なんか字が違う気がする」
「それは気のせいでしょう。いや、ほんと中条長官はたまりません」
「シャドーボクシングとかのシーンは燃えるよな」
「直後の足からロケットは不覚にも笑ってしまいましたけれど」
しかしこの会話、分からない人は何を言ってるんだかさっぱりだろうなぁ。
「まあ何でもアリだから、あの人は」
別名人間爆弾。命と引き換えに打つ地上最大の爆発力ビックバン・パンチ。
「最初はいいとこなしのただの長官キャラだと思ってたんですけどねえ」
「原作のバビル二世では普通の人だもんなあ」
ジャイアントロボではすごい能力を持つ人でも原作では大した事のない……というか誰こいつ?な人もいたりする。
「素晴らしきヒッツカラルドなんて原作に名前すら出てないんだぜ?」
「え? そうなんですか?」
「ああ。おまけに指を弾くなんて技も持ってないし」
「ええーっ? あれ使ってないんですかっ?」
素晴らしきヒッツカラルドと言ったら指パッチン、指パッチンと言ったら素晴らしきヒッツカラルド。
嘘だと思ったらジャイアントロボ六巻をレンタルビデオ屋で借りて見てみるといい。
ポール牧もびっくりの指パッチンぶりを披露してくれる。
「あれは今川監督のオリジナル技なんだって」
「……それはむしろ監督のセンスが素晴らしいですね」
「俺もそう思う」
どういう頭の構造をしていればあんな技の持ち主が完成するんだろう。
「ということはまさか衝撃のアルベルトも衝撃波を打たなかったり?」
「むしろ普通にロボット操縦してる」
「……ロボットの操縦」
「激動たるカワラザキと衝撃のアルベルトはマーズが原作」
ちなみにそのマーズはオープニングで両手を開いてわっか光線を放っているやつである。
「原作を知りたいって気持ちもあるけど知ると幻滅しちゃいそうですねえ」
「知ってるとそのあまりのパワーアップぶりが面白いけどね」
特に花栄とか黄信とか。
「はぁ。志貴さんは何がオススメです?」
「原作のほうで?」
「ええ。何か面白い物があれば」
「そりゃまあ全部だけど」
「いくらなんでもそれは無茶ですって」
「俺も言ってて思った」
なんせ三国志だけで60巻以上あるのだ。
登場作品全てを読んだらそれこそ100冊を超えてしまうだろう。
「一番元ネタが多いのは水滸伝で、15人くらいいるけど」
「滅茶苦茶多いですね」
「梁山泊ってのがそもそも水滸伝だからね」
「それはまあ有名な話ですかね」
パチンコ梁山泊とか色々あるけど、そもそもの元ネタは水滸伝なのだ。
中国とかに興味がある人は楽しめると思う。
「他にあります?」
「うーん。バビル二世とかのメジャーどころは押さえときたいね」
原作バビル二世を知っているとビッグファイア、アキレス、ガルーダ、ネプチューンなどのキャラを見るだけでニヤリとしてしまう。
「ヒッツカラルドの元キャラは活躍してます?」
「……それは期待しないほうがいいけど、幻惑のセルバンデスの元は割と活躍してるほうかな」
原作だと脇役だとしか思えない適当なキャラなのに、ジャイアントロボでは急にスポットが当たったりするものなのだ。
「ちなみにフォーグラー博士とシズマ博士を除いたら何とか博士シリーズはほとんどバビル二世が原作」
「やっぱり博士をやってるんですか?」
「いや、普通に格闘系の悪役やってる」
だから草間博士は顔に傷があったりするのだ。
「はー。世の中何があるかわからないものですねえ」
「そんなもんだよ」
ちなみに先に出てきたヒッツカラルドなんて探すのが難しいくらい影の薄いキャラである。
「ところでジャイアントロボ自体にも原作はあるんですよね?」
「そりゃもちろん。実写化もされてる」
「じ、実写……」
「俺たちが生まれてないような時代の話だけどね」
モノクロテレビの時代の話だ。知っている人は多くないかもしれない。
「単行本とかあったりするんですか?」
「それが今までは単行本になってなかったんだよ」
「……今までは?」
そう、今まではである。
「つい最近発売されたんだ」
俺はそう言って笑ってみせた。
「ま、マジですかっ?」
「ああ」
これは本当にマジな話。
「昔からのファンはそれこそ20年待ち焦がれた単行本化だったわけだ」
「す、すぐに買いに行かないと」
「いや……その必要は無いよ」
「え? まさか……」
「既に購入してあるからね」
俺は本棚からジャイアントロボ上巻を取り出した。
「みみみみ、見せてくださいっ!」
「ああ、もちろん」
この原作版、OVAとも実写版とも違ったロボとの接し方がなかなか面白い。
「……」
真剣な眼差しでページを見つめる琥珀さん。
「ちなみに……」
「志貴さんっ!」
俺が豆知識を教えようとするといきなり顔をあげてきた。
「な、なに?」
「借りてもいいですかっ? これ」
「え? いやそりゃもちろんだけど……会議は?」
「今日はこれでおしまいですっ。それじゃっ」
琥珀さんはびしっと手を挙げて去って行ってしまった。
「……」
窓から風が入りこんでくる。
「ま、巻き込まれただけなんだからな、うん、終わってよかったんだ、終わって……」
なんだか複雑な心境になってしまう俺であった。
ジャイアントロボ原作の話はマジです。買いましょう(ぉ
余談ですが月姫歌月と微妙にジャイアントロボネタが使われていたり。
G秋葉のネーミングなんかそのまんまですが(爆
興味がある人は是非にレンタルビデオ屋へ〜