いやにハイテンションな琥珀さんが俺の部屋に突撃して来た。
「最近マンネリ気味なのでちょっとインパクトをと思いまして」
「いや、全然マンネリじゃないから。少なくとも琥珀さんに関しては」
この人さえ大人しくしていてくれれば平和なのに、彼女はそれを心よしとはしない。
「そんなことないですよー。さあ、今日も元気に遠野家ネタ会議ですっ」
あくまで琥珀あるところ事件ありなのだ。
「……会議って元気にやる必要あるの?」
「元気がないよりいいじゃないですか。はい、盛り上がっていきましょう〜」
「遠野家ネタ会議インパクト」
「……はあ」
こうなった琥珀さんを止める術はない。
「俺は琥珀さんのノリにつき合わされ最後は酷い目にあうと……それこそマンネリだな」
「うわ、志貴さんが自虐的なセリフをっ」
「だって真実じゃないか」
琥珀さんの悪戯で俺がてんてこまい。毎度お馴染みのパターンだ。
「うー。そう言われてしまうと厳しいですね。別のオチを考えなくてはいけません」
「たまには俺を幸せにしてくださいよ」
「イヤですよ。そんなのどこが面白いんですかー」
「……ひでえ」
冗談でもいいから幸せにしてあげますと言ってくれないものだろうか。
「あは、冗談ですって。その選択肢も含めてインパクトのある展開を考えましょう」
「インパクトねえ」
アルクェイドにビル破壊でもやらせればインパクトありそうだが。
当然やらせるわけにはいかない。
「あくまで常識の範囲内でインパクトあるものね。秋葉巨大化とか駄目だから」
「えー? 巨大化というだけで新聞記事一面ぶんくらいのネタが出来上がりますよ? しかもそれがあの秋葉さまとなると……」
「駄目。却下」
「逆転ホームランで翡翠ちゃん巨大化とか」
「翡翠を巨大化させてどうするのさ」
「うーん……秋葉さまより面白い展開にはならなさそうですねえ」
アルクェイドが巨大化しようがシエル先輩が巨大化しようが、秋葉巨大化のインパクトには勝てない気がする。
「巨大化したのに貧乳! これに勝るネタはありません」
「あは、あはは」
勝てるとしたら琥珀さん巨大化くらいか。
それを本当にやられたら恐ろしい事になりそうなので、心の中だけに秘めておこう。
「もうちょっと平和にさ。なんかないかな」
「平和でインパクトがある展開ですか……志貴さんが朝起きたら全員ブルマ装着だったとか」
「それはすごくいいけど失血死しそう」
「もしくは過労死ですねー。原因は言いませんが」
うふふと怪しい笑いを浮かべる琥珀さん。
「勘弁してくださいって」
だが一度は見てみたい。
男のロマンだ。
「それ系統だといくらでもバリエーションがありますね。ネコミミ、スクール水着、メイド服」
「翡翠は常にメイド服だしなぁ」
他に関しては誰が着てても効果絶大な気がする。
「秋葉さまメイド服がかなりインパクトありそうですね」
「メイドとしてはどう考えたって不向きだけどな」
「あはっ、志貴さんも言うようになりましたね〜」
「いや、まあ……あはは」
琥珀さんの悪影響だろうか。
「っていうか服装選択がマニアックじゃない?」
「そうですか? 男性の夢を抜粋したつもりですけど」
「……否定できない」
確かにどれも男のロマンだ。
「試しにやってみましょうかー」
「琥珀さんが?」
「ええ。何がいいですか?」
「……」
琥珀さんに着て欲しい衣装。
「いや、ちょっと待って……それ本気で悩む」
どれを着ても俺が暴走する事は間違いないんだろうけど。
「えろえろオチになっちゃいそうなんでそれはまた次回の機会にしましょうか」
「えっ? いや、待って! 今すぐ考えるからっ」
「うわ、志貴さん顔がマジですよ」
完全に琥珀さんの手の内にはまってしまっている俺。
だがこの罠にひっかかろうとしない男がいるだろうか、いやいるまい。
「そういえば以前攻めパターンの志貴さんというのがありましたね。あれはインパクトあったような」
「……ん。あれは琥珀さんに毎度やられて癪だったからね」
そんな俺も一度琥珀さんに逆襲を試みた事があるのだ。
まあ、結局失敗に終わったんだけど。
「それの応用編で積極的な翡翠ちゃんとか……」
「……それは誰かがもう通った道の気がする」
「アホ毛妹とか……ですね」
「ああ」
何故かそれで通じてしまう二人。
「実はわたしは志貴さんの実の姉だったんです! ……とか?」
「いや、事実改変しないでください」
「どう頑張ったって最後嘘でしたって落ちになっちゃいますよね」
「うん」
「応用編、妊娠しちゃいました」
「……それはマジでカンベンシテクダサイ」
俺にとっては死活問題である。
「ふむ。やはり日常に近い事件がインパクト強いんですねえ」
妊娠は日常に近いのかどうか疑問だが。
「まったく関係ないところで事件が起きてたって驚く必要ないからね」
「シエルさんがカレー屋出入り禁止に。原因はしつこくレシピを要求したから」
「……それは本当にありそうでやだなぁ」
「本当にありそうだけどまさか……というのがまたいいのではないでしょうか」
「そういうのはインパクトあるけど笑えないね」
「ふーむ。志貴さんは笑いを求めますか」
「そりゃね」
不幸オチよりはギャグで締めるオチの方がいいに決まってる。
「王道でベタなんだけどインパクトがあって面白い……難しいですねえ」
「そう簡単には見つからないだろうね」
王道、ベタというのは簡単そうで案外難しいものなのだ。
「きゃーいけなーい遅刻しちゃーうという転校生ネタはどうでしょう」
「べ、ベタだ……」
「けどベタ過ぎてインパクト抜群でしょう」
「確かに」
転校生に限った事じゃないけど新キャラ登場というのはインパクトあることである。
「というわけでですね」
またものすごく邪悪な笑いを浮かべている琥珀さん。
「な、なに?」
「わたしが転校して――」
「勘弁して下さい」
「そのネタを――」
「勘弁してください」
「実践するというのは――」
「いや、ほんとマジで勘弁してください」
俺はほとんど直角に頭を下げた。
「ぐす。志貴さんいぢわるです」
「泣き真似はもう通じないから」
「ちぇー。わかりましたよっ」
渋々諦めてくれる琥珀さん。
「……はぁ」
この人をなだめるのは大変である。
「じゃあ他にインパクトあるネタを志貴さんが考えて下さい」
「……他に……うーん」
インパクト云々以前にこれは願いみたいなものなんだけど。
「琥珀さんが急にまともになって――」
「ありえませんね」
「人助けとかボランティアを――」
「ありえませんね」
「しかも俺に優しく――」
「志貴さん、言ってて悲しくありませんか?」
「……そう思うなら少しは悪戯を止めてください」
「あはっ」
にこりと笑う琥珀さん。
「先ほど衣装ネタを色々考えましたが」
「うん……なに?」
「何も着ていないというのはいかがでしょうか?」
そしてそんな事を言い出した。
「……それってエロオチ?」
「いえ。あまあまオチというやつです」
「同じ気がする」
「違いますよー。気持ちの問題なんですから」
珍しく顔を真っ赤にして琥珀さんは言った。
「あれです。志貴さんが大好きだからつい意地悪しちゃうんですよ」
「……」
ああ、そりゃ無理だ。
こんな事を言われては、俺が琥珀さんに勝てる要素なんてどこにもないじゃないか。
「じゃ、そういうことで」
「はいはい。そういうことで〜」
俺の部屋の電気は消され、漆黒に包まれるのであった。
余談ですがスパロボインパクトは滅茶苦茶長かったのが特徴です。
途中だるくはなりましたが、あれくらいの長さの方がたっぷり遊べてお得な感じ(?)
初スパロボの人にはオススメしませんが(汗
ニューより強いEZ-8とかあり得ないw