毎度の事ではあるけれど、琥珀さんの提案は意味不明なものであった。
「遠慮しないで下さいよ〜。主人公といったらやはり必殺技でしょう」
「別に必殺技なんてなくても困らないし」
ちょっと昔ならいざしらず、今は平和そのものである。
「いやいや、そういう時こそ万が一の時に備え技を磨いて置くべきなのです」
「だ、だからいいってば」
「そんなわけでゲストを紹介しますー」
「……全然聞いてないね」
琥珀さんの場合、わざと無視しているって感じだけど。
「戦闘担当の怖い人たちです。どうぞっ」
いや、その紹介の仕方はどうかと思うぞ?
「遠野家ネタ会議MX」
「やっほー、志貴」
「おまえかよ」
まずはアルクェイド。
確かにまあこいつの戦闘力はとんでもないから呼ばれたとしても納得できる。
けどこいつも必殺技の名前なんてなかったんじゃないか?
「こんにちわ遠野君。今日はしっかりレクチャーしてあげますからね」
「……せ、先輩」
にこにこと笑うシエル先輩。
もしかしたら技の数ならアルクェイドを上回ってるかもしれない人だ。
「なによー。シエルの考える必殺技なんて超不意打ちくらいでしょ?」
「なんでも超をつければいいと思わないで下さい」
ためいきをついているのは秋葉。
「シエル先輩ならカレーでしょう。スーパーカレーアタックでも使っていればいいんです」
いや、どんな攻撃だよそれ。
「ほほう。では秋葉さんはミラクルナイチチボンバーでも使ってくださいな。おっと。ナイチチなのにボンバーなのはおかしいですかね?」
「……先輩……面白い冗談ですね」
にこにこと笑いながらも髪の毛を赤くしている秋葉。
「ま、まあまあまあまあっ! 今日はみんな俺の必殺技を考えるために来てくれたんだろっ?」
慌てて仲裁に入る俺。
「そうですよー。志貴さんの必殺技ですっ」
俺の咄嗟のセリフを聞いて琥珀さんはにこにこしていた。
くそう、もうこうなったら必殺技の話題をするしかないじゃないか。
「皆様、席に座って下さい」
そう言ってテーブルを示すのは翡翠。
要するに集まったのはいつものメンバーである。
「志貴の必殺技っていったらやっぱりあれでしょ。十七分割」
アルクェイドが席につくなりそんなことを言った。
「……あ、あはは」
それはアルクェイドを殺してしまった時の技である。
「ほほう。名前の通り相手を十七分割するんですかね?」
「わかりやすい名前ですし、なんとなく強そうですね」
「そりゃもちろん。威力はわたしの体で実証済みよっ」
どんと自分の胸を叩くアルクェイド。
「わたしの体でという言い方はなんだか卑猥ですねー」
「そう思うのは琥珀さんだけだから」
どうしてそういう方向にばっかり話をもってくのかな。
「ただ、もうちょっと捻りが欲しいです」
これは秋葉。
「兄さんの技なのですから、遠野とか志貴とかそういうフレーズを入れたいですね」
「じゃあ、遠野十七分割志貴?」
「入れればいいってもんじゃないから」
それじゃ俺が分割されてるみたいじゃないか。
「遠野十七志貴分割」
「……先輩、意味がわかりません」
「いえ、冗談ですけど」
戦闘のプロが考える冗談はいまいち面白くなかった。
「スーパー十七分割」
どっかのアマゾンみたいな技みたいな名前である。
「ウルトラ十七分割」
今度は某巨人風であった。
「スーパーとかウルトラとかつけると急にへぼく感じない?」
「なんだか小学生の考えた名前みたいですもんねー」
「う、うるさいわねっ! じゃあ琥珀は何かいい考えがあるのっ?」
「わたしですか? うーん」
にこにこ笑いながら考える仕草をする琥珀さん。
「遠野抜刀技・十七分割なんてどうでしょう?」
すると翡翠がそんな事を言った。
「今までのよりはいい感じだな」
今までの案が酷すぎたという説もあるけど。
「でもさ。それだと一回の抜刀で十七分割したって感じじゃない?」
「そうですね。既に抜刀した状態でやる技なのですから、抜刀技というのはどうも」
「……では、遠野剣技というのは」
「語呂はさっきのほうがよかったなぁ」
「そうですねー。語呂というのは意外と重要な要素ですし」
言いにくい言葉だと必殺技としては成り立ちにくいと思う。
「ミラクルスーパーダイナマイトビクトリー十七分割とかだったら言いにくいし」
「……それはなかなか素敵な技名ですね」
「採用」
「やだよ」
誰がこんなセンスない技使うかって。
いや考えたのは俺なんだけど。
「十七分割からちょっと離れようよ」
変にひとつのフレーズにこだわるから変になってしまっている気がする。
「そうねー。十七分割は置いといて、新技を考えたいわ」
「遠野君の特徴を良くあらわした技がいいですね」
「俺の特徴?」
俺ってどんな特徴があったかな。
自分で考えるとよくわからないものである。
「普段は頼りないけどいざという時はやるぜアタック」
「いや、もうそれ技名じゃないし」
しかも自ら普段は頼りないと言うのはまた情けない感じがする。
「夜はケダモノクラッシュ」
「採用っ!」
「却下!」
否定はしないけどさ。
そんな技誰が好き好んで使うかって。
「俺の下はスタンドだ!」
「そういう下ネタも駄目っ!」
しかもどっかで聞いたぞそれ。
「却下ばっかりねえ」
「当たり前だろ」
こいつら真面目に考えるつもりあるのか? まったく。
っていかん。いつの間にか真剣に考えてしまっている自分がいる。
「踊る志貴さん、インザ琥珀ハンド」
琥珀さんの手のひらで踊る志貴。
「……あってるけど嫌だ」
しかもどういう技なのか全然わからなかった。
「メガネ」
「アルクェイド、帰っていいぞ」
「えー? じゃあメガネ外すと強くなるボンバー」
「だーからー。文章を技名にするなっての」
語呂が悪くなるだけだっつーに。
「もういいよ、ただの切り札そのいちとかそのにで」
やっぱり俺にかっこいい必殺技の名前なんていらなかったんだ。
「そんなー。せっかく志貴さんをかっこよくしようと……」
「だからそれが間違いなの。俺は俺なんだから」
変にかざらないでそのままでいい。
「なるほど。その捻りの無さが遠野君らしさでもありますね」
「そうですね……兄さんに必殺技名なんていらなかったんです」
さりげなく琥珀さんをいぢめる発言をする秋葉。
「あ、ひとつ思いつきました」
すると翡翠がそんな事を言った。
「ん、なに?」
「志貴さまの特徴を現していて、なおかつ、強そうな感じのする技名です」
「……そんなのあるの?」
俺の特徴を抜き出した時点でもう駄目な気がするんだけど。
「はい」
翡翠は俺の目を見てきっぱりと言った。
「女殺し」
全員の視線が俺に集まった。
「採用っ!」
「採用!」
「採用! っていうかそれしかありえないわっ!」
俺は叫ぶしかなかった。
「そういう時ばっかり一致団結するんじゃないっ!」
三人娘新技 ジェットストリームアタック(志貴限定)