「そこまでです。わたしの友人を返して頂きますよ」

声が聞こえる。

いかにもなご都合主義だが、ピンチの一般市民を助けに来てくれるヒーローってのはいるらしい。

それは別にいいんだが。

「……誰だ、あれ?」
 

そこにいたのは、全力で今までのシリアス具合をぶち壊しにする怪しい仮面を被った人物であった。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その127






「……」

特撮系ヒーローものでは仮面やマスクが必須のものである。

それは認めよう。

ライダーマンはヘルメットを被って変身するし、セブンはメガネで変身するのだ。

だがしかし。

「いくらなんでもあれは無いだろ……」

それは確かどこぞの教育番組のマスコットキャラのお面だった。

そう、正面だけ隠れていて横にヒモがついてるあれだ。

あんな知り合い俺にはいないぞ断じて。

「さあ、早く逃げるんです乾くん!」
「邪魔しないで!」

がきぃん!

弓塚と仮面女がぶつかり合う。

「まっすぐいって右です! いいですね!」
「お、おうっ」

なんだかよくわからないが、とにかく今は従ったほうが良さそうだ。

仮面女の言う通り、まっすぐ走り出す。

「……あの声どっかで聞いた事あるんだが……」

もっと言えば姿もどこかの誰かに似ている気がする。

それなのにわからない。

これが魔法少女が顔そのまんまなのにばれないぜマジックだろうか。

「ぬう」

なんて事を考えながら角を曲がると。

「有彦!」
「お」

シオンさんが立っていた。

いや待て、さっきの弓塚も様子がおかしかったんだ。

こっちだっておかしくなってないという事はない。

「よかった……無事で……」
「うおっ?」

なんとシオンさんが俺にぎゅっと抱きついてきた。

「し、しおっ、しおっ……」

あのシオンさんがこんな大胆なっ?

「……思考にバグがあった事は気付いていたんです。気付いていながらわたしはそれを無視した」
「バ、バグ?」
「結果、こんな事に……」
「……」

胸がすりつけられて、シャンプーのほのかな香りがぎゃあああああ!

「貴方の意思に関係なく話しておくべきだった。そうすれば貴方が巻き込まれる事は無かった」
「す、すまん、シオンさん」
「……なんですか」
「何を言ってるのかよくわからない」

この状態ではどんな事を言われてもオレは理解出来そうになかった。

「……はっ!」

途端に慌てて身を離すシオンさん。

「し、失礼しました」
「あー、うん」

もうちょっと楽しんでいてもよかったかもしれない。

「……段階を置いて説明しましょう」
「その前にいいか?」
「何でしょう?」
「その、こういう事聞くのはアレなんだが……シオンさんは……シオンさんだよな?」

自分でもよくわからない質問をしてしまう。

「ああ。それは言いえて妙です」
「あん?」
「有彦。貴方は誰かの偽者に会ったのでしょう?」
「偽者……?」

あの弓塚は偽者だったというのか?

「わたしを信じてください、としか言いようがないのが残念ですがわたしは本物です」
「じゃあスリーサイズを言ってくれ。本物と同じか確かめる」
「……せっかく助かった命を無駄にしたいようですね」
「オーケー。信じよう。だからその物騒な武器をしまってくれ」

丸腰の人間に銃口向けるのはどうかと思うんだ、ボクは。

「……まったく、こんな状態だというのに」
「いや、逆にこんな状態だからこそかな」

冗談のひとつでも言わないと、とてもじゃないけどやってられない気分だった。

「歩きながら話しましょうか」
「ああ」

夜の街を二人きりで歩く。

うむ、なんだかとてもロマンチックだ。

「まずこの街には異変が起きているんです」
「……ああ」

さすがにあんな弓塚や変な仮面女を見た後じゃ、知らんよそんなものでは済みそうにない。

「わたしはそれに気付き、さつきと調査をしていました。しかし……」
「オレには説明しなかったと?」
「ななこにその話を聞いたでしょう」
「ああ」

しかしその時オレはシオンさんを追わなかった。

「わたしは安心した反面、酷く失望したんです」
「失望ってことは何かに期待してたって事か」
「……はい。貴方がわたしたちについて来る事を期待していた。巻き込むべきではないのに」
「あー。うん。そりゃシオンさんにしちゃ失敗の考えだな」
「……」

俯くシオンさん。

「多分事情なんぞを先に聞いてたら、オレはもっと首突っ込んでたと思うぞ」
「……有彦」
「なんせ厄介ごとが好きだからな、オレは」

さっき弓塚に殺されそうになったくせに、よくもまあこんな口が聞けるものである。

なんて酷く第三者的視点だが。

「だからまあこうなっちまったが、話さなかったのは妥当な選択だったんだよ」
「……ええ、今そう思いました」

はにかむシオンさん。

「ははは……」

なんか恥ずい事言ってるなオレ。

「話は前後するんだけどさ」

先に聞いて起きたい事があった。

「何ですか?」
「さっきの偽者って話なんだけど。オレさっき……」
「ああ。話はいいです」

そう言って腕輪を見せるシオンさん。

「繋げる許可を頂けますか?」
「……ああ」

なるほど、そっちのほうが手っ取り早いか。

「つかわざわざ言わんでも出来るじゃなかったっけ?」

最初の頃はなんかいつの間にか繋がれてたりしたんだが。

「いえ。信頼できる友人である貴方に、わたしが無断でそのような事をするのは悪いでしょう」
「……そうか」

結局友人どまりか、オレ。

まあでもすげえ進歩じゃないか?

とかなんとかそれっぽいタテマエを考えるオレ。

「……なるほど」

しばらくしてシオンさんが頷いた。

「それは完全に偽者ですね。わたしと先ほどまで一緒にいたさつきは今、真祖と鬼ごっこの最中のはずですから」
「真祖と鬼ごっこだぁ?」
「悪い言い方をすればオトリです」
「……あー」

見捨てられたかさっちん。

「安心してください。さつきは頑丈ですから」

弓塚には申し訳ないけど、ほんとに一般人でよかったなあ、オレ。

「……さて、そろそろ本題に入りましょうか」
「ああ」

気付くと俺たちは市街地にまで来ていた。

なんか次元が歪んでいたかのような勢いである。

「有彦が見たさつきというのは……」
「やあシオン。いい夜だね」
「!」

いきなりの声にシオンさんが顔色を変えた。

「貴方は……!」

闇の中から現われた男。

そいつはよく見知ったやつだった。

ただ、どこかいつもと雰囲気が違う。

「遠野……?」

オレの姿を確認して笑うそいつ。

そしてこんな事を言うのであった。
 

「あーあっ、出会っちまったか」
 




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