「しっきさーん」
「どうし……うわっ?」

今日は珍しく琥珀さんと翡翠、それに秋葉が揃って部屋にやってきた。

しかも何故か手に応援で使うボンボンを持っている。

「志貴さんはこれを」

俺には何故か二つのセンスが手渡された。

開くと赤い日の丸が。

「……本当にやるの琥珀」
「今更ですよ秋葉さま。いちにのさん!」

琥珀さんの合図とともに、それは始まった。

「目指せ!」
「目指せっ!」
「頑張れいっとうしょうっ!」

俺のやるべき事はひとつだった。

「続け、続けっ、負けるなよっ!」

そして決めポーズ。

「はっ!」
 
 

「俺は今モーレツに以下略」






「……で、誰がミルクで誰がココア?」

まさかこの家でこのネタを語る事になるとは。

「秋葉さまがミルクで翡翠ちゃんがココアです」
「ってと琥珀さんがカフェオレか……微妙に違う気がするけど」
「何故わかるんですか……」

秋葉が目をぱちくりしていた。

「そりゃわかるさ」

あのフレーズは強烈に印象に残っているからな。

「秋葉がミルクなのはツンデレか」

髪の毛も赤いし。

「ツンデレです。秋葉さまのご学友だと上手くまとまったんですけどね」
「……羽居がココアで蒼香がカフェオレね……」
「あー」

そのほうがしっくりする気がする。

「てーとダ・サイダーは有彦か?」
「有彦さんでもいいですが、七夜志貴さんも捨てがたいですね」
「なんとなくわかるようなわからないような……」

独特のセンスはある気がするけど。

「俺ダ・サイダーのほうが好きだったんだよ」
「あー! わかります! かっこつけてるくせに三枚目なのがいいんですよね!」
「声も矢尾さんだしな。ヘビメタ子との絡みもよかった」
「ダーリン、頑張るジャン!」
「あはははは」

琥珀さんの物真似は妙に似ていて面白かった。

「……ところで姉さん、これは何の話なのでしょうか」

どうやら翡翠だけついてこれていないようだった。

「昔ラムネ&40ってアニメがあってさ」

細かい話は端折るが。

要するに異世界に召喚された主人公がヒロインといちゃつきつつロボットで戦うアニメである。

「なんせあかほりだから」
「小説版は色香度が結構高かったんですよ? ご存知ですか?」
「……あはは、まあね」

当時はああいうライトなものでも結構興奮してしまったもんだ。 

「兄さん」
「あーいや! ロボットがかっこいいんだよロボットが!」

慌てて話題を変える俺。

「キ、キングジェノサイダー?」
「キングスカッシャーですよ」
「そうそう、そうだった」
「主役系キャラが飲み物の名前というのはメジャーですが、守護騎士の名前も統一されていたのはあまり知られてない気がします」
「そうだっけ?」
「そうですよ。シルコーンでしょう?」
「……いきなりシルコーンかよ」

まず出てこないぞその名前。

「モチペッターンでお汁粉ですね」
「あと誰がいたっけ……」

さすがにロボットの名前は曖昧だった。

一応ロボットアニメのはずなんだが。

お色気シーンの印象しか残ってない。

「ティーパックーン!のセイロームは紅茶ですね」
「秋葉?」

なんかこう秋葉がアニメの話題に入ってくるのは物凄く違和感がある。

「……兄さんが喜ぶからと読まされたんです」
「まあそりゃ嬉しいけど」

俺ですらほとんど覚えてないロボットの名が出てくるとは。

「俺は今モーレツに感動している!」
「わ、懐かしいセリフですねー」
「だなぁ」

これは流石にちゃんと覚えていた。

「ブルマンとキリマンがブルーマウンテンとキリマンジャロ。合体でブレンドン。うまいですよね」
「コーヒーか」
「はい。ゼンザインはぜんざい。アッサームは紅茶です」
「へえ」

果たしてぜんざいって飲み物なんだろうか。

「名前関係は大抵何らかの元ネタつきでしたね」
「あはは……」

ほとんど覚えて無いけど確かにそれっぽかった気がする。

「聞いてもいいでしょうか」
「ん? なに?」

秋葉が首を傾げていた。

「レスカの元がわからないのですが」
「あー。あれ一瞬悩むよな」
「正式じゃなくて略称ですしね。そもそもあれ商標なんじゃないでしょうか」

今じゃほとんど売ってるのを見た事ないが。

「あれはレモンスカッシュなんだよ。略してレスカ」
「……そんな飲み物があるんですか」
「割とマイナーな気がする」

ラムネやサイダーと比べたら圧倒的なくらいに。

「炭酸飲料繋がりですね。本名はカフェオレなんですけど」
「飲み物も奥が深いんですね……」

秋葉は関心したような顔をしていた。

「……」

そしてそんな秋葉の後ろにいる翡翠に気付く。

「ごめんな、全然わからない話で盛り上がっちゃって」
「いえ、そのような事はありません」

微笑む翡翠。

「それにまったくわからないというわけではないのです」
「あれ、そうなの?」
「はい。そういえば姉さんに聞いた事があったのですが」
「うんうん」
「駄洒落をいうのはダレジャー」
「……」
「という事をいうキャラクターがいると」
「あ、ああ。ダ・サイダーね……」

一瞬本気で氷つくかと思った。

「琥珀……妙な事ばかり教えないでくれるかしら」
「ちゃ、ちゃんと本編も教えてあげてますよー」
「……ほんとかな」
「はい。メガネを外すと美人になるキャラクターがいると」
「ココアか」
「メガネを外すと美人といえばまずココアが浮かびますよね」
「だなあ」

一番最初にそういうキャラクターとして確立したのは誰なんだろうな。

「そして13歳モナリ座だと」
「……ココア13歳だったのかよ」

もっと年上だと思っていた。

「ラムネが10歳ですからね」
「マジで?」

俺もずいぶん年をとってしまったものだ。

「その変な星座懐かしい気がする」

小学生の頃そういう変な星座を考えるのが流行ったっけ。

ベン座とかカブキ座とか。

「ミルクが10歳のヤク座でしたね」
「あはははは……」

深くは触れない事にしよう。

「そういえば最初に俺の部屋に入ってきた時の歌さ」
「はいはいなんですか?」

ぱっとボンボンを構える琥珀さん。

「いや、あれ後半の歌じゃなかったっけ?」

確か初期はもっと別の歌だった気がする。

「おれは〜ゆーうしゃ〜ラムネス〜ってやつですね」
「そうそう、それそれ。変な歌詞だった気がする」
「虫歯で泣いたりですか」
「あー!」

なんかそんなのあったな。

「まだダ・サイダーが敵の頃で……」
「まさかクイーンサイダロンが味方になるとは思いませんでしたね」
「アニメの話はよくわかりません」

不満げな顔をしている秋葉。

「でも後期は歌えてたじゃないか」
「ですからあれは兄さんが喜ぶと琥珀が……」
「うん、好きだよあの歌」

ものっすごい前向きな歌詞。

ハイテンション。

それは後期の作品にも伝えられた勢いだった。

「でっかいでっかい大きなアホになれっ、だったっけな」
「バカですよ、兄さん」

そう言って笑う秋葉。

「うっふっふー、どうやらフルでやらなきゃいけないようですね」

ボンボンを構える琥珀さん。

「実はこの動きがでるの最後の最後なんですが」
「まあそこは気にしない方法で」
「協力させて頂きます」

琥珀さんに並ぶ翡翠。

「わーんつー、すりーふぉー!」

そして再び宴が始まった。

「目指せ!」

左からココア役翡翠。

「目指せっ!」

右からレスカ役琥珀さん。

「頑張れいっとうしょうっ!」

真ん中から秋葉。全員で揃って跳ねる。

「続け、続けっ、負けるなよっ!」

セリフに合わせて扇子を応援団のように振る俺。

そして決めポーズ。

指先は天を指し、足は大股、カメラ目線で笑顔。

「絶対絶対一番なーってやる!」
「はいっ!」

最後に琥珀さんたちのあいの手。

俺は感極まって叫んだ。
 

「俺は……俺は今モーレツに熱血してるっ!」
 




あとがき
ラムネの小説って今入手出来るんでしょうかw
当時はそうでもなかったんですが今になって猛烈に読みたいようなw
この作品のお色気度合いは結構よかった気がします。
にしてもミルク10歳か……都古ちゃんのほうが幼く見えるのは何故だろう(爆


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