「えーとそれで何の話でしたっけ?」
「いや、何も話してないんですが」

さも続きのように発言されても困る。

「あらすじ。わたしと志貴さんは……」
「勝手に捏造されてるっ?」

しかも俺しかいないのにあらすじを話す意味があるんだろうか。

「ほら、あれです。ロールプレイングというやつですよ」
「……さいですか」

毎度のごとく流される俺であった。
 
 

「ロールプレイング」





「というわけでわたしが秋葉さまをやるので志貴さんはわたしをやってください」
「そ、そういう話なのっ?」
「はい。ロールプレイングとは役割を演じることの意ですから」
「まあ正しい意味はそうだけど」
「会社などではこれを利用して接客の向上や問題点の改善に利用しているそうです」
「ふーん」
「つまりわたしと秋葉さまの関係を改善しようかなと」

それは琥珀さんが変な事をしなければ済む話じゃないんだろうか。

「といわけで琥珀っ! お茶を用意なさいっ!」

びしっと秋葉風に命令してくる琥珀さん。

「……は、はーい?」

ぎこちなく頷く俺。

「何をしているの。早くなさい」
「え、マジで煎れてくるの?」
「当然です」
「はいはい……」

渋々頷く俺。

しかし琥珀さん、秋葉の真似うまいなあ。

専属なんだから当たり前っちゃ当たり前なんだけど。

「あの口調で命令されると弱い……」

俺のこの先の運命はろくなもんじゃない気がした。

「いや待てよ?」

俺は琥珀さん役なのだ。

そして琥珀さんのやり口は熟知している。

ならば今っ!

「反撃の狼煙があがった……!」

琥珀さんの真似という名目でやりたい放題である。

「よし!」

そうと決まればさっそく行動だ。
 
 
 

「こは……秋葉さまー。お茶を煎れて来ましたー」
「遅かったわね」
「うぐ」

目の前にいるのは琥珀さんなのに威圧感を感じてしまう。

琥珀さんは仕草の真似まで完璧である。

「そ、そのぶん美味しいはずですから」
「そう」

急須からお茶を注ぐ。

「なら先に味見をなさい」
「え?」
「できないのかしら?」

ふふんと笑う琥珀さん。

「……」

きっとこんなやり取りは秋葉との日常茶飯事なんだろうなあ。

「ええ、構いませんよ?」

俺は頷いて注いだお茶を飲んだ。

「これでいいですかね?」

笑ってみせる。

「ええ」
「では」

湯飲みを布で拭い、お茶を煎れなおす。

「どうぞ」
「頂くわ」

すっと音を立てずにお茶を口に注ぐ。

「……っ!」

その額にものすごい皺が寄った。

「おやおや、どうなさいました?」
「志貴さ……琥珀っ!」
「ふふふ」

さすがの琥珀さんも驚いているようだ。

「どんな仕掛けをしたのよっ!」
「簡単ですよー」

最初俺がお茶を飲んだ時は何も細工はしていなかった。

「この布で拭いた時にですね」
「あの時に……!」
「そう」

布で拭きながら湯飲みの中に大量の塩を入れた。

つまり琥珀さんが飲んだお茶はものすごいしょぱかったのだ。

「いつもの事じゃないですかー」

秋葉の警戒をかいくぐってイタズラを行う。

琥珀さんなら容易いことだろう。

「わたし、秋葉さま相手にはそんな事しませんよ」

あ、琥珀さんが戻った。

「でも警戒したじゃない」
「あれは志貴さんがわたしを勘違いしていると思ったからです」
「琥珀さんだったら絶対ああすると思ったからね」

警戒してなかったとしても、何かしらの理由をつけて湯飲みに触れさえすればよかったのだ。

秋葉役である琥珀さんが自分でお茶を煎れる事はあり得ないのだから。

「はぁ。そんな目で見られていたなんて。ショックです」
「ショックなら少しは素行を見直そうね」
「その言葉はそのままお返ししますけど」
「……あはは」

確かに無断外泊やら何やらやらかしてるからなあ。

誤解なきように言っておくが、アルクェイドに引っ張りまわされた結果であって、別段やましい行為は何もない。

って誰に言ってるんだ俺は。

「こうしましょう」
「どう?」
「わたしが志貴さんをやりますので、志貴さんは適当な誰かをやってください」
「……適当な誰かって」
「誰でもいいですから」
「まあ、いいけど」
「ではノックして入って来て下さいなー」

さてどうしたもんだろうな。

対抗して琥珀さんをやってみるか。

「……よし」

琥珀さんでいこう。

「琥珀さんの場合は……」

ノックなんか滅多にないな。

「志貴さん志貴さんいらっしゃいますかー」

そう言ってドアを開ける。

「……なんだ琥珀さんか」

琥珀さんは俺のベッドの上に寝転がっていた。

「今日はですねー、わたしの考えた」
「いいよ面倒だから」
「そ、そんな事言わずにー」
「疲れてるんだよ」

ごろん。

「……」

なんだこの猛烈にムカツクヤツは。

俺か。

「いやいやいやいや」

いくら俺だってこんな酷くないぞ。

琥珀さんの俺のイメージが間違ってるんだ、うん。

「じゃあRPGの話をしましょう」
「人の話聞いてよ」
「何がいいですかねー」
「なんでもいいよ。部屋でやってて」
「……」

やっぱむかつく。

「そんなのは俺じゃないっ!」

思わず叫んでしまった。

「そんな事ありませんよ。志貴さんはいつもこうです」

なんて意地悪く笑う琥珀さん。

「ちゃんと付き合ってるじゃないか。今だって」
「イヤイヤなんじゃないですか?」
「そんなことない。他のヤツだったら嫌だけど」

有彦あたりだったら問答無用で殴るが。

「琥珀さんだったら許せる」
「ほんとですかー?」
「ほんとだよ。俺は……」

琥珀さんにはもうちょっと優しいつもりで……

「ん……」
「……っ?」

不意打ち。

琥珀さんの唇が俺の唇に軽く触れた。

「志貴さんのよくやる言葉の不意打ちは苦手なんで行動にしちゃいましたけど」

僅かに頬を赤らめる琥珀さん。

「今は志貴さん役なんで積極的にいかせて貰おうと思います」
「え、いや、それはもう終わったんじゃ」
「終わったなんて一言も言ってないですよー」

なんて手をわきわきさせている。

「い、いや、俺はそんな動きしてな……」
「嘘ばっかり。志貴さんのスイッチがオンになったらどうなるか教えてあげますよー」
「どうなるかって……ちょっと、まさか……」

がばっ!

琥珀さんに押し倒されてしまう。

「いっただきまーす」
「俺そんな事言わないー!」
 
 
 
 
 
 

「しくしく、もうお嫁にいけない」

俺はそりゃもう色々と琥珀さんにされてしまった。

まさかあんな事までされてしまうだなんて!

「大丈夫ですよ志貴さん」

傍にはいつものように笑う琥珀さんの姿。
 

「わたしがちゃんと貰ってあげますからっ!」
「……」

敢えて聞き流す俺。

「え、ちょっと志貴さん、そこはありがとうとかなんとか……」
「違う違う」
「?」

首を傾ける琥珀さん。

「ロールプレイングは終わりね」

そう宣言してから。

「琥珀さんは俺が貰うから」

琥珀さんに伝える。

「あ……」
 

その意味を悟った琥珀さんは。
 

「はい」
 

とても嬉しそうに頷いた。
 




あとがき
琥珀さん側から志貴を見るとものっそい鬱陶しいのは何でだろうという話。
A 志貴だから
説明になってないけどこれで納得できるのが嫌だ(苦笑
それはそうとしていちゃいちゃオチの需要ってどれくらいあるんでしょうかな。
パターンとしては
エロオチ いちゃいちゃオチ ギャグオチ 落ちてないオチ
とあるんですがはてさて。


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