やれやれと首を振る琥珀さん。
「まだ謎を解決していないのに何がサイエンスだというんです!」
「解決するような謎もなかったじゃないですか」
「……ふっふっふ」
「な、なに」
その怪しい笑いはまさか。
「今日はちゃんと謎を用意しておいたんです!」
「……」
この人は一度本末転倒という言葉の意味を知ったほうがいいと思う。
「琥珀サイエンスII」
「それさ。琥珀さんにとっては謎でもなんでもないんじゃ?」
自分で仕掛けたんなら全てわかっているはずだろう。
「それは何も問題がありません」
部屋の中にいるのにこんこんとドアをノックする琥珀さん。
「はろー」
「……出たなヒマ人」
「失礼ね。ゴロゴロするのに忙しいのに来てあげたのよ」
ヒマの専門家アルクェイド参上。
「謎がなければ作っちゃえばいいのよ!」という問題発言を残した人物でもある。
「……あのう、琥珀さん、わたしは今回どのような立場で」
万能の専門家シエル先輩。
しかしその実力はほとんど発揮される事がなく、地味のレッテルを貼られてしまっている。
「遠野君。さっきから何か失礼な事を考えてやいませんか」
「……アルクェイドと先輩ってそういうの妙に鋭いよね」
やっぱり専門家補正なんだろうか。
「志貴が単純だからでしょ?」
「はっはっは」
返す言葉もなかった。
「シエルさんは今回は謎を考える立場ですね」
「なるほど」
そういえばメガネもかけてるしな。
「でも……いきなり専門家がいるのもヘンじゃない?」
琥珀さんを見るアルクェイド。
「だって専門家がいないといつまで経っても話が進まないじゃないですか」
それも確かに。
「ってなわけで早速今日の疑問を……」
「あ、ちょっとタンマ」
「はいはい?」
「家の構造とか人物関係の深いところだと、突っ込めないんじゃないかな」
「どうして?」
首を傾げるアルクェイド。
「いや……だって」
なんだかわからないけどそんな気がする。
「そんなの気にしないで勝手に捏ぞ……もがっ!」
「はいはいアルクェイドは少し黙ってましょうね?」
先輩は実に手際がよかった。
「このわたしを誰だと思っているのですか? そこに抜かりはありません」
「そ、そうか」
安心したようなしないような。
「で、日常の謎ってのは一体?」
「それはですねー」
「うん」
「台所に行きましょう」
「何があるのかしら?」
「期待できそうですね」
はてさて鬼が出るか邪が出ますかね……と。
「めーろんはーやーさいーですー」
「えっ、えっ? うそっ、うそっ?」
「あっのねのねー内緒の話だけーれど?」
「……何をやってるんですか貴方たちは」
シエル先輩に冷静に突っ込まれてしまった。
「いやお約束を」
「はぁ」
琥珀さんに連れられて来たのは冷蔵庫の前だった。
そして開けたら中にメロンがあったわけである。
「メロンが野菜というのは某アニメのおかげで有名になりましたが」
「……なったのかな?」
ごく一部の層だけの話だと思うんだけど。
「どうしてメロンは野菜なの?
アルクェイドが尋ねる。
「日本語の定義の問題なんですよ」
先輩が答えた。
「ちょ、シエルさーん。わたしのセリフがなくなっちゃうんですけど」
苦笑いしている琥珀さん。
「野菜と果物の区別は草本に生えるか木本に生えるかなんです」
先輩はあざやかに琥珀さんをスルーしていた。
「くっ……先輩キャラという立場に対抗するのは不利ですか」
よくわからない事を呟く琥珀さん。
「野菜は草の傍に生えるって事?」
「そうです。ゴボウだったら根っこ。白菜だったら草ですよね」
「木に生えるのは果物なんです。ナシとかみかんですね」
「さっすが琥珀さん。詳しいですねえ」
「いえいえ、シエルさんほどではないですよー」
何を無駄に対抗しているんだろう、この人たちは。
「ふーん。じゃあこれは?」
スイカを見せるアルクィエド。
「それも野菜なんですよ実は」
「へぇ、そうなんだ」
「じゃあサラダとかも作れるのねっ?」
いや、それはどうかと思うが。
「作ってみます?」
「遠慮しておきます」
恐ろしいものが完成しそうな気がした。
「スイカとメロンの煮っころがし?」
「……そんなもんを食えるのは地球上でオマエだけだ」
想像しただけで嫌だそんなもん。
「あー、翡翠ちゃんだったらいけそうかも……」
「マジで?」
「あ、あははっ。まさか。冗談ですよー」
「……」
「……」
奇妙な間。
「まあそれは置いといて」
流されてしまった。
「イチゴも野菜です」
「ふーん」
っていうか色々入りすぎだろこの冷蔵庫。
季節感のカケラもないぞ。
「ってことはイチゴのー」
「サラダはありますよ?」
「え?」
「ありますよ?」
さも当然のような顔をしている琥珀さん。
「イチゴはジャムだってありますしねー」
「潰して使うって事か」
「日本料理には合わないでしょうけど」
そらそうだ。
「イチゴの味噌汁……」
「それは俺にとっては別の意味になってくるんだけどな」
つまり有彦のお姉さんであるイチゴさんの味噌汁という事なのだが。
あの人ズボラなくせに料理の腕は良かったりする。
まず自分では作らないというのが難点だが。
「む」
全員の視線が俺に。
「な、なに?」
まずい事言っちゃったかな。
「まさかそういうのが好きなの?」
「いや全然そんな事は」
「……覚えておきましょうかね」
「ああ、いや、だから」
「違うんですかー?」
約一名ほど意味をしっかり理解している人がいらっしゃる。
「……あはははは」
俺は曖昧に笑う事しか出来なかった。
「でも、こういうの面白いですよね」
「ん」
ひょいとメロンを手に取る琥珀さん。
「食べ方は果物なのに、野菜だという事実」
「雑学だよね」
「サイエンスです」
「ご、ごめん」
そう、これだって立派な科学なのだ。
多分。
「わたしとしてはもうちょっと派手派手な実験とかやりたいんだけどなー」
確かにこれじゃアルクェイドには退屈かもしれない。
「これです、こういうキャラクターだったんですよ、わたしは……」
シエル先輩はなんかヘンな人になっていた。
「今回は成功って感じで宜しいですかね?」
「今回はって何さ」
次回もまたやるとでも言うのか。
「それはわたしの気分と皆さんのスケジュール次第ですが」
「いつでも構いませんよ」
いや、先輩は仕事やってください。
「わたしはどうしようかなー」
「ん?」
意外な事にアルクェイドが難色を示していた。
「なにか用事でも?」
「ううん。やっぱり派手派手がいいなって」
「難しいだろそれは」
俺たちじゃ出来る事なんかたかが知れている。
「そんな事ないわよ」
にこりと笑うアルクェイド。
「わたしがこうばーっと核融合とかしちゃえばいいのよ!」
すっぱーん!
「ナイスツッコミ」
「お互いにですね」
琥珀さんとシエル先輩の華麗なハリセンツッコミがアルクェイドに突き刺さるのであった。
完