「志貴さん。あのですね」
「ん? なんだい?」

琥珀さんはひょいと俺の隣に座ると、こんなことを言った。

「最近なんかいちゃいちゃするのが流行ってるらしいんですよ」
「……は?」

いちゃいちゃがなんだって?

「なんかこう、ストレートに大好きーとか言うのがいいらしくて」
「……はぁ」

そりゃまあ好きと言われて嫌なやつはいないだろう。

「素敵だと思いませんか?」
「アルクェイドがそうだからなあ」

アイツも人目をはばからず好き好きーとせまってくるタイプである。

「もう! そうじゃなくてですねー!」

琥珀さんはむっとした顔をして近づいてきた。

「わたしがせまってきたらどう思いますかって言いたいんですよっ!」
 
 


せまりくる琥珀


 






「……ど、どうって、そりゃ嬉しいけど」
「ですよね?」

満足そうに笑う琥珀さん。

「では実践してみましょう!」
「じ、実践って?」
「はい。志貴さん何か言ってみてください」

そしてびしっと俺の顔を指差してくる。

「何かと言われても」
「決めゼリフっぽいのを」
「……まったく、どうかしてる?」

って自分ではよく言う気がするんだけど。

「きゃー! 志貴さんカッコイイー!」
「うおうっ?」

甲高い声を上げる琥珀さん。

「ああんもう志貴さん大好きー!」
「い、いや、それは大げさなんじゃ」
「いいえっ!」

ぶんぶんと首を振る。

「わたしの愛する志貴さんは素敵に決まってるじゃないですかっ!」
「はあ」
「ってもう何言わせるんですかやだもうー!」

ばしばしばしばしっ!

「いた! 痛いっ!」
「これも愛のムチですっ」
「違う!」

っていうか何だこれ。

「琥珀さんおかしいよ!」
「はい?」
「なんっていうかこう……」
「悩む顔もラブリーですねー」
「ごっ……」

やばいやばい。

じっと見つめられてそんなセリフを言われたら、例え演技だとしてもぐらりとくる。

「あ、あの、ちょっと」
「志貴さんもほらー」
「ナ、ナンデスカ?」
「これだけ言われたら何か言う事ないんですかー?」
「……」
「やぁん。わかってるくせに志貴さんってばー!」

何なんだろうこのハイテンションは。

そりゃ琥珀さんはテンション高い時もあるけど、今日は特に凄い。

「……お酒を飲んでるとか?」
「これでもわたしはお酒に強いほうでして」
「そういえばそうだったね……」
「ひょっとしてわたしを酔わせて押し倒そうと?」
「しませんっ!」

どうしてそういう方向に持って行こうとするかなっ?

「志貴さんが望むのならいつでもいいんですよー?」
「さて秋葉のところにでも行ってこようかな」

この人のペースに巻き込まれたらもう抜け出せなってしまう。

「スルーですかっ! 酷いです志貴さんっ!」
「ああもう! 一人でやってください!」
「一人で! そんな志貴さんのスケベ!」

いやんいやんと悶える琥珀さん。

「ナニを想像してるんですかいっ!」
「ナニってそんな志貴さんのエッチー!」
「だああ!」
「冗談ですよー。もう」
「……勘弁してよ」

このテンションで迫られたら、とてもじゃないけど持ちそうにない。

「どうしましょうかねー?」

そんな俺の心理を察して怪しい笑みを浮かべている琥珀さん。

「いやホントマジで」
「志貴さんはわたしがお嫌いですかー」
「そういう問題じゃなくてさ」

上手く言葉にし辛いのだが。

「じゃあ逆に志貴さんからアピールしてくださいよ」
「あ、アピール?」
「そうです。わたしのいいトコロを褒めてくださいっ!」
「……琥珀さんのいいところ……」
「もー! なんでそんな顔するんですかー!」
「いやいや」

こういう場合に悪いところを先に考えてしまうのは人のサガである。

「え、ええと琥珀さんのいいところは……」
「はい!」
「……え、笑顔が素敵なところ?」
「きゃー! 志貴さんそんな嫌ですよ恥ずかしいー!」

ぶんぶんぶんぶん。

「あ、あははははは」

ほんと何なんですかこれ。

「で、他に! 他にはないんですかっ?」
「料理が上手なところとか……」
「そりゃもう凄いんですよ! えっへん!」
「クスリに詳しいところ?」
「はい。お注射大好きです!」

だんだん会話がかみ合わなくなってきているのは気のせいだろうか。

「特に志貴さんのが……って何言わせるんですかー!」
「勝手に暴走しないでくださいっ!」
「あはは、ごめんなさーい」

ぺろりと舌を出して笑う琥珀さん。

「わたしにもいいところはたくさんあるんですねー」
「……まあね」

この人の場合そのいい点をイタズラという悪い点で台無しにしている気がする。

「しかも志貴さんがそんなにわたしのいいところを知っているだなんてー」
「いや琥珀さんが考えろって言ったんじゃない」
「以心伝心。ラブラブですねー」
「いや全然違うから」
「むー。志貴さんノリが悪いですよ?」
「……」

俺は大きくため息をついた。

「なんか違うんだよ」
「はい?」
「そりゃまあ、表面的にはラブラブっぽいかもしれないけど……」

なんかこうまるで感情の篭ってないような、薄っぺらい感じだ。

「いつもの琥珀さんはひねくれてるけど、俺に対しては割りと素直な感情をぶつけてくれてると思う」
「……志貴さん」

シリアスな顔をする琥珀さん。

「だからもうそんな演技は止めて……」
「ああもう志貴さんかっこいいー! きゃーっ!」

だが一瞬で終わってしまった。

「いやだからそれをっ!」
「いいえ言わせてください志貴さんっ!」

琥珀さんはびしっと俺の顔を指差して言った。

「演技じゃなきゃとても言えないような恥ずかしいセリフだってあるんです!」
「そ、それは……」

まあ気持ちはわからなくもないけど。

「だからいつもは言えないこの想いを! 志貴さんに伝えたいんです!」

ふと気付くと琥珀さんの顔は真っ赤だった。

「……」

セリフ自体は演技がかっているけれど、琥珀さんの目は真剣そのものだった。

「わかったよ」

俺は覚悟を決める事にした。

「じゃあ、全部聞くから」
「う……」

すると戸惑うような顔をする琥珀さん。

「どうしたの?」
「い、いえ、その。改まって聞かれると恥ずかしいといいますか……」
「あ、そっか」

それも一理ある。

「じゃあ俺から言おうか」

俺は正直に本音を伝える事にした。

「好きだよ。愛してる」
「……っ!」

琥珀さんの目が大きく見開かれる。

「……どう?」

そして真っ赤な顔で、目をうるうるさせながらそれに応えた。
 

「わたしも志貴さんがだーい好きですっ……心の底から愛してますっ!」
 




あとがき
こどものこぉーろのゆめーはー。
……ええ、そりゃ当てられましたとも。
ならばいちゃいちゃする琥珀さんを書くしかないじゃないか!と。
琥珀さんがツンデレ的行動をしたらまあきっとこうなるでしょう。
他はみんな神聖な空間に入ってくるお邪魔虫w


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