翡翠がそういう事をするのは珍しいし、普通に可愛かったからその時は楽しく過ごせた。
だが、その情報をどこから仕入れたのか。
「どうにゃん? 可愛いにゃん?」
などとポーズをとってせまってくるアルクェイド。
「ず、ずるいですよ! 本物に勝てるわけないじゃないですか!」
なんて微妙によくわからない事を叫ぶ琥珀さん。
「志貴〜。好きって言ってにゃん?」
「あ、あははははは」
俺はもう全身からだらだらと汗が流れ出していた。
「せまられるモノ」
「わたしと志貴さんの神聖な空間に余計な人はいりませんっ!」
そう言ってアルクェイドとの間に割り込んでくる琥珀さん。
「ふふん」
不敵に笑うアルクェイド。
「琥珀。貴方は裏で色々やってるキャラでしょう? 堂々とアピールするのは変じゃない?」
「そ、それは……」
ちらりと俺のほうを見る琥珀さん。
「いや、キャラとかそういうものじゃ」
気持ちの問題なんじゃないのか? こういうのは。
「わ、わかりました! ならわたしっぽい方法でアピールすればいいんですね?」
何故かアルクェイドの口車に乗る琥珀さん。
これもらしくないといえばらしくない。
「へえ? どんな?」
「ふっふっふ」
ちらりと流し目で俺を見つめてくる。
「わたしを食べてもいいんですよ?」
「ぐはっ」
直球じゃないですか?
「そ、そうくるの……やるわね。それなら貴方でも違和感はないわ」
「どうですっ!」
うろたえるアルクェイドと自慢げな琥珀さん。
はて、一体コレはどんな対戦なんだろう。
「でもね琥珀」
「なんです?」
「それはわたしだって同じ事が出来るわよ?」
「な、なんだってー!」
そんな美味し……いや、とんでもない発言をするアルクェイド。
「ほら志貴、どーう?」
「うっ……」
そしてこれ見よがしとばかりに胸をアピールして来た。
「わたしを食べてもいいのよ〜?」
「ぐふっ!」
さらに追い討ちのコンボ!
「くっ……同じ土俵で戦うのは不利ということですかっ!」
「当然。さっきも言ったでしょ。貴方は正面きって戦うタイプじゃないんだから。そして!」
びしっと俺を指差すアルクェイド。
「志貴は直球勝負に弱いのよ!」
「い、いや、それは……」
アルクェイドみたいな美人に、好きだやら食べてもいいやら言われて動揺しないほうがおかしいだろう。
「だ、だったら凄いこと言っちゃいますよ!」
「ええっ!」
琥珀さんが凄いって言ったらそりゃもう凄いことだ。
「この前志貴さんとー!」
「わーわー!」
慌てて叫ぶ俺。
「なになに?」
「むぐっ!」
ところがアルクェイドに口を塞がれてしまった。
ばか、おまえ、そんなことしたら……
キンキンキン!
「え?」
「ん?」
突如響いた謎の金属音で琥珀さんの言葉が遮られる。
「お静かに願います」
「翡翠?」
そこにいたのはフライパンを持った翡翠だった。
「邪魔しないで翡翠ちゃん! これはわたしとアルクェイドさんの戦いなの!」
戦いなんですかい。
「そうよそうよ!」
「ですが志貴さまは困られております」
「あ、あはははは」
状況的にはハーレムっぽいのにちっとも嬉しくないのはなんでだろう。
「お二人で何を言いあっても、最終的に選ばれるのは志貴さまです」
「わたしよねっ?」
「いいえ、わたしですよねっ?」
これだもんなぁ。
「それではらちがあきません。なので、お二方に同じ質問をしてその解答から判断されるというのはどうでしょうか」
「質問と解答か……」
それならなんとか平和に終わりそうだ。
「それがいいな。そうしよう!」
「……まあ翡翠ちゃんがそう言うなら」
「そんな事しなくたってわたしに決まってるけどねー」
「まあ。大きいのは胸だけにしてくださいな」
「褒めてくれてありがとう。肩がこって困っちゃうのよ」
「あははははは」
「うふふふふふ」
「……はぁ」
やっぱり気が重い。
「では僭越ながらわたしが質問をさせて頂きます」
せっかくだから俺は翡翠を選ぶぜ!とか答えたらどうなるだろうか。
「……おおう」
想像しただけで恐ろしい。
「自分を動物に例えるとどんな動物ですか」
とにかく質問が始まったようだ。
「んー。猫かなあ」
「猫ですかねえ」
一致した。
「確かにな」
二人ともネコミミがよく似合いそうだ。
気まぐれなところもそっくりだし。
「志貴は犬よね?」
「間違いないですね」
「……否定出来ないのがやだな」
そらもう色んな意味で。
「次の質問です。好きな食べ物は」
「んー。和食系が好きかなぁ」
これは琥珀さん。
「志貴の作ったラーメン!」
こっちアルクェイド。
「し、志貴さんの濃いラーメンですって!」
「……嫌な言い方しないで下さいよ」
「志貴さんの白い……」
キンキンキン!
「姉さん、脇道に逸れないで下さい」
「あはっ、ついうっかりー」
いいや、絶対に確信犯だ。
「次です。お休みの日はなにをなさっておりますか」
「んー。休みっていっても無いようなものですし」
「休みって毎日が休みみたいなものだけど?」
「……究極に逆だね」
これは琥珀さんの一歩リードって感じだろうか。
「そんな遊んでばかりでいいんですかねー?」
「お金はたくさんあるもの」
なんかものすごいダメ人間っぽいイメージである。
「次です。自分の性格を一言でどうぞ」
「はい。明るく素直ですっ!」
「そこ嘘つかない」
「あ、じゃあわたしもそれで」
「……こっちはだいたいあってるな」
琥珀さんを表すとしたら……狡猾……策士……
こっちはアルクェイドリードか。
「もし一週間休みを貰えるとしたらどうなさいますか」
「志貴と遊ぶー!」
「志貴さんで遊びます!」
「で」ってなんですかちょっと。
「もし無人島にひとつだけ何かを持っていけるとしたら何になさいますか」
「志貴!」
「そりゃもう志貴さんに決まってるじゃないですかー」
俺はモノか。
「では最後に目の前の志貴さまへ一言どうぞ」
翡翠には申し訳ないけれど、今までの質問はなんの解決にもなってない気がする。
これで判断するしかないようだ。
「もちろんわたしを選ぶわよね?」
にこりと笑うアルクェイド。
「志貴さんのお好きなようにどうぞ」
同じく笑う琥珀さん。
「……」
どっちを選んでも大変なことになりそうだが。
「いや、だから、そも……」
「どっち!」
「えー次のおたよりは……」
「志貴のバカーッ!」
「うわっ!」
アルクェイドは俺にフォークを投げて去っていった。
「どこからフォークが……?」
あいつのする事はよくわからない。
「……宜しかったのですか?」
翡翠が尋ねてくる。
「いいんだよ」
どうせ明日には機嫌が治ってるだろう。
「どうやらお邪魔をしてしまったようです」
ぺこりと頭を下げる翡翠。
「失礼いたしました」
そうして翡翠もいなくなった。
「うふふふふふ」
俺の顔をみて嬉しそうに笑う琥珀さん。
「な、なに?」
「二人っきり、ですねー」
「……うん」
それは言われなくてもわかってるんだけど、言葉に出されるとやっぱり意識してしまう。
「色々ご迷惑おかけすると思いますが、これからも宜しくお願いします」
「あ、うん」
琥珀さんにしてはいやに大人しい発言である。
「……承諾されましたね?」
「う」
いや違った。
「ではさっそく今日のびっくりどっきり実験をー!」
まったく油断も隙もありゃしない。
「いや、やっぱなし! 今のなし!」
「ダメですよー。志貴さんはわたしを選んだんですからー」
「だからそれは……」
「問答無用ですっ!」
そうして繰り出される琥珀さん特製の怪しげなアイテムたち。
「ちょ、それ反則! あは、あははははは!」
「まだまだ行きますよ。次はー」
「勘弁して! マジで! ちょっと、ははははは!」
そうしてまた、俺と琥珀さんにとってのお馴染みの日常が始まるのであった。
完