わたしはメモ帳を立ち上げ腕を動かした。
「……」
しかしまだ構想も何も練っていないので書けるわけがない。
「こ、構想はじめっ!」
とか言いながらわたしはほとんど現実逃避のようにベッドに転がり込むのであった。
「同人小説を作るまで」
その8
ある一つの話が進まない場合、全く全然違う話を書いてみたりすると案外上手くいったりすることがある。
大抵の場合起承転結とかが上手くいってないヘンテコな内容になってしまうのだけれど。
ストレス解消にはそれが一番いいことである。
例え内容がへっぽこでも遮二無二書いていることで、感覚というかテンションというか、まあそういった色々なものが復活してくるのだ。
「……昔に書いたものでも引っ張り出してみるかなぁ」
構想のみで没った小説を書き出したりもしてみる。
これがまた上手くいきそうでやっぱりつまらないものになったりもする。
逆に駄目かなーと思っていたのにやたらと好評価をうけることもある。
世の中なかなか不思議なものなのだ。
そんなわけでとにかくわたしも駄文を書いてみようと思った。
自分自身でテーマを決める。
今回のテーマはええと……目の前にあったカップラーメンだ。
カップラーメンで何か書いてみよう。
構想その他一切ナシでとにかく書き出してみる。
「たっだいまーと」
わたしは玄関のドアを勢い良く開けて玄関をあがった。
「……あれ?」
いつもなら相方が「おかえりなさい」と出迎えてくれるんだけど、今日はそれがなかった。
「どこか近所で井戸端会議かな……」
相方は鍵を閉めないでその辺で話に夢中になっていること時々がよくある。
いや、かなり、相当、三日に一度くらいある。
泥棒に入られたらどうするの、とわたしは怒るのだけれど相方はまったく反省してくれない。
「はぁ……」
わたしはとぼとぼと台所へ向かった。
ちなみにこの相方っていうのはわたしの同人の相方である。
残念なことに女の子なので彼氏というわけではない。
彼氏と一緒に同人活動なんかが出来たらそれはもう幸せなんだろうけど。
世の中そんなに甘くはない。
でも、例えば志貴さんと一緒に同人活動出来たらうれしいなーとか。
「えへへ……」
と、だらしなくにやけている自分に気がついてしまった。
いけないいけない。
「とりあえずご飯を食べようっと……」
しかし最近はとんでもなく金欠なのである。
イベントに参加するお金もギリギリだし本の印刷代もギリギリだ。
ついでに欲しい本を買ったりしたらもうすってんてんなのである。
おかげで今日の晩御飯もカップラーメンだ。
「はぁー……」
わたしは溜息をつきながらやかんに火をつけた。
「将来はアルバイトしないとなあ」
高校生になったらアルバイトをしよう。
最近わたしはずっとそんなことを考えていた。
そしてその経験を生かして小説を書くのだ。
喫茶店のアルバイトなんかがいいなぁ。制服が可愛いところ。
可愛いけれどえっちじゃないやつがいいな。
「……でも」
ちょっとくらいえっちなやつのほうが志貴さんは喜んでくれるかもしれない。
「えへへー」
っていけない、二度目である。
とまあこんなバカな妄想ばっかりしてるからわたしは同人活動をやるようになったのかもしれない。
マンガや小説の先の展開を自分自身で想像、補完する。
それを人に読ませてみたらやたらと評判がよくて、それがはじまり。
はじめての作品を面白いと言ってもらったときは本当に嬉しかった。
そして今でも感想っていうのは栄養剤である。
食事と同じくらいわたしには必要なものかもしれない。
最初のころはこれが全然貰えなかったんだよなぁ。ぐすぐす。
けれど同人活動一年くらいやって、ちょっとずつ感想を貰えるようになってきていた。
ホームページの運営が軌道に乗ってきたのも丁度一年目くらいからである。
まあ、他のサイトに比べたらカウンタの回りなんて全然少ないほうだったんだけれど。
当時は全然カウンターが回らないようとかなり落ち込んでいたりしたことがあった。
今でも時々落ち込むことはあるけれどそこまでは気にしないようになっていた。
「……っと」
気付いたらやかんが湯気を凄い勢いで出していた。
慌ててカップラーメンのビニールを破いてお湯を注ぐ。
「えーと、三分か」
カップラーメンが出来るまでの三分というのは割と暇なものである。
とりあえずわたしはそんな時は小説の構想を練ったり実際に書き出してみたりするのだ。
アイディアだけをまとめてみたりとか。
1 某ボクシングマンガのパロディ
2 某炎のマンガ家のパロディ
3 某味っ子のパロディ
「……パロディばっかりじゃない」
独創性が粉みじんも無かった。
まあ、わたしの場合二次創作がメインなのでオリジナルもへったくれもないんだけれど。
いつかはオリジナルも書かなきゃとは思っているんだけれどなかなか実行へは移せない。
オリジナルは完全に実力勝負だし、独自のネタというのがなくてはいけない。
その独自のネタというのがどうにも苦手だったりするのだコレが。
独自のネタがないオリジナル作品はやはり面白いものではない。
キャラでも設定でも世界観でもなんでもいいから売りがなければいけないのだ。
わたしの場合「原作のキャラを生かす」ことについては割と評価はいいようだ。
けれど逆に「オリジナリティがある」と評価されることはほとんどない。
つまりまあ悪い言いかたをすればパクリが得意、と。
「……」
自分で考えて凹んでしまった。
そしてこういうとりとめのない考えはいつまでも続く。
何かそれを止める外的要因がなければ三十分でも一時間でも平気で考え続けたりする。
「はっ!」
そして気付くととんでもなく時間が過ぎていたりして。
「……ラーメンが……ああ」
カップラーメンは構想なんかの何十倍も伸びきったりしているのであった。
「はぁ」
とまあなんとか形になったような、ならないような。
「……なってないかなぁ」
これを肉付けすればもうちょっといい内容になるかもしれない。
いくつか遡って一行二行付け足してみたり。
やっぱりいらないや、と削除したり。
まあ、この文章もどうやら没になりそうである。
ところがこれがある日突然面白いものになったりするのが不思議なもので。
だから駄目だと思ったものでも一応はストックしておく。
「あうー。メインが全然進まないよぅ」
それにしても書かなきゃいけない文章のほうは全然進まない。
この書かなきゃいけないって思考がいけないんだと思う。
それと。
「……ひとつ引っ掛かってるからかなあ」
執筆中の文章の中でひとつだけわたしが気に食わない個所があるのだ。
そこを無視していこうとしていたけれど、そこを直さなくては先へ進めそうもない。
「直すか……」
ここを直すとなると結構書きなおさなくてはいけなくなるんだけれど納得がいかないんだからしょうがない。
「某マンガ家の人に敬意を表してー」
わたしは同人の共、栄養ドリンクを冷蔵庫から引っ張り出してくるのであった。
続く