「はっ……もうこんな時間っ!」

それはノートに集中している間まったく時計が見えないことである。

パソコンならば時計は見えるけれどノートではそうはいかないわけで。

「うわーっ! エンラク師匠が見れなくなるよぅ」

わたしは慌てて残ったポテトやら何やらを詰め込んで、店を後にした。
 

こういう早食いやら食後ダッシュは健康によくありません。

皆さんは真似をしないようにしましょう。
 

とかオチを考える自分がますます悲しいのであった。
 
 






「同人小説を作るまで」
その10















「はぁ。なんとか間に合った」

わたしは駅から全力で走ってきてなんとか浅上女学院の見えるところまで来ていた。

番組が始まるまではあと十分はあった。

「さて……」

このまままっすぐ進んでいけば正門に辿りつける。

けれどわたしはそれをやりたくはなかった。

「この時間だといるんだろうなぁ……」

浅上女学院は規律云々に物凄く厳しい。

そして番組が始まるまではまだ時間があったけれど、今はとっくに門限を過ぎている時間なのである。

つまりこのまま正門に行くと、風紀委員に掴まってお説教コースになるわけだ。

そうなったら番組を見るなんていうのは間違いなく不可能になってしまう。

「よし」

わたしは正門から行くのを避け別のルートを選択することにした。
 
 
 
 

「えーと……」

人気の少ない道をとぼとぼと。

寮があるくらいだから浅上の敷地はやたらと広い。

だから当然いくつかの入り口がある。

南の正門をはじめ、東西にひとつづつ。

もちろんそれぞれの場所に風紀委員は控えているんだろう。

特に今日なんて休日だったから、わたしみたいに門限を破ってしまう人は多いのだ。

だからどの門を選んでも全部ペケと。

そんなわけでわたしはもうひとつの門へと歩いていた。

北の通称「幽霊の門」である。

「……」

南に正門があるのだからこの門は本来は裏門であると言える。

けれど、この門のある南の方角はほとんど何にも無くて、利用者はほとんどいなかった。

だいたいその門が女学院設立からある凄い古いもので、夜に通ったりすると不気味そのものだったりするのだ。

だから現在この南門は封鎖され、誰も通ることはなくなっていた。

だというのに時々足音が聞こえ、女の子の泣き声が聞こえるというのだ。

そこでついたあだ名が「幽霊の門」。

そんな噂のせいで余計にここは人が近寄らなくなっていた。

「ところがどっこいこの噂には真実がありまして……」

夏の即売会、財布を落として何一つ買うことが出来なかったわたしが夜に泣きながらこの門を通った子っとがある。

そしてその後からなのだ。幽霊の噂は。

つまり幽霊の正体とはわたしというわけである。

そんなことを知っているわけでわたしはこの門を通るのはてんで怖くなかったりした。

まあ、ちょっとは怖いけれど。

「よっと……」

閉鎖されているといってもちょっと動かせばすぐに門は開き、わたしはそっと中へと入っていった。

門を元に戻して急いで寮へと向かう。

「うう、暗いよう……」

ここの門をみんな通らない理由のもうひとつに、街燈の光が妙に頼りないということがある。

それもやはり古いからで、ぱちぱち点滅しているのはまだいいほうで、点いていないのが大半であった。

さわさわと葉っぱを踏むわたしの足音だけが暗闇に響く。

ホラードラマのワンシーンみたいである。

「ううう」

余計なことを考えてしまったらますます怖くなってしまった。

こういう時に例えば志貴さんなんかがいてくれると頼もしいんだけれど。

そのへんの影から出て来たりしてくれないかなあ。

「おっ?」
「うひゃああっ!」

いきなり志貴さんが出てきたらいいなと思ったところから人影が現れた。

思わずマヌケな悲鳴をあげてしまうわたし。

「おいおい、ずいぶんな驚きようだな」

声の主はわたしを見て呆れているようだ。

そして闇の中にわずかに見える顔には見覚えがあった。

「……あれ……蒼香先輩?」
「ん? お。瀬尾か」

それは蒼香先輩であった。

「おまえさんも門限破ってここ通ってきたクチかい?」

そしてそんなことを尋ねてくる。

「え、はい、その……」

わたしは返答に困ってしまった。

「そんな顔しなさんな。あたしも門限破ったからここにいるわけなんだしね」

はっはっはと男の子っぽく笑う蒼香先輩。

「あ。そうなんですか」
「ああ。ちょっとライブで盛りあがっちまってな」
「なるほど。わたしはちょっと遠出しちゃって」
「大変だなあ」
「はい。色々欲しいものが多くて……」
「まあ無駄づかいするなよ。じゃ」
「あ、はいっ」

蒼香先輩は手を振って森の中へと消えていく。

なんでわざわざ森の中になんて歩いていくんだろう。寮とは違う方向なのに。

「……と、そうだ。例の原稿はどうなったんだ?」

わたしがそんなことを考えていると蒼香先輩が振りかえってそんなことを尋ねてきた。

「は、はい。一応なんとか終わりそうです。見直しして、絵師さんにラフ送って書いてもらって……」

ある人に見てもらったらレイアウトがやたらと変になっているとのことで、かなり修正を加えたりしていた。

修正をしたほうはコピー機で印刷して確かめてみたけれどそれなりに小説っぽい見栄えである。

「順調みたいだな。期待してる」
「あ、どうもありがとうございます」

深々と頭を下げるわたし。

「……あの、蒼香先輩。なんでそんな森の中に?」

ついでとばかりにそう尋ねてみた。

「ん? ああ。いや、大した事じゃないんだけどさ」

蒼香先輩はちょっと難しい顔をしていた。

「……知りたいかい?」
「え、いえ、その……」

そう言われるとなんだか戸惑ってしまう。

「し、知りたいです」

けれど同人やってる人間のサガなのか、興味のほうが勝ってしまった。

「そうか。いや、ね。あたしの実家って寺なんだけどさ」
「お寺……ですか?」
「ああ。んで、まあなんつーか……霊感みたいなもんが人よりあるわけなんだ、これが」
「は、はぁ……」

わたしはなんだか凄く嫌な予感がした。

これはひょっとして怖い話になりそうなような。

「で、ここは幽霊の門って呼ばれてるけど、実際その通りでこの森の……」
「う、うわっー! も、もういいですっ!」

わたしはつい大声を出してしまった。

「ん? もういいのか?」

きょとんとしている蒼香先輩。

「は、はい。すいません。その、だ、駄目なんですそういう話」

自分から聞いておいてなんだけれど、怖い話はもう完全に駄目なのである。

テレビでやってる奴を見ても怖くてトイレに行けなくなるくらい。

「そうなのか。ここからが面白いところなんだぞ」
「お、面白くないですっ! 怖いですっ!」
「……ほほう」

蒼香先輩はなんだかわたしを見たときの遠野先輩みたいな顔をしていた。

それはまあ要するに面白い遊び相手を見つけた、みたいな。

「それで木の下を掘ってみたら……」
「うわーっ! 続けないで下さいーっ!」
 

わたしは両耳を塞いで蒼香先輩から逃げ出すのであった。
 

続く



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