「も、もうそろそろ有彦との合流地点に行かないとまずいんじゃないかな、ほら」
「あ。こんな時間なんですね」

GGEXの話題で盛り上がりすぎたのか、時間はそろそろ正午を迎えようとしていた。

「ちなみにこの時間って、一番混む時間なんですよねえ」
「そう、みたいだね」
「……どうしましょうか」
「どうしようと言われても……」
 

わたしたちは目の前にある人の波を見ながら、どうやってそこまで行こうか頭を悩ますのであった。
 
 






「夏コミに行く前に」
その16
『三日目当日』その8






「このへんだったよね?」
「確かこのへんだと思いますけど……」

なんの策も思い浮かばず、強引に会場内を歩いていったわたしたち。

その場に立ち止まれないので、だいたいの位置をうろうろしている。

「まだ有彦はいないみたいだな……いてて」
「そ、そう、ですね……ひゃあっ」

お尻をに知らない人のカバンがカバンがぶつかっていた。

その人は何も言わずさっさと歩いていってしまった。

「危ないなあ……」

この人ゴミじゃしょうがないこととはいえ、気をつけて欲しいものである。

「どうしましょうか」
「とりあえず、じっとしてもいられないから。適当にその辺の本でも見てみよう」
「そうですね……」

この辺の本のジャンルは全く知らないものだけど、読んでみるのも一興である。

同人誌を読んで興味を持ち、原作を買うというパターンもあるからだ。

「えっと……このへん何のゲームなんだろ」

カタログを開いてみる。

「陽姫……聞いた事あるなあ」

同人からプロになったという、ドリームオブドリームなゲームサークルである。

「……見てみようっと」

さっそく間近にあった可愛い絵のサークルの本を見てみた。

「……」

主人公は志貴さん似のカッコいいメガネの人。

ヒロインは金髪巨乳美人のお姉さんだ。

「うう、悔しいけどなんてお似合いの二人なんでしょう。とてもじゃないけど敵わないわっ」

秋葉先輩似の主人公の妹がそんな事を言っている。

「いや、違うんだよ。こいつは俺の彼女じゃないんだ」
「え? そ、そうなんですか?」
「ああ。俺の彼女はオマエの後輩の女の子なんだっ!」

どーん!

「な、なんですってえ!」
「で、でもあの二人ならいい感じじゃない? 趣味も近いし、ほら、あの子可愛いし」
「……確かにそうですね。あの二人なら認めざるを得ません」
「だろう」

その後、その後輩の女の子とメガネの主人公のいちゃいちゃするシーンがずっと続いた。

「す、素晴らしい……」

なんて素晴らしい本なんだろう。

「い、一冊下さいっ」

思わず買ってしまった。

これは原作にも期待出来そうである。

「他にも買ってみようっと」

周囲のサークルを回って本を買い込んでいく。

「あーあ。犬小娘完売だったよ」
「やっぱりなあ。今回部数少なかったらしいもんなあ」
「ん」

近くを歩いていた人がそんな会話をしていた。

「犬小娘……」

どこかで聞いたようなサークル名である。

「はっ!」

そうだ、有彦さんに頼まれて、それをさらに篠沢さんに頼んだサークルだ。

「と、取りに行かないと」

今頃サークルで本の扱いに困っているかもしれない。

「すいません、わたしちょっと知り合いのサークルに……ってあれ」

志貴さんの姿はいつの間にかどこかへ見えなくなってしまっていた。

「……まあ、この辺にいるだろうし……」

有彦さんが来る前に篠沢さんのところへ行ってしまおう。

篠沢さんのサークルはすぐ傍なのである。
 

「篠沢さー……」

声をかけようと思ったら、サークルは無茶苦茶に混んでいた。

「……んー」

しばらく待って人がいなくなってから、サークルの前に。

「あ。アキラちゃん。おつかれー」
「お疲れ様です。篠沢さんもなんかすごい売れ行きっぽいですね」
「ええ。ちょっと驚いてる。何があったんだろ」
「実力ですって」
「またまたー。っと。本取りに来たんだよね?」
「あ、はい。それと新刊を買いに」
「新刊は600円。頼まれた本は500円」
「はーい」

お金と本を交換。

「あの、ついでにスケブなんかもいいですか?」
「えー」
「お、お願いしますっ」
「……誰描く? 九品仏?」
「あ、今回は保科さんで」
「ラジャー」

なんだかんだで毎回スケブを描いてくれる篠沢さんは本当にいい人だと思う。

「あと、猫美に初日のアンタの頼まれもん預かってるんだけど。それも持ってって……は重いだろうから、後で取りに来てよ」
「あ、すいません。わざわざありがとうございます」
「気にしないで」

ああ、持つべきものはいい先輩であり同志である。

「すいません、見せてもらってもいいですか?」
「あ、どうぞ」
「……っと」

気づいたらまたサークルの周りに人だかりが出来ていた。

「じゃ、じゃあ、又後で」
「ん。じゃあね」

なんだかもうすっかり大手サークルだなあという感じだ。

いつか篠沢さんに小説の挿絵とか描いてもらえたらいいなあ。

そんなことを思いながらわたしはまた志貴さんの元へと戻った。
 
 
 
 
 

「おう。アキラちゃん」
「あ。有彦さん」

戻ると既に志貴さんは有彦さんと合流した後だった。

「どうだ? そっちのほうの戦果は」
「今回はいい感じです。だいたい書いたサークルは確保出来ましたし」

ここ最近のイベントでは珍しいくらい、順調に事が進んでいる。

「そっか。俺もまあなかなか上出来だ。ほれ、陶鳩の原画の同人誌。多めに買っておいたんだが、いるかい?」
「マ、マジですかっ?」
「おう。割とすんなりゲットできた。意外だったぜ」
「あああ、ありがとうございます……」

震える手でその本を受け取った。

「ちなみにフルカラーで1500円な」
「……さすがフルカラー」

それでも高くはない買い物だと思ってしまうのが同人の恐ろしさである。

「なあ有彦。それもう一冊ないか? 出来れば俺も一冊欲しいんだけど」
「あん? おまえ陶鳩やってないんだろ?」
「そうなんだけどさ。琥珀さんにお土産にしてあげたら喜ぶかなって」
「……オマエ、そんなんばっかりだなあ。まあ別に構わんけどさ。大事にしろよ」
「わかってるって」

本を受け取る志貴さん。

これで志貴さんも陶鳩に興味を持ってくれたら嬉しいんだけどなあ。

「ところでオマエ、サークルMANAの本は手に入ったのか?」
「あ、いや、列が凄くてさ。とりあえずは諦めたんだ」
「そうかー。いや、諦めて正解だぞ。あんなところは行かないほうがいい」
「でも、これからもう一度行こうと思うんだ」
「今からぁ? 絶対手に入らんぜ?」
「あ、いえ、ちょっと知り合いがMANAさんのところで手伝いをしているらしいんですよ」
「……アキラちゃんの?」

目を丸くしている有彦さん。

「はい」
「……そいつぁまた奇妙な縁だなあ」

そして不思議そうな顔をしながらそんな事を言った。

「え?」
「いやいやなんでもねえ。……しかし……いや……今何時だ?」
「えーと、もうすぐ一時ですけど」
「一時か……もういねえかな……」
「あの、有彦さん?」
「あ、いや。アキラちゃんは早く行ったほうがいいんじゃないのか」
「え、あ、はい。そうですね」
「有彦も来いよ」
「却下。俺は死んでもいかねえって言っただろ」
「ちぇ。変なやつ」

志貴さんは首を傾げていた。

「遠野。先に言っとくが何を見ても驚くんじゃねえぞ」
「もうあの列見ただけで十分驚いたよ」

なんだか不機嫌な有彦さんと別れ、わたしたちはサークルMANAさんへと向かった。

一体全体、そこに何があるっていうんだろう。
 

わたしは妙な不安と期待を抱いてしまうのであった。
 

続く



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