「そうなのか。ここからが面白いところなんだぞ」
「お、面白くないですっ! 怖いですっ!」
「……ほほう」

蒼香先輩はなんだかわたしを見たときの遠野先輩みたいな顔をしていた。

それはまあ要するに面白い遊び相手を見つけた、みたいな。

「それで木の下を掘ってみたら……」
「うわーっ! 続けないで下さいーっ!」
 

わたしは両耳を塞いで蒼香先輩から逃げ出すのであった。
 
 






「同人小説を作るまで」
その11









「はぁ……ふう……」

ようやっと寮の前まで駆けてきて、わたしは大きく息を吐いた。

「……あ、あれ?」

けれど寮の形が微妙にいつもと違っている。

どうも高等部の寮のほうへ来てしまったようだ。

「あ、アキラちゃんはっけーん」
「え、あ。羽居先輩」

そして寮の入り口に羽居先輩が立っていた。

「どうしたんですか?」

わたしは羽居先輩へ近づいて尋ねた。

「うん。蒼香ちゃんを待ってるんだー」
「ああ、蒼香先輩なら……」
「いよう」

振り向くといきなり蒼香先輩の顔があった。

「わ、わっ! お、脅かさないでくださいよぅ」
「はっはっは。悪い悪い」

また男の子のように笑う蒼香先輩。

「蒼香ちゃん、おかえり〜。秋葉ちゃんが心配してたよ〜?」
「ん、そうか。悪いな」
「遠野先輩が?」
「うん。秋葉ちゃんは照れ屋さんだから迎えには来なかったんだけどねー」
「はぁ」

それは実に遠野先輩らしいというかなんというか。

遠野先輩は変なところで素直じゃないのである。

「じゃ、あと二時間くらいどっかで時間つぶしてたら面白いことになるかもな」
「もう、蒼香ちゃ〜ん」

この二人もそんな遠野先輩に負けないくらい変わった人たちだと思うけれど。

「……」

一番変わっているのはこのわたしかもしれない。

「ところでアキラちゃん。この前の本の話なんだけど〜」
「あ、はいっ。なんですか?」

羽居先輩の言葉で我に返る。

「えっと、その本ってなんのイベントで出すのかなって思って」
「あ」

その言葉を聞いた瞬間わたしの背中に嫌ぁな汗が流れた。

「え、え、ええ、はい。その、ええと、応募はしたんでっ。参加が確定したらお知らせします。はい」
「そっか。楽しみにしてるねー」
「は、はいっ。でわ、わたしはこれでっ!」
 

わたしは全力で中等部の寮へと急ぐのであった。
 
 
 
 

「パ、パソコン起動っ!」

部屋に入り慌ててパソコンを起動した。

わたしが急いでる理由を説明するにはやや時間を遡らせなくてはならない。

要するに、原稿がまだ54ページしか出来てないぞー、あたりの頃だ。

「うーん」

夜中にわたしは参加するイベントを検索して悩んでいた。

同人誌最大のイベント、コミケの〆切は滅茶苦茶に早いから参加は無理。

カーズ・レベルマックスもサンタナマーケットもまだ開催には時間があった。

むしろカーズ・レベルマックスにはこの前行ったばかりだったり。

「オンリーイベントで何かないかなあ……」

オンリーイベントというのはあるジャンル、例えば「卓球の王子様」という作品の同人誌限定で参加者を集うといったようなイベントである。

なんせオンリーイベントだからそこにはその作品のファンしか来ないわけで作品を知らないお客さんはいないわけだ。

そういう意味で極端に言えば全員が本を買ってくれる可能性があるとも言える。

まあオンリーでも細かく言えばリョータ萌え〜とかフジスケサイコ〜とか色んな人がいるわけだけれど。

大雑把に言えば皆同志と。

「あ」

いつも行っているサイトにわたしの書いているジャンルのオンリーイベントの広告が張ってあったのを思い出した。

さっそくそのホームページへ。

一次募集は既に〆切。

「ダメかぁ……」

と意気消沈したところに見える「二次参加サークル募集」の文字。

「こ、これだっ!」

さっそく概要を見る。

参加サークル数は約500、一次募集で250サークルは既に参加が確定している。

で。

「に、二次募集の〆切があさってっ!」

あさってというのは明日の次の日である。

つまりたった二日で参加するかどうかを考えなくてはいけない。

「あああ、どうしよう……」

まだ原稿は出来上がってない、絵師さんも決まっていない。

けれどこのイベントを逃したらまた先送りになってしまう。

「……」

わたしはまずこのイベントに参加したい旨を絵師さんに送ってみた。

そして小説の挿絵を引きうけていただけませんか、と。

さらに幸いにもこのイベントはネット申し込みがあったのでそれを利用することにした。

が、申し込むには先に参加費の銀行振込が必要なのである。

「お金あるかなあ……」

この参加費の出費というのはなかなかバカにできないものだ。

特にわたしみたいな学生には痛い。

印刷代も五万近くかかるし、来月はかなり苦しい生活になりそうである。

「……」

とそんなマイナス思考をしても仕方がない。

とりあえず記入出来るところだけを準備しておき、その日は原稿を書いて眠った。
 
 
 

翌日、銀行振込を終えメールチェック。

絵師さんからの返事が返ってきていた。

OKとのこと。

「よしっ!」

小さくガッツポーズを取ってさっそくラフを書き上げる。

わたしの場合ラフとなるとものすごく手を抜いてしまうので正直絵師さんにこのまま送るのは心苦しかった。

けれど最近絵の調子が悪く、まともに書くとかえってヘンテコなものになってしまうのでそのままのラフで送る。

うう、これで絵師さん怒ったりしないかなあ。

とびくびくしながら送信。

続けてオンリーイベントのHPへ行き申し込みを再開。

「ペンネーム、ラーキア……と」

サークル名やらペンネームやら椅子数やら様々なものを記入していく。

昨日ほとんど用意しておいたおかげでこれは簡単だった。

「……で」

問題はサークルカットだ。

わたしはデザインセンスとかそういうものが丸っきり無かったりする。

「うーん」

お絵かきソフトを立ち上げて適当に配置。

イマイチ。

「うー」

題名とキャラクターを配置。

完全新作、書き下ろし、と。

「むー」

サークルカットはモノクロでなければいけないらしい。

減色。

とんでもない配色に。

「うう……」

なるだけ色を使わないように書きなして、サークルカットの完成。

ちなみに絵のほうは許可を得て絵師さんのものを使わせていただいた。

「送信……と」

これで申し込み完了。

当落発表は一週間ごとのことだ。
 
 
 
 

そう、その一週間後が今日なのである。

小説サークル初デビューかどうかがこの日決まる。

わたしは緊張しながらHPへとアクセスした。

『サークル一覧表(最終)』

わたしはその一覧表をゆっくりと見ていった。

サークル名は果たして。
 

「……」

あった。

Aー9。

確かにわたしのサークル名がある。

「……いよいよだなぁ」

ぱしっと頬を叩く。

参加が決まったからにはなんとしてでも本を出さなくてはならない。
 

わたしはテレビなんかそっちのけでラストスパートをかけるのであった。
 
 
 

続く



あとがき
なんか当選してましたよ奥さんっ?
詳細は後でTOPにのっけますが、
5/30 月読宴、アー9 青天の霹靂。
で、作る本はあれです。
果たして間に合うかどうか……(w;


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