「……ひとつ引っ掛かってるからかなあ」

執筆中の文章の中でひとつだけわたしが気に食わない個所があるのだ。

そこを無視していこうとしていたけれど、そこを直さなくては先へ進めそうもない。

「直すか……」

ここを直すとなると結構書きなおさなくてはいけなくなるんだけれど納得がいかないんだからしょうがない。

「某マンガ家の人に敬意を表してー」
 

わたしは同人の共、栄養ドリンクを冷蔵庫から引っ張り出してくるのであった。
 
 






「同人小説を作るまで」
その9






「ふう……」

日曜日、わたしはひとり街へと繰り出していた。

原稿はどうしたんだと心の中のわたしが突っ込んでくるけど気にしてはいけない。

やはり時には気分転換も必要なのである。

「次はどこへ行こうかなあ」

そんなことを言いながらも回るところはやはり同人ショップだったり本屋だったりでちょっと悲しい。

しかも見るだけ、見るだけだと思っているのについ買い込んでしまうのだ。

同人やってる人間はそういうお店がある街に行く時は要注意である。

「ん?」

ふと、分かれ道の先にあるファーストフード店が目に映った。

「ファーストフードかぁ……」

最近めっきりご無沙汰である。

栄養バランス的にはあんまりよくないんだろうけど、あの味がちょっと懐かしかった。

「お昼も食べてないし、行こうかな」

ちなみに現在時刻は三時過ぎ。

本やら洋服やらを見るのに熱中しすぎてつい食べるのタイミングを逃していたのだ。

ちなみに同人イベントに行った場合は特にそれが顕著になり、会場を回っている間は何にも食べないでも平気だったりする。

終わった後はもうそれこそ疲労困憊になってしまう。

「はぁ」

わたしはどうにもちびっこいほうなのでちゃんとバランスの取れた食事を摂らなきゃいけないことはよくわかっているつもりなんだけれど。

やはりファーストフードは美味しいし、イベント会場ではついご飯を食べ忘れてしまう。

世の中なかなか難しいものだ。

じっと自分の背格好を眺めてみる。

「うーん」

羽居先輩くらいまでとは言わないけど、せめて蒼香先輩くらいにはなりたいものである。

何がとは敢えて言わない。

ちなみに遠野先輩と今のわたしで同レベルかなぁ、とか。

「……」

と、そんなことを考えてしまっている自分に気がついて慌てて周囲を見まわした。

「ほっ」

まあファーストフード店なんかに遠野先輩がいるはずがないんだけれど。

迂闊なことを考えていると遠野先輩が現れるのでは、とわたしはちょっと思っていたりした。

それほど遠野先輩は怖いのである。

「はぁ」

そんなことを考えていたらますますお腹が空いてきてしまった。

とにかく早く注文をしてしまおう。

「いらっしゃいませー」

美人のお姉さんが笑顔で出迎えてくれる。

こういう笑顔は同人誌即売会で本を売っている身としては見習わなくてはいけないことのひとつだ。

「ええと、Aセットで飲み物はコーラ。それだけでいいです」
「かしこまりました。お会計は……」

こういった単純な会話の際も笑顔を絶やさない。

親切丁寧、そして笑顔。

接客の基本である。

そしてそれは同人誌即売会でも同じことが言えるわけだ。

「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」

わたしはトレーを受けとって席を探し始めた。

さすがに時間が時間だけあって空席が目立つ。

けれど割と家族連れやサラリーマンっぽい人がいくらかはいるものなのである。

そしてもちろんカップルも。

いいなぁ。うらやましいなぁ。

わたしはカップルを見てついそんなことを思ってしまった。

浅上女学院は女学院というだけあって、男性との接点がもう丸っきりない。

志貴さんのときみたいに偶然の出会いがなければもう恋愛は絶望的だと言っていいのだ。

けれどその志貴さんは皮肉なことにわたしの最も苦手とする遠野先輩のお兄さんなわけで。

なかなかうまくいかないものである。

「……と」

一番右端のところにいい場所を見つけた。

そこの席へと腰掛ける。

「さーて」

いっただきまーす、ではない。

わたしはまず小さなノートとシャーペンを取り出した。

そして見開いたノートをトレーに挟んで準備おっけー。

「いっただきまーす」

まず左手でポテトを食べる。

そして右手にはシャーペン。

つまり、左手でものを食べて右手で執筆をするわけである。

これはあんまり行儀がよくないことかもしれないけれど、非常に筆が進む方法なのである。

そしてこのノートとペンを持ち歩くようになったのはつい最近のことだ。

懇意にさせていただいているサイトの管理人さんが、そういうことをやっていると聞き真似してみたのである。

ふと思いついたネタや、かっこいいセリフ、面白いネタなどをノートに書き散らしておく。

それはもう本人でしか解読不能、いやむしろ本人ですら読めないような字でだ。

しかし不思議なもので一度書けば案外その内容を覚えてしまうものなのである。

ノートを持ち歩くようになってからそれこそ色んな場所で執筆が出来るようになった。

電車の中やバスの中、待ち時間など。

特に電車の中は筆が良く進む。

しかしあんまりにも熱中しすぎてしまい、降りるべき駅を乗り過ごしてしまったり。

そんなときでも「しまった」と思う自分と「これはネタになる」と思う自分がいるのがまた悲しい。

結局息抜きに来てもこんなことをしてしまうわけで。

要するにどこまでも同人に染まってしまっているわけである。わたしは。

「はむっ……」

ハンバーガーを一口。

とにかくこのノートに起こした文章を元に、帰宅後パソコンへと打ち込んでいくわけだ。

半分くらいこのノートに書いた事と違うことを書き足すこともあるし、まったくそのまんまの時もある。

そればかりはその時になってみないとわからないけれど、要するにノートに書く段階が下書きで、パソコンに打つのが清書なわけだ。

今まではだいたいパソコン一発勝負だったので、出来が良くないのも多かった。

しかしこれからはもうちょっとマシなものが出来そうである。

多分。

「よし」

今日は上手い具合に筆が進んだ。

これなら完結もそう遠い話ではなさそうだ。

けれど、この方法には致命的な欠陥がある。

「はっ……もうこんな時間っ!」

それはノートに集中している間まったく時計が見えないことである。

パソコンならば時計は見えるけれどノートではそうはいかないわけで。

「うわーっ! エンラク師匠が見れなくなるよぅ」

わたしは慌てて残ったポテトやら何やらを詰め込んで、店を後にした。
 

こういう早食いやら食後ダッシュは健康によくありません。

皆さんは真似をしないようにしましょう。
 

とかオチを考える自分がますます悲しいのであった。
 

続く



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