志貴さんが来なければ即採用にしたいくらいのアイディアだ。
志貴さんさえ問題無ければ。
「……はっ!」
そこで閃いた。
とびっきりのアイディアを。
これならイケる。
展開はまったく同じで、志貴さんに見られても問題がないマンガになる。
「よしっ!」
わたしは頬を叩いて気合をいれ、ネームの修正を始めるのだった。
「そうだ即売会に行こう」
その6
そんなわけでやってきましたサンタナマーケット。
時刻は9時半を過ぎたあたり。
サンマの開催時間は11時なのでかなり早い時間だと言える。
しかしサークルする人間はあれやこれやと準備をしなきゃいけないので、早めに来なくてはいけないのだこれが。
「……でも」
不思議と一般参加の人のほうが早く来てたりする。
サンマ会場までの長い階段には既に列が出来あがっていた。
こーいうお兄さんたちはいわゆる壁、大手サークルが目当てなのである。
普通に島と中堅あたりを回るのであれば、サンマは11時ちょうどに来ても余裕で入れる。
島というのは普通に配置されている壁以外のサークルである。
島壁とかいう場所もあるけどそこらへんは割愛。
ちなみにC・MAX、正式名称カーズ・レベルマックスとかのイベントあたりになると、10時半くらいに来ないとちょっと入るのに時間がかかることがある。
徹夜規制とかもあるので初めての人は早い時間に来るのはオススメしない。
まあどっちもお兄さん比率が高いイベントなので女の子は要注意だ。
とってもえっちなポスターとかが貼ってあったりするし。
研究に役立……いやいや目の毒なのである。
「さてと」
そんなことはともかくわたしはサークル参加なので早く入らなくてはいけない。
サークル参加者のほうは何時までに入らなくちゃいけないとかきまりがあるので余裕を持って会場に来るべし。
サークル参加者は参加シールを貼ってサークル入り口へ。
「どうぞ」
スタッフにシールを確認してもらい会場内へと入るわたし。
「えーと配置は……」
Aの24。
会場に置かれている机にはそれぞれシールが貼ってあるので、だいたいの目星をつけて場所を探す。
「あった」
長机と、その下に置かれたダンボール。
ダンボールの中にはわたしの本が入っている。
とりあえず中身確認。
よし、OK。
ごく稀に全然違うサークルさんのが置かれてしまったりするので、確認は大事なのである。
「今日は一日宜しくお願いしまーす」
次に隣のサークルに挨拶。
いない場合は来てからでもいい。
挨拶ついでに自分の本を渡したりするのもよい。
そこから仲が発展することもあるからだ。
本を渡すとだいたいのサークルさんがそちら側の本を交換として渡してくれる。
交換する相手がやたら滅法上手かったりすると嬉しい反面悲しくもある。
今回は隣のサークルさんも女性で健全サークルさんだった。
健全サークルっていうのはえっちなしという意味だ。
やおいでもえっちな内容がなければ健全。
誰がなんと言おうと健全なのである。
なるほどキラ×アスか。うん、これは勉強になるっ。
いやいや本を読むのに夢中になってはいけない。
準備だ準備。
サークルによって色々と仕様が違うけど、この空間に置かなければならないものをあげるとすれば値札、小銭入れ、そして見本誌。
この3つは絶対に必要である。
しかしこれだけだと味気ない雰囲気になってしまう。
そこで色々と小物をつかって演出を施していくわけだ。
多くのサークルがやっているのは机がむき出しにならないように布をかぶせること。
これによって隣のブースと自分のブースとの境界がはっきりわかるようになる。
また、机の足下まで布で覆い隠すことで、段ボールや自分の私物がお客さん側からは見えなくなる。
他には自分のブースの名前がわかるように、ブース名と配置場所(今回のわたしならAの24)を記した看板を設置する。
これは買う側になるとわかるけど、非常に嬉しいものなのだ。
今現在自分がいる場所がわかるし、そこが目的のサークルだと一目でわかるのだ。
ちなみにウチのサークルはわかりやすいようにオリジナルのマスコット人形を飾ってある。
手作りのものだけどなかなか好評で可愛がられていたり。
さて、次に三大必須アイテムについても細かく触れておこう。
まず値札や価格表を設けるのだけど、これも工夫が必要なのだ。
シンプルに白い紙に値段だけでもいいけど、例えばその本のキャラクターを小さく描いてあげたりすると可愛らしくていい。
そこが目に止まってくれ、読んでくれる人もいるのだ。
次、小銭入れ。
小銭ははっきり言って多すぎるくらいに用意しておいたほうがいい。
何故なら即売会に参加する人はほとんど1000円札か500円玉で代金を支払うからだ。
んでそれで出来た小銭で他の本を買うわけだ。
まあだいたい1000円は同人誌の基本レートだし(値段がわからなくてもだいたい1000円だしておけばほとんどの本は買える)、小銭を出している暇も惜しいというのもあるだろう。
最後に実際に手にとって中が見られるような見本誌を用意する。
見本誌は他の本と区別するために、見本と書いた紙を貼っておいたりカバーに包んでおいたりする。
エトセトラセトセトラ。
「……なんだけどわかった?」
「あ、え、ええと、うん……なんとなく」
「……」
わたしの細かい説明に今回の相方ケイちゃんはひっじょーに頼りない返事をしてくれた。
だって正式な相方に電話したら39度の熱とかいうんだもんっ。
同じクラスだけど同人誌なんてまったく知らないケイちゃんを呼んでしまったのは致し方のないことだったのである。
「……わかった。ケイちゃんはお金の計算だけでいいから。ね?」
「うん、ごめんねアキラちゃん」
「いいのいいの。あ。カタログの最初のところは読んだよね?」
「一応……」
「それでOK。参加者は絶対目を通さなきゃいけないところだから」
一般でも参加者でもカタログの最初のところは見なくちゃいけない。
禁止事項などがマンガと文でわかりやすく書いてあるところだ。
ここを読まずに注意されて逆切れしてる人がいるけど、はっきり言ってみっともないと思う。
ルールは守って楽しくやらなきゃ、うん。
「じゃ、悪いけどサークル回りはキヨコちゃんに頼める?」
わたしはもうひとりの相方に聞いた。
「ああ。任せときな」
キヨコちゃんは同人誌即売会参加暦がわたしより長いベテランさんである。
あと余談であるがだいたいこういうイベントではサークル参加する人は2〜3人で入場できるのだ。
ひとりかふたりで売り子をやり、残ったひとりがサークルに本を買いに行く。
「バスプリの太石本は絶対ゲットしてねっ!」
「わかってるって。じゃあな」
キヨコちゃんは頼もしい返事をして歩いていった。
「どこ行くの? キヨコちゃん」
「目的のサークルに。もうすぐ開場だからね」
ケイちゃんへの説明や準備、その他諸々でもう開場時間が近いのである。
「そうなんだ。ドキドキするね」
「……うん」
わたしもいつもよりもどきどきしていた。
何故なら今日のサンマは一味違う。
それはもちろん志貴さんを招待したからだ。
まあ、相方が非常に頼りないというのもあるけど。
よーし、がんばるぞっ。
「これより、サンタナマーケットを開催いたします」
開場に沸く拍手。
「戦闘開始」
「え? なに?」
次の瞬間、大量のおにーさんたちが会場になだれ込んでくるのであった。
続く