「……いよいよだなぁ」

ぱしっと頬を叩く。

参加が決まったからにはなんとしてでも本を出さなくてはならない。
 

わたしはテレビなんかそっちのけでラストスパートをかけるのであった。
 
 






「同人小説を作るまで」
その12







「ふう……」

イベントまであとニ週間。

そして現在時刻は九時丁度。

わたしは今日初めてパソコンの前に座っていた。

「うう、なんでこんな時間に……」

それというのも生徒会の仕事がべらぼうに長引いたせいだ。

決めても決めなくてもいいようなどうでもいいことをああだこうだ。

遠野先輩がいなかったら多分もっと時間がかかっていたことだろう。

「とにかく、メールメール……」

気を取りなおしてメールをチェック。

おそらく今日には挿絵が届いているはずなのである。

「……来てる」

即座に保存して中身をチェック。

「うああ……頼んでよかったよぅ」

わたしは絵を見てものすごく感動した。

素晴らしい出来である。

わたしがラフで書いたときはなんじゃこりゃって感じだったのが可愛く綺麗に仕上げられていた。

「どうもありがとうございます」

さっそくお礼のメールを送信しておく。

それから本文への挿絵挿入作業である。

なんとしても今日じゅうには入稿しておきたかった。

「ええと、これをここに……」

配置は最初から決めておいたのでそこに挿絵を当てはめていく。

やはり挿絵があるのとないのでは各段に雰囲気が変わるものだ。

「これで全部……と」

挿絵を全て挿入し、ずれた文章を直していく。

「ああっ、ここなんか一行しか無くなってるっ!」

かきかきかきと。

「うわっ! なんかここのページまで変になってるしっ!」

なんだかよくわからないけれどあるページからの配置が滅茶苦茶になっていた。

しかも普段やっていた治し方ではそれが治らない。

仕方なしにソフトのヘルプを引っ張り出して格闘。

予想以上にてこずったけれどなんとか修正完了。

ここでかなりの時間を食ってしまった。

「え、ええと次は……」

中表紙と奥付の用意だ。

中表紙は普通の小説っぽくしあげ、奥付はあとがきとセットに。

「ここまで読んでくださってありがとうございます……」

感謝の言葉と戯言を混ぜてみる。

とにかく出来てよかったよかったと。

残念ながらこのあとがきを書いている時点では本は完成していないのだが。

とにかく奥付も完成。

さて、これで全て揃っただろうか。

「……に、にぺぇじ足らないっ?」

中表紙と奥付と挿絵の入っているページを合わせても予定のものより2ページ足らなかった。

どうも途中の空白を埋めたのが原因のようだ。

「あああ、どうしよぅ……」

頭を抱えてしまう。

今更追加するような文章はないし。

「……そ、そうだっ」

ひとつ思いついた事があった。

実は今回の小説、一度も出番がない可哀想な人がいるのである。

それは主人公の先輩なんだけれど、絡むとややこしいことになってしまうので泣く泣く登場を辞退してもらったのだ。

せっかくなのでその人に2ページだけ登場してもらう事にしよう。

『わ、わたしだって出番が欲しかったんですっ! ですがっ……』

とまあそんな感じ。

なんとか2ページ埋まった。

「こ、今度こそ大丈夫……かな?」

表紙、よし。

中表紙、本文よし。

奥付もよし。

で。

「う、裏表紙忘れてたああああっ!」

わたしはマンガみたいに両手で頭を抱えてしまった。

裏表紙は表紙共々重要な部分のひとつなのである。

それが無かったら本は完成したとはいえない。

「ど、どうしよう……」

入稿はなんとしてでも今日中に終わらせなくてはいけないのだ。

今から絵師さんに頼むのは不可能である。

とすると選択肢はひとつしかないわけで。

「わたしがやるしかないか……」

わたしは机から紙と鉛筆を取り出した。

表紙が綺麗なぶん、わたしなんかが裏表紙を書くのは尚更気が引けてくる。

「うー」

とりあえず今回の小説のポイントは猫だ。

表紙にも可愛らしい猫が描かれている。

裏表紙も猫ならば統一感があっていいだろう。

わたしは紙にいくつかの猫を書き上げてみた。

「……ぬぅ」

やはり表紙と比べるとどうしたって劣ってしまう。

いっそのこと超マンガちっくに。

「よしっ」

デフォルメした感じの目つきの悪い猫が描けた。

目つきが悪いのは単に趣味である。

その猫をペン入れしてスキャナーで取り込み。

お絵かきソフトで彩色、加工。

「……出来た」

一応なんとか見られるものになったようだ。

これを裏表紙として、ようやっと全ページが揃った。

それを表紙裏表紙と本文にわけ、それぞれ圧縮する。

これでようやく入稿準備完了だ。

「えーとFTPソフトは……っと」

今回わたしがやる入稿方法はデータ入稿というやつだ。

パソコンのデータをそのまま印刷所に入稿出来る。

圧縮ファイルを送信、必須事項をいくつも書き込んでいく。

住所氏名電話番号その他諸々。

ひとつでも抜かすと送れなくなってしまうので要注意だ。

「……っと」

上から下まで見て一つ書き忘れを見つけた。

というよりこれは最初から最後に書こうとしていたのだ。

それは本の題名である。

つまり龍の絵に瞳を入れるわけ。

題名はずっと前から決まっていた。
 

『屋根裏部屋の姫君 姫君と猫』
 

「よし」

これで送信。

それから入稿しましたよーというほぼ同じ内容のメールも送る。

これを送らないと正式な入稿にならないのだ。

「これで全部終わりかな……」

書き損じはないか、ファイルはちゃんと全部送れているか確認。

全て問題ないようだ。

そのうち入稿完了の手紙が来て概要の確認、入金次第本の作成となる。

とにかく今日わたしがするべきことは終わったのだ。

「あーっ! 終わったぁっ」

椅子によりかかり両腕を伸ばす。

肉体はそんなに疲れていないけれど精神的にかなり疲れた感じだ。

けれどそれはまあ心地よい疲れでもある。

ある一つの事柄を成し遂げたのだから。
 

「……ミスとかなければいいけどなぁ」
 

ただどうしても入稿したのがわたしということだけがひたすらに心配なのであった。
 

続く



あとがき
近日中に詳細公開しますが、とりあえず入稿できてよかったよかったと。
そしてほんとにちゃんとできるのかなとやはり不安だったりも(w;



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