うーん。相談してみてよかったかもしれない。
意外な方向性が見えてきた。
だけど。
「……新しく100ページかぁ……」
道のりはまだまだ遠そうである。
「同人小説を作るまで」
その4
そんなわけで数日が経過した。
わたしは学生生活とインターネットの小説と、同人誌用の小説の執筆と多忙な日々を過ごしていた。
そんなこと可能なのかーとか思われそうだけど、まあ睡眠時間とか遊ぶ時間を削ればなんとかなるものなのである。
まあ小説は趣味だし、書いていて楽しいので問題なしだ。
「さて今日の更新はなんにしよう……」
調子がいいときは執筆は一時間そこいらで終了してしまう。
だけど調子が悪いときはもう、三時間経ってもてんで進みはしないのだ。
特にここ最近はちょっと悩みがあって、なかなか筆が進んでくれない。
こういう時はあえて遊ぶ!
そうすることで潜在意識が勝手にネタを考えてくれるのだ!
と、某炎の漫画家さんも言っていたのでわたしもそれに従うことにする。
この前ゲームを買ってきたからそれで遊んじゃうことにしよう。
わたしはパソコンから一旦離れて携帯用ゲームを取り出した。
こんこん。
と、ノックの音がする。
誰だろう。
「はーい。どうぞ」
わたしはノックの主にそう言った。
そうしてドアが開くと、そこには意外な人物が立っていたのである。
「やっほ〜。アキラちゃんこんばんわ〜」
「は、羽居先輩?」
「そうだよ〜。羽居先輩だよ〜」
「どどど、どうしてここに?」
羽居先輩の生活している高等部の寮と中等部の寮は、微妙に離れた個所にある。
中等部の寮に高等部の生徒が来ることなんてまずないのだ。
「それはもちろんアキラちゃんに会いに〜」
「わ、わたしに……ですか?」
「ああ。どうしても進行状況が気になるって言ってさ……」
羽居先輩の後ろから蒼香先輩が現れる。
「蒼香先輩まで。呼んでくれればわたしのほうから向かいましたよ?」
「いや、ま、遠野のやつが色々うるさいんでね」
「そ、そうですか……」
そういえば遠野先輩は来ていなかった。
「お邪魔してもいいかな〜」
「あ、え、ええと、部屋、すっごく汚いんですけど……いいですか?」
「構わないよ〜」
「まあそれくらいな」
「じゃ、じゃあ……どうぞ」
二人を部屋の中へと通す。
「うわ〜……」
なんとも言えない感嘆詞を発する羽居先輩。
うう、来客が来たときようにもっと綺麗にしておくんだったなぁ。
わたしの相部屋の相手も同人とかをやってる子なので、部屋はもう完全にそういう仕様になってしまっているのだ。
大手サークルのポスターやらカレンダーとかが壁に張られていたり、本棚には同人誌が大量に並んでいたり。
「ずいぶんな本の数だね」
「しゅ、趣味なんで……あはは」
同人誌即売会とかに行くと、どうしても本を買いすぎてしまうのだ。
来月の生活なんてお構いなしに次々と大量に。
うう、そろそろ整理しなきゃなあ。
「わー。いろんな本がある〜」
羽居先輩は何のためらいもナシに本棚に手をかけようとしていた。
「わーっ! そこは駄目ですーっ!」
そのへんの本棚にはやっぱりやおい系同人誌がっ!
「そうだよ。おまえさん、今日はそういう用事で来たんじゃないだろ」
蒼香先輩が羽居先輩を小突く。
「蒼香ちゃんいたーい」
それに対して大げさな素振りを見せる羽居先輩。
「はぁ。ああもう、あたしが聞くよ。おまえさん、新作の進行状況はどうなんだい?」
「同人誌用のですか?」
「ああ。何枚くらい書けたんだい?」
「えーと……ちょっと待ってください」
再びパソコンの前に立ってテキストファイルを起動させる。
現在23.7キロ。
「47ページくらいですね」
「ほう。結構進んでるじゃないか」
かなり大雑把な判断だけど、文庫サイズで本を作る場合テキスト1キロで2ページ程度の計算になる。
「まだ中盤ってところです。ここを面白く出来るかそうでないかで出来が決まっちゃいますね」
「そうだな。中だるみになると読みたくなくなるからな」
「あはは……」
なかなか耳の痛い言葉である。
「ねえアキラちゃん〜。質問なんだけど〜」
「あ、はい。なんですか?」
羽居先輩はいつの間にやら椅子に腰掛けていた。
「文庫本100ページって、インターネットの小説だとどのくらいの長さなの?」
「そうですね……構成なんかが違ってきますから確実には言いきれないんですけど。例えばわたしの小説の第一部だったら八、九話程度ですね」
「そんなに短いの?」
「はい。わたしもびっくりしました。文庫本だとそんな量になっちゃうんですよ」
自分ではそんなに多い量を書いているつもりはなかったのに。
多分そのシリーズだけでも全部合わせたら1000ページ越えてしまうに違いない。
「じゃあ第一部の40話で300ページって話も相当無理矢理詰めたんだな」
「は、はい……多分ちゃんと計算したらもっとページ数行っちゃいましたね」
まあとりあえずそれは今回はやらないのでいいのだ。
「ただ、今回の文庫本計画についてはちゃんと印刷所に問い合わせてサイズとかも聞きましたんで、ちゃんとした構成で完成できそうです」
「じゃあ、わたしたちの部屋に来たときって聞いてなかったんだ?」
「は、はい。お恥ずかしながら」
「別に恥じることじゃないだろ? 最初は誰だってそんなこと知らないんだからさ」
「そ、そうですよね」
やっぱりわからないまま物事を進めても上手くいかないのだ。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とも言うし、わからないことがあったら聞いてみるに限る。
そうしてひとつひとつ決定していけば順調に物事は進んでいくのだ。
「じゃあ、なんとか完成出来そうなんだね〜?」
「はい。もうちょっと時間はかかりそうですけど、出来そうです」
「期待してるよ〜。完成したら一冊買わせてね〜?」
「は、はいっ。ありがとうございますっ」
そういう一言はかなり嬉しい。
やらなきゃ、って気持ちにさせてくれる。
「あたしは出来次第だね。内容が良かったら買わせてもらおうかな」
蒼香先輩もそんなことを言ってくれた。
「蒼香ちゃん〜。即売会会場で小説を見定めるって難しいと思うよ〜?」
すると羽居先輩がそんなことを言った。
「そうなのか?」
蒼香先輩がわたしに尋ねてくる。
「あ、はい……そうです。漫画だったらぱらぱらめくるだけでも絵が上手いとか、ちょっと立ち読みすれば内容が面白いとかわかるじゃないですか。けど小説だとそうはいきません」
「ある程度文章を読まないと面白いかどうかわからないからね〜。ぱっと見ただけじゃよさがわからないっていうか」
「文章本のきついところですね。初見さんが購入する気になり辛いんです」
「おまえさんを知っている人間はまあ問題ないとしても、それ以外はどうか……ってことか」
「はい。しかもネットではともかく、即売会とかではわたしなんて知名度0ですし。かなり厳しいんですよね」
売れるとしてもわたしを知っていて、その本を買いたいと思っている人だけ。
としたら、どんなに多く見積もっても30かそこいらだ。
「100部完売できる確証は?」
「ありません」
50部売れるかだって怪しい。
けれど50部刷っただけでは完全に赤字なので、100部は刷らなくちゃいけない。
「100部刷って売る方法を考えなくちゃいけないんですよね……」
実は最近悩んでいるのはそれなのだ。
「そっか〜。じゃあ、そんなアキラちゃんにわたしがいいアイディアを教えてあげる〜」
すると羽居先輩がそんなことを言う。
「あるんですか?」
「うん。羽居特製スーパー販売戦略論だよ〜」
「と、特製スーパー販売戦略論……」
スーパーはともかく、やたらと難しい話になりそうであった。
続く