「……うわあ」

三日目の男女比率は男8、女2。

初日とは180度違った構成比となる。
 

「なんで……三日目なんかに」
 

そんな三日目の壁に、MANAさんは堂々と配置されているのであった。
 
 







「夏コミに行く前に」
その7







「夏の三日目……」

夏の三日目をわたしの独断と偏見のみで考えてみる。

まず朝からひしめくヲタク。

蒸し暑い会場。

飛び散る汗。

えっちな巨大ポスターに群がる人人人。

暑い、臭い、気持ちが悪い。

「……」

ああ、眩暈がしてきた。

「ど、どうしよう……」

ここはひとつ遠野先輩のことはなかった事にして、普通に一日目だけ楽しんでくるというのはどうだろうか。

「お金もそんなにないし……」

コミケ会場まで行く往復費用だってバカにならないのだ。

東京近辺に住んでるわたしでも大変なのに、地方の人は本当に凄いと思う。

「……と、とりあえず」

三日目もチェックを入れてみよう。

もしかしたら行きたいサークルがあるかもしれない。

「……」
 

そして三十分後。

「……ヤバイ、結構行きたくなってきたかも……」

わたしの考えは大きく揺らいでいた。

まず、三日目のサークルカットはさすがギャルゲー(主人公の男の子がヒロインと恋愛するゲーム)の女の子の絵が多い。

しかもそれがとても可愛いのだ。

ある人曰く、男の人が描く女の子が可愛いのは妄想が詰まっているからだ、とか。

それで女の子が可愛く描けるならいくらでも妄想してやるって感じではあるけど。

きっとこんな絵を描けるようになるまで努力したんだろうなあ。

とまあ、絵のレベルはかなり高い。

けど知らないゲームじゃ意味ないだろうと思いきや、わたしにはひとつやったことがあるギャルゲーがあったのだ。

「陶鳩は三日目だったんだなぁ……」

陶鳩とはパソコンで発売されたギャルゲー、もとい18禁ゲームで通称エロゲーと言われている。

文字通りえっちなシーンのあるゲームである。

中学生のおまいがそんなゲームをやっていいのかーとツッコミもあるだろう。

ところがこのゲーム、えっちなシーンを完全に無くした一般用ゲームとしてPSで発売されたりしてるのである。

しかも全編フルボイス、隠しキャラあり、ミニゲームあり、CGのクオリティアップと凄まじいパワーアップをしての登場だった。

ファンにはもちろんのこと、宣伝の上手さもあってPS版は爆発的に売れた。

わたしとしても可愛いキャラと個性、かっこいい主人公の友人と完璧であり、やっていて非常に面白かった。

シナリオにもとても惹かれたものである。

やはりわたしが学生だけあって、話に共感できるところが多かったせいだろう。

暫くしてわたしがこのゲームの原作がエロゲーだと知った時はショックを受けたものだ。

でも18歳になったらちょっとやってみたいかなーとかイケナイ妄想を抱いてもいたり。

志貴さんには死んでも言えないわたしの秘密のひとつである。

ちなみにアニメ化もされていて、今年は続編まで出るとのことだ。

多分発売当日に買ってしまうんだろうなあ。

「っていうかこの人陶鳩やってるし!」

何か見た事ある絵だと思ったら、初日で見かけなくなってしまった人が陶鳩サークルになっているのであった。

「やっぱり行かないつもり日でも見なきゃ駄目だなあ……」

てっきりこの人はもう同人を止めたとばかり思っていたのに。

やはり偏見や独断で物事を考えるというのはよくないということか。

「とするとやっぱり一度は三日目も参加して見るべきなのか……でも……」

繰り返すようだけど往復費だけでもかなりかかるのだ。

試しに携帯電話の電源を入れて、往復料金を確かめてみた。

「……うう、やっぱり高い」

一日目と三日目、両方参加するのはかなり厳しいようであった。

「ん?」

ふと気づいて顔を上げる。

「あ、パソコンつけてたんだっけ」

それならパソコンで検索すればよかった。

「ってチャット入ってたんだっけ!」

チャットは既に誰もいなくなっていて、わたしひとりだけの状態になっていた。

途中からチャットに入っていた事なんて完全に忘れていた。

「あわわ……カタログに見入っちゃったからなあ」

わたしは何かに熱中すると周囲が見えなくなってしまうのである。

直さなくちゃなあ、この性分。

とりあえず「ごめんなさい〜」と一文しておいてからチャットを出る。

「パソコンはもう終了させておこうっと……」

その前にとりあえずメールのチェック。

これはもう習慣になってしまっていた。

「あ、なんか来てる」

そのメールはわたしの同人の先輩からのものであった。

「わたしは今年初日にサークルで参加するけど。どっか欲しいとこある? よかったら買ってきてやるけど」
「か、神パート2!?」

メールだというのに思わず叫んでしまった。

先輩は大手サークルを平然と手に入れていく、大手キラーの人なのである。

わたしはどちらかというと島メインなので、先輩にとっては取るに足らない仕事に違いない。

「……じゃあ、もしかしてわたし一日目行かなくてよくなるんじゃ」

むしろこれは天がわたしに三日目に行けと言っているのでは無いだろうか。

そんな気にさえなってきた。

「ど、どうしよう」

わたしの気持ちは完全に揺らいでいる。

後一押し、何かトドメのようなものがあったらたちまちわたしは三日目へと挑戦してしまうことだろう。
 

プルルルルル、プルルルルル。
 

電話が鳴った。

相手は「遠野志貴」である。

「またどうせ遠野先輩だろうなあ……」

と思いつつも出なきゃ後が怖いのでとりあえず取ってみた。

「もしもし。瀬尾ですけど」
「あ、アキラちゃん?」
「なっ……」

不意打ち。

いきなりの不意打ちにわたしの心臓は早鐘を打っていた。

「ししし、しきさんっ? なんのようでございますでありますかっ?」

口調からも動揺がよくわかると思う。

「うん。なんかさ。やっぱりアキラちゃんひとりにそんな辛い思いさせるのも悪いかと思って。コミケ、俺も行こうと思うんだ」
「ほほ、ほんとうですかっ?」
「もちろん。あ。それに有彦のバカも手伝ってくれるっていうから。アイツ何気に三日目の経験者らしいんだよ」
「……ということは志貴さんは三日目に行くという事で?」
「そういうことになるのかな。俺、よくわからないんだけど」
「……」

はい。決定しました。
 

「任せてくださいっ。わたしが徹底的にレクチャーしてあげますからっ」
 

瀬尾晶、コミケ三日目に初の参戦決定である。
 

続く



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