「志貴さん。秋葉さまがこんな願い事をつけておられましたよ?」
「どれどれ?」

笹につけられた短冊を見る。

『にいさんのやくにたちたい』

「……琥珀さんでしょこれ?」
「あ、やっぱりバレました?」
「うん」

ちょっと前にもこんな展開が会った気がするが。

あまり深い事は気にするまい。

今日は七夕なんだから。

「他の方の願い事も見てみましょうかー」
 
 

「七夕の願い事」




「……嫌な性格です」

シエル先輩が渋い顔をしている。

「では先輩は見なければ宜しいでしょう」
「むぅ」

今回は七夕ということで無意味やたらにでかい笹が用意された。

そして知り合い一同の願い事が吊るされる事になったのである。

ちなみに琥珀さんの案で願い事は全て匿名になっている。

「何故ならそのほうが面白いからです」

名前がわからないということで結構みんなはっちゃけた願いを描いているようだ。

『カレーをお腹一杯食べたいです』

などと誰のものか一発でわかるものから。

『お月見』

「……なんじゃこりゃ?」

一体これは誰が? というものまで様々である。

「あ、それわたしー」
「アルクェイド?」

元気良く手を挙げているのはアルクェイドだ。

「これってそういうイベントじゃなかったっけ? 月を見ながらお団子食べるっていう」
「ああ、うん、おまえは何にもわかってない」
「えー?」

まあそのほうが助かるんだけど。

こいつの事だからものすごい直球勝負をしかねないからな。

『志貴をわたしのものに出来ますように』

「っと」

こんなもん見られたらまたケンかになってしまう。

慌ててポケットに仕舞う。

「志貴さん何か面白いものありました?」
「えっ? あ、ええと、あれなんかどうかなっ?」

琥珀さんに声をかけられ適当な物を指差した。

『マスターが優しくなってくれますように』

「……誰の願い事でしょうね?」
「誰だろ?」

ここにいる誰かのではあるんだろうが。

「うふふふふふ」
「うおっ?」

何故か怪しく笑っている先輩がそこにいた。

「ど、どうかしました?」
「いえ、別に何もないですよ?」

なんだかよくわからないけど怖い。

「……そっとしておこう」

関わるのを止める事にした。

「志貴さん志貴さん」
「ん?」
「これをご覧下さい」
「……どれどれ?」

『ねえさんのやくにたちたい』

「これも琥珀さんの捏造でしょ?」
「いえ、わたしは翡翠ちゃんが心に秘めているだろうに違いない想いを代弁してあげたんです!」
「さいですか……」

翡翠もかわいそうになあ。

「ついでに秋葉さまのもやっておきました」
「あー」

それはなんかもう見なくてもわかる気が。

「誰ですかっ! こんな願いをつけたのは!」

秋葉の叫び声が聞こえた。

どうやら見つかってしまったようだ。

『胸が大きくなりますように』

「誰って……妹でしょ?」
「秋葉さんじゃないんですか?」
「……返答しかねますが」
「失敬な! こんな低レベルの願い事をするわけがないでしょう!」

秋葉は疑われまくっていた、

「大人気ですねー」
「人気というのかなあ」
「大丈夫です秋葉さんっ。まだまだ成長期です。大きくなりますって!」
「その無闇に胸を強調したなんですかっ!」
「気のせいですよ」

ここぞとばかりに先輩は実は巨乳キャラなんだぞということをアピールしていた。

「メガネ巨乳は貴重だよな」
「意味のわからん事をいうな。つーかどっから出てきたんだおまえ」

巨乳云々をほざいたのは我が悪友の有彦である。

「ばっか。おめー、彦星の彦を冠するオレが出てこないわけにはいかねえだろ?」
「織姫はいないぞ?」
「これから探すんだよ」

そりゃなんとも気の長い話で。

「おまえもなんかつけたのか?」
「へっへっへ。秘密だ」
「……なんか怪しいのがついてそうだな」

見つけ次第除去しておく事にしよう。

「志貴さーん?」
「おっと」

またお呼びがかかったようだ。

「忙しいみたいだな」
「なんだかよくわからないけどね」

七夕ってのんびりするもんじゃなかったっけなあ。

「なに? 琥珀さん」
「志貴さんの願い事が見つからないんですけど」
「ああ」

もしかしてずっと探してたんだろうか。

「俺は何にもつけてないよ」
「ええっ?」

琥珀さんは信じられないといった顔をしていた。

「いや、つけるとしても無病息災とか平穏無事とかつまらないものだしさ」
「……そんな無欲でいいんですか?」
「無欲っていうか……現状に満足してるって感じかな?」

そりゃ確かに騒がしくはあるが、おかげで退屈はしない。

それに、好意を抱かれていてイヤになるなんてことはそうはないだろう。

「ってわけで特に願う事はないなと」

体の弱かったのもなんだかんだで解決しちゃったし。

「むー」

琥珀さんは渋い顔をしていた。

「そういう琥珀さんこそ何を書いたの?」
「わたしですか? あは、あははははは」

琥珀さんにしてはらしくない笑いである。

「わたしはちょっと他のみなさんの代弁をするのに忙しくてですねー」
「うん?」

どうも怪しい。

「俺にイタズラできますようにとか?」
「そんなのは願うまでもなく実行出来るじゃないですか」

確かに。

「志貴さんと同じ理由だというわけですね」
「そうなんだ」

なんか変な感じだ。

他の人の願い事を書いておいて自分が書かないなんてらしくない。

「……探してみるか」
「そんな、つまらないですよ?」
「さっきまで人のを見まくってた人が何を言うんだか」

説得力が皆無であった。

「こういうのもあったし」

さっきポケットにしまったやつを見せる。

『琥珀』

「……あれ?」

そこには名前だけ書かれていた。

「ああっ! それはっ!」

顔を真っ赤にして俺から紙をかっぱらう琥珀さん。

「……?」

はて。

俺が剥がした紙は『志貴をわたしのものに出来ますように』だったはずだが。

その裏に『琥珀』ってことは。

「琥珀さんの願い事って……」
「あー、うー、えー」
「……でも琥珀さんは俺の事さん付けで呼ぶしなあ」

一体どういうことなんだ?

「ダミーだったんですよ」

俺が考えているうちに琥珀さんのほうから喋りだした。

「ダミー?」
「はい。こう書いておけばアルクェイドさんのものだろうと思われるだろうなと」
「……なんでわざわざそんな?」
「だって恥ずかしいじゃないですかー」

と照れくさそうに笑う。

「……っ」

正直その笑顔はずるい。

「で、でも人を所有物みたいに書くのはどうかと思うな?」

精一杯の抵抗をする俺。

「あはは、ですよねー?」
「……っていうか、それだってわざわざ書くような事じゃないし」
「はい?」
「だからー」
「あ、ストップです」
「ん」

ぴっと開いた手ひらを向けてくる琥珀さん。

「それはもっとロマンのある場所で聞きたいです」
「……ロマンときましたか」

まあ確かにここは。

「だからそれは私のじゃないと何度も……!」
「だって他に誰がいるのよー」
「秋葉さん。恥ずかしい事ではないのですよ。誰でも抱えている悩みなのです」
「……複雑です」

やかましいことこの上ないし。

今更そうあせる事はないだろう。

「ま、今回の件は棚からボタ餅程度に思って頂ければ」
「その心は?」

遥か彼方の距離で想いあう織姫と彦星のように。

「七夕だけに……」
「棚ボタ?」
「はいっ」
 

二人は妙な次元で通じ合っているのだから。
 
 




あとがき
オチだけが書きたいためについカッとなって書いてしまった。
今は反省している。
具体的に七夕がなにをする日なのか未だによくわからないんですが(死


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