せっかくの休日だというのに外は雨で、どこにも出かける気にならなかった。
「梅雨ですからねえ」
窓の外を見て呟く琥珀さん。
「そういう事ならお任せください。志貴さんのために頑張っちゃいますよ」
「うん」
そうして俺は琥珀さんの部屋に案内された。
「解いて解かれて」
「さっそくですがなぞなぞです」
「……なぞなぞっすか」
「最近クイズ番組が流行ってるじゃないですか」
「あー」
なるほど言われてみれば確かに。
「クイズブームとお笑いブームは何度か周期があるみたいですね」
「そうなんだ」
「はい。まあそれは余談ということで。第一問いきますよー」
「うん」
「上は大火事、下は洪水、なーんだ?」
「……いや、逆じゃない? それ」
下は大火事、上は洪水で答えは風呂のはずだけど。
「正解はベッドの中の二人です」
「いやそういうのはいらないから」
確かに言いえて妙ではあるが。
「駄目ですよ志貴さん。そこは誘ってるのかいハニーと軽く返せるくらいじゃないと」
くすくすと笑う琥珀さん。
「誘ってるのかいハニー」
「いえ、全然そんな事はありません」
「……はっはっはっはっは」
さすがは琥珀さん。
タチが悪いなんてもんじゃない。
「掴みはオッケーですね」
「……古いなあ」
誰のセリフだっけ、それ。
「では2問目です。まみむねも。さてなんでしょう?」
「まみむねも?」
「制限時間は10秒ですよー」
「え、ちょっと……」
なんだ?
普通まみむめもだよな?
めの部分がね?
「ああ、メガネ?」
「はい。正解です。まあ簡単でしたね」
「これくらいはね」
なぞなぞの醍醐味は一瞬で答えがわかった時の爽快感である。
「では次です。愛はどこにあるでしょう?」
「あ、愛?」
「気付いたかラオウ」
「いやそうじゃなくて」
「はーち、なーな」
「ちょ、待ってよ」
愛? 愛ってなんだ?
振り向かないことさ?
それは若さだ。
ためらわないこと……って違う。
「こ、心の中に?」
「志貴さん。それじゃなぞなぞじゃないですよー」
「……あ、あはは」
そりゃそうだよな。
「正解は50音の一番最初です」
「50……なんだって?」
「ですから、あいうえおかきくけこの最初ですよ」
「あー!」
なるほど、そういうことか。
「簡単じゃないか」
「でも解けませんでしたよね?」
「た、たまたまだよ、たまたまっ!」
「では次の問題ですー」
琥珀さんは楽しそうに笑っていた。
「次は当ててみせるさっ!」
さあ来い!
「10メートル先にある家は誰の家でしょう?」
「10メートル……」
こういう問題はバカ正直に考えちゃ駄目なのだ。
10メートルというものを別の角度から考えなくてはいけない。
「メートル……距離……」
距離を表す言葉は他にもある。
ミリ、センチ。
1メートルは何センチだっけ?
「100……1000センチ」
せんせんち。
「先生の家!」
「正解ですー!」
「よしっ!」
思わずガッツポーズを取ってしまった。
「小学生レベルの問題ですね」
「それでも嬉しいものは嬉しいの」
「そうですねー。では次に行きましょう。無理は無理でも楽な無理ってなんでしょう?」
「……楽な?」
「らくちんなんですよ」
「無理が楽?」
なんだそりゃと真面目に考えてはいけない。
無理を他の言葉に言い変える……不可能……
「いや」
このパターンじゃないな。
なぞなぞにはいくつかのパターンがあるのだ。
例えば言葉の前後に何かをくっつけるパターン。
「むり」に何かをくっつけて……楽?
「居眠り!」
「正解です。なかなかやりますね」
「そりゃもう」
授業中の得意技ですから。
「ところで琥珀さん」
「なんでしょう?」
「これ、正解したら何かボーナスとかないの?」
「ハンターチャンスですか?」
「いや、そういう意味じゃなくて」
まあそこまで何かを期待しているわけじゃないけどさ。
「ご褒美は……そうですねえ。美味しいお菓子を作って差し上げますよ」
「じゃあ、それでいいや」
琥珀さんのお菓子はレベル高いからな。
「ただし、あと5問のうち3問を正解しなくては駄目です!」
「な、なんだって!」
「制限をかけないと延々と続けることになってしまいますからね」
「そうだな……よし」
3問正解すればいいってことは、2問間違えてもいいってことだ。
気楽にやればいいのだ。
「三平方の定理を説明してください」
「……いや、それなぞなぞ違う」
「冗談ですよー」
そんなもんは社会に出ても役に立たないんだからな。
なぞなぞの知識はもっと立たないだろうけど。
「では問題です。顔が3つ、腕は6本、なんでしょう?」
「アシュラマンとか言わないよね」
「……えー、次の問題です」
「正解なのかよ!」
「立っているとき見えないで、座っているとき見える物はなんでしょう?」
「ん?」
「なんでしょう?」
「えーと」
なんだ?
引っ掛け問題とかか?
「……お尻、とか?」
「残念ハズレです」
「くっ」
しまった、安易すぎたか。
「正解は足の裏ですよー」
「もっと安易なのかよ!」
「そこに気付かないのが人間というものなのですよ」
「……ぐぅ」
間違えてしまった手前反論出来なかった。
「では次ですよー」
正解と失敗を交互に続け、ついに最後の問題となった。
「これがラストです。果たして志貴さんはお菓子をゲットできるのか?」
「してみせるさ」
きっと最後は難問だろうが、やってみせる。
「リボンの良く似合う女の子は誰でしょう?」
「……問題になってないよ? それ」
そんなの答えが目の前にいるじゃないか。
「誰でしょう?」
「琥珀さんでしょ?」
「正解はレンさんです」
「……ってちょっと!」
「残念でしたねー。引っ掛け問題でしたー」
「いや、それ答えいくらでも捏造できるじゃん!」
俺がレンだと答えたら琥珀さんでしたと答えを変える事も出来るだろうし。
「や、ここで志貴さん正解という流れはつまらないかなーと」
「そんなネタはいいの!」
「ネタを求めて来たのは志貴さんじゃないですかー」
「……それはまあ、そうなんだけど……」
このままやられっぱなしというのは悔しい気がする。
「あ、じゃあこうしよう」
「なんです?」
「俺がなぞなぞ出すから。琥珀さん答えてよ。正解だったら俺にお菓子を作る事」
「……それって逆じゃありません?」
「いいからいいから」
そこがミソなのである。
「では問題。リボンの良く似合う、笑顔の素敵な琥珀さんを好きな人がいます。それは誰でしょう」
「え」
「誰でしょう?」
「……うわ」
琥珀さんは顔を真っ赤にして俯いた。
「志貴さん、それずるいです」
「間違えてもいいんだよ?」
「うー」
口を尖らせる琥珀さん。
「わかりましたよもうっ。わたしの負けですっ!」
「あ、答えないで負けを認めちゃうの?」
「そんな恥ずかしい事聞きたくないですからーっ!」
「……あはははは」
俺も自分で言っといてなんだけど、滅茶苦茶に恥ずかしかった。
「お菓子はちゃんと作りますけど」
「うん?」
「最初の正解もいかがですか?」
「最初……?」
最初の問題ってなんだっけ?
「あ」
言うだけ野暮か。
「そりゃもちろん」
「……あはっ」
琥珀さんは照れくさそうに笑っていた。
完