「早くフジョー城へ……」

がたんっ。

「きゃあっ!」

慌てて屈みこむ。

「……?」

何も起きない。

「なんだ……」

傍の岩が転げ落ちただけだった。

「こ、こんなの余裕ですよ、余裕!」
 

私は地面にしっかり生えた木を掴みながら慎重に歩き出すのであった。
 
 

「トオノの為に鐘は鳴る」
その6





「……ここね」

まっすぐ進むと大きな建物が視界に入ってくる。

「ここに兄さんとアルクェイドさんが……」

ついでに美人らしいお姫サマとウロボロスもいるわけだ。

さっそく中へと入る私。

中はかなり広かった。

「ウロボロスのばかあっ! もぅ頼まないよーだ!」
「……ん?」

声のした方を見ると誰かがこちらへ歩いてきていた。

「あれ? 貴方もかけはしのスイッチを探しに来たの?」

髪の毛を左右で束ねた女性だった。

年齢は私と同じか少し上かくらいだろう。

「いいえ。私は遠野家当主の秋葉です。この城にいるはずの兄さんを探しているの。あなた、こうメガネでぼけっとした感じの人を見なかった?」
「遠野……う、ううん。知らないよ」

そこでなんだか怪しい素振りを見せる髪を左右で……ええい面倒だ。ツインテールとでも呼んでおこう。

とにかくその人は何か知っているようだった。

「でも、さっきいた女の人も同じ事聞いてきたなぁ……」
「女の? もしかしてこういう……」

私はごく大雑把にアルクェイドさんの特徴を説明した。

「そう、そのアルクェイドさんだと思う」
「その人はどこに行きましたかっ? 早く言いなさい!」

もちろん兄さんの事が最重要だけど、アルクェイドさんの行動も知っておかなければならない。

なにせあの人ときたら神出鬼没なのだから。

「お、落ち着いてよ。あの人ならもうココにはいないよ。今のままじゃ駄目だわって城下町のほうに行ったの」
「……あのアルクェイドさんが……」

とすると、私も城下町へ行ったほうがいいのかもしれない。

「城下町へはここからどう行けばいいの?」
「それが駄目なの。ウロボロスが架け橋を外しちゃったから」
「……そうなんですか」
「おかげでわたし、家に帰れなくなっちゃった」
「一体どうするんです?」
「ここを左に行けばかけはしのスイッチがあるんだけど……」

振り返って来た方向を指差すツインテールさん。

「その架け橋のスイッチを守ってる人が強いのなんの!」
「……ふぅん」
「わたしじゃ全然歯が立たなかったの」
「でしょうねえ」

贔屓目に見てもこの人は強そうに見えなかった。

「……あはは。仕方ないから堀を泳いで渡って帰ろ。じゃあね、えと……秋葉さん、気をつけて!」
「あ、ちょっと!」

呼び止める間もなくその人はすたこらさっさと走り去ってしまった。

慌てて追いかけても既に姿は見えなくなっていた。

「……困りましたね」

今の人を探すにもアルクェイドさんを追いかけるにも城下町へ行かなければいけないようだ。

とすると、重大な問題がある。

「堀……」

あまり大きな声では言えないが、私はその、水に浮かないというかなんというかつまり……

カナヅチなのだ。

だから城下町に行くにはなんとしてでも橋を架けないといけない。

「……」

さてどうしたものか。

「取りあえずどんな奴なのか見てみようかしら」

ツインテールの人の来た方向を進んでみる。

「っていうかなんなのこのお城……」

ところどころジャンプしなきゃ進めないような段差や、大きく跳ばないと届かないような場所がある。

ウロボロスに改造でもされたんだろうか。

「……ん」

ツインテールさん曰くの強そうな人というのはすぐに見つける事が出来た。

「ふむ。ただこうやって立っているというのも退屈なものだな……」

なんだか全身が黒い。

というかコートの中が真っ黒なのだけれどあれは服なんだろうか?

「確かにあれはやばそうね……」

迂闊に触ると痛い目を見そうな気がする。

「こういう場合の鉄則は」

逃げる。

じゃなくて。

「急がば回れよ」

どこかにあいつを倒せるアイテムがあるかもしれない。

「さっきの知得留先生の例もあるしね……」

片っ端から城を捜索して見る事にしよう。
 
 
 
 
 

「……ふむ」

しばらく上にいったり右にいったりしてみたけれど、鍵がかかっていたりブロックで塞がれていたりで私の進めそうな場所はほとんどなかった。

「ここを行くしかないか……」

進めそうなのは右側の兵士がうろついている通路だけだ。

「よしっ!」

覚悟を決めてそちらへ向かう。

「な、なんだおまえはっ!」
「通させて貰いますよっ!」

一人倒し、また一人倒す。

「……はあっ」

そして三人目。

さすがに私と言えども何人も相手をしていると疲労が溜まってきた。

わたしの体力をハートで表示したらひとつと半分程度しかないだろう。

「この先は……」

小さなはしごを昇る。

「あった!」

するとそこには宝箱が。

「これを探していたのよ」

きっと何かいいアイテムが入っているはず。

がちゃ。

「これは……」

☆型の石。

持つとなんだか力が沸いてくるようだった。

ジリリリリリリリ!

「……えっ?」

次の瞬間、大きな音が周りに鳴り響いた。

「ま、まさかトラップ?」

気付いた時にはもう遅い。

「侵入者だ! であえであえー!」

音を聞きつけたウロボロス兵が大勢でこちらへ向かってきた!

「……ちっ」

この体力で全員を相手に出来るかどうか。

「ええい、かかってきなさい!」
「でりゃー!」

一人の兵士が向かってくる。

「……このっ!」

まずは私の一撃。

「まだまだあっ!」
「……っ!」

倒しきれず反撃を貰ってしまう。

私の体力はもう本当に僅かだ。

「こ、この……っ!」

最後の力を振り絞っての一撃。

「ぐわっ……!」

ウロボロス兵は地面に倒れた。

「はぁ……はぁ」

狭い通路なのが幸いだった。

後ろにいる兵士たちはその倒れた兵士が邪魔で進む事が出来ない。

「さあ、貴方たちも来るの!」
「く、くそっ……ひけっ! ひけえっ!」

残った兵士たちは倒れた兵士を担いで逃げていった。

「……た、助かった……」

あと一度戦ったらもう勝てなかっただろう。

「はあっ……」

力なく地面に倒れこむ私。

体中が痛い。

「ただの雑魚でさえこんな力を持っているなんて……」

兄さん、貴方は本当にこの国で勇者と呼ばれていたんですか?

へっぽこな兄さんしか知らない私には、どうしてもそれが信じられなかった。

「……兄さん……今、どこにいるのですか……?」
 

天井が涙でぐにゃぐにゃと滲んで見えた。
 

続く



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