「アキハー!」
しばらく歩いていると町のほうから都古の声が聞こえた。
「頑張ってー!」
「……」
私は振り返りはしなかったものの、手を振ってそれに応えるのであった。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その5
てててててっ♪
「さて……と」
町から出てフィールドに出た私。
「……」
数歩も歩かない場所をモンスターが徘徊していた。
「触れなきゃ危険はないのよね」
例え目の前を歩いていても触らなければ大丈夫なのだ。
「よっと……」
モンスターを避けながら進む私。
慣れた冒険者はそれこそ一度もモンスターに触れる事なく進む事が出来るらしい。
どんっ。
「……っ!」
狭いところを進もうとしたところでぶつかってしまった。
触れてしまうとモンスターは問答無用で襲いかかってくる。
「このっ!」
砂煙をあげての激しい戦い。
ずばっ!
どんっ!
こっちが攻撃すれば向こうの反撃が返ってくる。
交互に攻撃をし合う形だ。
ずばっ!
「……っ!」
跡形もなく消え去るモンスター。
「ふう……」
なんとか倒す事が出来たけれど。
「これじゃ最先不安だわ……」
アルクェイドさんと戦っていた時の練習用のレイピアしか持ってこなかったのは失敗だった。
こんな武器じゃ道を進むだけで時間がかかってしまう。
「何か武器はないのかしら?」
周囲を見回してみる。
もちろん武器なんて落ちているはずがないのだけど……
「……はしご?」
道の端に明らかに人工っぽいはしごがあった。
「な、何なのかしらこれ……」
いかにも怪しいけれど。
「ええい」
どうせ行かなきゃ話が進まないのだ。
罠にわざとひっかかってみるのも進むためには必要な事なのである。
「……あ」
はしごを降りるとそこには二つの宝箱があった。
そして中央には誰かが立っていた。
「ようこそようこそ。わたしはアイテムを授けるお約束の知得留先生です」
メガネをきらりと光らせそんな事を言う謎の女性。
「……し、知得留先生?」
「ささ、宝箱を開けてくださいな」
「な、何者なんですか?」
「そういう事は考えないほうが幸せです。さあ。開けないと話が進みませんよ?」
じりじりと近づいてくる知得留先生。
笑顔なのが逆に怖い。
「……わかりましたよ」
仕方ないので宝箱を開ける。
「これは……」
中に入っていたのはハート型の石だった。
「それはハートストーンです。あなたの体力を増やしてくれますよ」
「……どういう仕組みになっているんですか?」
「深い事を気にしてはいけません」
その笑顔には聞くなという無言のプレッシャーがあった。
「ささ、もうひとつもどうぞ」
「……」
もはや何も言う気にもならず宝箱を開ける私。
「これは……」
入っていたのは青銅の剣だった。
「その剣ならばウロボロス兵と互角に戦えるはずです。ザコなら一撃ですよ」
「いいんですか? こんなものを……」
「ええ」
きらりとメガネを光らせる知得留先生。
「その代わり、必ずウロボロスを倒してくださいね」
「は、はぁ」
「ではでは頑張ってください。シーユーアゲイン!」
「あ、ちょっと!」
知得留先生はあっという間に立ち去ってしまった。
「……なんだったんでしょう」
聞きたい事は色々あった。
なんで私にこんなアイテムをくれるのか。
誰か来るまで地下でずっと待ってるつもりだったのか。
そして何よりどうして「先生」なのか。
「謎は深まるばかりだわ……」
しかも永久に開かされそうにない謎であった。
「……ま、いいわ」
悪いモノを貰ったわけじゃないし。
「これならマトモに戦えるわ!」
いざ、フジョー城へ!
「……でも」
はしごをあがって周囲を見回してみる。
「道がないのよね……」
確か北へまっすぐだと言っていたのに。
「……ん?」
傍をのそのそ進んでいるモンスターの額に張り紙がしてあった。
『北は上、東は右。RPGの常識ですよ 知得留』
ばきっ!
私の一撃でモンスターは吹っ飛んでいった。
「なるほど確かに強力な武器だわ……」
今の攻撃に限ってだけは他の補正もかかっていた気がするけれど。
「さあ、行きますよ!」
私は元来た道を引き返し、町から上へと進むのであった。
「ん」
少し進むといかにも悪役ですって感じの男が立っていた。
「何よ貴方は。ウロボロスの兵士?」
私が声をかけると男はめんどくさそうに手を振った。
「この先は一般人は通さぬ。帰れ帰れ」
「無礼者! 私は遠野家の遠野秋葉よ? この先のフジョー城に用があるの。通しなさい!」
「ふん! 通りたければオレを倒していくんだな!」
「なんて生意気な……」
こういうヤツにはお灸を据えてやるべきである。
「戦うか?」
「もちろんイエスです! その態度許せません! 手討ちにしてあげます!」
ぼこどこどごすかめきょ。
青銅の剣を手に入れた私にそんなザコは相手にならなかった。
「く、くそーっ! 覚えてろよー!」
いかにも三下っぽいセリフを叫んで逃げていくウロボロス兵。
「こら、待ちなさい!」
「ひえーっ!」
「待ちなさ……ん?」
逃げて行く途中でその兵士が何かを地面に落としていった。
「これは……地図? なになに……」
このマップはアイテムとしてお使い下さい。十字ボタンでカーソルを動かし地名が見られます。 By知得留
「……まあ便利なものを手に入れたわね」
最後の名前に関してはもう気にしない事に決めた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「え?」
なんだろう、この音は。
ズゴゴゴゴゴゴ!
「ちょ、ちょっと……!」
地面が激しく揺れている。
これは……地震だ!
「きゃあきゃあきゃあきゃあ!」
慌てて傍の木にしがみつく私。
「た、助けて下さい! 兄さーん!」
まだ私こんなところで死にたくはありません!
「きゃーっ! いやーっ!」
ズゴゴゴゴゴゴ!
「もう駄目ーっ!」
……。
「……はぁ、はぁ」
しばらくしてようやく地震は収まってくれた。
「ま、まるで仕組まれたような大地震……」
震度は7を超えたってところだろうか。
「……ふ、ふん! 大した事なかったわね!」
ふらふらと立ち上がる私。
「早くフジョー城へ……」
がたんっ。
「きゃあっ!」
慌てて屈みこむ。
「……?」
何も起きない。
「なんだ……」
傍の岩が転げ落ちただけだった。
「こ、こんなの余裕ですよ、余裕!」
私は地面にしっかり生えた木を掴みながら慎重に歩き出すのであった。
続く