貴方と兄さんはどんな関係なの? とか。
「あ、う、うん。なんでも聞いて」
誤解の解けた弓塚さんは割と素直だった。
「では聞かせてもらいます……」
ここから私の長い質問タイムのはじまりである。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その24
「まず貴方は兄さんとどういう関係なんですか?」
何より一番最初に確認しなければいけないのがそれだ。
「あ、えーと」
ちらりと目線を横に逸らす弓塚さん。
「クラスメートだったの。遠野くんとは」
「……それだけですか?」
「う、うん……本当にそれだけ」
「……」
どうにも怪しい。
「ほんとだよっ? 一緒に遊んだ事はあるけどそのくらいの仲で……」
言いながら暗い表情になっていく弓塚さん。
「……信用しましょう」
「え?」
「経験、ありますから」
いくらアピールしても気付かない兄さん。
今の弓塚さんの反応ではっきりわかってしまった。
おそらく彼女は兄さんに淡い恋心を抱いていたんだろう。
しかし兄さんはてんでそんな事に気付いてくれないと。
「え、えと……」
「いいです。この件はこれ以上聞きません」
この人にはなんだか妙な同志感を抱いてしまった。
アルクェイドさんと違って気持ちを素直に伝えられるタイプってわけでもないみたいだし。
「うん……ありがと」
「礼を言われるような事は何もしていません」
「あ、そうだよね。あはは」
ついでに言うなら年上って感じがまるでしなかった。
「では次の質問です。貴方がこの国にある金のありかを知っていると乾さんに聞いたのですが」
「あ、乾くんにも会ったんだ。わたしと乾くんと遠野くんとでよく遊んでたんだよ」
「……ふーん」
そういう話を聞くとちょっと羨ましくなってしまう。
「確かに金山はあるんだ。でも詳しい場所までは知らないの」
「……知らない?」
「うん。わたしも高田くんから聞いた事があるだけだから」
「乾さんの情報もアテにならないのね……」
まあそう簡単に事が進むとは思ってなかったけど。
「その高田くんとやらはどこに?」
「……この町に住んでたんだけど……」
周囲を眺める弓塚さん。
「もしかして何かあったの?」
「あなた何も知らないんですか?」
「う、うん。井戸から出てきたら遠野さんとネコアルクがもめてるとこに遭遇して……」
「……はぁ」
何も知らないわけか。
「この町の人たちはウロボロスに連れて行かれてしまったようです」
「ええっ!」
「……ごく一部の人間は無事のようですが、他はみな……」
「た、大変じゃない!」
そう言っていきなり走り出そうとする弓塚さん。
「ちょっと。どこに行くんです?」
「決まってるでしょ! みんなを助けに!」
「……急ぎたい気持ちはわかりますが、一人で行くのは無謀です」
「で、でもっ……」
「私も一緒に行きますから。次の質問が最後ですので」
「……」
大人しく私の傍に引き返してくる弓塚さん。
私は弓塚さんの肩をぽんと叩いた。
「何故私のお金を盗んだのかしら?」
そのまま肩を鷲づかみにしてしまう。
「そ、それは……」
弓塚さんは見るからに焦燥していた。
「逃がしませんよ。これを聞かない限りは」
お金を盗られたせいでどれだけの辛酸を舐めた事か。
兄さんの事に関しては同情したけどそれはそれ、これはこれ。
「……あくまでこれは噂なんだけど」
「噂?」
「うん。多額の報酬を要求するかわりに、どんな仕事でもこなす凄いエージェントがいるんだって」
「その人に何か頼もうとしていた……という事ですか?」
「そう。遠野くんを探してもらう事と、ウロボロスを退治してもらう事」
「そんないるかどうかわからない人を頼りにしたって仕方ないでしょう?」
肝心なのはその場所にいる人たちの意思なのだから。
「それはそうだけど……頑張ったって出来ないことはあるし。強い人がいるならその人に任せたほうが安全だし……」
「……貴方としてはウロボロス兵にひと泡吹かせたかったというのもあるでしょうしね」
弓塚さんがお金を盗んだのが本当のウロボロス兵だったとしたら、ウロボロスにとって相当の損失になったろう。
「そう、そうなのっ」
「勘違いさえなければ義賊的な話だったのかもしれませんけどね……」
やはり被害者の私としては腹の立つ話だ。
ほっぺたを思いっきり引っ張ってやる。
「い、いひゃい、いひゃいってば!」
「……まあこのくらいにしておいてあげましょう」
この人と遊んでいる場合じゃないのだから。
ほっぺたから手を離し、弓塚さんが体勢を立て直すのを待つ。
「さあ、町人たちを助けに行きますよ。いいですね?」
「わかったっ!」
弓塚さんとの奇妙なパーティ編成。
果たしてどうなる事やら。
「さて、どこから行きましょうか」
「フジョーには何度か忍び込んでいろいろ調べてたから部屋の位置とかもだいたいわかるけど?」
フジョー城に入ると弓塚さんはそんな事を言った。
「それは助かりますね。町人たちが囚われていそうなのはどこです?」
「もちろん牢屋。こっちに道があるの」
てくてく歩いていく弓塚さんのあとをついていく。
「ここ」
「……ここ?」
弓塚さんの立っている場所の前には巨大なブロックがあるだけだった。
「これをね。こうして……」
両手でそれを押し始める弓塚さん。
ずず……ずず……ずんっ!
ブロックは陥没している箇所にはまり、その先には道が開けていた。
「結構力があるんですね……」
スイッチの番人には勝てなかったくせに。
「ああ、これ? パワーリストのおかげ。最近通販で買ったの」
そう言って弓塚さんは自分の腕についたわっかを見せてきた。
「それのおかげでパワーが出ると?」
「そう。これくらいならちょちょいのちょいっと」
ずんっ!
さらに続いていたブロックを落とす弓塚さん。
「便利なアイテムみたいね」
「欲しければあげるよ。でもみんなを助けてからかな」
「ありがとうございます」
弓塚さんの怪力のおかげで道中はとても楽に進む事が出来た。
「……ん」
しばらく進むとなんだか周囲が暑くなってきた。
「この先は溶岩地帯だったかな」
「よ、溶岩?」
「落ちたら一発でアウトだよ。気をつけてね」
「なんでそんなものが……」
「ウロボロスが作ったんでしょ」
「……」
この城を改築した人は、普通に働くという道を選べなかったんだろうか。実に惜しい。
「気をつけてねー」
ひょいひょい先へ進んでいく弓塚さん。
「ちょ、待ってくださいっ」
下から跳ね上がってくる溶岩をかわしながら先へ。
「ここは上下するブロックに乗っかって移動するのー」
「だからそんなに急がないで……っ!」
弓塚さんは一切無駄な動きが進んでいく。
「せ、せーのっ……」
私は覚悟を決めたりタイミングを計ったりでそう一気に進む事は出来なかった。
「ここはしばらく待ってればー」
「……」
いくらあらかじめ内部を調べたからと言って、こうも迷いなく進めるものなんだろうか。
もしかして、弓塚さんはウロボロスに通じて……
「弓塚さん、その……」
「ん?」
私が確認をしようとしたその時。
「うにゃー!」
ネコアルクの鳴き声が聞こえた。
「行こうっ!」
「え、あ、はいっ!」
戸惑いつつも、今の私には弓塚さんの後を追う事しか出来ないのであった。
続く