「何なのかしら、あの人……」

何かとんでもない勘違いをしていたみたいだけど。

「……ま、いいわ」

探し出して誤解を解けばいいだけだものね。

遠野の当主が来たとあれば、すぐに町人は協力してくれるだろう。

「さてと」

当主たるもの、優雅に町へ向かわねば。
 

私は華麗なる貴族の歩き方で城下町アリマへと進むのであった。
 
 

「トオノの為に鐘は鳴る」
その8







てとてとててー。てとてとてとてててー。

「ヒソヒソヒソ……」
「ん?」

町に入るなり人が集まっているのが見えた。

「でね、その人がウロボロスにしか架けられないはずの架け橋を……」
「何を話しているんです?」

少し離れていたが私は声をかけてみた。

「あっ……! みんな隠れてっ!」

さささささささっ!

「……ちょ、ちょっと?」

ツインテールの人が叫んだ途端、みんな蜘蛛の子を散らすように去っていってしまった。

「まずいわ……」

何か良からぬ事を話されたのではないだろうか。

「い、いえ、そんな事はないはず」

私のこの溢れる気品を感じてウロボロスの一味だなんて勘違いする輩がどこにいるのだろう。

「まずは情報収集よ」

とにかく町を散策してみよう。
 
 
 
 
 

「だ……誰もいない」

町の中は誰も歩いてなく、しんとしていた。

「き、きっとみんなどこかにいるはずよ」

さっきはあんなに人がいたんだから。

どこかに集まっているのかもしれない。

「……はぁ」

誰もいない町というのは結構不気味である。

私は周囲を見回しながら歩いていた。

「ん?」

井戸の前で何か動いたような。

「誰かいるの?」

声をかけてみる。

「にゃー」
「……なんだネコなの」

期待して損した。

「一体みんなどこに……」

と、井戸の傍を通り過ぎようとして。

「……え?」

そこにいた謎の生物に目を奪われた。

「うにょー」

猫のような鳴き声をあげている生物。

猫のような耳で、猫のような手。

マンガに出てくるようなディフォルメされた体、適当に描かれた様な丸い瞳。

「なに……これ?」

この町に生息する珍生物だろうか。

「……にゅ?」
「!」

目が合ってしまった。

「にょ……うにょにょ……」

私を見ながらぶるぶると震え出す珍生物。

「な、なによ……」

私は警戒して後ずさった。

「にゃにょうにょー!」
「ちょ!」

私に飛び掛ってくる珍生物。

「このっ!」

慌てて叩き落とす。

「たわばっ!」

地面に落ちて変な声を上げる。

「うにょー! うにゃー! きしゃー!」

そいつは手をじたばたさせながら叫んでいた。

「……なんだかわからないけど無性にむかつきますね」

取りあえず頭を叩いておいた。

「うにょらー! とっぴろきー!」

するとさらに叫び出す珍生物。

頭を押さえつけると届きもしないのに手をぶんぶん振り回していた。

「……ああもう」

こんなのと関わっていると私までどうにかなってしまいそうだ。

こんなヤツは無視する事にしよう。

「……」

押さえつけていた手を離し、すたすたと歩き出す。

「にょ、にょー!」

それでも珍生物はぴょこぴょこ跳ねて私の後をついてきた。

「ついて来ないで下さいっ」
「うにー!」

頭を掴んで遠くに投げ飛ばしてやる。

「……これでよし……と?」

ふと見るとすぐ傍に道具屋があった。

「ここなら誰かいるかしら」

そう思って中へ入ってみた。

「い、いらっしゃいませ……」
「……やっと人がいたわね」

挙動不審なのはこの際大目に見よう。

「ねえ。ちょっと聞きたいんだけど……」

どんっ。

「……は?」

突然横から衝撃を受けた。

「ご……ごめんなさいっ!」
「あ、あなたは!」

さっき私をウロボロスだと勘違いして走っていったツインテールの女!

「ちょっと待ちなさい! 話を……」
「それじゃっ!」
「……あっ!」

しかもそのツインテールが持っている袋は、私の全財産が入ったものであった。

まさかぶつかった瞬間に盗られたっ?

「ド、ドロボー!」

慌てて後を追いかける。

「……わ、わわっ!」

ツインテールは道具屋のすぐ隣の小屋へ入っていった。

「こら! お金を返しなさーいっ!」

すぐに後を追う。

「……っ」

小屋の中は真っ暗だった。

「何も見えないわよ! 明かりをつけなさい!」

暗闇に向かって叫ぶ。

「うふふふふふ……飛んで火に入るウロボロス」

すると闇の中からツインテールが現れた。

「さぁみなさん! やっちゃって下さいっ!」
「えっ……」

気付くと私は町人たちに囲まれていた。

「ちょ、あ、貴方たち! 私は……!」
「うわーっ!」

誤解を解こうと叫ぶものの、町人たちは聞く耳を持たなかった。

「よしなさい!」

だからといって町人を傷つけるわけにはいかない。

「このっ!」

必死で攻撃を避けながら叫ぶ。

ばきっ!

「うっ……!」

さっきの番人との戦いの傷が癒えてない状態では攻撃を避けるのも困難だった。

どごっ!

「……ま、まだまだっ!」

ぼこっ!

「痛っ……!」

どがっ!

「うぅ……」

もはや抵抗する事も適わない。

「多勢に無勢……む、無念……」

がくっ。

そこで私の意識は途絶えてしまった。
 
 
 

「さまっ! 秋葉さまっ!」
「……はっ」

目が覚めたのは病院のベッドの上だった。

「ここは……」
「お気づきになられましたか秋葉さま」
「啓子さん?」

そして傍に立っていたのは港町で別れた啓子さんだった。

「橋が架かっていなくて困っていたのですが、先ほど架かっているのを見て戻ってきたのです」

つまり私が架けた直後に町へ来たということか。

「それと、秋葉さまに頂いたお金は港町の地震の被害を修復するために使わせて頂きました」
「……そう。それはよかった」

何せあれほどの地震だ。様々な場所に被害を与えた事だろう。

「秋葉さまも何やら大変な目に遭われたようで……」
「そ、そうよ」

その言葉でさっきやられた怒りが甦ってきた。

「まったく……闇討ちなんて卑怯だわ!」

この町の人間は私に何の恨みがあるというんだろう。

「お許し下さい。町の皆は遠野の名を知っていても秋葉さまの顔を知らず……」

まあ確かにこっちに来る事は滅多に……というか初めてなのだけど。

「だからってウロボロスと勘違いするなんて酷すぎよ」

私から出る気品を感じる事が出来なかったんだろうか。

「その……弓塚さんの話でてっきりウロボロスの手先だと勘違いしたみたいで」
「弓塚? あのツインテールのドロボウの事?」

懐を探ってみたものの、私の持ってきたお金はスッカラカンになってしまっていた。

あの女が持ち逃げしたんだろう。

「泥棒? 弓塚さんがまさかそんな事を?」
「そうよ! 今どこにいるの! 成敗してあげるわ!」

人をウロボロスだと誤解した挙句、お金を盗んでいくなんて。

あっちのほうが悪人そのものではないか。

「さっちんなら今はいないよ」

私が憤慨していると、そんな声が聞こえた。

「……都古?」
 

声のした方向に立っていたのは都古だった。
 

続く



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