「この町の外の穴蔵に人がいるはずだ。そいつが詳しい事情を知ってるんだと」
「……まずはその人に話を聞かなくてはいけないようですね」
「ま、そういうこったな」
「わかりました。我が兄、遠野志貴と、ついでにアルクェイドさんのために……」
 

この秋葉、どんなところへでも向かって行きます!
 
 

「トオノの為に鐘は鳴る」
その23



「いよう」
「……乾さんじゃないですか」

トウサキから外へ出て穴蔵へ向かうと、そこで待っていたのは乾さんだった。

「いや悪いな。町のみんなも結構せっぱつまってるだろ? そんなとこで金云々の話をしたら……」
「なるほど」

混乱が起こるのは必至ということか。

「ただ、オレも詳しくは知らないんだ。その辺の事を知ってる知り合いは城下町にいる」
「城下町……アリマですか?」
「ああ。そこに住んでる弓塚さつきって奴なんだが」
「弓塚っ?」

まさかここであの人の名前を聞くことになるなんて。

「ん? 知り合いなのか?」
「……被害者です」

お金は盗まれるし、噛みつかれもしたし。

「なんか込み入った事情がありそうだが……とにかく聞いてみるといいさ。オレからの紹介だっつったら信用するだろ」
「どうでしょうね……」

あの人の行動にもイマイチ謎な部分が多いし。

「わかりました。では城下町へ戻ってみます」
「おう。気をつけてな」

そんなこんなで来た道を引き返し城下町へと向かう。

帰りは虎の穴の別ルートを見つけたおかげで道場を通らずに済んだ。
 
 
 
 

「……ん?」

久しぶりの城下町の光景が見えてくる。

なんだか妙な気配を感じた。

「あれは……!」

町の中にいるのはウロボロス兵っ?

「ヒャーッハッハッハッハッ。どうした? その程度か?」
「……このっ!」

ばきっ!

「都古!」

見るも無残な光景となった町の奥では、都古が大勢のウロボロス兵相手に奮戦していた。

「子供相手になんて大人気ない!」

剣を抜き、人垣に向かって切りかかる私。

「うおっ? な、なんだ!」
「覚悟しなさい!」
「うわーっ!」

群れてはいるものの各個の実力は大した事はないようだ。

ばったばったと兵を倒していく。

「ひ、引けっ! 引けーっ!」

ウロボロス兵たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「ふんっ……」

まったくなんてやつらだろう。

「都古。大丈夫だった?」
「うんっ! あんなやつらへっちゃらだい!」

そう言ってびしっとポーズを取ってみせる都古。

「他の人たちは?」
「……わかんない。もしかしたらフジョーに連れて行かれちゃったのかも」
「そう……」

この状況ではそう考えるのが妥当だろう。

「弓塚さんは見なかったわよね」
「さっちんはわかんない……最近見てないから」
「……ああもう」

この状況を見てはいさようならと言えるわけがない。

「都古。貴方はどこかで啓子さんと隠れてなさい。私はフジョーへ向かうわ」

もしかしたら弓塚さんもそこにいるのかもしれないし。

「うん、わかった!」
「いい返事ね」

都古と別れ、町の中央へと歩いていく。

「うにょー!」
「?」

すると町の入り口のほうからいやにハッスルしたネコアルクが走ってきた。

「も、もしかしてアルクェイドさん?」
「しゃーっ!」
「あ、ちょ、ちょっとっ?」

有無を言わさず私にタックルを仕掛けてくるネコアルク。

「……っ!」

そして私の後ろには井戸が。

「ま、まさか……」
「しゃねよやー!」
「きゃーっ!」

どぼんっ!

私は井戸に突き落とされてしまった。

「いきなり何をするんですかっ!」

井戸から這い上がって文句を言う私。

「それはこっちのセリフよ妹!」

この不愉快な呼び方。やはりアルクェイドさんで間違いないようだ。

「春を告げるベルもまだ鳴ってないのに……なんで貴方だけ元に戻ってるのよ!」
「そ、それはその……琥珀からクスリを買ったんですよ」
「ふぅん」

ぎろりと大きな目で私を睨み付けるアルクェイドさん。

「例によって金で解決したわけね。妹らしいわ」
「……仕方ないじゃないですか」
「はぁ。こんな事になるんだったらわたしもお金を用意してくるんだった。今は手持ちもないし……」

大きくため息をつく。

「春になるまで待つしかないのかしら?」
「い、いえ、それがその……」
「なに?」
「……実は」

私はあまり話したくはないが、今のトウサキの状況を説明した。

「え? 春を告げるベルは壊れていて春になっても鳴りそうにない?」

後ずさるアルクェイドさん。

「しかもその修理費をクスリを買うために使った……?」
「ち、違いますそれはっ! 鐘が壊れていることなんて知らなくて……」
「……見そこなったわよ妹っ!」
「あっ!」

アルクェイドさんはものすごいスピードで走り去っていってしまった。

「ち、違うんですアルクェイドさん……」

私は琥珀に騙されて……!

「……」

なんだろう。

わからないけど、かけがえのない何かを失ってしまった気がする。

がさっ。

「……誰ですっ?」

私が落ち込んでいると物影から音が鳴った。

「ごめんね、話は全部聞かせて貰っちゃった」
「あ、貴方は……」

そこに立っていたのは探していた弓塚さんだった。

「人生って色々あるよね。でも落ち込んじゃ駄目だよ。頑張ってればいいことだってあるんだからっ」
「……それはお金を盗まれたり噛みつかれたりするということですか?」
「え?」
「わからないようですね……」

反省しているならともかく、悪びれもせずに現れるだなんて。

私の怒りは今、頂点に達しようとしていた。

「も、ももも、もしかして、あの時の……」
「そうです! ダイテイトの時はよくも噛みついてくれましたねっ?」
「わ、わあっ!」

脱兎の如く駆け出す弓塚さん。

「逃がしません!」

アルクェイドさんは追いかけられなかったけれどこの程度のスピードなら!

「……っ」

右へ左へ誘導し、ついに追い詰めた。

「ウ、ウロボロスの手下なんかに負けないんだからっ!」

などとほざき身構える弓塚さん。

「まだそんな事を言っているんですか! 私は正真正銘遠野家当主の秋葉です!」
「……ほ、ほんとに?」
「くどいですよ! 遠野志貴は私の兄です。兄さんから話を聞いた事だってあるでしょうっ!」
「あ、う、え、えと……」
「ああもう面倒ね!」

果実をかじり、人間の姿に戻る。

「この姿を見てまだわからないんですかっ!」
「ほ、ほんとだ。そ、そういえば遠野くんが言ってた特徴と似てる……」

なんだかごく一部のところに目線が集中しているのが不愉快だが、ようやく誤解は解けたようである。

「ご、ごめんなさい。わたしてっきり……」
「まったく。勘違いも甚だしいですよ。……って弓塚さん。聞きたいんですが」
「はい?」
「あなたさっき猫又の私と普通に話してたわよね?」

琥珀もそうだったけど、あれはまあ特殊な例として。

「あ、うん。実は琥珀さんからクスリを買ったの。ネコアルクの言葉がわかるクスリ」
「……ふーん」

それは一体何の役に立つんだろうか。

「ほら、最近ネコアルクがたくさんいるでしょ。だから遠野くんの情報も知ってるんじゃないかなって」
「他にも……聞きたい事は色々あるんですが」

貴方と兄さんはどんな関係なの? とか。

「あ、う、うん。なんでも聞いて」

誤解の解けた弓塚さんは割と素直だった。

「では聞かせてもらいます……」
 

ここから私の長い質問タイムのはじまりである。
 

続く



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