「トオノの為に鐘は鳴る」
その51
「ふう」
そんなこんなでやってきました株式会社型月。
「いらっしゃいでちゅ。何か御用でちゅか?」
「私は遠野秋葉。シエル先輩に会いに来たの。いらっしゃるかしら」
受付の妙てけれんなキノコにも慣れてしまった。
羽居の持ってたアレよりはこっちのほうがまだマトモそうである。
「ちょっと待つでちゅ……しーきゅー、しーきゅー……」
「……」
「左の研究所にいるでちゅ。どうぞでちゅ」
「わかりました。ありがとう」
キノコにお礼を言ってから、道なりに進み研究室のドアをノックした。
「どなたですか?」
「私です。秋葉です」
「ああ。秋葉さんですか! いいところに来てくれましたっ」
シエル先輩は勢いよく研究所のドアを開けて現れた。
「……」
おかげで私の鼻に赤い跡が出来てしまった。
「あ、す、すいません。つい」
「い、いえ、別に気にしていませんから」
こんな事で怒っている場合ではないのだ。
「それで、以前に私が提案したものの件なんですが……」
「そうです。見てくださいコレを!」
シエル先輩が指差した先にはアンテナが二本生えた帽子型の機械が置かれていた。
「どんな動物でも自由にコントロールできる機械です!」
「それは例えば人間でもですか?」
「ええ。勿論可能ですよ。でも悪用なんかしちゃダメダメです」
「……出来るんですか」
結構この人とんでもないもの作っちゃうのね。
「あったりまえです。マンモスだろうがうーパールーパーだろうが思いのまま!」
「軋間という一族の生き残りなのですけど……」
「軋間だってへっちゃらです! ……あ!」
「なんですか?」
「名前が決まりました。『キシマックスコントローラ』です」
「……」
なんていうか絶望的なネーミングセンスである。
「あらら? あまりの感動に言葉も出ないようですね?」
「え、ええ、まあ……」
苦笑いしながら機械を受け取る私。
「これの使い方ですが、戦闘中にアイテムとして使って下さい」
「ありがとうございます」
「後は、わたしのライフワーク、第七聖典の完成です」
「第七聖典?」
はてどこかで聞いたような。
「ジャングルに巣食っていたネロも倒したことですし、わたしもウロボロスを倒すために本格的に動くつもりです」
「それは頼もしいですね」
なんといってもこの人は魔物退治のプロである。
「これが完成した暁には、ウロボロスのボスなんかちょちょいのちょいのはずです」
「間に合えばいいですけどね……」
「イヤな事を言わないで下さいよ。完成の際には私から連絡を入れますからね」
「わかりました。では急ぎますので」
「あ、ちょっと秋葉さん?」
シエル先輩が何か言いかけたけど、気にしている場合じゃない。
「急がないと軋間が復活してしまうんです!」
「そうですか。頑張ってください」
「ええっ!」
大急ぎでトウサキに戻り、さらに全速力でナナヤの村へ。
「あ、戻ってきた。おかえりなさーい」
「……」
ミスブルーはベッドの上でバナナを食べていた。
なんというか、彼女を見ていると頑張っている自分がバカらしくなってしまうのは何故なんだろう。
「軋間は結界で広場から出れなくなっているわ」
「え?」
「残念だけど今のあたしじゃ結界張るので精一杯。これで村には被害は出ないから、思う存分やっちゃって頂戴!」
「……ありがとうございます」
前言は撤回しよう。
この人は今の自分に出来る事を最大限にやってくれていた。
後は私もやるべき事をやるだけだ。
「ま、せいぜい頑張ってねー」
「……ええ」
しかしこの口調と態度だけはなんとかならないものなのかしらねえ。
「……軋間」
「ぬ」
結界の中に入ると軋間が私をぎろりと睨みつけてきた。
「敵か……」
そして私に向かってじりじりと歩いてくる。
「今度は勝たせて貰いますよ」
一瞬の隙をついてコントローラーを被せるのだ。
「面白い。やってもらおうか」
軋間はにやりと笑い、地面を強く踏みつけた。
「欣求浄土!」
ゴッ!
炎の壁がその場に現れる。
「……っ」
後退してそれを避ける私。
「貴様の力は見切った。出来そこないの貴様では俺には勝てんぞ」
「誰が出来そこないですってっ!」
キィン!
剣を振るうがそれはあっさりと防がれてされてしまった。
「功徳が足りん!」
「ぐっ……!」
悔しいけれどこいつは強い。
「……よくしゃべるように……なったわね……!」
さっき戦った時はほとんど咆哮のようなものしか発していなかったのに。
「……」
それを聞いた軋間は不敵な笑いを浮かべていた。
「貴様程度ならば無駄口を叩く余裕があるということだ」
ガキイッ!
「なっ……!」
私の剣は弾き飛ばされててしまった。
「トドメだ!」
そこを狙いにくる軋間。
「……!」
その瞬間、私はカガミの盾を軋間に向けた。
「ぬっ!」
軋間の動きが鈍る。
「この……おっ!」
私は思いっきりジャンプし、軋間の頭にめり込むくらいの勢いで機械を取り付けた。
「ぐっ……がっ!」
姿勢を崩す軋間。
機械のランプが緑色に光り、怪しげな音を放ち出した。
「やったっ?」
「がが……ぐっ……貴様……何……を……! がああああっ!」
目が赤く血走り、咆哮をあげる軋間。
やはり理性のある人間をコントロールするには時間がかかるのだろうか。
「がっががががっががが!」
「……」
私はじっと軋間を見つめていた。
「ガガッガ……カレーは……トテモトテモ素晴らしいデース!」
「何を作ってるのよあの人はっ!」
今までのシリアスな空気が台無しである。
「ウガアアアアッ!」
ビキッ!
「なっ!」
なんと、コントローラーに亀裂が入ってしまった。
このままじゃ……まずい!
「……!」
「レン?」
いつの間に結界の中にいたんだろう。
レンが私の脇をすり抜け軋間へ向かっていった。
そして軋間の額に指を指差し、なにやら光のようなものを放っていた。
「……おお、お……」
軋間の動きがだんだんと鈍くなっていく。
どさっ。
そして力無く地面に倒れこんだ。
「……何をしたの?」
「……」
レンは首を傾げていた。
「苦しそうだったから、幸せな夢を見せてあげたんだって」
「白レン……」
「今は夢の中よ。機械の効果もあるでしょうし、目覚めたら大分丸くなってるでしょうね」
「そう……」
どうやら終わったらしい。
「んー……お疲れお疲れー」
「ミスブルー」
大きく伸びをしているミスブルー。
「感謝するわ。軋間を退治してくれて」
そう言ってにこりと笑う。
「……機械を取り付けただけですけどね。最後にはレンが止めたわけですし」
「謙遜しなーい。貴方は村の滅亡を守ったのよ?」
「それもあなたの結界のおかげですよ」
「またまたー。貴方がいなきゃどうのもならなかったんだからっ」
どんと勢いよく背中を叩かれる。
「……っとっとっと」
バランスを崩して何歩か前に進んでしまう私。
「どうもありがとうございます!」
「これで平和に暮らすことが出来ますだ!」
「貴方こそ救世主です!」
そこには私に感謝の言葉を伝えてくれる大勢の村人たちがいた。
「……わ、私はその」
「よかったじゃないの、アキバさま」
「だからー……」
くすくすと笑う白レン。
「みんな、アキバさまコールよ。アキバさまばんざーい!」
そうしてみんなに向かってそんな事を叫ぶ。
「アキバさまばんざーい!」
「だから私の名前は秋葉で……!」
「秋葉さまばんざーい!」
「秋葉さまばんざーい!」
「……っ」
私は歓喜で不覚にも涙が出そうになってしまった。
「みなさん、ありがとうござい……ま……」
そして気持ちが緩んだ瞬間、意識は一気に闇の中へと溶けていった。
続く