「そうですか! やはり貴方もそう思いますか!」

すると知得留先生がぎゅっと私の手を握ってきた。

「それならば頼みがあるんですけど……」
「な、なんです?」

なんだか嫌な予感がする。

「ああ、その前に自己紹介が必要ですね」

知得留先生はにこりと笑いながら、こう名乗るのであった。
 

「わたしは埋葬機関の代行者、弓のシエルといいます」
 
 

「トオノの為に鐘は鳴る」
その31



「……それは知ってますけど」

この人とは何度も会ってるんだから。

地下の誰もいない部屋とか妙なところで。

「……あら?」

なにやら肩書きが違うような。

格好も微妙に違うし。

「貴方、知得留先生じゃないんですか?」

気になって尋ねてみた。

「知得留先生……ああ」

一瞬首を傾げた後、ぽんと手を叩く知得留先生……もといシエルさん。

「あれはアイテムの使い方を知らない人に使い方を教える立体映像プログラムなんですよ」
「り、立体映像?」
「はい。モデルはわたしなんですが。初めての人がウチのアイテムや宝箱を触ると自動的に出現するんですよ」
「なるほど……」

それで最初は神出鬼没だったのか。

「……結構色々作ってるのね」

ネジからロケットまでといったところだろうか。

「ちなみにわたしは一応ここの開発所長もやってたりします」

きらりとメガネを光らせるシエルさん。

「開発所長ってことは……アイテムを作れるんですか?」
「それは勿論です。まあ先に話をさせて下さいな」
「は……はいっ」

ひょんなところでアイテムへのラインが掴めてしまった。

まさに思わぬ幸運。

弓塚さんと別れた反動……ってわけじゃないわよね?

「実はこのビルの北に小さなジャングルがあるんですよ」
「え? あ、はい。そうなんですか」

とにかく今は話を聞くことにしよう。

「そのジャングルの奥にスパイス畑があるんです」
「それって……私用の畑ですか?」

職権濫用なんじゃないだろうか。

「研究に必要なんですよ」
「……」

どうも胡散臭かった。

「で、とにかくですね。そこをウロボロスの連中が占領しちゃったんです」
「……なんでまたそんな事を?」
「会社の嫌がらせでしょうね。ウロボロス対策のアイテムも色々と研究してるんで」
「はぁ……」

会社へのというよりは、この人限定の嫌がらせのような気がするけど。

「それ以来誰もスパイス畑に近づけないんです。わたしがぱっと行ってぱっと片付けられればいいんですが……」
「出来ないんですか?」
「あいにく、商品の開発が忙しくて。今だってやっとお昼なんですよ」
「……な、なるほど」

今はお昼というには相当遅い時間だった。

それだけ忙しいという事だろう。

「とにかく、そこへ行ってスパイスを取ってきてくれれば何でも欲しい物をあげちゃいます」
「ほ、本当ですか? ならば大岩を動かせるようなアイテムが欲しいんですが……」
「それぐらいなら楽勝です。うってつけのがありますよ」

にこりと笑うシエルさん。

「……」

しまった、胸の大きくなる機械とでもいえばよかっただろうか。

い、いいえ! 胸の大きさは個性です。そんなに気にする必要なんてないんだから!

「つまり、交換条件ですね」
「ええ。アイテムが欲しかったら、スパイスを持って来てくれということです」
「……わかりました」

渋々ながらに頷くわたし。

なんだか変な方向に話が進んでしまったけれど。

目的には近づいているのだ。なんら間違ってはいない……はず。

「お願いしますよ、遠野秋葉さん」

そう言ってにっこりと笑うシエルさん。

「ええ」

私は早速そのジャングルとやらに……

「……って」

ふと気付いて振り返る。

「シエルさん。何故私の名前を?」
「ふふふふ」

シエルさんは怪しく笑っていた。

「それを知りたいのならば、やはりスパイスを持ってくることですね」
「……ぬう」

さすがは知得留先生のモデル。

一筋縄ではいかないようだった。

「……私の知り合いでこんなのが一人いたけど……」

まあアレよりはマシか。

「頑張ってくださーい」
「……はいはい」

シエルさんに見送られ、食堂をを後にする。

「さてと……」

さっきの鉄の盾でも買っておくか。

「いらっしゃーい」
「これを下さる?」
「あいよ。500Gね」
「……高い……」

今の私にはこんな盾を買うことすら精一杯だった。

「どうする? 買わないのかな?」
「……」

そういえばこの作務衣のおじさん、メカヒスイにお熱だったっけ。

「……実はメカヒスイに関する耳寄りな情報があるんですけど」

試しにそう囁いてみる。

「なんだって! 教えてくれたらタダでやるぞっ!」
「あら、いいんですか?」

予想以上の反応だった。

「い、いやダメだ。いくらなんでもそれは……」
「……っ」

しまった、余計な事を言わずに貰っておけばよかった。

「……さ、300Gでどうかな?」
「まあ……いいでしょう」

200Gも安くなったんだから文句は言うまい。

「どうぞ」

品物を受け取り代金を手渡す。

「で、メカヒスイの情報は?」

おじさんはきらきら目を輝かせていた。

なんだか悪い事をした気がする。

「ええ、実は……」

まあ情報は嘘じゃないんだし、いいだろう。

「実は?」
「メカヒスイは琥珀という女が所有してます」
「ほうほう。それで?」
「……有効に使っているみたいですよ」

特に悪だくみの時に。

「そう……か」

おじさんは遠い目をしていた。

「人の役に立っているなら……それがメカヒスイの幸せなのかもしれないな……」
「……今のうちに」

私はそそくさとその場を後にした。

「でもやっぱりあの指ちゅぱを……アレ?」
 
 
 
 
 

「さてと」

買うものも買ったしジャングルへ向かおう。

道なりに歩いていけばたどり着くはずだ。

「……」

フィールドにはタコみたいな……いや、タコそのものがウロウロしていた。

「変なところねえ……」

タコを避けつつ道を歩く。

「……ぬ」

行き止まりになってしまった。

いや、ただの行き止まりじゃない。

「穴……」

入れとでもいうんだろうか。

「入るしかないんでしょうね……」

半ば諦めの気持ちで中へと潜る。

わさわさわさわさ。

「?」

何かがうごめく音が聞こえた。

「……」

恐る恐る目をこらしてみる。

「た、タコ……!」

そこは何匹ものタコのひしめく恐怖の空間であった。

なんていうかもう、足が、ヌメヌメが、にょろにょろうにゅうにゅと!

「変なゲームじゃないんだから!」

剣をぶんぶん振り回してタコを切り刻む。

うにょうにょうにょ。

「イヤー!」

倒しても倒してもキリがない。

「ふふふ、どうだい? 僕がライダーに作らせた恐怖のタコ空間……ガハアッ!」
「?」

何やら踏ん付けたようだけど気のせいだろうか。

「……ワカメ?」

足元にはワカメが転がっていた。

「気のせいだったみたいね……」

こんなとこに人がいるわけがないし。

とにかく急いで脱出せねば。

「てやあっ!」

再びタコを切り刻みながら進んでいく。

「……困りましたね。マスターに倒れられては出番が無くなってしまうではありませんか……」
「?」

穴を出る時にまた妙な声が聞こえた気がした。

「ほんと、変な場所ね……」
 

私はかけ足でその場から離れるのであった。
 

続く



感想用フォーム 励みになるので宜しければ感想を送って下さいませ。
名前【HN】

メールアドレス

更新希望ジャンル
屋根裏部屋の姫君   ななこSGK   トオノの為に鐘は鳴る   短編    ほのぼのSS   シリアスSS
その他更新希望など(なんでもOK)

感想対象SS【SS名を記入してください】

感想、ご意見【良い所でも悪い所でもOKです】



続きを読む

戻る