「シャアアアーーッ!」

迫ってくるムカデの牙をかわし、尻尾めがけて剣を振る。

ざしゅっ!

「ギァアアアアアアア!」
「な、何っ!」

混沌の男が叫び声をあげた。

「……いけるっ!」
 

私はひたすらに尻尾目掛けて攻撃を始めるのであった。
 
 


「トオノの為に鐘は鳴る」
その34






「せいっ!」

きぃん!

ムカデの攻撃はかなり激しかった。

巨大な体からは想像も出来ないようなスピード。

「ぐっ!」

ぶおんっ!

そして鈍重な攻撃力。

それらをギリギリでかわし、盾で受け、食らいながらもがむしゃらに攻撃を続ける。

「はぁ……はぁ」
「ギ……」

お互いに体力がほとんど尽きかけていた。

「……えええいっ!」

渾身の力を込めて連続攻撃を仕掛ける。

これで倒せなければ私の負けだろう。

「ギイイイッ!」

ムカデの尻尾が欠け、霧散していった。

ジュウウウウ……

そしてそのまま体も消失していく。

最後に頭が消えた。

「はぁっ……はぁっ……」

思わずその場に膝をついてしまう。

とんでもない相手だった。

固いだけでも手強いのに、あのスピード、あの攻撃力。

勝てたのが不思議なくらいだった。

「……よもやアレまでもが倒されるとはな」
「っ!」

そして私の目の前に立つ混沌の男。

「しかし体力の消耗した今、貴様をどうにかするのは容易いという事だ」

男は不敵に笑っていた。

「……」

今の私では、こいつどころかただの雑魚を倒せるかどうかも危ういだろう。

「このような形は不本意だがな。これも運命というやつだ」

男が漆黒の腕を振りかざした。

「……!」

駄目だ、やられる。

兄さん……!

キィン!

「な……!」
「え……?」

目の前では、混沌の男の腕が剣によって貫かれていた。

「黒鍵……まさか!」

混沌の男が宙を見上げる。

剣は宙から飛んできたのだ。

「……行きますよ」

青い影が宙を舞っていた。

「食らいなさいっ!」

ざんっ!

「ぐ……ぬっ……」

空中からの突進攻撃を食らいよろめく混沌の男。

「あ、貴方は……」

その姿が私の視界にくっきりと映る。

「研究生活ばっかりじゃ体がなまっちゃいますからね。ちょっと運動しにきました」
「……シエル、さん?」

突如現れた謎の人物の正体は、私に仕事を依頼したシエルさん当人であった。

全身を青い法衣に包んだその姿は、神聖な力を放っているように見える。

「何故……ここに」
「何故もへったくれもないでしょう。ネロ。……いえ、ネロの残骸とでも呼びましょうか。貴方の目的はわたしをここに呼び出すことだったはず」

混沌の男をぎろりと睨み付けるシエルさん。

その顔には型月で見た時のようなのほほんとした感じが微塵もなく、ぴりぴりとした威圧感を放っていた。

「……っ」

歯を軋らせる混沌。

「しかし、わたしに使うつもりだったムカデは秋葉さんに倒されてしまった。切り札はもうないのですよ」
「この女は……囮だったということか」
「……これ以上貴方に付き合うつもりはありません。浄化させてもらいます」

ちゃっと両手に大量の剣を構えるシエルさん。

「お……おのれえええっ!」

混沌の男が獣のような姿へ変化し、シエルさんに襲いかかっていった。

「……終わりです」

次の瞬間、混沌の男は大量の剣に串刺しにされ、その体を粉々に砕かれていた。

「……」

私はそんな光景を呆然と見ていた。

「大丈夫ですか? 秋葉さん。大変だったでしょう」
「……っ」

しかし、にこりと笑いかけてくるその姿を見て、急に腹が立ってきた。

「大変だったどころじゃありません! 危うく死にかけたんですよ!」
「す、すいません」
「事情ってなんですか! 貴方、あれだけ強いんだったら自分で戦いに来ればよかったでしょう!」
「ですから……それが出来ない事情があったんです」

シエルさんは真剣な表情をしていた。

「……話を聞きましょうか」

どうやた単に自分が戦いたくなかったとかそういう下らない理由ではなさそうである。

「ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げてくれるシエルさん。

「実は……型月では極秘にウロボロスを倒すための武器を研究しているんですよ」
「……武器?」
「ええ。しかし、そんな場所をウロボロスが放置しておくわけがありません」
「そりゃ……まあね」

敵にとってはものすごい邪魔な場所に見えた事だろう。

「そのための刺客があのネロの残骸であり、残骸から作ったムカデだったんです」
「ネロというのは混沌の男の名ですか?」

あいつに向かって何度かその名前を呼んでいたから間違いないとは思うけど。

「ええ。ウロボロスの作った模造品ですけどね。厄介な存在という事には変わりありません」
「……なるほど」

つまり、かつて兄さんが倒したネロという魔物の模造品を、ウロボロスが作り上げたということなのか。

「……奴らは型月を潰すために来たというんですか?」
「ええ。しかし、彼らはそれを出来なかった。どうしてか、わかります?」
「わかりませんよ、そんなもの」

確かに型月を潰すのが目的だったなら、さっさと攻撃を仕掛けてくるのが普通だろう。

「わたしが型月から出られなかった理由がそれなんです」
「……あ」

まさか。

「シエルさんが結界を張っていた……とか?」

確かどこかで聞いた事がある。

魔物や邪悪なものを遮断する結界を作れる職業が存在すると。

「はい。型月で働いている人間はわたしを除いて一般の民間人ですから。そのような人たちを危険に晒させるわけにはいきませんでした」
「……なるほど」

それが事情ということか。

「セブンに入り口を警戒させていたから、ジャングルから出てくる事も出来なかったはずです。しかし、放置しっぱなしにしておくわけにもいかない……」
「そこに都合よく私が現れた……ということですか」
「はい。遠野君から秋葉さんの事は聞いていましたしね」
「遠野君の……って! 貴方っ?」
「遠野君の知り合いですよ。正確にいえば先輩だったりもします」

そう言ってにこりと笑うシエルさん……いえ、シエル先輩。

「そ、それは失礼しました」

私とした事が、兄さんの先輩にずいぶん失礼な態度を取ってしまった。

「いえいえ気にしないで下さいな。普通にしてくださったほうがわたしも楽です」
「そ、そうですか……」

しかし先輩というのは一体何の先輩なんだろうか。

「ま、こんなところで話するのもなんですし、一度型月に帰りましょう。目的のアイテムも用意してありますので」
「あ……はい」
「……っと、ちょっと待って下さい」
「?」

自分から帰ると言い出したのにどうしたんだろう。

「これを持って帰らないと、来た意味がないですからねー」
「……」

シエル先輩は満面の笑顔でそのへんのスパイスらしき植物を採取し始めていた。

「見てないで秋葉さんも手伝ってくださいよ」
「……」

この人、私を助けるためにじゃなくてただスパイスが欲しいだけだったんじゃないだろうか。
 

ついそんな事を考えてしまうのであった。
 

続く



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