「わたしに出来るのは時間稼ぎだけ。はやく探してきてよ!」

しっしと追い払う仕草をするアルクェイドさん。

「誰を探すんです!」
「誰をって……決まってるでしょ!」

さも当然のようにアルクェイドさんは言った。
 

「志貴を探して来て! 志貴ならコイツを二度と復活させないように出来るから!」
 
 





「トオノの為に鐘は鳴る」
その62






「兄さんが……?」

あの兄さんに何が出来るっていうの?

「秋葉さん。今はアルクェイドの言う事を聞いてください」

先輩までそんな事を言ってくる。

「……わかりました」

兄さんは少なくとも近くにいるはずなのだ。

一体どこで油を売っているんだか!

「おお……うおおおおおっ!」
「きゃあ!」
「アルクェイドさんっ?」

走り出した瞬間ロアの唸り声とアルクェイドさんの叫び声が聞こえた。

「あれ……は」

一面に広がった血の池。

「近づけまい真祖。いくらキサマと言えどもわたしの肉体に到達するまでに傷は免れんぞ」
「ぐっ……」

後ずさるアルクェイドさん。

「傷ぐらいなんだっていうんですか! 貴方ちょっとやそっとじゃ死なないでしょう!」
「……それがまずいのよ!」
「え?」
「わたしの血がこいつの血に混ざった瞬間コイツは力を回復しちゃうの!」
「んなっ……」
「そう。真祖の血は莫大な力を持っているからな」

血の池から槍が飛び出した。

「ふんっ!」

あっさりとそれを打ち砕くアルクェイドさん。

「そうか……だから」

だから真祖であるネコアルクを捉えようとしていたのか。

いわば血統種であるアルクェイドさんには劣るだろうが、十分な力を得れる可能性があったということだ。

「ここでキサマの血を頂くとしよう」

血のうねりが部屋中に広がっていく。

「くっ……」

赤く染まった部屋。

悪趣味どころのさわぎじゃない。

「ここはわたしが!」

シエル先輩が数少ない地面を蹴ってロアへと向かっていく。

「代行者……か」

ぶわっ!

「っ!」

先輩を覆うように血の波が跳ねた。

「……非常識にも程があります!」

先輩の武器はそれらを弾いていくが、キリがない。

「ふははははは……どうだ、わたしの血の結界は!」
「……出血多量で死ぬとかないのかしら」

苦々しい顔で呟くアルクェイドさん。

「吸血鬼にとって血は必要不可欠なものだ。しかし、それを攻防に使うのがこれほど厄介とは思わなかっただろう?」
「くっ……」

確かにこの状態では攻めるも守るも不利だ。

「そうしているうちにわたしは新たな体を捜す……と。簡単な問題だ」
「新たな……?」
「させないわよ!」

アルクェイドさんの攻撃。

「甘い」
「ぐっ……」

ダメージを受ける事をためらっているのでどうしてもキレがなかった。

「そうだな。そこの秋葉の体など……いいかもしれない」
「!」

目戦が合った瞬間例えようの無い悪寒が私を襲った。

私の体をですって?

冗談じゃない。

「妹! さっさと行きなさいよ!」
「言われなくても!」

急いで兄さんを……

「死ね!」
「えっ……」

気付くと目の前に血の剣が浮いていた。

「しまっ……!」

やられる……!

「そこだ!」

ずばっ!

「え……」

私の背後から飛んできた一本のナイフが血の剣に刺さった。

血の剣は粉々に砕け散る。

「なっ……!」

ナイフは尚も飛び続け。

「ぐ……あああああっ!」

ロアの腕に突き刺さっていた。

「今の声……まさか!」

振り返る私。

「……遅れてすまない」
「……!」

感動のあまり、声が出せなかった。

「志貴!」

そう、私がずっと探していた兄さん。

「皆さんお揃いのようですねー」
「!」

そしてその隣に立つ人物を見て愕然とした。

「琥珀……!」

私をばけねこ姿にし、それ以外にも色々と暗躍していた琥珀である。

「さあ、今こそ邪悪の根源であるアイツを倒すチャンスですよ!」
「いきなり出て来て仕切らないで!」
「そんな怖い顔しないで下さいよ秋葉さま。志貴さんを説得するの大変だったんですから」
「……兄さんを?」
「……」

琥珀のおちゃらけた表情と対象的に兄さんは緊迫した表情だった。

あんな怖い顔をした兄さんを見るのは初めてかもしれない。

「志貴……?」

アルクェイドさんも戸惑った顔をしている。

「みんな、下がっててくれ。コイツは俺が倒す。いや、倒さなきゃいけないんだ」

兄さんはアルクェイドさんの横を通り過ぎていった。

「ちょっと琥珀! 兄さんに何を吹き込んだのよ!」

いくら最後の敵が相手だからって様子がおかしすぎる。

「わたしはただ事実を伝えただけですが」

琥珀は無表情にそう呟いた。

「事実……?」
「行くぞ!」
「き……さま!」

血の池が兄さんを覆い隠す。

ずばっ!

「無駄だ」
「え……」

それらが一瞬で粉々に砕かれていく。

「兄さんってあんなに強かったの……?」
「志貴の能力よ」

アルクェイドさんがそんな事を言う。

「志貴はね。モノの死を見る事ができるの」
「モノの……?」

突拍子もなさすぎてそれがどういう事なのかよくわからない。

「遠野君の能力なら、ロアを転生させずに殺す事が出来るでしょう」
「そ、そうなんですか」

そんなに凄い力を持っていたなんて。

「憑依されている体ごと」
「……」

憑依とは何の事なんだろう。

「確実に殺せるという事ですよね?」

琥珀が尋ねた。

「……はい」

頷くシエル先輩。

「まさか……こんなバカな!」

ロアは兄さんの攻撃によって追い詰められていた。

血の攻撃も兄さんには一切通用しない。

「これで決める……!」

兄さんがナイフを振るう。

「ぐああああああっ!」

ロアの体がぶれた。

「!」

先ほども見えた、短い白い髪の男。

「……」

気分が悪い。

どうして、どうして……

「秋葉さん、どうしたんですか?」
「……ちょっと」

眩暈がする。

世界が歪む。

「……っ」

レンが私の体を支えてくれた。

けれど、持ちそうにない。

「トドメだ……!」

兄さんが最後の一撃を放とうとしてた。

「……駄目です兄さん!」

私は何故かそう叫んでいた。

「え……」

どうしてそんな事を。

わからない。

何もわからな……

「秋葉!」
 

私の意識はそこで途絶えてしまった。
 

続く



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