兵たちが座っていた机の上に鍵が置いてある。
「ダイア型のカギ……」
何かの役に立ちそうな感じだ。
せっかくだから貰っておこう。
「……とにかく急いで戻らないと!」
私は大急ぎで来た道を引き返すのだった。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その17
「も、戻れない?」
私が来た時通ってきた道の扉は、押しても引いてもさっぱり動く様子がなかった。
「ああ、もう!」
さっきのカギが役に立つかと思いきや、鍵穴なんてどこにもないし。
「他のところから行くしかないわね……」
ちょっと進むとカギのマークと同じものが書かれたドアがあった。
「……もしかして」
試しにカギを入れてみる。
がちゃ。
すんなりとそれは開いた。
「……仕方ない」
こっちに進んでみよう。
その道をしばらく進むと再びドアがあった。
『右 地下水道入り口』
なんだか嫌な感じがするけれど、この際文句は言っていられない。
「こっちに行くしかないわけだし……」
カギを開け、地下水道の中へと飛び込んだ。
ボコボコボコボコ……
「呼吸が出来るからっていい気分じゃないわね」
得体の知れない目玉みたいなものがぶよぶよ動いてたりするし。
水もぬめぬめして気持ちが悪い。
ああもう、こんなことならアルクェイドさんにこっちに来て貰えばよかった。
「はぁ……」
水からあがって進んでいくと宝箱が置かれていた。
中にあったのは星型の石。
「……力が上がるやつだったかしらね」
この体じゃ役に立たなそうだけど、人間に戻った時には有効に活用できるだろう。
「ちゃんと戻れるのかしら……」
ついマイナス思考になってしまう。
「いけないいけない」
こんな時こそプラス思考だ。
ほら、兄さんなんかいつも何にも考えてないんだから。
「……それじゃ余計に駄目じゃないのよ」
苦笑しつつ先へ進む。
「悪趣味な部屋だニャー。あー気持ち悪い!」
「だったら出て行けばいいじゃないの……」
ガイコツやら悪魔やらの描かれた気味の悪い部屋にいたのは野生のネコアルク三号。
「まぁそう言うな。これをやろう。ほれ」
「……ハートね」
ネコアルクがくれたのは体力を増やす石だ。
こっちはこの姿でも効果があるみたいである。
「それからこの地下水道には便利なアイテムがあるみたいだニャ」
「ふーん」
半分聞き流しつつ先へと進む。
「……行き止まりね」
しばらく進むと、道がなくなってしまった。
ただ、道はなくても進む方向は存在する。
それは下だ。
私の立っている場所の下には大きな穴が開いていたのである。
『勇気あるものは飛び降りよ』
そしておあつらえむけの文句の書かれた看板。
「はぁ……」
ほんと、アルクェイドさんに来させればよかったわ。
しばらくうろうろしてみるものの、打開策は見つからなかった。
「ああもう! しょうがないわねっ!」
意を決して飛び降りる私。
ひょーん……
壁がものすごい勢いでスクロールしていく。
さっきの部屋と同じようにガイコツの描かれた不気味な壁。
「……!」
下を見ると、地面がすぐ近くまで迫っていた。
「冗談じゃないわよ!」
このままじゃ激突しちゃうじゃないの!
そう思った瞬間、体の方が動いていた。
くるくるくるくるくるくる!
猫のように回転する私。
しゅたっ!
そして華麗に着地を成功させた。
これがオリンピックの競技だったら満点は確実だっただろう。
「な、なかなか面白いアトラクションだったわね」
虚勢を吐いてみたものの、足はがくがくだった。
「……はぁ」
ふらふらしつつ先へ進む。
そうして進んだ道の突き当りに宝箱があった。
いかにも重要そうに置かれている宝箱。
「きっとこれに便利なアイテムが……」
早速開いて中を確かめる。
「……ドア?」
中にはドアを模した小さな機械があった。
「何かしらこれ……」
これが便利なアイテムの正体?
「……」
裏を見るとスイッチがあった。
どうする?
押す? 押さない?
「押さなきゃ話が進まないわよね……」
諦めてスイッチを押してみる。
今さっきの穴を落下してきた私にはもう怖いものなんてなかった。
「……あ」
スイッチを押した途端、私の体がみるみる光に包まれていく。
「これは……?」
一度見た事がある。
これは転移の魔法と同じ……
ひょん!
「……はっ」
気付いたら私は城の入り口に立っていた。
「このアイテム……」
もしかして某青いタヌキが使っていたものなんじゃ。
「……ワープドアって書いてあるわね」
残念ながら類似品のようだった。
よくよく考えたら大きさだって全然違うし。
まあ効果は同じと考えればいいだろう。
確かに便利なアイテムのようだ。
「うわっ! びっくりしたっ!」
「?」
叫び声を聞き、横を見るとネコアルクの姿が。
「何よ妹。脅かさないでよ。どっから出てきたの?」
「その口調……アルクェイドさんですか?」
ネコアルクとアルクェイドさんはしゃべり方でしか区別がつかなかった。
「ええ。どう? 何か手がかりは見つかった? こっちはさっぱりなんだけど」
やれやれと短い首を振るアルクェイドさん。
「……それどころじゃありません! ウロボロスのボスの正体はネコアルクが好物のヘビなんです!」
「なんですって?」
「私たちは琥珀のやつにまんまと騙されたのよ!」
琥珀め、この機会に私たちを亡き物にしようとしたに違いない。
「きっとウロボロスともグルなんだわ!」
「それが本当だとしたら厄介ね……」
アルクェイドさんはしばらく考えるような仕草をした後そんな事を言った。
「そうなると元の姿に戻る事が最優先になるわ。でも、その為にはもう一度琥珀に遭わなきゃいけないわよね」
「……仕方ないでしょうね」
私たちを変化させたのが琥珀であるならば、元に戻る方法を知っている可能性があるのも琥珀。
「妹。あなたが琥珀から元に戻る方法を聞き出してきて」
「ええ。琥珀には言いたい事が山ほどあるもの」
そして人間に戻ったらとっちめてやらないと!
「アルクェイドさんはどうするんです?」
「わたしは野生のネコアルクにそれを伝えて対策を練るわ。一応世話になったしね」
「そうですか。わかりました」
「城下町の井戸を使って館に行くといいわ。ネコアルクが近道できるようにしてくれてるはずだから」
「ええ。では行ってきます!」
アルクェイドさんと別れ、私は城下町へ向かって走りだした。
琥珀め、首を洗って待ってなさいよ!
続く