「ですからそこは違いますよー。ここはこうして……」
「あー。そうだっけ?」
「……」

ぴこぴこぴこぴこと電子音が響いてくる。

その音の出所は言うまでもない。目の前にいる兄さんの持っている携帯用のゲーム機だ。

さっきから兄さんと琥珀はその小さな画面を覗きこんであれやこれやと話していた。

ただでさえ狭い画面を二人で見ているものだから、当然のように体が密着している。

「ああもう! いいかげんになさい! ファミコンなら自分たちの部屋でやればいいでしょう!」

私は堪えきれなくなってそう叫んだ。

「何を言っているんですか秋葉さまー。携帯機はいつでもどこでも遊べるのが魅力なんですよ?」

まるで私がおかしい事を言っているかのような顔をしている琥珀。

「だからって私の目の前でやる必要はありません」

琥珀の魂胆は兄さんと仲よく遊んでいる姿を見せつけてやろうとか、そんなものなのだろう。

「いえ、わたしは秋葉さまに少しでも電子音の良さを知って貰おうとですね」

そう言って私に向けて意味ありげな笑いを見せる。

「結構です」
「そんな事言わずにー」
「しつこいですよっ! だいたいファミコンなんて子供のやるものなんですから」

もちろん全く興味がないと言ったらそれは嘘になる。

けれど一度もゲームに触れた事のない私がそれをやろうとしたってまともに出来るはずがない。

こうやって琥珀を怒鳴りつけるのは疎外感を誤魔化すためでもあった。

「秋葉、これはファミコンじゃないよ。ゲームボーイって言って……」
「……っ!」

そんな私に追い討ちをかけるような兄さんの言葉。

後から考えれば、兄さんに悪気はなかったんだろう。

けれどこの時の私は頭に血が昇ってしまっていた。

「そんな事を言うなら……これは没収ですっ!」
「あっ」

兄さんの手からそのゲーム機を奪い取ってしまう。

「ああっ! それはわたしのなんですよっ。返してくださーい」
「いいえ、こんなもので遊んでいるから仕事がおろそかになるんです」

無論これは言い訳である。

要するに混ぜて貰えない子供のする事と大差はなかった。

「酷いですよー。あとちょっとでクリアだったのにー」
「だまらっしゃい!」
「琥珀さん、諦めようよ」

兄さんが琥珀の肩をぽんと叩く。

「秋葉が嫌がってるのに目のまでゲームやってた俺らも悪いんだからさ」
「……」

この構図だと悪役は完璧に私である。

ここで適当な事を言ってすぐに返してあげれば事態は収まったんだろう。

けれど。

「まったくもう。秋葉さまも素直じゃないんですから。ホントは一緒にやりたいくせに」

なんて言われてしまっては返す気がなくなってしまった。

「……今から貴方の部屋に行ってゲーム関係を全て奪い去ってあげましょうか?」
「や、そ、それだけはご勘弁くださいお代官さまー」

へへぇと芝居がかったお辞儀をしてみせる琥珀。

「早く立ち去りなさい!」
「はーい!」
「ご、ごめんな秋葉っ!」

二人は脱兎の如く駆けていった。

「まったくもう……」

こんなもののどこが面白いんだか。

「……」

手を動かして全体を眺めてみる。

多分長く使っているものなのだろう。

外観はボロボロになっていた。

「……ま、いいわ」

どうせ私には縁のないものだ。

傍の机の上にでも置いておくとしよう。

「あら?」

するとそこには見覚えの無い小雑誌があった。

「何……かしら」

ぱらぱらとめくってみる。

「操作説明……?」

どうやら何かの説明書らしい。

「……もしかして」

覚えがないんだからこれが私のものであるはずがない。

さっきまでこの部屋にいた琥珀か兄さんのものなんだろう。

「まあ、没収したんだからこれも無用の長物ですよね」

自分に言い聞かせるように呟いて机の上に戻す。

悪いのは琥珀のほうなんだから。

「……こんなもの読んだって……」

十時キーで操作。

Aボタンで……

Bボタンで……

セレクト……

スタート……

「……意外と簡単そうね」

そこには大して難しい事は書いていなかった。

ゲームっていうのは、いつも琥珀がやってるような複雑な操作をしなきゃいけないものばかりだと思っていたのに。

これなら私でも出来るかもしれない。

「あらすじ……と」

ページをめくるとそこには大雑把な話の流れが書いてあった。

要するにさらわれたヒロインを主人公が助けに行くというファンタジーものだ。

プレイヤーはこの主人公となってゲームをプレイするわけである。

「名前も自分で決められるのね」

自分の名前でプレイすれば感情移入しやすいかもしれない。

「……でも」

ゲームなんだから最後はハッピーエンドなんだろう。

答えはわかりきってるじゃないの。

「答えのわかってるゲームに興味なんて……」

興味なんて。

「こ、ここが電源かしら?」

適当な場所をいじくってみる。

断っておくけど、これはあくまでテストだ。

兄さんから無理やり奪ってしまったから、壊れてないかどうかテストをしているだけ。

こんなものに興味なんて全然ないんだから。

仕方なく確かめてみるのだ。

ぴこーん。

「……あ」

音が鳴った。

どうやら電源が点いたらしい。

さっき琥珀たちがプレイしていた時と同じ、電子音が響いてくる。

「え、ええと……」

画面には私が操作してないのにどんどん文字が表示されていた。

「止められないのかしら?」

しばらく黙って見つめていたのだが、意を決してボタンを押してみる。

ぽち。

みょーん。

「……?」

すると突然BGMが変わり、画面の上からタイトル文字が降って来た。

「い、今の文章はどうなったの?」

ほとんど読んでなかったけれど、明らかに区切れの悪いものだった気がする。

「ええと……」

説明書を読み直す。

操作、操作。

まず最初にする事は。

てけてけてけて……

「あ、あら?」

私が説明書とにらめっこをしていると再び画面に文字が出始めていた。

「……な、なるほど、そういうことなのね」

きっと何もいじらないでいると最初に戻る仕組みなんだろう。

まだ「はじめから」を選んでないのでゲームは始まっていないのだ。

「今度はちゃんと……」

画面をじっと見つめる。

あんまり近いと目が悪くなりそうなので適度に離しつつ。

表示されていたのはこのゲームのあらすじであった。

説明書に書いてあるものとほとんど同じだけれど、やはり画面で見ると印象がかなり違っていた。

「……」

やっぱり主人公は私の名前にしてみよう。

王道一直線のファンタジーシナリオ。

この私にぴったりじゃないの。

「え、ええと秋葉の『あ』は……」

あらすじを一通り眺めた後、私は早速自分の名前を入れ始めた。
 
 
 
 
 
 

むか〜しむかし。大変仲の良い2つの国に2人のお姫サマがおりました。

1人はチャッカリ者の真祖のお姫サマ。

もう1人はあわてんぼうの遠野家のお姫サマ。

2人は大抵ナニをやってもライバルでした。

そう思っているのは遠野のお姫サマだけなのですが、とにかくそれでも2人は良きライバルでした。
 

これはそんな2人のお姫サマの冒険の物語です。
 
 

「トオノの為に鐘は鳴る」




続く



あとがき
そんなわけでカエルです。
まだまるで始まってませんけど(w;
カエルは何十回やったかわからないほど好きなゲームなんで少しでも面白さが伝わるように書ければいいなと思います。
原作フォント拡大なども再現しつつ……(謎


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