「わ、わかったわ。やるわよ。ええ。やればいいんでしょう?」
「……」

一体瀬尾は何を話したというんだろう。

「瀬尾、あなた……」

何を知っているのと聞こうとした瞬間。
 

「アサガミオールスターズ結成だね〜っ」
 

羽居の言葉で思いっきりずっこけてしまうのであった。
 
 




「トオノの為に鐘は鳴る」
その46








「……あああ!」
「?」

転んだ私を見て大げさに叫ぶ瀬尾。

「な、何よ?」
「げ、原稿三日後までに仕上げなきゃいけないんだったー!」
「あ、ちょっとっ?」

そう言って瀬尾はどこかに走り去ってしまった。

「ま、待ちなさい!」

私の転んだのを見て思い出すなんて失礼な!

「でも原稿が終わらないのはまずいんじゃないのか?」
「……それは瀬尾の勝手な都合でしょう」
「それならおまえさんのも勝手な都合だ。違うかい?」
「……」

蒼香は時々こういう言い回しをする。

「確かに瀬尾の趣味は大事でしょう。しかし。今はこの国の平和のほうが大事なはずです」
「……なんだか話が飛躍して来たな」
「私はこの国を救うために旅をしているんですよっ!」

正確には、この国を救おうとしているだろう兄さんを探しているわけだけど。

「それじゃ大変だねー。アキラちゃんを探さなきゃー」
「……ええ」

羽居が言うとまるで大変そうに聞こえない。

「……そうです。どこへ行きましたか」

話している間に瀬尾の姿はどこにも見えなくなってしまっていた。

「アキラちゃん、メイド喫茶に入っていったみたいだねー」
「……そ、そう」

やっぱり止めようかしら。

いいえ、一度言った事はやり通すまで。

「瀬尾を連れ戻すわよ!」
「はーい」
「ラジャー」
「わたしも行くの……?」

私たちは瀬尾を追いかけ再びメイド喫茶へと突入した。
 
 
 
 

「おかえりなさいませ、ご主人サマ〜」
「メイドに用はありません! あるのは瀬尾だけですっ!」
「……は、はあ」

一瞬素に戻ったメイドを無視して店の奥へ。

「……うぃー……」

そこには目の据わった瀬尾がいた。

「……酔ってるわね」

足元に転がっているのはワインのボトル。

「そーですよ。酔ってますよ。文句ありますか?」

アルコールのせいだろう。

瀬尾はいつもよりも強気な態度で言葉を返してきた。

「瀬尾。そんなものに頼るのは止めて真面目に働きなさい! 原稿を書くんでしょう?」
「ウ〜イ! 原稿が何ですか! 同人なんてやってられっかー!」
「……なっ……」

なんだろう。この態度の急変ぶりは。

「おまえさんへの義理と原稿の締め切りとの狭間でおかしくなっちまったのかもな」
「……バカね」

まったく何をやってるんだか。

「うふふふ、遠野せんぱーい。お酒を奢ってくらさいよー」

怪しく笑う瀬尾。

「断ります」

だいたいこの子は私より年下じゃないのよ。

「固い事言わないで……頼むますよー」
「イヤです」
「一杯でいいれすからー」
「却下します」
「……どうしても奢らないっていうんれすか?」

だんだんと瀬尾の態度が悪くなってくる。

目つきもなんだか危なくなってきていた。

「奢りません」
「とおのせんぱい! 喧嘩売ってますねっ!」
「ええ、そうです」
「上等れす! 覚悟しれくらさい!」

瀬尾は傍にあったスケッチブックを持って襲いかかってきた。

「まったく……」

仕方ない。相手をしようか。

びたん!

「は?」

迫ってくる途中で瀬尾は地面にぶっ倒れていた。

「お、おのれよくもー!」
「……何もしてないんだけど?」
「てりゃー!」

ぶおん!

大振りな攻撃。

びったーん!

私が避けた事でまた瀬尾は倒れてしまった。

「あのねえ……」
「ううう、きぼちわるい……」

既に瀬尾はフラフラである。

ぱしっ!

私は瀬尾の頭を叩いてやった。

「正気に返りなさい。今のあなたに必要なのは現状を理解する事です」
「あ……」

瀬尾の焦点の合っていなかった目がだんだんとはっきりしてくる。

「まずシメキリは三日後と言ったわね?」
「は、はい……」
「だったら、今日金を掘りに言って、明日までに発掘して帰ってくる。これで二日」
「そ、そんな。一日でネタなんか浮かびませんよ!」
「甘いわね。金を掘りにいくのよ? そこには事件が盛りだくさんだわ」
「……そうか。何かインスピレーションが浮かぶかもしれないってことか」

畑は違うが音楽活動をしている蒼香がいち早く私の言わんとしていることに気がついた。

「で、でも。それは金が上手く見つかったらの話で……」
「そのための貴方の能力でしょう?」
「……あう」

うなだれる瀬尾。

「これからは心を入れ替え、真面目に同人活動と私の手伝いに勤しむ事です」
「ですが……」
「だいたい、こんなところで萌えだのなんだの叫んでお酒を飲んだり……」

びくっ。

何故か瀬尾以外のギャラリーが反応していた。

「世の中金が全てだなどとは考えてはいけません」
「そ、そんな事は一言も……」
「いいですね!」
「……は、はいぃ」

力無く頷く瀬尾。

「この私を見なさい。巨万の富を持つ遠野の当主でありながら、お金の力に頼ったことなど一度もないのですよ!」
「……わ、わたしが間違ってましたぁ〜……」
「宜しい」
「よくもまあ、自分の事を棚に上げて……」
「四条さん? 何か言ったかしら?」
「え、ええっ? な、なんにも言ってないわよっ?」
「……まあいいでしょう」

とにかくこれでうまくまとまったわけだ。

「瀬尾。原稿を終わらせるには一刻も早く金を見つけるのよ」
「わかりましたよー! もうなんでもやっちゃいますー!」

そう言ってガッツポーズを取る瀬尾。

「じゃあアサガミオールスターズのリーダーはアキラちゃんだねー?」
「……その名前はどうにかならないわけ?」
「え? なんで?」
「……なんでもないわ」

羽ピンに何を言ったって無駄だ。

「そしてわたしは次鋒レオパルトン〜。グオゴゴゴゴゴ」
「ノーズフェンシング」

羽居に正拳をぽんと当てる蒼香。

「……意味のわからないことをやらないでくれるかしら?」
「じゃああたしはゴーレムマンかい? アレは微妙だな……」

しかも蒼香は何故かそれがわかっているようだった。

「四条さんがキャノンボーラー」
「だーかーらー!」
「秋葉ちゃんはペンチマンだよー?」
「なんで私がそんな雑魚キャラなんですか!」
「……あんたもわかってるじゃないか」
「な、なんとなくです!」

たまたま兄さんが読んでいただけで別に詳しくなんか……

「……アレ、立派なオタクだよな」
「ふ、腐女子なんだな」
「そこの外野! 文句があるなら出てきなさい!」
「ヒ、ヒエーッ!」
「お、お客サマー! 暴力はいけないニャーン!」
 

メイド喫茶に嵐が吹き荒れるのであった。

続く



感想用フォーム 励みになるので宜しければ感想を送って下さいませ。
名前【HN】

メールアドレス

更新希望ジャンル
屋根裏部屋の姫君   ななこSGK   トオノの為に鐘は鳴る   短編    ほのぼのSS   シリアスSS
その他更新希望など(なんでもOK)

感想対象SS【SS名を記入してください】

感想、ご意見【良い所でも悪い所でもOKです】



続きを読む

戻る