「……どうやってです?」
「……」

私が押した壁のすぐ裏では、波が大きなゆらぎを作っていた。

「え、えへっ?」
「……似合わないですよ、秋葉」
「やかましいですねっ!」
 

こうしてギルガメッシュ商店の塀は、妙な形でそこに残る事となったのである。
 
 


「トオノの為に鐘は鳴る」
その36




「さてと」

ギルガメッシュ商店の壁は金が手に入ったらそれで直すという約束をし、氷河への入り口に来た私。

「この軍手で……」

もとい、スペシャルハイパーグローブの力で。

「えいっ!」

ずずずずずず。

巨大な岩を軽石か何かのように押していく私。

「……ふふん」

なんだかアルクェイドさんにでもなった気分である。

「実は剣を使って戦うより格闘戦をやったほうが強かったりして」

そんな事さえ考えてしまう。

ひょおおおお……

「っ!」

そうして岩をどけ終わった瞬間、異様な寒気が私を襲った。

「な、なによこれ……」

少し進むとすぐに原因がわかった。

「……雪?」

そう、地面が雪で覆われていたのである。

「あの岩で寒気が遮られてたのね……」

はっきり言って滅茶苦茶に寒い。

毛皮のコートが何かが欲しいくらいだ。

「……ネコ化したらどうにかなるのかしら」

しかしこの寒さの中で水を被るだなんて正気の沙汰ではなかった。

「と、とにかく体を保護するものを……」

どこかに町か村があるはずだ。

まず防寒具を手に入れよう。

外にいるだけでも寒いのに、氷の洞窟なんて入ったらそれこそどうにかなってしまうだろう。

「コーン!」
「ああもう鬱陶しい!」

雪を掻き分け出てくる雑魚モンスターを退治しながら建物を探す。

「寒い……寒い……っ!」

歩いてなんていられないので全力疾走だ。

「……あった!」

私の目の前に小さな村があるのが見えた。

『ナ……村』

雪に埋もれて村名はわからないけど、そんなものはどうでもいい。

「お店っ!」

出来れば暖房完備のっ!

『黒猫白猫のおみせ お気軽にどうぞ』

「……この際何でもいいわっ!」

入り口は怪しい感じだったけれど、とにかく私は見つけたお店に転がり込んだ。

ちゃららららーりらりー。

「な、なに……?」

店に入るなり、怪しげな音楽が聞こえてくる。

「あらいらっしゃい。お客さん。初めてね?」
「んなっ……」

私を向かえたのは大きな白いリボンをつけ、袖の短い体操着とブルマを履いた女の子だった。

こんな雪の中の村だというのになんでそんな格好をしているんだろう。

「……」

お店の中は暖房が効いていて、むしろ暑いくらいではあるのだけれど。

「ああ、この格好はオーナーの趣味よ」

くるりと回転し、くすくすと笑う女の子。

「そ、そうですか。その……ここはどういうお店なのかしら?」

どうにも胡散臭い店のような気がしてたまらないのだけれど。

「平たく言えば洋服屋ね。色々揃えているわ」
「ほ、本当ですかっ?」
「ええ。メイド服からスッチー、巫女巫女ナースと何でもアリよ」
「……普通の防寒着は無いんですか」

なんでそんな用途を限定された衣装ばかりなのだろう。

「どうだったかしらね……レン?」

女の子が店の奥に呼びかけると、黒いリボンをつけた女の子が現れた。

髪の毛が青いこと以外は白い女の子と丸っきり同じブルマ姿である。

「防寒着があるか探してくれるかしら? あと……」

じっと私の姿を見つめる女の子。

「な、なんですか」
「一応オーナーに声かけておいて。胸はないけど好きかもしれないしね」
「んなっ……」

人に向かってなんて失礼な事を!

「あらあら。子供の言う事にいちいち腹を立てるのかしら?大人気ないわ」

くすくすと笑う女の子。

「……」

なんて生意気な子なんだろう。

「おやおやお客様ですか……ほっほっほ」
「!」

その子への憤慨は、奥からの声を聞いた瞬間一瞬で消え去ってしまった。

「この声は……!」

その声の主への不快感が私を支配したからである。

「おや、誰かと思えば秋葉さまではありませんか」
「……久しぶりね、久我峰」

ぎろりとその醜い顔を睨み付ける。

そう、ダイテイト温泉を追い出された久我峰とはこいつのことである。

小さな子に体操着なんか着せてこんな怪しげな商売をやっているあたり、性根は腐ったままだと考えていいだろう。

「ええ、おひさしうございます。その説はお世話になりまして……」

こいつは私が睨み付けると逆に嬉しそうな顔をするのだ。

それがまた不愉快でたまらない。

「防寒着を探しているんです。ありませんか」

こんな場所にはもう一瞬たりともいたくはないが、どうしても防寒着は必要である。

「ええ、ございますとも。どうですか? フリフリのついたメイド服などは……」
「そんなものは不要です。毛皮でもなんでもいいから、普通のものを下さい」
「……相変わらずですなあ、秋葉さま。まあそう言わずにこれを……」

久我峰はにやにや笑いながらレンという子に何かを手渡した。

その子がてこてこ歩いてきて私にそれを渡してくる。

「……なによ、これ」

それはこの国の硬貨だった。

「いえいえ、世話になりましたからな。旅の資金というものも必要でしょう」
「まるで変わってないのね……」

ああもう、コイツは本当に何も変わっていない。

「ほっほっほ。褒め言葉として受け取っておきましょう。そして……」
「どうぞ」

白いリボンの子が畳んだ衣服を手渡してきた。

「……これ……は」

畳んであってもわかる。

この子たちが着ているのと同じ、体操着だ。

「どうぞ、お召しになってください秋葉お嬢さま」

おぞぞぞぞぞぞ!

全身に鳥肌が立った。

「い、いらないわよ、こんなもの!」
「おやおや残念ですなぁ。それをお召しになってくれれば毛皮等の手配も考えますのに」
「もったいないわよね」
「……!」

まったくなんてヤツ。

「……それに……」

この白いリボン女の子は久我峰の何なんだろうか。

妙に意気投合している感じがあるけど。

「……」

レンという子のほうは、私と久我峰を見て首を傾げていた。

こっちの子はこっちの子で何を考えているのかよくわからない。

てってってってって。

気付いたらお店の奥のほうに走っていっていた。

「どうしたの?」

白いリボンの子が尋ねると、何かを持って戻ってくる。

「……」
「コート?」

それは毛皮で作られたコートであった。

「何よ、ちゃんとしたものがあるじゃないのよ」
「……チッ」

見るからに苦々しい顔をする久我峰。

「まあいいでしょう。秋葉さまが必要とするのであればお譲りしないわけにはいきません」
「協力感謝するわ」
「……いえいえ、秋葉さまがご成功なされた時には是非この久我峰にもひと声……」
「考慮しておきます」

たとえ私がどんなに成功しても、久我峰に何かするというのは永遠にないだろう。

「ほら、レン。渡してあげなさい?」
「……」

リボンの子が声をかけると、レンは私にコートを差し出してくる。

「どうもありがとう」
「……」
 

受け取ってお礼を言うと少し嬉しそうな顔をしていた。
 
 

続く



感想用フォーム 励みになるので宜しければ感想を送って下さいませ。
名前【HN】

メールアドレス

更新希望ジャンル
屋根裏部屋の姫君   ななこSGK   トオノの為に鐘は鳴る   短編    ほのぼのSS   シリアスSS
その他更新希望など(なんでもOK)

感想対象SS【SS名を記入してください】

感想、ご意見【良い所でも悪い所でもOKです】



続きを読む

戻る