懐かしいと思うほどに久しぶりに聞いた気がした。
「真祖の姫君……」
ロアが言葉尻の上がった喚起のような声をあげていた。
「アルクェイド・ブリュンスタッドここに参上!」
「トオノの為に鐘は鳴る」
その61
「なっ……アルクェイド! どうしてここに!」
叫び声を上げる先輩。
「……え?」
先輩はアルクェイドさんだとわかっているの?
今はもう完全にネコアルクの姿になっているというのに。
「最終決戦にわたしを混ぜないなんてナシよっ」
そう言って私の隣へ並ぶ。
「妹もかなり強くなったみたいねー」
「……そりゃ、色々苦労して来ましたから」
「みんなの力を合わせれば楽勝よ!」
「ふっ……」
アルクェイドさんの言葉を聞いて不敵に笑うロア。
「愚かな。ネコアルクの姿のまま隠れていればよかったものを。そんなに殺されたかったのか?」
「確かにね……まだ早かったと思うわ。でも、こっちには妹がいる」
「私?」
「妹がいる限り、貴方に勝機はないのよ」
私の何が役に立つっていうの?
「アルクェイド。しかしまだ……」
「とにかくやるしかないでしょ」
「……わかりました」
渋々といった感じで頷くシエル先輩。
「いいですか秋葉さん。わたしとアルクェイドでロアに隙を作ります。その間にスネークキラーで一撃を加えて下さい」
「え? あ、はい」
「……そうすれば、あいつを完全に抹消できるかもしれません」
「え……ええ」
私もそう思っていた。
この剣ならばこいつを倒せると。
けれど。
「行きますよっ!」
先輩がロアへ向かっていく。
「行くわよっ!」
アルクェイドさんも。
「ふん……」
ロアが地面を踏みつけた。
ゴッ!
血の槍が二人へ襲いかかる。
「無駄です!」
それを打ち砕くシエル先輩。
「愚かだな」
「……先輩!」
砕け散った血の破片が、別の形へと固まっていく。
「くっ……!」
キィン!
幸いにも先輩はそれを防ぐ事が出来たが、ロアからは大きく離れてしまった。
「何やってるのよシエル……!」
残ったのはネコアルク状態のアルクェイドさん。
「今のキサマ相手に策などいらんな」
「言ったわねえ!」
ばきっ!
ジャンプキックがロアの腹部に突き刺さる。
「……この程度か?」
「っ……!」
やはりあの体では無理なようだ。
「アルクェイドさん! 下がりなさい!」
「おっと」
「にゃ!」
ロアはアルクェイドさんを掴み、私に投げつけてきた。
「ぎにゃー!」
「……悪いけど」
ここは一撃を決めさせてもらう。
「しっ!」
姿勢を低くして飛んできたアルクェイドさんをかわし。
どごん!
轟音がしたけど聞かなかった事にして。
「食らいなさい!」
渾身の一撃を放つ。
「ぐっ……!」
ロアの胸元が裂けた。
「やったっ?」
「……甘いな!」
ぶおんっ!
「きゃあっ?」
振り回した腕に吹っ飛ばされてしまう。
「この程度の傷……」
裂いた傷口がみるみるうちに塞がっていってしまう。
「やはりまだ無理でしたか……」
「す、すいません」
この剣の真の力を放つには条件が必要だという。
それは私に足りないものだった。
「……血を扱う能力というのは案外厄介ですね。ダメージの度合いがわかり辛い」
「前のロアにはなかったわよね」
アルクェイドさんがシエル先輩の隣に移動する。
「今回の体の能力だということでしょう」
「……二人は以前のロアを知っているんですか?」
「……」
先輩は何も答えなかった。
「とにかく、今は時間稼ぎよ」
「……時間」
またそれだ。
一体何があると……
「あ」
ふと気がついた。
もしかして二人が待っているのは?
「さて、どうするね?」
不敵に笑うロア。
「このまま戦ってもわたしにダメージを与えるのは不可能だろうな」
それを防ぐには一撃で倒してしまう以外にはない。
けれど肝心のスネークキラーは効果がないし。
仮にトドメをさせたとしてもこいつは復活するという。
「どうする? わたしは一向に構わないのだが?」
「ぐっ……」
苦々しい顔をするシエル先輩。
「……止むを得ません」
静かに第七聖典を構える。
「ちょっとシエル!」
アルクェイドさんがシエル先輩を止めた。
「ダメよまだ!」
「しかし!」
「来ないならこちらから行かせてもらうぞ」
ざしゅ! ざしゅざしゅっ!
「ぐっ……」
このまま攻撃を受けているだけではやられてしまう。
「兄さん……!」
こんな時に兄さんがいてくれれば。
「きゃあっ!」
「アルクェイドさん!」
アルクェイドさんが地面から生えた剣に吹っ飛ばされた。
「トドメだ……!」
「ダメっ!」
この距離じゃ間に合わな……!
キーンコーンカーンコーン
「……ぐっ!」
突如ロアの動きが止まった。
「これは……!」
「春を告げるベル……!」
シオンと一子さんが修復してくれたようだ。
「……間に合った!」
先輩の表情が輝く。
「待っていたんです……これを!」
「ぐ……ぐああああああ!」
鳴り響く鐘の音で苦しみ出すロア。
「聖なる鐘の音……貴方の真の姿へダメージを与える!」
ロアの体がぶれる。
何か、半透明のモノが見えた気がした。
「あれがロアの……?」
そして同時に、肉体がまったく違う姿になったように見えた。
今は背中に届くほど長い黒髪なのに、短く切られた白髪……
「……っ!」
頭痛がする。
何だっていうの?
「そして!」
「……きたきたきたー!」
アルクェイドさんの姿が白く輝いている。
「そうか……!」
この鐘の音で元の姿に戻るということは。
ぼわん!
白い煙が広がって。
「ふっかーつ!」
懐かしい、そして不愉快なアルクェイドさんの姿がそこに現われた。
「勝てる! 勝てますよこれで!」
「き、貴様ら……!」
「ふっふふー。形勢逆転ってやつね! ああ、そもそもそんなに苦戦してなかったかしらね?」
「……」
確かにアルクェイドさんが元に戻った事で、戦力的には圧倒的に優位だ。
「でも、ただ倒すだけじゃダメなんですよね?」
何度も念を押すようだけど。
「それは……アルクェイドがなんとか」
「無理よ」
「……ええっ!」
叫び声をあげるシエル先輩。
「わたしに出来るのは時間稼ぎだけ。はやく探してきてよ!」
しっしと追い払う仕草をするアルクェイドさん。
「誰を探すんです!」
「誰をって……決まってるでしょ!」
さも当然のようにアルクェイドさんは言った。
「志貴を探して来て! 志貴ならコイツを二度と復活させないように出来るから!」
続く