「泥棒? 弓塚さんがまさかそんな事を?」
「そうよ! 今どこにいるの! 成敗してあげるわ!」

人をウロボロスだと誤解した挙句、お金を盗んでいくなんて。

あっちのほうが悪人そのものではないか。

「さっちんなら今はいないよ」

私が憤慨していると、そんな声が聞こえた。

「……都古?」
 

声のした方向に立っていたのは都古だった。
 
 

「トオノの為に鐘は鳴る」
その9




「さっちんなら町の東にあるホーキ山に走ってった」

さらに言葉を続ける都古。

「……そのさっちんというのは弓塚という人物の事でいいのかしら?」
「うん。ツインテールのさっちん」
「……まあ何でもいいわ。ホーキ山ってところに行ったのね」

すぐに追いかけないと。

「お待ち下さい秋葉さま」

私が病院を出ようとすると啓子さんが呼び止めてきた。

「何ですか?」
「……ホーキ山なのですが。南にハイキングコースがあるんです」
「つまりそこから行けばいいのね?」
「いえ、そうはいかないのです」

啓子さんは難しい顔をしていた。

「……どういう事なのよ」
「実は少し前からホーキ山に謎の魔女が住み着いておりまして」
「魔女?」
「ほうき少女まじかるアンバーっていうんだよ」
「……」

何だろう、そのやたらと気力を削がれる名前は。

「有名なんですか?」
「はい。いつぞか、町へやって来て『わたしはウロボロスを倒す方法を知っているんですよー』などと放言しておりました」
「……何ですって? ウロボロスを倒す方法を?」

そんな重要な事を知っている人物がいただなんて。

「それを聞いた町人たちはホーキ山へ向かおうとしました。しかし、途中にはバケモノがうろついており進む事は叶わなかったのです」
「だったら私がそのバケモノを退治して、さっちんとほうき少女とやらに会ってくるわよ」

そうすれば万事解決のはずだ。

「しかしまじかるアンバーが本当に我々の『味方』かどうか……」

不安げな顔をしている啓子さん。

「あとね。さっき隣の人がね。美人が山に向かって行ったっきり帰ってこなくなったって言ってた」

さらに都古がそんな事を言った。

「……美人?」

その言葉で思いつく人物と言えば、癪ではあるが。

「その人はこう……」

私はごく大雑把にアルクェイドさんの事を説明した。

「ん、ちょっと待ってて」

都古が外へ走って行く。

「その人で間違いないって!」

やっぱりアルクェイドさんも向かったのか。

「なら尚の事行かなきゃならないわね」

ウロボロスを倒す方法をまじかるアンバーとやらが知っているならば、兄さんがそこへ情報を求めに行った可能性も高い。

まとめるとこうだ。

魔物を倒し、ハイキングコースを進む。

さっちんに盗られたお金を取り返す。

まじかるアンバーに会い、ウロボロスを倒す方法とやらを聞く。

さらに兄さんとアルクェイドさんの行方を尋ねる。

「……色々やらなきゃいけないのねえ」

これはちゃんと覚えておかないと。

後で日記に書いておこう。

「秋葉さまがそうまで仰るならば……わかりました。止める事はいたしません」
「ありがとう」
「ですが出かけられる前に弓塚さんの事を少し話させて頂けませんか?」
「……まあ、いいでしょう」

相手に対する情報は少しでも多いほうがいいだろうし。

「さっちんはね。さつきっていうんだ。ほんとはね」
「だけどちっちゃいからバナナを半分しか食べられないの?」
「……何の話?」
「何でもないわ……」

最近の子はこの歌を知らないんだろうか。

「弓塚さんは少しドジですが、失敗にめげずに頑張る気立てのいい子でした」
「……それがどうしてドロボーなんかしたのよ」
「それはわかりません。ですが、弓塚さんが架け橋を架けてくれと頼みに行ったのも町人のためでした。だから……」
「お金を盗んだのにも何か理由があると?」
「……はい」
「たとえ理由があったとしても、人のお金を盗んでいいわけないわ」

お金というのは大事なものなのだから。

断じて調子に乗ってばら撒いたり、それで権力を主張してはいけないのである。

「……何か耳が痛いわね」

自分の考えに思わず苦笑してしまった。

「そうだ」

ひとつ思い出した事があった。

「あの人、兄さんの事を知っているみたいだったんだけど?」
「アリマに住んでいて志貴さんの事を知らない人間はいませんよ」
「……それはそうなんだろうけど」

なにせ兄さんが勇者として育てられた町なんだから。

「弓塚さんは志貴さんと仲も良かったですし……」
「……なんですって?」

啓子さんの言葉は聞き捨てならないものだった。

まさかこの町で兄さんはそのさっちんとやらと……

「お兄ちゃんはボケボケだからさっちんの事なんかあんまり気にしてなかったみたいだよ?」
「……まあ、そうよね」

あの兄さんが生半可なアタックで落ちるわけがないのだ。

「それにしてもどこで変な虫がついてるかわからないわ……」

アルクェイドさんも含めて。

「……そういえばアルクェイドさんはどこで兄さんと知り合ったのかしら」

よく考えてみれば、私はアルクェイドさんと兄さんの関係をほとんど知らなかった。

「……」
「秋葉さま?」
「ああ、ううん。なんでもないわ」

話題が逸れてしまった。

今は弓塚さっちんの話なのだ。

「まあとにかく、さっちんとやらの人望が厚い事はわかったわ」

じゃなきゃ町人たちがああも従う理由の説明がつかないし。

「ですから、いきなりとっちめるということはしません。理由をちゃんと話して貰います」

それで納得できる理由だったら。

まあまずあり得ないだろうけど、許してやってもいいだろう。

「……ただ」

さっちんは兄さんの事を知っているのに知らないと嘘をついた。

ということは、この怪しい行動の裏には兄さんが絡んでいるのではないだろうか。

「考えすぎなのかしら……」

とにかくさっちんを捕まえたらお金を取り返すと共に兄さんの事も聞こう。

「……ああもう」

どんどんやる事が増えていってしまう。

「それと秋葉さま。話は前後するんですが、ほうき少女の事でちょっと……」
「いいです! これ以上聞くとわけがわからなくなってしまいます!」

まずは魔物を倒しさっちんを捕まえる!

全てはそこから始めよう。

「は、はい、申し訳ありません」
「こっちこそすいません」

本当ならばもっと昔の兄さんの話などを聞きたいのだけれど。

もたもたしていたらさっちんがどこかへ行ってしまう。

「ではっ!」

私はかけ足で病院を後にした。

「いにょうにょー!」
「邪魔!」
「ひでぶっ!」
 

病院を出た瞬間出てきた謎の物体は星にしておいた。
 

続く



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