都古が元気にガッツポーズを取っていた。
「ええ、宜しくね」
私は皆を救出するために単身フジョーへと向かうのであった。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その54
「この先我らがボスの寝室」
「……」
目の前にはいかにも怪しげな扉が頑丈に閉ざされていた。
「春になればコイツが目覚めてしまうのね……」
もう時間はあまりない。
急いでネコアルクたちと翡翠を救出しないと。
「乾さんから貰ったカギを使って……」
上へ上へと進んでいく。
さすがに終盤だけあって罠がてんこもりだった。
天井や壁から突如現われるヤリ、ぶらさがって移動しないと進めない通路。
「このお城、最初からこういう風に作られてたんじゃないかしら……?」
とても元は平和だった国の城だとは思えなかった。
「ん……しょ……っと!」
氷河への道を塞いでいた岩と同じくらいの大きさのブロックを移動させ。
「きゃああっ!」
地面から脇出る炎を避けながら進む。
『この先ネコアルク用倉庫』
「……ここね」
そしてようやくそれらしき場所を見つけ出すことが出来た。
翡翠は見つかっていないけど、まずはネコアルクのほうを開放してあげよう。
「みなさん! 無事ですかっ!」
牢屋の中のネコアルクたちに向かって叫ぶ。
「うにょ。オマエはいつぞやの秋葉サマだニャ。助けに来てくれたのか?」
こんな状況でもネコアルクたちは能天気な感じである。
「貴方たちの中にアルクェイドさんはいる?」
「アチキらのボスはここにはいニャいなー」
「……そうですか」
「一斉捕獲されたときにもういニャかったぞ?」
「せっかく助けに来てくれたのにニャ」
「まあ、あの人だったら大丈夫でしょう」
きっと無事に決まっている。
「それよりも早くここを出ましょう」
ここの倉庫はほとんど城の中心部にあった。
脱出するまではかなりの時間がかかるはずだ。
「おっとそうはいかんぞ!」
「っ!」
振り返ると大勢のウロボロス兵が私を取り囲んでいた。
「しまった……!」
「かかれっ!」
「仕方ありませんねっ!」
剣を抜き、ウロボロス兵たちに立ち向かう私。
「よしなさい!」
きぃん!
「このっ!」
かきぃん!
「ぐっ……!」
しかしいくら私と言えども多勢に無勢。
「まだまだ……!」
どごっ!
「うっ……」
後頭部を殴られ、視界が歪んだ。
「無……念……」
そこで私の意識は途絶えてしまった。
「さま、秋葉さま!」
「……ん……」
なんだろう、聞き覚えのある声がする。
「気がつかれましたか? 大丈夫ですか?」
「……」
どうも意識がはっきりしない。
視界もぼんやりとしていて誰が傍にいるのかよくわからなかった。
「ここは城の右の塔にある牢屋の中です」
「牢屋……」
「秋葉さまは気絶したままでここに連れてこられたのです」
「じゃあ、貴方が私を助けて……?」
ん?
こんな展開、どこかであったような。
確かあの時は兄さんの偽者に騙されたっけ。
「さては……琥珀ねっ!」
「え、え?」
「どうせ私を助けて恩を売ろうとかそういう魂胆でしょう! そうはいかないわよ!」
「あ、あの秋葉さまっ?」
「とぼけないで!」
そう、この声は琥珀で間違いない。
何か微妙に違う気がするけど間違いないのだ。
私はぼやけた琥珀に向かって掴みかかった。
「な、なにをなさいます! お止めください!」
「今日こそ引導を渡してあげるわ!」
「い……いやああっ!」
どんっ!
「きゃあっ!」
私は思いっきりつき飛ばされてしまった。
しかしそのおかげで意識がくっきりと戻る。
「よくもやったわね琥は……!」
と同時に目の前にいる人物は琥珀ではなく、翡翠になってしまった。
「……あ、あら?」
これってもしかしなくても。
「……翡翠?」
「はい。お久しぶりです秋葉さま」
そう言って薄く微笑む翡翠。
「先ほどは申し訳ありませんでした。秋葉さまをつき飛ばしたりなどして……」
「い、いいえ、私も思い違いをしてたのよ。悪かったわ」
お互いに頭を下げあう。
「それで、貴方はどうしてここに?」
「……はい。わたしは城下町アリマで静かに暮らしていたのですが……ある日ウロボロス兵に無理やり連れて来られてしまったのです」
「乾さんが言っていた通りね……」
「……皆さんに心配をかけてしまっているようです。早く帰りたいのですが……」
翡翠は申し訳なさそうな顔をしていた。
「翡翠は何も悪くないでしょう。悪いのはウロボロスよ」
一体どうして何の非もない翡翠をさらうようような事をしたんだろう。
「……まあいいわ。とにかく脱出するわよ」
「どうやって……ですか?」
「例えばね、私にはこう……」
私は持っているアイテムの一つでも見せて翡翠を安心してあげようとした。
「素晴らしいアイテムが一杯……あれ?」
ない。なんにもない。
「アイテムが全部無くなってるっ?」
「秋葉さまの所有物は全てウロボロス兵が持っていってしまいました」
「……」
まあ、そりゃ牢屋に入れる人間の持ち物を剥ぎ取らないほうがおかしい。
「……まいったわね……」
ワープドアあたりを使えば一瞬だったのに。
翡翠を助ける事に加えてアイテム探しまでやらなくてはいけなくなってしまった。
しかも素手である。
「どこかこの近くに隠してあるとは思うのですが……」
「この状況じゃどうしようもないわね……」
私たちの入っている牢屋にはこれまた当然のように頑丈なカギがかけられていた。
「……ぐす」
翡翠の目に涙が浮かんでいた。
「……」
こんな環境で暮らすのはさぞ辛かったんだろう。
そして私との再会を果たしたはいいが、脱出の可能性はまるでなくなってしまった。
「冗談じゃないわ……」
なんとかしなくては。
私は翡翠を助けると宣言したのだ。
「んー……!」
鉄格子を引っ張ってみるものの、びくともしない。
「パワーグローブがあれば……」
こんなもの一瞬で破壊できるのに。
「やはり……駄目なんですね……」
「あ、諦めちゃ駄目よ!」
何か方法があるはずだ。何か。
「わたしは蛇と結婚させられてしまうんでしょうか……」
「……なんですって?」
誰が何と?
翡翠が蛇と?
「どうしてそんな事になってるのよ?」
ウロボロスのボスにしたって、狙うならもっと……そう、この城のお姫様でも狙えばいいのに。
「……わかりません……」
「……そうよね」
翡翠がそんな事わかるわけないのだ。
「わたしもウロボロスのボスはこの国の姫が目当てだとばかり思っていました」
「……そもそもその姫って実在するの?」
この混乱の最中姿が全く見えない辺り、ただの噂話なんじゃないかって感じがするけど。
「はい。滅多に姿を見た人間はいないらしいですが」
「……そう」
あまり人前に出る事を好まない人だったんだろうか。
琥珀あたりに見習って欲しいものである。
「とにかく、そんな事になるのを許すわけにはいかないわ」
翡翠は大切な従者であると共に友人の一人でもある。
なんとかして助けなくては。
「ニャー」
「ん?」
なにやら猫の鳴き声がしたような。
「ニャー」
「……あれは……」
鉄格子の向こうに見覚えのあるツインテールが揺れていた。
「弓塚……さん?」
そう、そこにいたのはネコアルクになってしまった弓塚さんである。
続く