大変仲の良いふたつの国に三人のお姫サマがおりました。
ひとりはフジョーの双子の姉のコハク。ひとりは双子の妹のヒスイ。
そしてトオノのアキハ。
これはそんなお姫さまたちの物語です。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その63
ある日、フジョーの王さまは言いました。
「ヒスイ、コハク。おまえたちはトオノの国に行くのだよ」
コハクにヒスイはトオノのアキハと仲良しだったので、その言葉にとても喜びました。
トオノには仲のいい男の子たちもいます。
二人はうきうきした気分でトオノへと向かいました。
「元気で暮らすんだよ」
王さまは何故か寂しそうでした。
「ようこそトオノへ」
歓迎された二人のお姫さまは、それはもう豪華で贅沢な暮らしをさせて貰えました。
どうしてこんなに歓迎されるんだろう。
姉のコハクは不思議に思いましたが、妹のヒスイが楽しそうだったので余計な事を言うことは止めました。
アキハや男の子、それから大人の人たちに親切にされてとても幸せな日々が過ぎました。
けれど、大人たちはどこか気の毒そうな顔で二人を見ていました。
それがどうしてなのか、幼いコハクにはわかりませんでした。
ある日、メイドの一人が話しているのを聞きました。
「フジョーって滅びそうな国だったんでしょ? どうしてわざわざ?」
「知らないよ。子供だからってちやほやしてるけど。ちょっと働かせてもいいんじゃないかね?」
それはとてもショックな話でした。
コハクはトオノの王さまのマキヒサに聞きました。
「フジョーがほろびそうってほんとう?」
滅びそうという言葉の意味はわかりませんでしたが、何か嫌な感じをさせる言葉でした。
「大丈夫だよ」
マキヒサはいいました。
「君たちがここにいる限りはね」
コハクは思いました。
だったらわたしたちはトオノにずっといなくちゃいけないのかなと。
けれど、皆は親切にしてくれるし、友達もいます。
ちょっと気に入らない大人たちもいるけれど。
それくらいは我慢します。
「わかった」
コハクは頷きました。
「わたしはずっとトオノにいます」
「いい子だ」
マキヒサは笑ってくれました。
その笑顔が何を意味するのか、コハクは知りませんでした。
月日はあっという間に過ぎました。
「お誕生日おめでとう」
その日はコハクとヒスイの誕生日でした。
二人には本当の誕生日があったのですが、トオノに来た日が誕生日ということになりました。
つまり二人がトオノに来てからちょうど一年が経ったのです。
「おめでとう、コハク、ヒスイ」
アキハは言いました。
「これからも仲良くしてね」
「もちろん」
ヒスイは元気良く返事をしました。
「はい」
コハクも頷きました。
「そうか、もう一年なのか」
アキハのお兄さんであるシキが呟きました。
「ヒスイとはよく遊んでるけどコハクとはあんまり遊べないなあ」
コハクは家で遊ぶ事が多かったので、みんなとあまり遊ぶ事が出来ませんでした。
ヒスイと違ってコハクはあまり元気な性格ではなかったのです。
「色々と勉強をしなくてはいけないからね」
マキヒサは言いました。
「はい」
コハクは頷きました。
きっといい子にしていればフジョーのお父さんやお母さんは幸せに暮らせるだろう。
そう思っていたのです。
「今日はコハクに勉強を教えなくてはいけないんだ」
「えー」
シキは不満そうな顔をしていました。
「せっかく遊ぼうと思ったのにさ」
「仕方ないですよ」
アキハが言いました。
「私とおままごとしましょう」
「ちぇ」
口を尖らせるシキ。
「また今度な!」
「はい」
コハクは頷きました。
「頑張ってねお姉ちゃん」
ヒスイに応援されてコハクは頑張ろうと思いました。
そして夜になりました。
「コハク」
コハクはマキヒサの部屋に呼ばれました。
「少し難しい話なんだがね」
なんだかマキヒサは苦しそうな顔をしていました。
「大丈夫ですか」
コハクは尋ねました。
「トオノの血を持つものにはね、ある悲しい宿命があるんだ」
「シュクメイ?」
「難しいか。どうしても避けられない事という事だよ」
「悲しいのはイヤです」
ケーキをシキに取られてしまった事を思い出し、コハクは悲しい気持ちになりました。
「そうだね」
マキヒサは言いました。
「トオノの人たちはね、大きくなると魔物にとり憑かれてしまうんだ」
「マモノ……」
絵本で見た事があります。
マモノというのはとても悪いモノなのです。
「そんなのイヤです」
コハクは言いました。
「だろう」
マキヒサは大きなため息をつきました。
「それを防ぐにはね、ある儀式をしなくちゃいけないんだ」
「ギシキ……?」
「簡単な事だよ」
マキヒサが立ち上がり、コハクに近づいてきます。
その目はいつものマキヒサとどこか違うようでした。
「かんたん……なんですか?」
コハクはなんだか怖くなって逃げようとしました。
がちゃ、がちゃがちゃ。
しかしカギは開きません。
「コハクとわたしである儀式をすれば助かるんだ」
肩に手を置かれます。
「イヤ、イヤです」
コハクは怖くなって首を振りました。
「わたしが魔物になったら」
マキヒサは言いました。
「ヒスイやアキハ、シキを殺してしまうかもしれない」
「!」
なんてことでしょう。
そんな事になったら琥珀は悲しくて悲しくてどうにかなってしまうかもしれません。
「嫌だろう?」
「……」
コハクにはギシキというものの意味がわかりません。
「それでみんなは助かるんですか?」
けれど勇気を振り絞って尋ねました。
「ああ」
マキヒサは笑いながら答えました。
「なら……」
コハクは言いました。
「みんなが助かるなら、お願いします」
「いい子だ」
マキヒサはさらに大きな口を開けて笑いました。
「ではそこに横になって……」
「……はい」
その夜ギシキは行われました。
それは琥珀にとってとてもとても辛く、イヤな事でした。
悲しくて悲しくて涙が止まりませんでした。
でも。
それでも。
これでみんなは助かるんだ。
マモノは出てこないんだ。
そう思う事で我慢することが出来ました。
しかし。
そんな気持ちがずっと続く事はありませんでした。
それは、ある日の出来事がきっかけだったのです。
続く