メイド喫茶に嵐が吹き荒れるのであった。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その47
「というわけで『アサガミオールスターズ』リーダーのアキラちゃんでーす。拍手〜」
「……」
しーん。
「あれー? みんなどうしたのかなー?」
「……なんで瀬尾がリーダーなわけ?」
「あは、あはははは……」
羽居に指名された瀬尾自身も苦笑いをしていた。
「だってアキラちゃんがいないと金山の発掘は無理なんでしょ?」
「それはそうなんですけど」
「はい、ガッツポーズ!」
「え? あ。はい……」
ボディビルダーのように両腕をむきっと構える瀬尾。
「……頼りないわね……」
「こ、こう見えても力仕事も得意なんですよ?」
「……」
本当に大丈夫なんだろうか。
「で、残りがわたしと蒼香ちゃんと四条さんだね」
「勝手にしてよ、もう」
四条さんは明後日の方向を向いていた。
「とにかくやるならさっさとしようや。みんな仕事に困ってるんだ」
蒼香がそんな事を言う。
「ええ。じゃあ……改めて確認するわよ」
全員の視線が私に集まった。
「あなたたちにやって欲しいのは、金山の発掘です。それも」
「それも?」
「エンフエンジョー山に眠る、一千万Gの金です!」
金がある事は知っていただろうけれど、この事実は知らないはずである。
「え?」
「『あの山』の?」
「『ホント』に?」
「掘るんですか?」
「それって」
「マジ?」
「あ、あら……?」
歓喜に震えるかと思いきや、皆が渋い顔をしていた。
「ど、どうしたのよ。何か問題でもあるの? ずっと話してたじゃないの。金を掘るって……」
「それはそうなんだが……ね」
歯切れの悪い言い方をする蒼香。
「私はなんとしてでもその金を見つけて、春を告げるベルを鳴らさないといけないんです」
「……おまえさん、あの山の事は何にも知らんだろ」
「は?」
「み、みなさん集合してくださいっ!」
瀬尾が少し離れたところで叫んでいた。
「何よ?」
「あ、遠野先輩はちょっと待機で!」
「は?」
私が首を傾げている間に、みんなはひそひそ話を始めた。
「蒼香ちゃん。わたしたちお金ないと困っちゃうし……」
「バイトしましょうよ」
「……そーだな」
「そーですよ」
「うん」
そして戻ってくる。
「ええ、はい。皆さん快く引き受けてくれるそうです」
「……」
ものすごい怪しい。
瀬尾の行動はずっと引っかかるものがあった。
「……まあ、いいでしょう」
とにかく金山まで行ってみよう。
いくらなんでも琥珀クラスの悪巧みを考えているというわけはないだろうし。
「でも、どうやって行くの? 山はウロボロス兵に占領されてるんでしょ?」
四条さんがそんな事を言った。
「確かにね……」
私や蒼香はともかく、瀬尾に羽居に四条さんはただの一般人なわけだし。
「それなら問題ないと思う」
「蒼香?」
「まあ見てなって……」
「オレたちの羽居ちゃんに何しやがんでぃ!」
どごぼかごすべきめきょっ!
「あ、アキラちゃんに手を出すのは許さないんだな」
ぼこどかがすごき。
「……何者なの、アレは」
ウロボロス兵を蹴散らすおじさんたちの後を私たちは平然と歩いていた。
「メイドカフェの常連と、町で羽居に親切を受けた連中。あたしらけっこう滞在してたからな。いつの間にかファンクラブまでできてやがったんだよ」
くっくっくと不敵に笑う蒼香。
「元々金を掘りに来た人たちだから力はあるんですよね」
「……なるほど……」
わかったようなわからないような。
「あそこが金山の入り口でしたっけ?」
「……ええ」
とにかく、おじさんたちのお陰であっという間にたどり着いてしまった。
「門番がいるみたいだな」
「……アレの相手はさすがに厳しいでしょうね」
道中にいたウロボロス兵は明らかに雑魚だったけれど、門番だけは凶悪なオーラを放っていた。
「混沌の鎧もあるし……」
つまりは久我峰が纏っていたのと同じ装備だ。
「ココは俺たちに任せてくんな!」
すると一人のおじさんがそんな事を言った。
「どうするんです?」
「まあ見てなって。そのへんに隠れててくれよ」
「はぁ」
言われるがまま影に隠れる私たち。
「やーい、やーい、おマヌケ兵士! 悔しかったらココまでおいでー!」
「……っ?」
思わずひっくり返りそうになってしまった。
まさかそんなつまらない陽動に……
「グフフー! 怒ったぞ!」
「グフフー! 許さんぞ!」
だだだだだ!
「……引っかかってるし……」
「さあ、行くぞ遠野」
「ええ……」
なんだか頭痛がしてきてしまった。
「いい、みんな。目指す金はこの先よ!」
私は金山の奥の固い岩盤のところへみんなを連れてきた。
「確かに怪しい感じがしますね……」
壁を撫でながらそんな事を呟く瀬尾。
「じゃあきのこの出番だね〜」
羽居がきのこ人形を地面に置いた。
「ミッドナイトナイスガイ!」
ちゅどーん!
「……どういう仕組みなのかしら……」
壁には綺麗な穴が開いていた。
「気にしたら負けだぞ遠野」
「ええ……」
先行して進むみんなの後ろをついていく私。
「あの、遠野先輩。まことに恐縮ですが、ひとつお願いがあるんですけど……」
「ん?」
瀬尾が恐る恐るといった感じで話しかけてきた。
「何? 言ってみなさい」
「はい。仕事を始める前にバイト料を決めておきたいんです」
「バイト料ね……」
「わたしは同人費用が必要ですし、蒼香先輩たちもお金が必要みたいですし」
「この辺の岩ならあたしらでも崩せそうだしな」
かつーん。
「ちゃんとお金は払ってよね!」
かつーん。
蒼香と四条さんが地道に壁を掘り崩していた。
「〜♪」
羽居はキノコに任せて悠々としている。
「あ、四条先輩。そこをもうちょっと右に……」
「こうかい?」
かつーん。
瀬尾は皆に進行方向の指導。
「もっともな相談ですね。では一人あたりいくら欲しいんですか?」
持って来たお金は無くなってしまったけれど、こちらに来てから溜めてきたお金はそれなりにある。
「申し訳ありません。では一人当たり50づつくらいで……200Gほど頂けたらなーと」
「わかりました。人手不足ゆえ仕方ないでしょう。ただし、お金を渡すのは仕事が進んでからです」
前払いにすると逃げ出しそうな人が一人いるし。
「ああもうこの岩固い……っ!」
「ナイフの扱いなら得意なのになあ」
「そ、それはもう忘れてよっ」
誰とは言わないけど。
「では貴方たち。しっかり頼むわよ。私はその間にこの金山の『秘密』とやらを探ってみるわ」
「はーいっ」
「わかったわかった」
「心配しなくてもサボったりはしないわよ……」
私は瀬尾たちと一旦別れ、穴の捜索を始めるのであった。
続く