「弓塚さん、その……」
「ん?」

私が確認をしようとしたその時。

「うにゃー!」

ネコアルクの鳴き声が聞こえた。

「行こうっ!」
「え、あ、はいっ!」
 

戸惑いつつも、今の私には弓塚さんの後を追う事しか出来ないのであった。
 
 



「トオノの為に鐘は鳴る」
その25

「きしゃー! んなろー!」
「……ん?」

ネコアルクの鳴き声に近づいていったのに、目に入ってきたのはヘビの姿だった。

「あそこっ」
「……あ」

そのヘビの睨みつけている水の中。

ネコアルクががぼがぼもがいているのが見えた。

「あれじゃそのうち食べられちゃうよ……」
「……」

ヘビがネコアルクをごっくんと。

「……あんまり見たくない光景ね」

一応私が戻れなかった頃に世話になったわけだし。

「助けてあげましょうか……」

剣を構え、ヘビに攻撃を仕掛ける。

「シャー!」
「……っ」

ただのヘビのくせしてやたらと手強い。

「気をつけて、多分ウロボロスの力でパワーアップしてるんだよっ」
「……そういえばボスもヘビって言ってたものね……」

その凶悪な牙で噛みつかれたらひとたまりもなさそうだ。

「せいっ!」

首根っこを掴み一気に喉を貫く。

「ギ……」

ヘビは黒い煙となって消えていった。

「これは……」

あの混沌と同じ消え方?

「ねえそこのあなたー? 大丈夫ー?」

私が考え込んでいると弓塚さんがネコアルクに呼びかけていた。

「うにょ?」

弓塚さんの声に反応し近づいてくる。

「……」

私も会話をするために水に入り姿を変えた。

「助けてくれてありがとニャ。いや本気で危なかったぜー」
「気をつけなきゃ駄目ですよ? 世の中には頭から丸かじりにしようとする人だっているんですから」
「それは言わないでよー」

苦笑いしてる弓塚さん。

「……ふむ、しかしそうなると謎だにゃー」
「何がです?」
「いや、ヌシがアチキらのボスを裏切ったというニュースが入ったのだがな」
「……」

ネコアルクのボスというのはアルクェイドさんの事だ。

「しかし今の行動からして……そう簡単に裏切るようなヤカラとは思えんのだがー」
「事実ですよ。理由はどうあれね」

あの時私は自分の事しか考えていなかったのだから。

「……ほむ。まあおにょれの信じる道を行くといいニャー」

この生物に諭されるというのはなんだか微妙な気分である。

「ところで、アリマの人たちって見なかったかしら?」

ものはついでだ。もしかしたら何か知っているのかもしれない。

「んー、そういえばなんか大勢連れられてったようニャ」
「……やっぱり」

弓塚さんと顔を見合わせる。

「つーかあれだぞ。さっきのヘビとの戦いを見た限り、今の剣じゃ牢屋の番人にボッコボコー」
「助けて貰ったくせにずいぶんな口の聞き方ですね」

ほっぺたを思い切り引っ張ってやる。

「いにゃにゃにゃにゃにゃ!」

ぷにぷにしていて結構楽し……ごほごほ。

「武器を探すってのはどうかな? このお城だったら色々あると思うけど」
「……そうですね」

弓塚さんは道に詳しいみたいだし。

「では行きましょうか」

一応は警戒しておくか。

「うん……いったああっ!」

背の低くなった私の後からついてきて頭をぶつけている弓塚さん。

「……」

ま、まあ一応は警戒しておきましょう。
 
 
 
 

「へっへっへ。笑えるよな」
「ん?」

しばらく進んでいくと、壁の向こうから誰かの話し声が聞こえてきた。

「反抗的だった町の奴らはみんな地下牢にブチこんだし、これでボスから臨時ボーナスが貰えるぞ!」
「……こいつら悪人なんだかバカなんだかはっきりして欲しいわよね」
「両方なんじゃ?」
「なるほど」

妙に納得出来てしまった。

「あいつらもうすぐ死刑だぜ! ケケケッ」
「……余裕はないか……」

笑っている場合でもなさそうだ。

「……ところでおまえあのウワサ聞いたか?」
「ん? ああ、聞いた聞いた! オレたちの仲間がついに姫を捕まえたらしいな!」
「姫……」

そういえばなんだかよくわからないけど絶世の美女がいるとか言ってたっけ。

「……あんまり関係ない話ね」

兄さんが捕まったとなれば話は別だけど。

「でもいずれは助けてあげなきゃ……国の大事な人なんだから」
「……まあ、放置はしませんよ」

多分。

「今は町の人たちを助けるほうが先です。先を急ぎましょう」
「あ、うん」

さらに道を進む。

「あれは……?」

何かの入り口があった。

遠くにあるせいか、いやに小さく見える。

「行ってみましょう」
「あ、うん」

弓塚さんと共に急いでその入り口へ……

「あ、あら?」

ほんの少し歩いただけで。

「これって……?」

そう、遠くにあったから小さく見えたのではない。

「最初から小さく作られてたのね……」

その高さは、猫又姿の私の半分くらいのものであった。

「……這いずってで行けば通れそうだけど」

それができるのは私のサイズだからであって。

「ど、どうしよっか?」
「……一応挑戦してみます?」
「う、うん」

四つんばいになり、恐る恐る首を突っ込む弓塚さん。

「どうですか?」
「無、無理ー!」

言われなくてもわかる。

首だけ入って肩から先で完全に引っかかってしまっていた。

「んー、んー!」

首を抜こうともがく弓塚さん。

意外と大きめのお尻が前後に揺れる。

「なんで入った物が出ないんでしょうね……」

ずん、ずんっ。

「だめえ、固いのぉ!」
「……その動作をしながらそういう発言をしないで頂けませんか?」

傍から見ているとただの変な人なのだけど。

声と音だけ聞いていると誤解されそうな勢いである。

ずぼっ!

「ひゃっ……や、やっと出たぁっ……」

埃まみれになった弓塚さんの顔。

「ぷっ……」

思わず笑ってしまう。

「やれっていったのはそっちなのにー!」
「す、すいません。つい。……ですが困りましたねこれでは」

この先を調べるなら一緒に行動というのは無理のようだ。

「仕方ないからわたしは別のルートを探してみるよ。遠野さんはここからどこに繋がってるのか探ってくれない?」
「ええ」

こんな妙な仕掛けがあるのだから、そこにはなんらかの意図があるはずだ。

「これも預けて置くから」
「……どうも」

腕からパワーリストを外して手渡してくれる弓塚さん。

「いいんですか? 万一襲われたら……」
「大丈夫っ。わたし逃げ足だけは速いからっ」

そう言うや否や、その足を生かしてすたこらさっさと走り去ってしまった。

「……まあ、あの人なら大丈夫かしらね」

ギャグマンガのキャラと同じで、例え大爆発に巻き込まれたって死にはしないだろう。

そういう雰囲気がする。

「……ま、今の私の姿もそうなんですけどね……」

すっかり慣れてしまったけれど、この姿はもはやギャグ以外のなんでもなかった。

「はぁ……」

すりすりと這いながら穴の中を進む。

「……」

そういえばどこぞの本で胸が薄いとほふく前進が早いだのどうだの不愉快な事が書いてあったっけ。

「こ、この体じゃアルクェイドさんだって同じですもねっ。ほほ、おほほほほっ!」

しーん。

「……空しい」
 

一人でのボケはただひたすらに空虚だった。
 

続く



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