互いの肉球に触れ合う二人。
つまりは握手だ。
ここに奇妙なパーティが完成するのであった。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その16
「ちなみに目から打てる真祖ビームで雑魚モンスターならなんとか倒せるわよ」
「……目から……ですか」
しかもその最悪のネーミングセンスはなんなんだろう。
「掛け声は『おぶぱっ!』ね」
「……」
敵を見たら逃げることにしよう。
「あとはなるだけ猫っぽいフリをすることね。ウロボロスを油断させるために」
「……猫なんですか?」
「だって、ほら『ネコ』アルクだから」
「まあなんでもいいですけど……」
「語尾に『にゃ』とかつけるといいんじゃないかにゃ?」
「にゃ」をつけただけで急に別物っぽくなってしまうのは何故なんだろうか。
これもやるのは止めよう。
「……っと。ついたわね」
下らない話をしている間にフジョー城にたどり着いた。
「さて、ここからはどっちが志貴を見つけられるか勝負ってことにしない?」
「ええ。望むところです」
「ふふ、妹には負けないわよ!」
「それはこちらのセリフですよ!」
私たちはそれぞれ右と左に分かれて進み始めた。
「そういえばウロボロス兵に囲まれた時に……」
奥へ進む道があったはずだ。
ぴちょーん。
「水たまり……」
道の先には水が一面に敷かれたフロアだった。
ぽいと石を投げ入れてみる。
「……浮いてこない」
というより底すら見えない。
「人間の時だったらここで引き返すしたけど……」
今は体が違う。
見た目は悪いが便利な体になったのだ。
「えいっ!」
躊躇せず水の中に。
ぶくぶく。
問題なく息が出来る。
「楽なものよね」
底で足をつき、そのままひょいひょいジャンプしながら進んでいく。
「ん?」
と、水の底に何かがいるのが見えた。
「オイーッス」
「ア……アルクェイドさん?」
そこにはさっき別れたはずのネコアルク化したアルクェイドさんが。
「アチキは野に生きるネコ、つまりは野生のネコアルク一号。姉御の命で協力してやるぜー」
「……姉御?」
「アルクェイド姐さんだニャ。姐さんはネコアルクにしてネコアルクでない気品があるオーラを感じるのだ」
「そりゃそうでしょうねえ」
この世に一人しかいない、正真正銘の真祖なのだから。
「アンタも何か違う気配がするニャー。ナイチチって胸キュン?」
「黙らっしゃい」
なんだろう、この腹の立つ生物は。
ある意味アルクェイドさんよりタチが悪いかもしれない。
「まあ頑張って先を進むといいニャ。あちきは水泳を楽しんでる最中なのニャ」
「……永久に泳いでればいいのよ」
「うにゅーん」
ネコアルク一号はうねうねしながら水の中を泳いでいた。
あれ、何も知らない人が見たら相当怖いんじゃないだろうか。
ざばっ。
水をあがり先へ先へ。
人間じゃ届かないような高いところへも、この姿での跳躍力なら楽勝だった。
「ん?」
しばらく進むと変な顔の描いてあるブロックがあった。
「何かしら……」
試しに乗ってみる。
ぐらぐらぐら。
「ちょ……っ?」
ひょーん。
「……っ!」
力なく落下していくブロック。
「なるほど、一定時間乗ってると落ちる仕掛けか……」
つまりは一気に進まないといけないわけだ。
「こんなもの!」
ひょいひょいひょいと華麗にジャンプする私。
「……ふっ」
落下が始まる前に余裕で突破出来てしまった。
「大した仕掛けじゃないわね」
といってもこの体になってなければ突破できたかどうかは怪しい。
そう考えると猫又になってしまったのはプラスなのだけれど。
「まだ何があるかわからないわね……」
常に警戒しておかなければ足元をすくわれてしまう。
「いよーう」
「ん」
さらに進むとまた別のネコアルクがいた。
「この先にウロボロスの休憩所があるニャ。いい情報が得られるかもしれないぞー」
「ありがとう。助かるわ」
休憩所は本当にすぐ傍であった。
「ウィー」
部屋に入るなり鼻につくアルコールの匂い。
「お酒ね……」
しかもかなり強いもののようだ。
「貴方たち、腑抜けた顔のメガネをかけた人を知らないかしら?」
無駄とは知りつつ声をかけてみる。
「ウィ〜ッ ヒック!」
駄目だ。
ネコアルク云々以前に話になりそうにない。
「おい、ネコアルクが何か言ってるぜ?」
と、他の兵士が私に気付いたようだ。
「貴方たち、腑抜けた顔のメガネをかけた人を知らないかしら?」
もう一度尋ねる。
「ニャンニャン鳴いてるぜ。スルメでも欲しいのかな」
やはり彼らには私の言葉が通じていないようだ。
「おまえらネコアルクには丸々太って貰わんとな!」
「……丸々太って……?」
なんだろう、その嫌な予感がする言葉は。
「何を企んでいるんです!」
「よしよし、ビールでも飲むか?」
「……」
向こうの言葉はわかるのに、こちらの意思は通じない。
なんて歯がゆい状態だろう。
「エダマメでも食うか?」
私の前にそれが差し出される。
腹立たしい気持ちでそれを見ていると。
「でも、こいつらオレらのボスの姿を見たら驚くぜ」
と意味ありげな事を言った。
「なんせネコアルクを食べるのが何より大好きっていう……恐ろしい蛇だからな! ギャハハハハハ!」
下品な笑い声。
しかしそんな事を気にしている場合じゃない。
「こいつらのボスがヘビ……? しかも今の話からすると……」
私たちは……ウロボロスのボスの……エサ?
「じょ、冗談じゃありません!」
そんな事になってたまるものですか。
急いでアルクェイドさんにも知らせないと!
キーンコーンカーンコーン……
その時鐘の音が鳴り響いた。
「城の見回りの時間でーす! 怪しい人がいないかよーくチェックして下さーい!」
悪者集団のくせにいやにファンシーな声。
「やばい、遅刻しちまうぞ!」
「急げ急げ!」
ウロボロス兵たちは慌てて部屋を出ていった。
「……ん」
兵たちが座っていた机の上に鍵が置いてある。
「ダイア型のカギ……」
何かの役に立ちそうな感じだ。
せっかくだから貰っておこう。
「……とにかく急いで戻らないと!」
私は大急ぎで来た道を引き返すのだった。
続く