すりすりと這いながら穴の中を進む。
「……」
そういえばどこぞの本で胸が薄いとほふく前進が早いだのどうだの不愉快な事が書いてあったっけ。
「こ、この体じゃアルクェイドさんだって同じですもねっ。ほほ、おほほほほっ!」
しーん。
「……空しい」
一人でのボケはただひたすらに空虚だった。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その26
「……ふうっ」
ようやっと長い穴を抜けた。
「ん」
抜けた先にあったのは広い部屋と、敷き詰められた水面だった。
「えいっ」
水に飛び込みばしゃばしゃと進んでいく。
ゴボゴボゴボボゴ……
「?」
何かが近づいてくる。
「……っ!」
真っ黒い魚だ。
口を大きく開いて私に迫ってきた。
「ちょ、ちょっ……」
スバッ!
「……!」
肩の辺りを掠めて通り過ぎ、再びこちらへと向かってくる。
「冗談じゃありません!」
慌てて水面に顔を出す。
上空には揺れながら動くブロックがあった。
「……てやっ!」
それに飛び乗り慌てて這い上がる私。
「……」
黒い魚は私のいた辺りを左右に往復していた。
「油断も隙もありゃしないわね……」
魚といいヘビといい、弓塚さんといい。
この姿ってそんなに美味しそうに見えるのかしら。
「まあいいわ……」
ブロックを渡り昇っていく。
ぶおんっ!
「きゃっ?」
昇り終えた途端、風が私の顔を凪いだ。
「何……!」
その風の出所はすぐにわかった。
巨大なトゲ付き鉄球がぐるぐる回転しているのだ。
「……当たったらひとたまりもなさそうね」
しかもそこ以外に道はないと来たもんだ。
「足を踏み外せばさっきの水の中……か」
落ちればさっきの魚が私を待ち受けている。
「……」
迷っていたって仕方がない。
「とうっ!」
タイミングを計り足場に向かって飛ぶ。
「……っ」
私の真横を鉄球が通り過ぎていった。
「はぁっ……」
再びタイミングを計って飛ぶ。
「……っ!」
空中にいる私に鉄球が迫ってきた。
ゴッ!
「きゃあっ!」
衝撃と共に吹き飛ばされる。
だんっ!
「……っ!」
幸いというべきなのか、渡るべき場所に落ちる事が出来た。
「はぁっ……はぁ」
しばらくそのまま体を休める。
ころん。
「……あ」
懐から出てきたのは都古に貰った回復のワインだった。
「……ありがたく……使わせて貰うわ」
一気にそれを飲み干す。
「……ふぅ」
これでもう少し進めそうである。
「よし!」
進んだ先にあったのはさっき通ったのと同じような穴。
「……やる気を出した途端にこれ……」
ここを通るのは正直憂鬱だった。
しかし進む道はそこしかないわけで。
「……ん」
再び這いつくばって道を進む。
抜けた先にあったのは宝箱だった。
「何かいいものでも入ってるかしら」
期待を抱いて開けてみる。
「……果実……」
中に入っていたのは食べると気絶する幸せの果実。
人間に戻るためにはこれが必要不可欠だから、あって困る事はないのだけど。
「苦労して抜けてきた先にこれじゃねえ」
他に何かないだろうか。
「……」
あった。
また同じような穴が。
「……ああもうっ……!」
半ばやけ気味に這いつくばって進んでいく。
宝箱を開けては進み、宝箱を開けては引き返し。
宝箱の中身はどれも大した物ではなかった。
「……ふぅ」
しばらく進むとイケイケ玉があったのでそこを拠点として体を休める。
それにしてもこの城は広い。
一体どういう構造になっているんだろう。
「ん」
目に入る距離に看板が立てられていた。
「これは……」
そこまで歩いていき何が書いてあるのかを読む。
『この先武器用倉庫』
「ふーん……」
そういえば弓塚さんが何かいい武器があるかもって言ってたっけ。
「一応見てみますか」
と言っても看板の先には壁しかない。
「……?」
いや違う。これはブロックで塞がれているのか。
「さっき弓塚さんに貰ったパワーリストで……」
人間に戻ればなんとか押すことが出来そうである。
果実を食べて人間の姿に戻る。
「……っ!」
まずはリストを付けずに押してみたがびくともしなかった。
「はぁ……はぁ」
諦めてリストをつけ、もう一度押す。
「ん……しょ……っと!」
ずず……ずず。
重さは感じるものの、大した苦労もなくブロックをどかすことが出来た。
「さて、今度こそいいものがあればいいけど」
先に進むと、変な看板が私を待ち受けていた。
『銀の剣倉庫 〜ドロボウよけのワナあります!〜』
「……頭痛がしてきた」
ウロボロスの連中は一体何を考えてるんだろうか。
「……」
倉庫の中には宝箱が6つ。
さて、どれを選ぼうか。
「ど、れ、に、し、よ、う、か、な」
どうせ私にわかるわけないんだから適当に選んでみた。
がちゃ。
「シャーッ!」
蓋を空けた途端に宝箱が暴れだす。
「ハズレってことねっ……!」
ざしゅっ!
「……っ」
盾で攻撃を受け止め剣で追い払う。
ずばっ!
「……はぁっ」
宝箱のくせに手強かった。
「つ、次は……」
ええと……左のっ!
「シャーッ!」
「ま、またっ?」
次の宝箱もハズレ。
次も、その次も。
「はぁ、はぁはぁ……」
さっき回復したばかりなのに一気に体力がなくなってしまった。
「次間違えたらアウトだわ……」
もう次のモンスターを倒せる自信がない。
残る宝箱はあと二つ、確立は二分の一だ。
右か左。
「……右……左……」
悩む。
ええい、ままよ!
がちゃっ!
覚悟を決めて宝箱を開けた。
「あ……」
そこにはきらきらと光る銀色の剣はが入っていた。
「……」
手に持つと意外と軽い。
ひゅっ……
空気を裂く音は今までよりもよい響きだった。
ガッ。
「……あ」
その振った剣が残りの宝箱に当たってしまった。
「シャーッ!」
「ああもう私のバカっ!」
遠くで素振りをすればよかったのにっ!
ぶんっ!
やけくそで剣を振り回す。
「ギャアアアッ!」
「……あ?」
さっきまで苦労して倒していたモンスターを一瞬で倒してしまった。
「すごい剣だわ、これ……」
そういえば銀には聖なる力があるとかなんとか聞いた事がある。
「……いける、いけるわ!」
この剣があれば百人力、町人も容易く助け出すことが出来るだろう。
「待っていて下さい皆さん、今助けに行きますからね!」
私は颯爽と駆けだした。
「……まあ、あくまで傷を癒してからですけど」
助けに行って返り討ちにあったのでは笑えない。
私はイケイケ玉に触れて体力を回復し、町人を助けるために万全の体勢を整えるのであった。
続く