「あ、秋葉さま!」
「おいおい。あれだけ準備しといて結局どたばたになっちまうのかよ?」
「仕方ないでしょう!」

悪いのはタイミングの悪い兄さんと琥珀である。
 

「行くわよレンっ!」
「……」
 

レンと二人、大急ぎでフジョーを目指すのであった。
 
 




「トオノの為に鐘は鳴る」
その58





「……行くわよ」
「……」

階段を駆け上がり一直線にボスの部屋への扉を目指す。

「え?」

ところが固く閉ざされていたはずの扉は既に開かれていた。

「兄さんと琥珀が……?」

でも兄さんだってカギなんか持ってないだろうに。

「……」

くいくい。

レンが扉のある部分を指差した。

「壊れてる……?」

ちょうど施錠する部分がまっ二つに切断されていた。

「……」

試しに剣を振るってみる。

キィン!

「……っ」

腕のほうにシビレがきてしまった。

「こんな扉のカギをどうやって……」

恐らく最も頑丈に作られていた場所だろうに。

「……」

レンは首を傾げていた。

「そんな事にこだわってる場合じゃないか……」

とにかく兄さんたちは先に進んでいるらしい。

私も急がなくては。

ひたすらに階段を昇り上に進む。

「ん」

しかし行き止まりになってしまった。

「おかしいわね……」

他に進む道なんかなかったのに。

「……」

ぴょんぴょん。

「レン?」

見るとレンが何かを掴もうと跳ねていた。

「……あ」

天井にはレールのようなものがあり、捕まれる吊り輪のようなものがぶらさがっていた。

「これを使って進めばいいのね……」

レンじゃ届かなくても私なら余裕で届く。

「よっと……行くわよ」
「……」

レンが猫の姿になって私にしがみついた。

「……ふふ」

猫に懐かれるのって何故か嬉しいのよね。

「?」

首を傾げているレン。

それからにゃあと大きな鳴いた。

「どうしたの……ごっ!」

次の瞬間、私の顔が壁にめり込んでいた。

「……不覚」

そして二人仲よく落っこちてしまうのであった。
 
 
 

「ああもうっ!」

同じ道のりを進んできて再度の挑戦。

「今度は失敗しませんよ!」

不思議な事に使った吊り輪は元の場所に戻っていた。

一度使ったらもう駄目だったらどうしようかと思ったけど。

「警備が甘いんだか厳しいんだか……」

こういう仕掛けをつくっているくらいだから、警戒はしているんだろうけど。

「よっと……」

難なく突破し先へ進む。

「ブロックで塞がれてたって……」

行く先を塞いでいる巨大ブロックもパワーグローブにかかればものの数ではない。

「せいっ!」

もちろん見張りの兵士なんか相手にならなかった。

「ふふふふふふ」

今の私だったらウロボロスなんか楽勝だろう。

兄さんより先に倒してしまうかもしれない。

「……あ、あら?」

しばらく進むと城の外に出てしまった。

空にはふよふよと雲が浮かんでいる。

「道がないわね……」

さてどうしたらいいんだろうか。

「……ん?」

気付くとレンがいなくなっていた。

「レン?」
「……」
「って!」

なんとレンが雲の上に乗っているではないか。

「ちょっと……大丈夫なの?」
「……」

レンはぴょんぴょんと雲を伝って上に昇っていく。

「……ああ、もう」

半ばやけ気味に雲へと手を伸ばす私。

「しかも固いっ?」

雲っていったら柔らかいイメージなのに、ごわごわして固かった。

「頭痛くなってきたわ……」

常識が通用しない世界に来てしまった気がする。

「……もっとこう緊迫感のある……」

ラスボス前なんだぞって雰囲気にならないんだろうか。

「……」

レンを追いかけ昇っていくと雲が途絶えてしまった。

「どうするの?」

下を指差すレン。

「……え」

まさか?

ぴょん。

「ちょ……!」

レンは何のためらいも無く雲から飛び降りてしまった。

私たちがいるところはかなりの高度のはずだ。

こんなところから落下したら……

くるくるくるくる……しゅたっ。

「……猫だったわね、そういえば」

レンは城の一部にうまく着地していた。

「……で」

私はどうしろというんだろうか。

同じ事をやれと?

「……」

両手を振っているレンの姿。

「……」

地面は見えないほど遠い。

もしレンのいる場所にうまく着地出来なかったら……。

「こんな緊迫感はいらないのよっ!」

もっとこうすごいボスが出てくるとか!

「……はぁ」

などとわめいても仕方がない。

「え……えいっ!」

覚悟を決めて私は思い切り飛んだ。

「……」
「え?」

そして落下している私の目の前にレンの顔が現われた。

がしっ!

「ちょ……!」

この体のどこからそんな力が出るのか、私はレンに投げ飛ばされてしまった。

「きゃああああああっ!」

ばしっ!

壁に叩きつけられる私。

そのまま壁沿いに落下していく。

「いたた……何するのよ……!」
「……」

レンはさっきと同じように華麗に着地していた。

「私はうまく着地を……」

着地?

「……あ」

そうか、レンに投げ飛ばされたおかげで無事着地できたわけか。

「あ、ありがとう?」
「……」

レンは何も言わずふるふると首を振っていた。

「まさか反射的に投げにいったとか」
「……」

てってってってって。

「ちょ、こら待ちなさい!」

無言で城の中へ走っていくレンを追いかける。

ジャッ!

「きゃあっ?」

いきなり足元に怪しい物体が飛んできた。

「なに……?」

天井を見ると蛇を象った飾りがあった。

そしてそいつの口から魔力の固まりが吐き出されてきた。

「どうやらボスが近いみたいね……」

侵入者を自動で撃退する仕組みのようだ。

ジャッ!

「……!」

蛇は部屋を駆け回るレンを狙い出した。

「レン!」
「……」

ぴっと部屋の中央を指差すレン。

「階段……」

先に行けというんだろうか。

「必ず来るんですよっ!」
「……」

こくり。

レンが頷いたのを確認して階段を駆け上がる。

「侵入者だー!」
「……来たわね」

その先にはウロボロス兵が大勢で待ち構えていた。

「今の私に負ける要素は……ありません!」

縦横無尽、ばったばったと兵士を倒していく。

「……?」
「あら、遅かったわね」

レンが来る頃にはもうあらかたを倒してしまっていた。

「……」
「なに?」

レンが見つめている方向を見ると看板があった。

そして最初にあったような大仰な門。

『春まで開けるべからず』

「そう……」
 

ついに来たのだ。

ボスの部屋まで。
 
 

続く



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