看板の先には、壁しかなかった。
いや、違う。
「岩が道を塞いでるじゃないの……!」
フジョーの城でどけたブロックとは比べ物にならない巨大な岩が道を塞いでいたのである。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その29
「このリストバンドの力じゃ動きそうにないわね……」
試しに押してはみたものの、びくともしなかった。
「……とりあえずトウサキで対策を練るしかないか」
一子さんならば何かいい知恵を授けてくれるかもしれない。
「ん?」
トウサキに入ると妙に町が騒がしかった。
「何かあったのかしら?」
「おう、遠野の妹さん」
私がうろうろしていると、一子さんが気付いて声をかけてきてくれる。
「何かあったんですか?」
「ん? ああ、なんか変な外人が店を立てたんだよ」
「……変な外人?」
「まあ見てみればわかる」
「はぁ」
一子さんについてその店を見に向かう。
お店は港のすぐ傍にあった。
『金のことなら何でもお任せ ギルガメッシュ商店』
「……これは?」
「多分有彦の言ってたオーナーの店」
「なるほど……」
入り口は妙にキラキラして成金趣味だった。
こういうことをされるから金持ちに偏見を持たれるのよね。
「ちなみに一子さんはこの店に入ったことは?」
「ないね。行ってみるかい?」
「ええ」
「オッケー。んじゃ失礼するよ……っと」
二人して入り口をくぐる。
「いらっしゃいませ。ギルガメッシュ商店へようこそ」
中で出迎えてくれたのは紫色の衣服を纏った女性だった。
こう、なんていうかいかにも狙ってるって感じの短いスカートと、ニーソックス。
腰まで伸びている編んだ髪。
「わたしはこの支店を任されているシオン・エルトナム・アトラシアと申します。以後お見知りおきを」
割と知的な感じのする表情である。
だから格好とのギャップがかなりあった。
「私は遠野秋葉と申します。宜しくお願いします」
一応同じように挨拶を交わす私。
「……ギルガメッシュさんってのはいないのかい?」
周囲を見回しながら一子さんが尋ねた。
「はい。オーナーは本部で仕事を行っていますので。わたしは路地裏で貧……いえ、商才を見込んで雇われたのです」
「ふぅん。まあそのへんの話はどうでもいいわ」
私がそう言うとこほんと咳払いをするシオン。
「そうですね。つまらない話はさておき本題に入りましょう。何かお困りの事はありますか?」
「まず一つ確認を。看板に書いてあったけど、金を買い取ってくれるというのは間違いないわよね?」
せっかく金を手に入れてきても、買い取ってくれなければまさに宝の持ち腐れになってしまう。
「勿論。しかし代金を支払うのは現物を見てからの話です」
「鑑定は信用出来るんだろうね?」
「わたしは錬金術師。金のことならなんでもわかります」
どんと胸を叩くシオン。
その胸が大きく揺れるのがなんとなく不愉快である。
「……でも錬金術師ってそういう職業だったかしら」
むしろ自分で金を作り出す人の事なんじゃ?
「わたしはそういう錬金術師なんです。苦情は一切認めません」
「そ、そう……」
まあとにかく金を買い取ってくれればなんでもいいのだ。
深く追求しないであげておこう。
「それでどうです? 金が手に入る目処は立ったのですか?」
「……それが」
問題なのはそこである。
「実は氷河への道が塞がっていまして……」
「あれもこないだの地震の影響だな」
一子さんが渋い顔をしていた。
どうやらこのあたりは一番地震の被害が大きかったようだ。
「氷河の先に金山があるのですが……このままでは金山はおろか、氷河へも行けません」
「……それは困りますね。その岩をなんとかしなくては」
「でもこのリストバンドじゃどうにもならなそうで……」
力で解決するのが得意なのはアルクェイドさんのほうである。
そのアルクェイドさんも今やネコアルク姿で行方不明と。
今あの人はどこにいるんだろう。
……いえ、別に心配しているわけではないのですが。
「秋葉?」
「え? なんですか?」
シオンが不思議そうな顔をしていた。
どうやら声をかけられたのに気付かなかったらしい。
「そのリストバンドとやらを見せて頂けますか?」
「あ。はい。わかりました」
バンドを外してシオンに手渡す。
「ふむ……ふむ……。これは……」
上から下から様々な角度でそれを調べるシオン。
「何かわかりましたか?」
「ええ。これは株式会社型月の製品ですね」
「型月……」
なんだろう。いつぞやそんな名前を聞いた事があるような気がするけど。
「あそこか。有名な会社だからな」
「有名なんですか?」
「そりゃもう。同人から企業にまでのし上がったという同人ドリームの……」
「はぁ」
よくわからないけど凄い会社らしい。
それならどこで聞いたっておかしくはないんだけど。
なんだか引っかかるのよね。
「しかもこのリストバンドはかなり昔の製品ですね」
「そうなんですか?」
「はい」
「……」
弓塚さんの事だから、古いアイテムを定価で買わされたりしたんじゃないだろうか。
今頃くしゃみでもしてるかも。
「現在ならもっとパワーの出るアイテムがあるかもしれませんよ」
しばらくバンドをいじった後、シオンがそんな事を言った。
「ではあの大岩も動かせるようになると?」
「可能性としては高いですね」
「なるほど……ではその型月とやらに行かなくては」
とは言ってもそんな会社どこにあるんだろう。
「型月は『ステイナイ島』という島にあります。そこへ行くなら外の船を使ってください」
「ずいぶんキップがいいんだな」
一子さんが驚いた顔をしていた。
「金の為にはお金を惜しみません。……ちょっとした矛盾のようですが気になさらず」
「はぁ」
とにかく船を使わせてくれるならありがたく使わせて貰おう。
好意は素直に受けるものだ。
「ではそれを使って行ってみます」
「はい。貴方がゴールドを持ってくるのを待っていますよ。秋葉」
にこりと笑うシオン。
「……なんだか貴方とはいい関係が築けそうだわ」
少し話しただけだけど、なんだか意気投合出来そうな感じがした。
「ええ、それを望みますよ」
そしてなんとなく弓塚さんとも波長が合いそうな気がする。
根拠は全くないのだけれど。
「では行ってらっしゃい秋葉」
「頑張ってこいよー」
「はい」
そんなこんなで私は二人に見送られ、ステイナイ島目指して船出するのであった。
続く