「アルクェイドさんはどうするんです?」
「わたしは野生のネコアルクにそれを伝えて対策を練るわ。一応世話になったしね」
「そうですか。わかりました」
「城下町の井戸を使って館に行くといいわ。ネコアルクが近道できるようにしてくれてるはずだから」
「ええ。では行ってきます!」

アルクェイドさんと別れ、私は城下町へ向かって走りだした。
 

琥珀め、首を洗って待ってなさいよ!
 
 

「トオノの為に鐘は鳴る」
その18




「いよぅ」
「……どうも」

城下町の井戸の中では野生のネコアルク四号が待っていた。

「ぶっ壊れてたつるべを直してやったぞー。これで向こうに行くのもラクチンになるニャ」
「意外と器用なんですね……ありがとうございます」
「おいおい本当の事を言うんじゃニャいぜー。照れるジャマイカー」
「……はいはい」

誰かさんとよく似て調子がいいのねえ。まったく。

「よっと……」

直したつるべに乗っかって昇っていく。

そして一直線に琥珀の館へ。

「琥珀っ! 出てきなさい!」
「そうなんですよー……おや?」

琥珀は私を騙したのにも関わらずてんで悪びれた様子もなくメカヒスイと雑談しているところだった。

「おやおや誰かと思えば秋葉さまじゃないですかー」

私に気付くとにこにこ笑いながら話しかけてきた。

「よくも騙してくれたわね!」
「うふふふ。秋葉さまのその格好、中々お似合いですよ」
「とにかく元に戻しなさい! さあ!」
「えー? せっかく便利な体にしてあげたましたのに……」
「もう騙されませんよ! さあ! 早く!」
「ふっふっふっふっふ」

私が散々怒鳴っているのに琥珀は平気の平左だった。

「そんなに慌てなくても春になれば秋葉さまたちは元に戻れますよ」

そしてそんな事を言う。

「……なんですって?」
「この王国の西にある村『トウサキ』には姫が作らせた春を告げるベルがあります」
「トウサキ……」
「そのベルには『不思議な力』が秘められていて、春になるとこの国中にベルが鳴り響き人間に戻れるんです!」
「戻れる……ねえ」

それはまたご大層なものを作ったものである。

「猫又の姿でフジョーを調べつくした秋葉さまたちが、ウロボロスのボスの目覚めと共に人間に戻りトドメを差す!」
「ちょっと。ボスの目覚めってどういう事?」
「あれ、言ってませんでしたっけ?」

首を傾げる琥珀。

「ウロボロスのボスはヘビですから、春まで冬眠してるんですよ」
「……バカね」

ボスが冬眠している間はまだ安全だということなんだけど。

その間に倒されたらどうしようとか考えてないんだろうか。

「で、目覚めと共にボスを倒すわけです。なんてグッドなタイミング。そう思いませんか?」
「そんなに長く待っている余裕はありません」

そりゃ確かに春は近いけれど、それまでこの姿でいろというのは真っ平ごめんだ。

「はぁ。どうしても今すぐ戻せというならば、わたしの作ったもう一つのクスリを飲む事です」

そう言って琥珀はまた怪しいクスリを差し出した。

「仕方ないわね……」

私がそれを取ろうとすると琥珀がそれを取り上げてしまう。

「……ちょっと」
「今度はタダでは差し上げられません」
「何よ。お金が欲しいって言うの?」
「そりゃーこちらも商売ですんでー」
「サギそのものじゃないの……」

変なクスリをタダで飲ませて、それを戻すためのクスリでお金をぼったくるだなんて。

「いらないならいいんですよ?」

意地悪く笑う琥珀。

「……わかったわよ。いくら欲しいの?」

私は全てを諦めお金を払う事にした。

こんなクスリひとつくらい、ポケットマネーで買えるはず。

「そうですねー。大まけにまけて……1000125Gでどうですか?」
「なんですって!」

私はその額を聞いて愕然とした。

「それは私の今持ってる全財産じゃないの!」

しかも細かい額までぴったり一致していた。

「なんて悪どい商売を……」
「春まで待ちますか? 好きになさって下さい」
「……ぬぬぬぬぬぬ」

どうしよう。

買う? 買わない?

「さーん、にーい」

考えている間にカウントを始め出す琥珀。

「ああ、もう! 買うわよ! 買えばいいんでしょ!」

私は堪え消えなくなって叫んだ。

「さっすが秋葉さまです! まずはお金を頂きますよー」
「ふんっ!」

琥珀に向けてお金の詰まった袋を投げつける。

「キャッチ」

ぶつけるつもりだったのにメカヒスイに阻止されてしまった。

「どうもありがとうございますー。ではでは、コレが元に戻るクスリの『最後』のひとつです!」

琥珀は最後という部分を無駄に強調して、さらに怪しいクスリを渡してきた。

「よかったですねー。『一人だけ』元に戻れて。うふふふふ」
「……トウサキに行って鐘を鳴らせばいいだけの事でしょう」

私がちょっと頼めば春より早く鳴らしてくれるはずだ。

何せブンケは遠野の配下なのだから。

「お好きにどうぞ。わたしはこのお金で久しぶりに温泉に行ってきますよ」
「御意」

琥珀の言葉を聞いてメカヒスイがぺこりと頭を下げる。

「行きますよメカ翡翠ちゃん。ではではー」

二人は共に館を去っていった。

「……」

残されたのは私ひとり。

「まずはクスリを飲む事ね……」

とにかく元に戻る事が先決だ。

「……ごくっ」

さっそく蓋を空けて中の液体を飲み干した。

美味しくも不味くもない、中途半端な味わい。

「……」

一瞬私の体が光に包まれた気がした。

「……?」

自分の体を見回してみる。

「……戻らないじゃないの!」

いくら待っても自分の体が変わる様子はなかった。

「琥珀の奴……! 一度ならず二度までも!」

またハラワタが煮えくり返ってきた。

「許せません!」

確か温泉に行くとかほざいてたわね!

ばっ!

地図を開いて場所を確認する。

温泉……温泉。

「……あった!」

西のほうに、それらしき名が書かれていた。

けど。

「急に行きたくなくなってきたわ……」

その町は私が行くのをためらわせるようなものだったのである。
 

『クガミネ温泉』
 
 
 
 
 

「はぁ……」

足取りが非情に重い。

さっきまでは一刻も早く琥珀を追いたかったのに。

「久我峰……」

かつて私の許婚だった男だ。

親が勝手に決めたものだったから恋愛感情など無論ない。

その男はメイド相手にセクハラを繰り返し、私にも迫ってきた。

あまりに非道でいやらしい行為に腹を立て、ボコボコにして追い出してやったのだが。

この温泉はおそらくその久我峰が経営しているもの。

きっとのぞきや盗撮などを行うために作ったに違いない。

おぞぞぞぞぞ。

想像したら鳥肌が立ってしまった。

「ああもう……」

琥珀がこの温泉を選んだのは私に生理的悪寒を感じさせるためだったのかもしれない。

「……」

などとあれこれ考えているうちに町が見えてきてしまった。

「あそこに……」

琥珀と……もしかしたら久我峰が。

「うう」

今の姿なら私と気付かれないだろう。

それでも嫌なものは嫌だ。

「うううう……」

悩みながら町の前をうろつく私。

「あうぅ……お腹すいたよぅ」

すると何やら聞き覚えのある声がした。

「……弓塚さん?」

そう、私のお金を奪って逃げた弓塚さんの声だ。

「あ……」

私と弓塚さんの目があった。

弓塚さんはしばらく私をじっと見つめた後、恐ろしい事を言ってくれた。
 

「美味しそう……!」
 
 

続く



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