なんだか見ていて微笑ましかった。
「わかりました。では気をつけてね?」
「ええ。お互いにね」
軋間の事はひとまず白レンに任せ、私は氷の洞窟へ向かうことにした。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その50
「ここね……」
洞窟内の氷が溶け、軋間がいたところの先に進めるようになっていた。
下へ進むように奥へ奥へ。
ハズレの宝箱をひっくり返しつつ進む。
「……あった!」
そして洞窟の一番奥でカガミの盾を発見。
大した敵もいなかったので入手は簡単だった。
「戻るのも……」
ワープドアを使えば一瞬。
「白レン、待ってなさいよ!」
大急ぎでトオノの町に戻る。
「これですよねっ?」
ミスブルーがベッドから降りて普通にうろついてたのはこの際見なかったことにしよう。
「え、ええ。それこそ真のカガミの盾ね。その盾を使えば軋間にだって勝てるはずよ!」
「わかりました!」
「……」
私が白レンのところに向かおうとするとレンが袖を掴んできた。
「貴方も来る?」
こくり。
「行くわよっ!」
覚悟しなさい軋間!
「交代よ!」
「アキバさまっ?」
「だからその呼び方は止めなさい!」
白レンの姿が幾重にも見える。
「……勝てるのよね?」
姿がひとつになって私の背後に。
「ええ」
このカガミの盾の力を見せてあげるわ!
「うおおおおお!」
軋間がこちらへ向かってくる。
「これで!」
カガミの盾を軋間へ向けた。
「っ!」
その瞬間動きが止まる。
「チャンス!」
この隙を狙って!
ぶんっ!
「えっ……」
私の振るった剣は空しく宙を切り裂いただけだった。
「……おおおっ!」
「上っ?」
攻撃の瞬間に盾をずらしてしまったせいか。
ガッ!
「くっ……!」
上空からの攻撃をまともに食らってしまう。
「アキバさま!」
「ま、まだまだ!」
この程度なら戦える!
「このおっ!」
「ぬっ!」
私の攻撃が軋間に当たる。
どうやらスピードはあまり早くないようだ。
「ならば数で!」
相手に手を出させないような連続攻撃。
「ぬんっ!」
「ぐっ……!」
しかしその優位も軋間の重い一撃で簡単にひっくり返されてしまう。
一進一退の攻防。
私は諦めずにひたすら攻撃を続けた。
なのに。
「……っ」
先に膝をついたのは私だった。
「なんなのこいつ……」
「……」
平然とした顔で私を見下ろす軋間。
こいつ、打たれ強さが並大抵のものじゃない。
「おおおおおお……おおっ!」
トドメを刺さんとばかりに軋間は突撃を仕掛けてきた。
「こ、これで……!」
願いを込めてカガミの盾をヤツに向ける。
「!」
軋間の動きが止まった瞬間。
「最後っ!」
私の残った力を振り絞った一撃を放った。
が。
「……軽い命だ」
眼前に写るのは、片手で剣を受け止めている軋間の姿。
「炎穢……欣浄!」
「きゃあああああっ!」
私の体は炎に包まれ、大きく吹っ飛ばされた。
「何故……歯が立たないの……」
カガミの盾の力を持ってしても倒せないっていうの……?
「アキバさま! しっかりして! アキ……!」
白レンの叫ぶ声が薄れゆく意識の中で聞こえたような気がした。
だから、アキバじゃないって言ってるのに。
「アキバさま!」
「……ここ……は」
目を開けるとそこは病院だった。
「気がついたみたいね」
「ミスブルー……」
「レンたちが運んでくれたの。感謝なさい」
「そうですか……」
目線を移すとレンがぺこりと頭を下げた。
「……ふんっ」
白レンはそっぽを向いてしまったけれど、あの子も心配してくれていたんだろう。
「……軋間はどうしました?」
「今は大人しくしてるわ。傷を治しているみたい。ただ、カガミの盾が通用しないとなると厄介よねえ」
渋い顔をしているミスブルー。
「どうすればいいんでしょうか……」
悔しいけれど、今の私の力ではあいつに勝つのは無理なようだ。
「そうねぇ……あいつをコントロールするとか、そういう機械があればいいんだけど」
「そんな都合のいいものあるわけないでしょ?」
白レンがため息をついていた。
「ん?」
どこかで聞いたような話である。
軋間をコントロールする……コントロール……操作……
「あ」
そうだ、思い出した。
「確かシエル先輩にそんなリクエストをしたような……」
動物を操れる機械でも作ったらどうだと提案をした気がする。
「ん? 何かいい方法でもあるの?」
「ええ、心当たりがあります」
「じゃあ、いっちょそれに期待してみる?」
「……それしかなさそうですね……」
これで作ってなかったら本当にお手上げだけど。
なんとかなる……ような気がする。
「なんだか久しぶりねぇ」
そんなわけでまずはトウサキの村に戻ってきた私。
一子さんやシオンは元気だろうか。
「……なんて考えてる場合じゃなくて」
こうしている間にも軋間は傷を回復しているのだ。
急がないと再び暴れ出してしまう。
シオンに船を借りて型月に行かなくては。
「イラッシャーイ。ナンデモヤスクスルヨ?」
「……シオン?」
「う」
ギルガメッシュ商店に入ると、いつもの奇妙な格好の上に半纏を着こみ、さらに怪しげな片言で喋るシオンがいた。
「秋葉。これはですね、その」
そして片手には錬金術師と書かれたノボリを持っている。
「……頭でも打ったの?」
「違います! 上の命令で仕方なくです!」
「そう……」
働くって大変なのねえ。
「そ、それでどうですか秋葉。金のほうは見つかりましたか?」
こほんと咳払いをして尋ねてくる。
「それは何とかなりそうなの。ただ、ちょっと厄介な問題を抱えていてね。また船を貸して欲しいのよ」
「そうですか。わかりました。すぐに手配しましょう」
「ありがとう」
「いえいえ」
軽く頭を下げるシオン。
「……ぷっ」
「秋葉?」
「あ、あはははははは、だ、ダメだわ、その格好、どう見ても変よ……!」
笑うまいと堪えていたけどもう限界だった。
その格好で真面目な事をされると面白くてたまらない。
「わ、笑わないで下さい! わたしだって……!」
「すいません、シオンさーん。傷薬欲しいんですけどー」
「イラッシャーイ。ナンデモヤスイヨー?」
店に入ってきたお客に対して、ほとんど条件反射のように片言の口調に変わるシオン。
「……っ! ……っ!」
私はもう笑いを堪えるのに精一杯で、お腹を押さえながら店を出るのであった。
「これが船です! 勝手に乗って下さいっ!」
「アーリガトーウ!」
「秋葉ぁっ!」
「冗談よ、あは、あはははは……」
「撃ちますよ! 船が動き出した瞬間船底を撃ち抜きますよ!」
「だから冗談ですってば……」
続く