どばあああっ!
無我夢中で飛び込んだ私。
激しい流れに巻き込まれ、意識が一気に薄れていってしまうのであった。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その49
しゃげーっ! しゃげーっ!
「全く世話のかかる御人ですねー。さ、気付かれないうちに行きますよー」
「了解シマシタ」
しゃげーっ! しゃげーっ!
「……ん」
何だか妙に聞き覚えのある声を聞いた気がする。
「ここは……」
一体どこだろうか。
見回しても、あまり覚えの無いような景色だった。
「おう、気がついたニャ!」
「……ネコアルク?」
「Yes,Iam.チッチッチ。アチキはミスブルーの弟子のネコアルクだニャ」
「ってことは……ここはナナヤの傍なの?」
「そうだニャ。湖の氷が溶けたって聞いたから様子を見に来たのであーる」
「氷が……?」
湖に視線を移すと、確かに氷なんかひとつも浮いていなかった。
マグマが流れ込んで氷が溶けたんだろうか。
「これならアチキの仲間でも過ごしやすそうだニャ」
「かもしれないわね」
空気も大分温かくなってきていた。
これなら人々も住みやすくなったかもしれない。
「んでニャ。ちょっとアレを見て欲しいんだが」
「アレ?」
ネコアルクの指差した方向を見る。
「でかっ!」
思わず品のない叫びをしてしまった。
「……金の塊……よね……」
きらきらと輝く巨大な黄金。
湖に流れ込んだマグマが冷えて固まったのだろう。
「これならシオンも満足してくれるはずだわ……」
それどころかおつりがくるくらいだろう。
「……でも」
こんな巨大な金をどうやって運べばいいんだろうか。
「これはオマエのものなのか?」
「ええ、まあ一応は……」
そういうことになるんだろう。
「ねえ、他に誰かいなかった?」
周囲を見回して見たが、瀬尾たちの姿はどこにもなかった。
「ん。なんか起きたら怖いから……もとい、原稿があるんで帰りますと伝えてくれと言ってたニャ」
「……そう」
あとでキツイオシオキをしてあげなくては。
「ちょっとちょっと! 大変よ!」
「?」
ナナヤの村のほうから誰かが慌てた様子で走ってきた。
「白レン……」
あの人を小馬鹿にしたような態度しか取れない子が珍しい。
「あ! アキバさま! 大変なのよ!」
「誰がアキバですかっ!」
「そんな事言ってる場合じゃないの!」
「……どうしたのよ、そんなに慌てて」
この慌てぶり、どうやらただごとではないようだ。
「どーしたもこうしたもないわよ! 村の中で軋間が大暴れしてるの! この陽気で氷が溶けて洞窟から出てきたらしいわ!」
「なんですって!」
「……ひどい……」
軋間復活を聞いて村に来てみれば。
「哀れ無残や、メッチャクチャだニャ」
「……知らない事とはいえ、これは私の責任ね」
私が剣を抜いたせいでマグマが拭き出て、マグマのせいで氷が溶けてしまったのだから。
「アキバさま! 早くこっちに! ブルーを手伝って!」
「ブルー……魔法使いがっ?」
「軋間を倒すために戦ってるのよ!」
「案内なさいっ!」
私は駆け足で白レンの後を追った。
「行くわよ軋間っ! 再び氷の棺の中で眠ってなさいっ!」
「うおおおおおおおっ!」
空中でブルーと軋間がぶつかり合う。
「せいっ!」
「ぐっ!」
ミスブルーの蹴りを受けて地上に落ちる軋間。
「こんのおっ!」
そこをさらにボディブローが襲いかかる。
「フン!」
体勢を崩したままだというのに、それをあっさりと受け止める軋間。
「ぐっ!」
残った片腕でミスブルーを持ち上げる。
「独覚……」
そしてその状態のまま空中に飛び上がる軋間。
「まさか!」
「無間に落ちろー!」
軋間はそのまま一気にミスブルーを叩きつけた!
ドゴオッ!
ミスブルーの体が跳ね上がる。
「や〜ら〜れ〜た〜っ!」
「……は?」
妙に勢いのない叫び声をあげて吹っ飛んでくる。
どさっ。
そして再び地面に落下した。
「だ、大丈夫ですか?」
「んー。やっぱダメねー。バカキャンアッガイが怖すぎだわ」
「バ、バカ……なんですって?」
「とにかく……アイツは強いって事よ」
ミスブルーの口調は軽いままが、全身のダメージはかなりのもののようだった。
「……一旦引きましょう!」
白レンが叫ぶ。
「え、ええ……」
私たちは軋間から離れ、病院へミスブルーを運んでいった。
「恐れてた事が起きちゃったわねー」
ベッドの上でぐったりしているミスブルー。
「何故魔法を使わなかったんです?」
確かに軋間は強敵のようだが、あのビームでもなんでも撃てば勝てたんじゃないだろうか。
「バカね。そんな事したら建物も村人も巻き込んじゃうでしょうが」
「……あ」
なんだ、意外とちゃんと考えてるのねこの人。
「実際はただ面倒なだけだからでしょ?」
白レンが皮肉めいた口調でそう呟いた。
「あっはっはっはっはー」
「……」
ああもう、頭痛がしてきた。
「とにかく、こんなケガじゃアレは止められないわ」
「……そうですね」
「こんな時に『カガミの盾』があればねえ」
どこか遠くを見て呟くミスブルー。
「カガミの盾?」
「ああいう魔の血に囚われたモノに、真実の心を取り戻させる盾よ。その隙を狙えばあるいは……」
倒せるかもしれないわけか。
「それはどこにあるんですか?」
「前に封印した時に使ったから、氷の洞穴のどこかにあるはずよ。アタ、アタタ……」
腕を押さえるミスブルー。
レンが慌てた様子でそこにタオルを置いた。
「ありがと。はぁ……この体じゃとても取りにはいけないわねぇ」
「わかりました。私が取ってきますよ」
「ほんと? すまないわねぇ。ごほ、げほごほ」
「……」
果たしてこれは演技なのか本気なのか。
判断が微妙なところである。
「ただ……私が探しに言っている間、軋間はどうするんですか?」
まさかほったらかしにしておくわけにもいかないだろう。
「それは安心して。わたしが軋間と遊んでおいてあげるわ」
すると白レンがそんな事を言った。
「出来るの?」
「長くは無理よ。早く帰ってきてよね」
まさか自分からそんな事を言いだすなんて。
「……意外と主人想いなのね、あなた」
「何言ってるのよ! 面倒な事はさっさと終わらせたいだけよっ!」
「あはは。そうかもねー」
「……ふふ」
なんだか見ていて微笑ましかった。
「わかりました。では気をつけてね?」
「ええ。お互いにね」
軋間の事はひとまず白レンに任せ、私は氷の洞窟へ向かうことにした。
続く