そんなこんなで私は二人に見送られ、ステイナイ島目指して船出するのであった。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その30
「……ふう」
ステイナイ島はトウサキの港からさほど遠くない位置だった。
「株式会社型月は……と」
探すまでもなく、目の前にある大きな建物がそうなんだろう。
看板にも『娯楽の伝道 株式会社型月』と書かれていた。
「……そういえばアイテムがあったとしてもタダじゃくれないでしょうね」
建物の目の前まで来て気がついてしまった。
まあ、そのへんはうまく交渉するしかないか。
うぃーん。
自動ドアをくぐり、会社の中へ。
「へえ……」
そこは完全に別世界だった。
真っ白な壁に囲まれた広い受付。
RPGの世界にまるで似合わない電子機械。
それから。
「いらっしゃいませでちゅ。娯楽の伝道、型月でございまちゅ」
受付にいる、いかにも体に悪そうな色をしている喋るキノコ。
「右がアイテムショップ、左が開発所でちゅ。好きな部署を見学していくといいでちゅ」
「……機械仕掛けなのかしら?」
試しに胴体(?)を引っ張ってみる。
「いだだだだ! 暴力反対でちゅ! 訴えるでちゅよ!」
「……」
ま、まあ、世の中には色んな生き物がいるということで。
「……こう、巨大な岩を動かせるようなアイテムが欲しいのよ。わかるかしら?」
私は必要なアイテムの事を尋ねる事にした。
「アイテムの事ならアイテムショップでちゅ。そこになかったら開発所に作って貰うしかないでちゅね」
「そう」
ならばまずアイテムショップを覗いてみるか。
「ありがとう」
「どういたちゅまして」
キノコにお礼を行って右へ進む。
「いらっしゃいませ。何にいたしましょう?」
「……むぅ」
アイテムショップに入ったはいいが、そこには大したものは売っていなかった。
「鉄の盾は後で買わなきゃいけないでしょうけど……」
でかでかと書かれている「スパイス品切れ」という文字は何なんだろうか。
「ねえ、ここって他のアイテムは売っていなんですか?」
売り子をやってる作務衣を着た不精ヒゲのおじさんに尋ねてみる。
「パワーアップとかのアイテムの卸し先は企業さんなんだよ。ここはスタッフ向けのアイテムショップって感じかな」
「そうなんですか……」
それにしたって何故にスパイス?
「じゃあそういうアイテムが欲しい場合はどうすればいいんでしょうか」
「そうだねえ……まずアポイトメントとを取って貰わないと……」
「……それってどれくらいかかるんですか?」
「……開発者が気まぐれだからわからないけど……最低でも1ヶ月はかかるんじゃないかな」
「じょ、冗談じゃありません」
そんなに待ってる余裕はないのだ。
「メカヒスイを持って来てくれれば交渉してあげなくもないけど……ああ、俺のメカヒスイは今どこに……」
ほろりと涙までこぼすおじさん。
そんなに思い入れがあったんだろうか。
「……」
琥珀の行方を捜すにしたって相当に手間がかかるだろう。
「ほ、他に方法はないんですか?」
「うーん。もしかしたら食堂で開発関係者に会えるかもしれないね」
「食堂ですね。わかりましたっ」
私は大急ぎで食堂へと向かった。
「ここは社員食堂です。食券を買いますか?」
「……買わないと入れないんですか?」
「それはもちろん、食堂ですから」
確かに何も持たずに食堂にいたらただの怪しい人である。
「わかりました……メニューはなんです?」
「本日のメニューはすうどん、カレーライス、にぎりずしです」
「……ふーん」
普段の私だったら無条件で握り寿司を選んだだろう。
けど今は生憎の貧乏生活。
「カ、カレーライスで……」
さすがに一番安いすうどんを食べるのはプライドが許さなかった。
「かしこまりました。20Gになります」
「……はい」
お金を払い、奥へと進む。
「どうぞ」
「カレーライスね。ええと……はい、お待ちどう」
ほとんど待たずにカレーライスが出てきた。
「ありがとうございます」
それを受け取って隣のテーブルへ。
「ふーん……」
空いている時間なのか、食堂には誰もいなかった。
「まあいいわ」
そのほうが落ち着けるし。
「頂きます」
さっそくスプーンでカレーを食べ始めた。
「……?」
はて、なんだろう。
このカレーには何かが足りない気がする。
「隣、宜しいですか?」
「あ、はい。構いませんが」
一体何だろうか。
「おや、貴方もカレーですか。気があいますね」
「……?」
この馴れ馴れしく話しかけてくる声、どこかで聞いた事のあるような。
「……ってあああーっ!」
思わず大声を出してしまった。
「おやどうしたんですか?」
「な、なんで貴方がここにっ」
そこにいたのは最近姿を見なかった知得留先生だった。
「なんでってそりゃわたしがここのスタッフだからですけど」
「……貴方が?」
「はい。まあそんな事はどうでもいいでしょう」
いや、どうでもよくないと思うんだけど。
この会社はこんな変な人間を雇っているわけ?
「このカレー、どう思います?」
知得留先生はそのまま私に質問をしてきた。
「……どうって……あんまりおいしくは……」
まあ社員食堂にそんな高いレベルを求めてもしょうがないだろうけど。
「偉い!」
「は?」
「いやー、やはりわかる人にはわかるんですねー」
なんだかよくわからないけど知得留先生は私の答えにとても満足そうだった。
「ではどうしてだと思います?」
「……どうしてと言われても」
カレーについてそんな詳しいわけじゃないし。
カレーに必要なものといえば……
「……スパイス?」
そういえばさっき売店で売り切れって出てたっけ。
「さっすがグルメですね! そーなんですよっ!」
「ちょ……」
知得留先生は目をキラキラ輝かせて私に迫ってきた。
「スパイスですよ! スパイスが全然効いてないんです!」
「はぁ……」
「カレーにとってスパイスは命です。適当に調合されたカレーなんてカレーじゃありません」
だったら食べなきゃいいのに。
「貴方もそう思いませんか?」
「え? え、いや、はい、そうですね」
面と向かってそうは言えないので適当に言葉を濁しておいた。
「そうですか! やはり貴方もそう思いますか!」
すると知得留先生がぎゅっと私の手を握ってきた。
「それならば頼みがあるんですけど……」
「な、なんです?」
なんだか嫌な予感がする。
「ああ、その前に自己紹介が必要ですね」
知得留先生はにこりと笑いながら、こう名乗るのであった。
「わたしは埋葬機関の代行者、弓のシエルといいます」
続く