「これは……」

ハートのマークのついた鍵。

試しにドアに差してみるとすんなりと開いた。

この先では町人たちが助けを待っているはずだ。

「さあ弓塚さん、泣いている場合ではありませんよ」
「……ぐすっ」
 

猫さっちんの腕を引っ張りながら私は奥へと進むのであった。
 
 



「トオノの為に鐘は鳴る」
その28

「みなさん! ご無事ですかっ?」
「あっ……?」

私の登場に牢屋の中の人たちがざわめく。

牢屋のカギを開き、皆を解放する。

「ありがとうございますっ……」
「救世主だっ!」
「さすがは秋葉さまですねっ!」
「人として当然の事をしたまでです」

一度はボコボコにされた事もあったけど、誤解の解けた今、皆は素直に私に感謝してくれているようだった。

「ところでこの中に高田くんという人はいらっしゃいますか?」
「……あ、うん。俺だけど」

なんだかあんまり印象的でない顔の人が出てきた。

これがゲームだったらきっと絵は表示されて無いことだろう。

「あなたが金山の場所を知ってるって弓塚さんに聞いたのよ」
「うん。金山の場所ね。知ってるよ」
「教えて下さいますか?」
「マップを貸してくれるかな」
「はい」

私はペンとマップを高田くんに手渡した。

「ザンケイ氷河を抜けて……」

かきかき。

「氷の洞穴を通って……」

かきかき。

「キシマの町を北に行って……」

めもめも。

「エンブエンジョー山のてっぺん……と」

『一千万Gの金が眠るブンケの金山』

「な、なんですってっ!」

いっせんまんごぉるど?

「そんなお金があったら鐘撞き堂が10個は立つわ!」

私だってそんな大金は滅多に見ない。

「金のオーナーも満足してくれるはずだわ……」

でも。

ひとつ疑問があった。

「なんでそんな場所に誰も近づかなかったの?」
「魔物が棲んでいたんだよ」
「……じゃあなんで一千万Gとかわかるわけ?」
「それは……何か有名な魔法使いがそう言ったとかなんとか……」
「……」

なんだか急に話が胡散臭くなってきてしまった。

「まあ……いいわ」

とにかく今はその可能性に賭けるしかないのだ。

「わたし、ずっとこのままなのかなぁ……」

弓塚さんがべそを拭いながら呟いた。

「鐘が治ればあなたも治りますよ」

さすがにこの人がこのままだとあんまりにも可愛そうな気がする。

「……っていうか弓塚さん?」
「なに?」
「あなたの言葉は普通にわかるわ……」
「……そうだね」

これも琥珀のクスリの効果だろうか。

「嬉しくないよぅ……」
「で、でしょうね」

焼け石に水ほどの効果もなかった。

「とにかくみなさんここから逃げましょう」

まずはそれが先決である。

「はいっ」

私は城の出口まで皆を先導していった。
 
 
 
 
 

「お。いたいた秋葉ちゃーん……っつかえらい大所帯だな。何かあったのか?」
「乾さん?」
「おう。乾の有彦さんだ」

城を出たところで丁度乾さんと出会う。

「いや女の子に調査任せてオレはのんびりってわけにもいかんだろ? 何か手伝える事ねえかと思ってさ」
「……ありがとうございます。ですが」

もう全部解決しちゃった後なのよねえ。

「実はかくかくしかじかで……」

私は町のみんながウロボロスに捕らえられていた事を説明した。

「なるほど。物騒な世の中になっちまったもんだなあ」
「……まったくです」

またいつ町がウロボロスに襲われるかもわからない。

「よし。じゃあオレがアリマの警護をやるか?」

するとにかっと笑いながらそんな事を言う乾さん。

「いいんですか?」
「おうよ。どうせトウサキにいたってする事ねえしな。一応コレでも冒険者だ。腕はそれなりにあるんだぜ」

力こぶを作ってみせる。

「頼もしいですね」

この人ならば信用するに値するだろう。

「ではお願い出来ますか?」
「おう。本当は秋葉ちゃんと一緒に旅といきたかったんだがな」
「街を守ることも必要なことですよ」

国というものは民あってこそのものなのだから。

「すまん。かわりにこれをやるよ」

乾さんは星型の石を手渡してくれた。

「パワーストーンですね」
「お、知ってるのか」
「ええ……」

なんだかよくわからない説明好きの人に教えられたからね。

そういえば最近あの人を見ないけど、どうしたんだろう。

まあ出てこないに越した事はないんだけど。

「まあいいや。有効に活用してくれ。それから……」
「それから?」
「この弓塚に良く似たネコアルクは何だ?」
「それは……」

私が何か言おうとすると、弓塚さんが顔をくしゃくしゃにして泣き出してしまった。

「うわーん! 乾くーん!」
「なっ……お、おまえ弓塚なのかっ?」
「わたし吸血鬼どころかネコアルクになっちゃったよー!」
「……はぁ……どこまで不幸なんだ? おまえ」

乾さんの口ぶりからすると、この人の不幸は別に今に始まったことじゃないらしい。

「まあ、とりあえずコイツも引き取るわ。一人でほっといたら危なさそうだし」
「そうして頂けると助かります」

弓塚さんには気の毒だけど、多分この人はじっとしているのが一番幸せなような気がした。

「ラジャー。んじゃみんな行くぞー! オレについてこいっ!」
「わ、ちょ、ちょっと乾くんっ?」
「はっはっは! しっかり捕まってないと落っこちるぞっ!」
「乾くんってばー!」

乾さんは猫さっちんを肩車して元気良く歩き出した。

「ではわたしたちも」
「ええ、気をつけて」

町人たちも乾さんへついていく。

「……さてと」

私はザンケイ氷河とやらに向かわなくてはいけない。

地図を確認すると、トウサキの傍からその氷河への道があるらしかった。

「……トウサキまで……」

結構な道のりがあるけど行かなくてはならない。

「兄さんのために!」

そしてアルクェイドさんと弓塚さんのために。

「……このまま誰かの為にって理由が増えてきそうで嫌だわ……」

そんな事を考えていると実現してしまいそうなのがなお嫌だった。

そうして山を越え、谷を越え。

僕らの町へやってきた。

何の話よ。

「……やっと戻ってきたわ……」

なんとかトウサキへと戻ってこれた。

一度通った道だから迷いはしなかったけれど、面倒な事ではあった。

「まあ、いいわ」

今更何も言うまい。とにかく戻ってきたのだ。

「ザンケイ氷河へ……と」

トウサキのすぐ傍に看板があった。

ここを進めば氷河に……

氷河に。

「……なによ、これ」

看板の先には、壁しかなかった。

いや、違う。

「岩が道を塞いでるじゃないの……!」
 

フジョーの城でどけたブロックとは比べ物にならない巨大な岩が道を塞いでいたのである。
 

続く



感想用フォーム 励みになるので宜しければ感想を送って下さいませ。
名前【HN】

メールアドレス

更新希望ジャンル
屋根裏部屋の姫君   ななこSGK   トオノの為に鐘は鳴る   短編    ほのぼのSS   シリアスSS
その他更新希望など(なんでもOK)

感想対象SS【SS名を記入してください】

感想、ご意見【良い所でも悪い所でもOKです】



続きを読む

戻る