「琥珀……?」

そう、琥珀の声だ。

「ほう……オマエは」

興味深そうに目線を琥珀へ向けるロア。

「……お久しぶりです、四季さま」
 

琥珀は何の感情もない声で四季の名前を呼んだ。
 
 


「トオノの為に鐘は鳴る」
その66







「……ああ、本当に久しぶりだな。オマエがいなくなったせいで苦労したよ」
「左様ですか。それは申し訳ありませんでした」
「……」

これがあの琥珀なんだろうか。

人形のようなその口調は、寒気すら感じさせるようなものだった。

「でも、もうおしまいです。全ての支度は整ったんですから」

くるりと私のほうに向きなおる。

「アルクェイドさん! シエルさん! やっちゃってくださいっ!」
「え?」

その表情はすっかりいつも通りの無駄にハイテンションの琥珀だった。

「了解っ!」
「任せてくださいっ!」

私たちの横をすり抜けアルクェイドさんとシエル先輩が向かっていく。

「二人とも!」
「申し訳ないですが、お二方は時間稼ぎです」
「何を言ってるのよ琥珀!」
「繰り返しになりますが、ロアは何をやったって死にません」
「だったらどうして……」

琥珀はぴっと指を一本立て、私の顔に向けた。

「秋葉さま。秋葉さまはどうされたいのですか」
「……どうって」

そんな事は決まっている。

「四季を倒すのよ」
「それは違いますよ」

琥珀は首を振った。

「……何が言いたいの」
「正確には、四季さまの体を乗っ取ったロアを倒すんです」
「同じじゃないの」
「いいえ、ロアだけを倒すことが出来れば四季さまを救うことが出来るかもしれません」
「そんな……そんな都合のいい話が」
「それを出来る道具を秋葉さまは持っているじゃないですか」
「……あ」

蛇殺しの剣、スネークキラー。

「その真の力は、本当の心と共に……」
「……」

出来るわけがないと思っていた。

マモノに囚われた四季。

けど、私は……

この剣で!

「四季を……助けてみせる!」

その瞬間、剣がまばゆい光を放った。

「こ……これは!」
「ついに……スネークキラーの覚醒です!」

私の手に握られた黄金の剣。

「これなら……!」

大きく剣を振り上げる。

「妹……?」
「先輩! アルクェイドさん! ロアを抑えてくださいっ!」
「合点承知っ!」
「お任せくださいっ!」

アルクェイドさんが拳でロアを突き上げ、先輩が黒鍵で壁に打ちつけた。

「き、キサマ……それは!」
「これで……滅びなさいっ!」

剣を振り下ろす。

黄金のオーラがロアへ向けて解き放たれた。

「ぐああああああああああっ!」

ロアが光に包まれる。

「やったっ?」
「……まさか……こんな……」
「……最後の仕上げですっ!」

琥珀がぱちんと指を鳴らす。

キーンコーンカーンコーン……

「これは……」

春を告げるベルの音。

「うおおおおおおお!」

ロアの叫びがいっそう強くなる。

「魔物よ、去りなさい! ここは貴方のいるべき場所ではありません!」

シエル先輩が叫んだ。

「お……のれ……!」

膝をつくロア。

「このままで……」
「え……?」

スネークキラーのオーラをかき消すようにロアの姿がに浮かんできた。

「この体、捨てるのは惜しいがまだ滅ぶわけにはいかん……!」
「な……!」

幽体のようなロアが四季の体を離れ、巨大化していく。

「おおおおおおおお!」

邪悪なオーラが周囲似広がっていった。

「四季!」

四季はぴくりとも動かない。

「しっつっこいわよロア!」

アルクェイドさんが叫ぶ。

「我が永遠を邪魔するものは……」

ロアがなにやら呪文を唱えだした。

「危ない、アルクェイド!」

シエル先輩が四季を抱えて飛んだ。

「くっ!」

盾を構えて琥珀の前に立つ。

「貴様らのような矮小なものに……!」

ブワッ!

「きゃあああっ!」

私たちは大きく吹き飛ばされてしまった。

「くっ……」

体勢を立て直す。

「大丈夫ですか秋葉さま!」
「ええ、でも……」
「フハハハハハハハ!」

ロアを囲うように回る魔力の塊。

それはまるで具現化しているかのようにはっきりと見えた。

「あれは厄介ですね……」

先輩が苦々しい顔をしている。

「物理も魔法も無効化するバリアーですか」

琥珀がそんな事を言った。

「何よそれ、反則じゃない!」
「……見てください」

先輩が黒鍵を放つ。

キィン!

しかしそれらは全て阻まれてしまった。

「その程度か?」
「これでっ!」

続いて琥珀が魔法のアイテムを投げつける。

ボワアッ!

激しい炎が沸き起こった。

「無駄なことを……!」

だがロアにダメージはない。

「くっ……」

これじゃさっきとおなじ、いやそれよりもタチが悪い。

「あまり時間を与えてしまうと新たな寄生主を探してしまうでしょうね」
「アルクェイドさん! なんとかできないの!」

あと少しであいつを倒せるというのに。

「……発動前ならともかく、こうなるとちょっと厳しいわ」
「くっ!」

全てが後手後手に回ってしまっている。

「せっかく四季を助けることが出来たのに……」

これじゃまた新たな犠牲者が出てしまう。

「志貴ならもしかすれば……」
「兄さん?」

そうだ!

「兄さんはどこに!」

四季は先輩が助けてくれた。

でも兄さんは……!

「あそこに!」
「!」

兄さんはロアを挟む形で反対の壁際に倒れていた。

「なんて……こと」

あれじゃ兄さんは……

「どうした、かかってこないのか」

ロアは私たちを嘲笑っていた。

「ならばこいつを始末するかな」
「!」

そしてロアの言葉は……最悪の想像を現実とさせるものだった。

「兄さん!」

このままじゃ兄さんが……!

「秋葉さん! ダメです!」
「きゃああっ!」

ロアへ向かったものの、やはり回転するバリアに弾き飛ばされてしまった。

「兄さん……兄さん!」
「キサマにはずいぶんと苦戦させられた……その屈辱、死で償うがいい!」

ロアの手から光弾が放たれる。

「ダメっ……!」

私の叫びは……届かない。

フッ。

「え?」

しかしその光弾は、虚空へと消えてしまった。

いや、兄さんの姿さえも……そこにはない。

「教えてやるよ、ロア……!」
「なっ……!」

上空から聞こえる兄さんの声。

血まみれの体。

外れたメガネ。

そして兄さんの目はぎらぎらと鋭く輝いていた。
 

「これが……モノを殺すということだ!」
 

そして空中からの斬撃がロアを薙いだ。

続く



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