兄さんはいるのだ。
そう信じたい。
「待っていて下さいよ!」
気力のみなぎった私は気合を入れて金山を目指すのであった。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その43
「……ふう」
山の何合目かで一休みする私。
ここまではかなり楽に進んでこれた。
途中サソリやらネロの作り出したのにそっくりの巨大ムカデやらがいたのだけれど。
不思議と私の姿を見るだけで逃げ出していったのだ。
「虫にとってはネコアルクが天敵なのかしら……」
そういえば野性のネコアルクはそういうのを食べていると聞いた事がある。
「……ぞっとしないわね」
そんな生活、私はまっぴらごめんである。
「やれやれ……パトロールも楽じゃないぜ」
「っ!」
つまらない事を考えていたら岩陰からウロボロス兵が姿を現した。
思わず身構える私。
「ん、なんだネコアルクか……今忙しいんだ」
私の姿を見てそんな事を言った。
「……」
そう、この姿である限りウロボロス兵は私に危害を加えてこない。
「かったりーよなー」
「……」
大勢のウロボロス兵の間を縫うように進んでいく。
「なんでも遠野のヤツがこの付近に来てるって噂だぜ」
「!」
遠野の名を聞いて思わず足を止める私。
「ああ、姫とかなんとか言ってたな。美人だったらいいけどなー」
「……」
なんだ、私の事か。
「なんでも胸が無い事で有名なお姫さまらしいぜ」
げしっ!
「イデエエ! な、なんだっ?」
「……ふんっ」
話をしていたウロボロス兵に石を投げつけてやった。
まったくなんて失礼な輩なのかしら。
「……なんでも、この金山にはオレたちのボスが恐れてる秘密があるとかなんとか……」
そんな言葉を聞きながら進んでいく。
やはりこの金山には何かがあるのか。
「っと」
ようやく金の発掘場の入り口らしきところを見つけた。
入り口には頑強そうなウロボロス兵が二人。
「……」
私はてこてこ近づいていった。
「ネコアルクは通していいのかな? ……グフ」
「通すな言われたの『人間』だけ! グフグフ」
なんだか妙な声だ。
仮面を被っているせいで顔はわからないけれど、もしかしたら中身は魔物なのかもしれない。
「……」
とにかくさっさと中へ入ってしまう。
「さてと……」
奥に入ったところで人間に戻り、捜索開始。
カツーン、カツーン。
「?」
何かの音が聞こえた。
「えいせ、ほらせっ!」
「……人?」
音のした場所では男の人が壁をツルハシでつき崩しているところだった。
「あ、あの?」
ここってウロボロスに制圧されたんじゃ?
「ん? どうしたんだいお嬢ちゃん」
口調も見た目もただのおじさんだ。
「何をされているんです?」
「何って決まってるだろう。金を探してるんだよ。金山なんだからな」
まあ、それはそうなんだろうけど。
「で、でも外はウロボロスに」
「ああ。そうだ。だから出るに出られやしねえ」
「……まさかずっと中にいたんですか?」
外に出ていないということはつまりそういうことである。
「慣れればそんな悪い環境じゃねえぜ?」
などと豪快に笑うおじさん。
「……」
さすがはゴールドハンター、生半可な精神力ではないようだ。
「ま、金を探すついでに脱出経路も作ってるってとこだな。こういう地形はモロいからツルハシでぶっ壊せる」
そう言って壁をこんこんと叩くおじさん。
「なるほど」
「しかしあんた、見た目力なさそうだけど大丈夫なのかい?」
「ええ。問題ありません」
なんせ私には軍手……もといパワーグローブがあるんだから。
「まあ、事情は知らんが頑張りな」
おじさんはそう言って採掘を再開した。
「……」
邪魔をするのも悪いのでその場から離れる。
「私もちょっとやってみようかしら……」
適当な場所を見つけてツルハシを振ってみる。
ぼこっ!
パワーグローブのおかげなのか、あっさり穴があいた。
「……あ、あら?」
と思ったらその先は空洞だった。
「そうか……既にいろんな人が掘ってるから……」
他の人の掘った穴に通じてしまうわけだ。
「はしご……」
その先には深い所へと続くはしごがあった。
試しにそこを降りてみる。
「オレはぜーったいこの先に金があると思うんだ……」
「ん」
底の方から誰かの声が聞こえた。
「でも、この先は穴掘りのプロでもなきゃ崩せそうにないぜ?」
「……キシマの町なら穴掘りのプロがいるはずなんだけどな……」
「……」
おそらくこの先には頑丈な土壁があり、その壁の向こうが怪しい感じがするのだろう。
「穴掘りのプロねえ……」
今の私には穴を掘る力はあるけれど、知識はまるでなかったりする。
闇雲に掘り進んでいくだけではやはり駄目だろう。
「……一度キシマの町に戻るしかなさそうね……」
とは言ってみたものの。
「……戻る?」
この金山からキシマの町へ。
「どうやって戻れっていうのよ……」
外にはたくさんのウロボロス兵がうろついているのだ。
いや、そもそも入り口に強そうなのが二人いたではないか。
「……」
どうしよう。
こういう時に何か便利なアイテムがあればいいのだけれど。
私は自分の持っている道具をひとつひとつ確かめてみた。
「……あ」
そして気付いた。
そういえばこんなアイテムがあったのだ。
反則じゃないかってくらいに便利なアイテムが。
「これさえあれば!」
袋からそれを取り出し持ち上げる。
「どこで……ごほごほ、ワープドアー!」
そう、フジョーで見つけたワープドアだ。
このアイテムはダンジョンの中で使えば入り口へ、外で使えば最後に行った町へと移動できるアイテムなのだ。
「さっそく……」
ワープドアを使って入り口へ。
「さらに!」
入り口でドアを使ってキシマの町へ。
「到着!」
数秒もしないうちにたどり着いてしまった。
「……とんでもない道具ね」
今までずっと使ってなかったけれど、これを悪用すると色々と大変な事になってしまうんじゃないだろうか。
「ま、私が持っている分には問題ないわね」
この正義が実体化したような可憐で全うな私が悪どいことなんてするはずないじゃないの。
「……何が持ってる分には問題ないって?」
「きゃっ!」
声をかけられ慌てて振り返る。
「なんだ、蒼香じゃないの。驚かさないでよ」
「バカ言え。驚いたのはこっちだ。いきなりおまえさんが目の前に現れたんだからな」
「……ああ」
どうやら私がワープドアで移動してきたところを目撃したらしい。
「便利なアイテムがあるのよ。それより丁度いいわ」
私は穴掘りの専門家が必要な旨を蒼香に話した。
「ふーん。そういう事なら町の掲示板ででも募集かければいいんじゃないのか?」
「掲示板?」
「そう。町の真ん中にでかいのがあったろう?」
「言われてみれば……」
そんなものもあったようななかったような。
「わかりました。行ってみます」
私はその掲示板とやらを見てみることにした。
「慌しいな」
「急がないと羽居が来るでしょう」
「……いや、もう手遅れだなあ」
「?」
何を言っているんだと思った次の瞬間、視界が真っ暗になってしまった。
そして背中にはなんとも不愉快な柔らかい感触が。
「だーれだっ?」
言われなくてもわかる。
「羽居ぃっ!」
「えへへ、大正解ー」
私の背後で羽居がにこにこと笑っていた。
続く