リボンの子が声をかけると、レンは私にコートを差し出してくる。
「どうもありがとう」
「……」
受け取ってお礼を言うと少し嬉しそうな顔をしていた。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その37
「ふう……」
コートを着こんで外に出る。
「これならなんとか大丈夫そうね」
寒い事には変わりないけど、かなり動きやすくなった感じだ。
「……さてと」
目指すは氷の洞窟。
何事もなく進めればいいのだけれど。
ひゅおおおお……
「……はぁっ……」
駆け足で洞窟へ急ぐ。
敵と戦うのも面倒なので全部無視。
「あったっ!」
大きな入り口を見つけ、そこへ入る。
「……?」
入ってすぐのところで私は足を止めた。
いや、止めざるを得なかったのである。
「道が……ない?」
大きな窪みが出来ていて、奥へ進む事が出来なくなっているのだ。
窪みのところもトゲだらけでとても進めそうにない。
「……どうしろって言うのよ」
何か進むための仕掛けでもあるんだろうか。
「ん……」
窪みの置くのところに看板のようなものが見えた。
「あそこなら……」
トゲもないし、降りることが出来そうだ。
「よっと」
そこに降りて看板を眺めてみる。
『じゅもんをとなえよ されば みちは ひらかれん 魔法使い』
「……呪文?」
呪文を唱えれば金山への道が出来るっていうの?
とすれば、魔法使いという人から呪文を聞けばいいわけだ。
「でも……魔法使いって……誰?」
確か魔法使いっていうのはおとぎ話の中だけの存在で、実際にはほとんど存在しないとか聞いた事があるんだけど。
琥珀のアレは勝手に自称してるだけだし。
「魔法使いなんて本当にいるのかしら……」
誰か詳しい人がいればいいのに。
「……」
あの村の住人だったら何か知ってるだろうか。
「聞いてみるしかないわね……」
私は一旦引き返すことに決めた。
「魔法使いの呪文? 知らないなぁ」
「……そうですか」
「事情はよくわからないけど、エンフエンジョー山に行くなら氷の洞窟を通るしかないよ」
「……」
つまりは魔法使いを探し出さなくてはいけないということである。
その後何人かに話を聞いてみたけれど、同じような言葉ばかりが返ってきた。
「あなた、魔法使いについて知らないわよね……」
「魔法使い? ああ、確かにいたみたいよ?」
「そうですか、お騒がせ……って!」
見つけた! 知ってる人を!
「どんな人なんですか! 年は、性別は、住所と電話番号はっ?」
「そ、そんなに慌てないでよ」
「……すいません」
私とした事がつい慌ててしまった。
「ただ、わたしもそんなに詳しくは知らないの」
苦笑いする女性。
「そうなんですか」
「だから知ってる事だけでもいい?」
「十分です」
今は少しでも情報が欲しいのだ。
「そう。じゃあまず……その魔法使いは昔は色々と村の為に尽くしてくれたらしいわ」
「いい人だったんですね」
「意外にもね。でも、すっごい気まぐれな人で、ある日突然村を出ていっちゃったんだって」
「……ある日突然、ですか」
もしかしたら何か村人の知らない事情があるのかもしれない。
「ええ。その後の行方は不明。ただ、この氷河のどっかにいるっていうウワサみたいよ」
「なるほど……」
氷河を探し回れば見つかるかもしれないということか。
死ぬほど面倒そうだけど。
「やるしかないわよね……」
かなり憂鬱だった。
「あなた、魔法使いを探してどうするの?」
私が頭を抱えているとその女性が尋ねてきた。
「かくかくしかじか……」
あんまり深い事情を話しても何なので、故あってお金が必要で、金山に向かう必要があるのだと言う事だけを話した。
「き、金山っ? お金が手に入るのっ?」
するとその女性はきらきらと目を輝かせて手を掴んできた。
「ちょ、ちょっと?」
「有益な情報をありがとう。こりゃもう魔法使い探しなんて言ってる場合じゃないわっ! 行くわよっ!」
「はあ?」
言うなり駆けだしていく女性。
「ちょ、ちょっと……」
黒髪ツインテールがみるみるうちに遠ざかっていってしまった。
「……魔法使いを見つけなきゃ先に進めないのに」
何のために私が魔法使いを探していると思ったんだろうか。
「ま、いいか」
どうせ通れるわけないんだし、先を越されたからどうというわけでもない。
「私は私のやるべき事をやるだけよ……」
そうして私は氷河を歩き回った。
途中スピードストーンやらハートストーンを拾ったけれど、それを探していたわけではない。
私の探しているものはただひとつ。
この氷河で建物もなく過ごせるはずがないのだ。
つまり人が住めそうな建物を探せば、自ずとそこに誰かがいると、そういう理屈である。
「氷の岬……」
私は湖に張った氷の上を滑っていた。
目指すは北の岬にある建物だ。
「……ん?」
滑って行く途中で何かの姿がうっすらと見えてきた。
「あれ……は」
どこかで見たような姿。
「にゅふふふふふふ」
「……ネコアルク?」
「うにょー」
ネコアルクが建物の前で寝転がっていた。
「……通してくれるかしら?」
「にょふー」
「……」
会話になってない。
「通させてもらいますよ」
「むにょー」
「……」
ネコアルクを無視して進む私。
「にゅふふふふふふふ」
「?」
ネコアルクが私の背中を掴んだ。
「ぬっころす!」
「んなっ……!」
ちゅどーん!
次の瞬間、私の体は宙を舞っていた。
「ちょ……これっ……!」
冗談じゃない、落ちたら死ぬ。
いや、死ななくても氷が割れて水の中に落ちる。
そうしたらやっぱり凍えて……
「びーむ」
「っ!」
落下中の私を何かの光線が直撃した。
「きゃあっ!」
しかし皮肉にもそれがクッションとなり、氷に落下したのに割れる事はなかった。
「にゅふふふふふふ……」
私を見て不敵に笑うネコアルク。
「……!」
どうやらビームを撃ったのもコイツらしい。
そのへんのネコアルクとはレベルが遥かに違う。
「だいたいネコアルクがこの氷河にいる自体おかしいのよ……」
なんで普通にいる事が出来るんだろうか。
「うにょー」
「……もしかして」
こんなヤツが門番をしてるということは、中にいる人間はもっと凄いということだろう。
つまりそれは、魔法使いだ。
「……こいつをなんとかしないと……」
中へは入れない。
どうする、どうする私。
「こんな時は……」
こんな時、やるべき事はひとつしかない。
「北の岬の家について何か知らないかしら?」
「さあ、ちょっと……」
私は村へと戻り再び情報収集を開始するのであった。
なに? 腕を磨いて戦いなおすせばいいんじゃって?
冗談じゃありません。こんな寒い場所でそんな修行するだなんて真っ平御免ですから。
「って……誰に言い訳してるのよ私は」
苦笑いしつつ、ひたすら皆に聞いて情報を集める私だった。
続く