「で、あたしからはいざというときの神頼みの数珠を……」
「それは単にいらないものを押し付けようとしているんじゃないかしら?」
「正解」

思わず笑ってしまう。

「え? なに? 何が面白いの?」
 

羽居は何がなんだかわからずきょとんとしていたが、やがてつられるように笑っていた。
 
 



「トオノの為に鐘は鳴る」
その57







「じゃ、そろそろ行くわ」
「おう、しっかりやれよー」
「頑張ってねー」

キシマの町を後にし、ボートを使ってナナヤへと向かう。

「はーいこっちこっち……ああ違う! もうちょっと右!」
「これで構わんだろう」
「だーめよーっ! 店の外観は重要なんだからっ!」
「元気そうね」
「……あら?」

壊れたお店を直していた白レンと軋間に声をかける。

「アキバさま。どうしたの?」

くすくすと笑いながら近づいてくる白レン。

「……だからその呼び方は」
「久しいな、アキバ」

軋間までそんな呼び方をしてきた。

「あきは! あきはです!」
「ああ。知っている」
「……っ!」

もう、軋間も白レンやミスブルーの悪影響を受けてしまっているようだ。

「村の復興は順調に進んでいるわよ」
「みたいね……」

ほとんどガレキの山と化していた村が少しづつ元の形へと戻っていた。

「ミスブルーとレンは?」
「広場のほうにいるんじゃない?」
「そう」
「……近づかんほうがいいと思うがな」
「そ、そうですか……」

不安を抱きつつも広場に顔を出してみる。

「びーむっ!」

ズバアッ!

「……元気そうですね……」
「お? 誰かと思えばー」

私の姿を見てひょいと氷の塊から降りるミスブルー。

「いやね、今度は溶けない氷の研究してたんだけどいざ作ったら邪魔でしょうがなくってさー」
「……それで破壊してたんですか?」
「せっかくだから新しい住処にしようかなっと。夏なんか涼しくてよさそうじゃない?」
「お気楽ですね……」
「褒め言葉として受け取っておくわ」

豪快に笑うミスブルー。

「で、ウロボロスのほうはどうなったのかしら?」
「……いよいよ決戦が近いです」

後はカギを開けてボスに立ち向かうだけだ。

「そ。志貴は?」
「まだ……」
「あー。じゃあ最後の最後に出てくるかもしれないわねぇ」
「だといいんですけど」
「じょぶじょぶ。決める時はちゃんと決めてくれるでしょ?」
「ええ……」

あれだけダメダメな感じのする兄さんなのに、そこが不思議なところである。

「まーあたしはここでみんなの活躍を願ってるわー」
「……手伝ったりはしないんですか?」
「ラスボスより強い味方がいたら面白くないでしょう?」
「……」

この人の場合それが本当っぽいから手に終えない。

「その代わりレンを貸してあげるわ」
「レンを?」
「にゃー」

気付くと足元に黒い猫が座っていた。

「……えと?」
「実はそれがレンの本当の姿なのよ」
「はぁ」

首を傾げている間にレンは見慣れたいつもの姿へと代わった。

「いざという時には助けてくれるはずだから」
「……」

こくこく。

「ありがとうございます」
「ただし、時々悪夢になる事もあるから気をつけてねー」
「悪夢……?」
「ひーみーつー」
「……」

この人を思いっきり殴ったらすっきりしそうな気がする。

「ま、なるようになるわよ」
「ですかね……」

最終決戦前だというのになんだか気が抜けてしまった。

「レンを連れていくの?」
「ん」

振り返ると白レンと軋間がいた。

「手伝ってくれるそうなので」
「そう。ならご主人サマにも宜しく伝えておいてくれるかしら?」
「ご主人さま?」
「ええ。その子の主人は遠野志貴だもの」
「そう。遠野志貴……なんですって?」

兄さんがレンの?

「それは本当なの?」
「……」

こくり。

「そう。うふふふふふふ……」

アルクェイドさんだけでなくこんな小さな子まで。

どうやら兄さんに会った時に聞かねばならないことが増えたようだ。

「なにやら邪悪な気配を感じるのだが」
「多分間違ってないわよ、その感覚」
「うふふふふふ」

そんなこんなでレンを預かり、ナナヤの村を後にした。

次はトウサキだ。
 
 
 
 
 

「いない?」
「ああ。型月に出かけてった」

残念ながらシオンは型月のシエル先輩を手伝いにいった後だったようだ。

「鐘の工事は順調に進んでるよ」

にやりと笑う一子さん。

「なるだけ早い完成をお願いします」
「おうよ。出来たら国中に響き渡る音を聞かせてやるさ」

頼もしい限りだった。

「ところでウチのバカはどうしてる?」
「……ああ」

私は乾さんの頑張りと、そのおかげで翡翠の救出とウロボロス攻略の糸口を掴めた事などを説明した。

「あいつにしてはよくやったじゃないか」

口調はそっけないが、顔はとても満足そうだった。

「有間……兄さんにも会えたんだろう?」
「いえ、それがまだ……」

やはりどこに行ってもそれを聞かれてしまう。

兄さんを探しているのは事実だからいいのだけれど。

「あれ?」

首を傾げる一子さん。

「ちょっと前にトウサキに来たからアリマにいるぞって教えてやったんだが……」
「……! 兄さんが来たんですかっ?」
「ああ。鐘を鳴らしにってね。あんたが金を工面してくれたって教えたら驚いて……ちょっと?」
「すいません一子さん! 急いでアリマへ向かいます!」
「……あー。そっか。悪い。会えるといいなー」

ボートに飛び乗り全力で漕ぎ進む私。

これを逃したらまたいつ会えるかわかったものじゃない。
 
 
 
 
 

「志貴さまならつい先ほどフジョーの城へ向かわれましたが……」
「……」

アウトだった。

「どうしてこうタイミングの悪い……」
「余計な事言っちまったかな」

苦笑いをしている乾さん。

「いえ、仕方ありません……」

瀬尾や蒼香、羽居たちと会って士気が高められたのも事実。

ミスブルーのところでちょっと下がったけれどレンを預かったのは大きいし。

「兄さんがフジョーへ向かったとわかっただけでも十分です」

今までとは違って姿を見た人間がいるのだ。

この情報は間違いないだろう。

「……しくしく」
「ところであの隅っこでいじけている弓塚さんは一体?」
「たまたま遠野が来てた時に出かけてたんだよ」
「な、なるほど……」

さすがは弓塚さんというかなんというか。

「うわーん! 遠野くんのばかー!」
「まあ気持ちはわかるが落ち着け」

私も弓塚さんのように叫びたかった。

兄さんのバカ。私にこんなに心配をかけて……!

「兄さんは元気そうでしたか?」
「はい。以前より血色が良くなられたようで……」
「そう」

それでも兄さんの事を気にかけてしまうのは、我ながらどうかしてると思う。

この「どうかしてる」っていうのも兄さんの口癖だった気がする。

「ただひとつ気がかりなことが……」
「なに?」
「……その。まじかるアンバーという魔法使いと一緒にと仰られてまして」
「まじかる……」

その単語、どこかで聞いたような。

「あーっ!」

思い出した。

「それは琥珀じゃないの!」

ってことは兄さんは今、琥珀と一緒にっ?

「冗談じゃありません!」

一刻も早くフジョーへ向かわないと。

「あ、秋葉さま!」
「おいおい。あれだけ準備しといて結局どたばたになっちまうのかよ?」
「仕方ないでしょう!」

悪いのはタイミングの悪い兄さんと琥珀である。
 

「行くわよレンっ!」
「……」
 

レンと二人、大急ぎでフジョーを目指すのであった。
 
 

続く



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