わさわさ。
「?」
しばらく進んでいくと何かの動く音が聞こえた。
「……うそ……でしょ?」
私の目の前には信じられない光景があった。
先ほどのオバケサボテンが大量に発生して、しかも移動していたのである。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その12
「こんなのどうしろっていうのよ……!」
一体倒すだけでもあんなに苦労したのに。
目の前にいるのはひーふー……数えるのは無駄だ。全部倒しきれるはずがない。
「……」
私はぴょこぴょこ跳ねながら進むオバケサボテンの軍団を呆然と眺めていた。
「……ん?」
眺めているうち、ある事に気がついた。
オバケサボテンたちは、まるで統率されているたかのような規則正しい動きを繰り返していた。
その上サボテン同士は常に一定の間隔を保っているのである。
「これならもしかして……」
パターンに合わせて動けば進む事が出来るんじゃないだろうか。
「……」
目の前をオバケサボテンが通過していく。
「えいっ」
そこを狙って私はサボテンの輪の中へ入った。
しゅっ、しゅっ。
サボテンはパンチを繰り出しているが届く事はない。
「ちょっとづつ……ちょっとづつ」
サボテンの動きに合わせて移動していく。
遠回りになるけどこの際し方がない。
「……っと」
曲がり角に近づくと感覚が狭まってきたので慌てて移動する。
そうやってじりじりと進んでいくうちに、先へ進む道がみえた。
「よっ……」
ひょいとそっちの道へ飛ぶ。
サボテンたちは私が道を抜けた事なんてまるで気付かに行進を続けていた。
「ちょろいもんです」
これが人類の知恵というもの。
「さあ先を急がないと」
駆け足で山道を進んでいく。
「……ん」
進むにつれ、だんだんと森が深くなってきた。
下手をすると迷ってしまいそうな感じである。
「あら、あらら?」
向こうから誰かが歩いてきた。
「……なっ」
その姿に見覚えがあった私は慌てて木の影に隠れた。
「おかしいですね。また戻って来てしまいました」
「……知得留先生……」
こんなところで何をしているんだろうか。
いや、あの人の行動は常に謎だからどこにいてもおかしくないんだけど。
「……まあ、渡すべきものは置いて行きましたし、いいですかね。次の仕事に取り掛かりましょう」
そう一人ごちて私の来た方向へと走っていった。
「あの人もオバケサボテンを倒して来たのかしら……」
それとも何か別のルートがあるんだろうか。
「まぁどうでもいいわ」
あんな人の事を気にしてもしょうがないのだ。
「いざ行かん!」
私は気合を入れて森の奥へと歩いていった。
「……おかしいわ」
どれくらい経っただろうか。
進めど進めど目に映るのはまるで同じ十字路ばかり。
「敵は雑魚ばかりだらいいけど……」
このままでは日が暮れてしまう。
そうなったら歩くのも困難だ。
「何か手がかりはないのかしら」
十字に別れた道を南へと進む。
「……」
そこは私が知得留先生を目撃した場所であった。
「ふりだしじゃないの……」
今までの疲れが一気に出てしまい私は膝をついた。
この森は明らかにおかしい。
まるで何かの魔法をかけられているようだ。
もしかするとまじかるアンバーが何かをやっているのかもしれない。
「……こんなところでもたもたしてるヒマはないのに」
急がなければアルクェイドさんに抜けがけされてしまう。
「ああもう!」
苛立ちを誤魔化すために目の前にあった板を殴る。
「いったぁ……」
変な当たり方をしてしまい手が赤くなってしまった。
「なんなのよこの板……」
どうしてこんなところに……
「……って!」
そこにはいかにも意味ありげな文字が書かれていた。
『北1 東1 北2 西3 北1』
「迂闊だったわ……」
こんな重要なヒントがあったのに気付かなかっただなんて。
これはきっと、進むべき方向と十字路の数を示しているのだ。
「これに従っていけばきっと道が開けるはず」
私はメモを取ってその通りに進んでいった。
進む方向さえわかっていればこんな森を進むのは対した苦労ではない。
しかし誰がこんな情報を用意してくれたんだろう?
アンバーがこの森の仕掛けを作ったならばあり得ないだろうし。
あの知得留先生も道に迷っていたようだった。
「もしかして……兄さん?」
兄さんはつい人の厄介ごとを背負い込んでしまうタイプだった。
後の人が迷わないようにあの板を置いておいてくれたんじゃ?
「……まあ都合のいい考えだけど」
そう考えると進む意欲が沸き出てきた。
「最後に北ね」
メモの情報通り、北へ向かう。
「やった……抜けた!」
ようやっと別の光景が目の前に開けた。
「にしてもどこかで見たトリックだったわねぇ……」
進む事が出来たからいいけど、出来ればもう一度は通りたくない道であった。
「ええと」
改めて周囲を見回してみる。
特徴的なのは中央にある囲いの中の大きな木であった。
「囲いがあるって事は……」
近くに人がいるということ。
こんな森の奥にいる人物。
すなわちそれはほうき少女まじかるアンバーだ。
「ん?」
そしてその木の囲いの傍には看板があった。
『しあわせの木 果実一口でキミもシアワセ気分!』
「幸せ……ねぇ」
確かに木には美味しそうな果実が実っている。
「……」
普段の私だったらこれを食べようだ何て絶対に思わなかっただろう。
けれど散々道に迷ってしまった私はすっかり空腹状態だった。
「ちょ、ちょっとくらいなら……大丈夫よね」
つい果実のひとつを手にとってしまう。
その匂いも色も、とても美味しそうに見えた。
「一口だけ……」
不安を感じつつも口へと運ぶ。
シャリ……シャリシャリ。
「……こ、これは中々……」
一口のつもりだったのに、止める事が出来ない。
「美味しいじゃないの……」
それの果実の味は実に不思議で、今まで食べたどの果実よりも美味しく感じられた。
シャリシャリシャリ。
無我夢中で食べてしまう。
「……あ、あれ?」
するとだんだん体の具合がおかしくなってきた。
「あ、頭がクラクラするわ……」
ふらふらとその場を離れる私。
「シタもシビれレきラし……目も……かすんレ……きラ……」
もはや私は動く事も叶わなかった。
意識が薄れていく。
「レも……チョッピリ……キ モ チ イ イ ……」
ばたり。
世界が真っ白になった。
続く
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