「わかりました……なんとかします」
「そ。じゃあ宜しくね」

ものすごく重要そうな事なのに、ミスブルーはどこまでも軽口であった。

ああもう、本当にこの人は魔法使いで兄さんの先生なわけ?
 

私はどうしてもこの人の言葉が信用できないのであった。
 
 



「トオノの為に鐘は鳴る」
その41






「ん? どったの? 聞きたくない?」

私の顔を見て首を傾げているミスブルー。

「い、いえ、教えて下さい」

ここで機嫌を損ねられたらまた面倒な事になってしまう。

私は大人しく呪文を聞くことにした。

「おっけ。じゃあちゃんと聞きなさいよ?」
「はい」

一体どんな呪文なんだろうか。

「アルクネコネコ ミネコネコ アワセテ ネコネコ ムネコネコ」
「……は?」

なにその胡散臭い呪文は。

「どう? 覚えた?」

にこりと笑うミスブルー。

「え、ええ……ですが」
「なに? 信用出来ない?」
「……失礼ですが、あなたが魔法使いだと思えないんですが」

私は正直に気持ちを伝える事にした。

この軽さといい、いい加減さといい、魔法使いになれるような人とはとても思えなかった。

「あらら。じゃあどうすればいいかしら? 何か証拠を見せればいい?」
「……そうして下さると助かるのですが」

何か力を発揮しているところを見なくては信じる事なんか出来そうにない。

「そ。じゃあえっと……ついてきてくれる?」
「はあ」

ミスブルーはひょいと軽い足取りで外で出ていった。

「アレはあんなんだが凄い魔法使いにゃんだぞ?」
「?」

後を追っていこうとすると、出口の近くでネコアルクがそんな事を言ってきた。

「アチキは地震で逃げ遅れたところをアレに助けられたのだ。で、魔法の力で氷河も平気にニャった」
「……そうなの」

確かにこのネコアルクが普通に氷河にいるのは不思議だと思っていたけれど。

「それ以来アチキはここの門番をやってたワケだ。まあ命の恩人みたいなもんだからニャー」
「へぇ……」

意外といいところもあるのねえ。

「そういえばネコアルクのリアクト仕様っていうのは?」

確か白レンがそんな事を言ってた気がする。

「平たく言えば中ボス仕様だニャー。強化されてるから手強いぞー」
「……はぁ」

聞いてもよくわからなかった。

「まあ普通よりも強いネコアルクという事で納得してくれい。ちなみにアレは……」
「ちょっとー。なにやってるのー?」
「……っと」

外からミスブルーのせかす声が聞こえてきた。

「すいません、行きますね」
「おう、そうか。またニャー」

ネコアルクに見送られ外へ出る。

「来たわね。じゃああそこを見てくれるかしら?」
「あそこ?」

ミスブルーが差したのは大きな氷塊が連なって浮かんでいる海だった。

「どれがいい?」

そうして私に尋ねてくる。

「……どれがいいと言われましても」
「右か、左か、真ん中」
「……真ん中で」

よくわからないけど選んでみる私。

一体何をするつもりなんだろう。

「了解、んじゃ……」

格闘技のような構えを取るミスブルー。

「スヴィア!」

ごっ!

「……っ!」

次の瞬間、真っ赤な光がミスブルーの手から放たれていた。

「ブレイクッ!」

そしてその光で氷塊は粉々に砕け散っていく。

「……どよ?」
「……」

後には右も左も真ん中もなく、ただ広い海だけが広がっていた。

「確かにとんでもないですね……」

ネコアルクのビームにも驚かされたけど、これはそれの比ではなかった。

確かに魔法というのにふさわしい威力だ。

「信じてもらえたみたいで嬉しいわ」

にぱっと笑う彼女。

「……洞窟に向かってみます」

彼女が本当に魔法使いであるとわかった以上、呪文を試す必要がありそうだ。

「はいはい。気をつけてね」
「それから……レンと白レンが帰りを待っていましたよ」
「ん? あの子たちが?」

二人の名を聞いて懐かしいといった感情の篭った声を出すミスブルー。

「ええ。エサがなくなったと言ってました」
「そっかー。じゃあそろそろもどろっかなー。でもなー」
「……判断はお任せしますよ」

多分私がどう言ったって聞かないだろう、この人は。

「では」
「あ、うん。ばっははーい」

私は駆け足で氷の洞窟へと急いだ。
 
 
 
 

「……こほん」

洞窟の中、周囲に誰もいないのを確認する私。

「アルクネコネコ ミネコネコ アワセテ ネコネコ ムネコネコ」

一気に呪文を唱えてしまう。

こんな呪文言ってるのを聞かれたら私のイメージを疑われてしまう。

ごごごごごごごごごご。

「……あ」

すると針の床の上に移動するブロックが現れた。

呪文の効果はちゃんとあったようだ。

けれど。

「どうせならはしごとかにすればいいのに……」

その辺りは魔法使いの妙なこだわりなんだろうか。

「ま、いいわ」

とにかくこれで金山へ行ける。

「よっと……」

針を避けて進んでいく私。

「針にさえ気をつけていれば……」

床もすべるということもないし、意外と楽に進むことが出来る。

「あ」

しばらく進むと巨大な氷の塊がそびえたっているのが見えた。

「……人の……姿……」

その塊の中に黒い衣服を纏った男の姿がぼんやりと見える。

「この人がキシマの……?」

その形相からは何も読み取る事は出来なかった。

ただその赤い眼球だけが禍々しく光ってみえる。

「今のところ動き出す気配はなさそうだけど……」

もしも復活して暴れ出したら大変な事になってしまいそうだ。

「……」
「っ?」

今一瞬目が動いたようなっ?

「き、気のせいよね、気のせい……」

私は大慌てでその場から駆け出した。
 

途中、なにやらヘンテコな文字が書かれた看板があったけれど私には意味がよくわからなかった。
 

『フリージング・コフィンあります』
 
 
 

「はあっ!」

そんなこんなで氷の洞窟を抜けた私。

「……暑いっ!」

抜けた途端にそこは灼熱の地であった。

「なんなのよこの温度差はっ!」

クーラーの効いた部屋から外へ出た瞬間を思い浮かべてくれれば私の気持ちがわかるだろう。

「ああもう腹立たしいっ!」

コートを脱ぎ捨て、服の袖を最大限捲くる。

「……でもこれで兄さんに近づいたのよね……」

ウワサでは兄さんのような人がこの街へと向かったらしい。

「氷の洞窟が塞がってたのにどういうルートから……?」

そう考えるとどうもデマっぽい気もしてきたのだけれど。

「今更考えてもしょうがないわっ!」

開き直ってキシマの町へ向かう事にした。

火山と金の町というくらいなのだから、さぞかし活気に溢れ、豊かに暮らしていることだろう。

「セレブな私にはぴったりの町よね……」

私は期待に胸躍らせ山を降りていった。

「……あら?」

しかし私の視界に入ってきたのは。

「これが……キシマ?」
 

実に寂れた田舎町だったのである。
 

続く



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