クラブ型のカギ。
それはネコアルクたちを助けに行く時に見た門のものと完全に一致していた。
「それってまさか……」
「ええ。そういうことよ」
そう。ついにウロボロスとの決着をつける時が来たのだ。
「トオノの為に鐘は鳴る」
その56
「……」
「あ、あら?」
みんな驚くかと思いきや、反応が薄かった。
「……いや、それオレがさっきわたしたカギなんだけど……」
「えっ?」
乾さんに貰ったカギは……
「わたしも見た事あるけどボスの部屋のカギはスペードだったよね?」
「し、知ってます! ついです! わざとです!」
「ツンデレだ……」
「ツンボケじゃないかな?」
「ツン……なんですか?」
顔を見合わせている翡翠たち。
「ああもうっ! これが本当のカギです!」
私とした事がつまらないミスをしてしまった。
スペードのカギをみんなに見せる。
「おお。カギを見つけたのは本当だったのか」
「さっすが遠野さんだね」
「と……当然です」
一応の面目は保てたようだ。
「しかし秋葉さま」
「何かしら?」
翡翠がなんともいえない顔をしていた。
「今しがた帰って来たばかりで決戦に挑むというのも無謀だと思われます。まずは休憩を取るべきだと思います」
「……む」
「確かにそうだな。今すぐボスが目覚めるってわけでもねえだろうし」
翡翠の意見に賛同する乾さん。
「そんな悠長な……」
「わたしはいっそみんなに会ってくるべきだと思うなあ」
弓塚さんはそんな事を言った。
「……みんなというのは?」
「だから、お世話になった人とか。ほら、ピンチになった時にそういう人たちの事を思い出せば頑張れるじゃない?」
「少年漫画じゃないんですから」
「そういうのは侮れないよー!」
「都古?」
気付いたら都古が乱入して来た。
「おーえんの力はひとりを何倍にも強くするんだからー!」
「ああ、格闘技だとそういうの聞くよな。それで逆転勝利とかな」
「……」
そういうこともあるんだろうか。
「そう……ね」
中途半端に別れてしまった瀬尾たちの事も気になるし。
ナナヤの村の復興状況も気になるところだ。
「少し顔を見てくるのもいいかもしれないですね」
「それがいいと思うぞ」
「湖のボートを使えばすぐに行けるよっ」
「ありがとうございます」
私はひとまずお世話になった人たちに会いに行く事に決めた。
「まずは……」
お礼参りからよね。
「これが新刊『こうしてわたしは金を掘り当てた!』です。発掘を目指すみなさん是非読んでくださいねー」
「……楽しそうねぇ」
「はい。そりゃもう……うわあああああっ!」
これでもかってくらいに後ずさる瀬尾。
「こここここ、これは遠野先輩。ご機嫌うるわしう」
「コレは何かしら?」
瀬尾の売っていた本を一枚取り上げる。
「そ、それはその、あの時の経験を元に作り上げた本で……」
「ああ、私を見捨てて逃げた時のね?」
「ちゃ、ちゃんと介護はしましたよぅ!」
がたがたと震えて小動物のような瞳で私を見つめてくる瀬尾。
「……冗談よ。別にもう怒ってないわ」
「へ?」
「どうしてるか知りたかっただけ。本を作るのも邪魔しちゃったしね。完成して何よりだわ」
「あ、あの、遠野先輩?」
なんだかんだ言っても瀬尾がいなければ金が見つかる事はなかったのだ。
「羽居と蒼香たちは?」
「えと……金山の発掘の手伝いをされてます。遠野先輩が見つけた以外にもいろいろと発見されているみたいで……」
「そう」
これでキシマもまた活気溢れる町になるだろう。
「二人に宜しくね?」
「……あ、ちょ、ちょっとっ?」
「何よ?」
「……本当に遠野先輩ですか?」
「失礼ね」
「いいい、いひゃい! いひゃいですよぅ!」
まったくもう。たまに人が甘くするとこれだ。
「……あ、あはは。すいません」
離してあげると瀬尾は苦笑いをした。
「やっぱり先輩はそのほうがらしいですよ」
「どういう意味かしら?」
「ああ、いいえ、それはそのっ!」
「……ふふ、冗談よ」
「あ、あはははははは」
何だかんだ言って瀬尾は私を気遣ってくれているのである。
自分で言うのもなんだけど、結構酷い事を頼んだりしても引き受けてくれるし。
「じゃあ、行くわ」
「あ、ちょっと待ってくださいっ。これ……どうぞっ?」
瀬尾は私に売っていた本を一冊差し出した。
「いいの?」
「はいっ」
「……ありがとう」
受け取ってそれをしまう。
「そのっ。遠野先輩も頑張ってくださいっ!」
「ええ」
そうして私はキシマを後にした。
……かったのだけれど。
「あーっ! 秋葉ちゃんだー!」
「は、羽居っ!」
「おう。元気だったかい? おまえさん」
「……おかげさまでね」
飛びつこうとしてきた羽居を押さえ、蒼香と挨拶を交わす。
「瀬尾に聞いたわ。金山のことで色々やってるらしいわね?」
「あれだけの金を見つけちまったわけだからな。おかげであっちゃこっちゃに引っ張りだこだよ」
「やる気のなかった人もみんな元気になったの〜」
「でしょうね」
瀬尾に会った時も思ったけれど、町全体が活気に満ち溢れていた。
「で、おまえさんはこれから行くのかい?」
「どこへ?」
「それは野暮な質問だから聞かない」
「……あのねえ」
それじゃ聞く意味がないでしょうに。
「兄さんも見つからないしね。もうすぐ復活するかもしれないのに放っておくわけにはいかないでしょう」
「そっか。まあ気張り過ぎない程度に頑張るんだな。お兄さんともきっと会えるだろう」
「そうだといいんですけどね……」
理想はピンチの私を助けに颯爽と現われるというシチュエーションだ。
でもあの兄さんがそうタイミングよく現われるとは思えない。
案外ボスを倒してしまってから「あ、あれ?」とか言って出てくるんじゃないだろうか。
「秋葉ちゃん、行っちゃうの?」
羽居が残念そうな顔をしていた。
「……スネークキラーも手に入れちゃったしね」
いかにも私がウロボロスのボスを倒してくれって感じの展開である。
成り行きとはいえ、そういうものを手に入れてしまったのだからその力はきちんと使うべきだろう。
「そっか……じゃあ、これあげるっ」
「きのこはいらないわよ」
「えー? 可愛いのに……」
「凄いじゃないか。羽居の思考パターンを読むなんてな」
「嬉しくもなんともありません」
「はははははは」
蒼香はひたすらおかしそうに笑っていた。
「羽居。アレなんかどうだい?」
「あ。うん。そうだねー」
蒼香に促されて何かを取り出す羽居。
「これ、わたしの羽ピン〜」
「……いいの?」
「うん」
羽居の羽ピンは要するにそのあだ名の原因ともなったアイテムである。
詳しい経由は端折るけれど、浅上時代には宝物のひとつと言っていたものだ。
「ちゃんと返してね?」
「……くれるんじゃないのね」
「ま、そのへんは帰ってくるのを期待してってやつだ」
「あははははは……」
なんだかずいぶんと大仰なイベントになってしまった。
「……必ず会いに来ますよ」
相手はブンケ王国全てを乗っ取ろうとしているウロボロス。
負けるわけにはいかないのだ。
「で、あたしからはいざというときの神頼みの数珠を……」
「それは単にいらないものを押し付けようとしているんじゃないかしら?」
「正解」
思わず笑ってしまう。
「え? なに? 何が面白いの?」
羽居は何がなんだかわからずきょとんとしていたが、やがてつられるように笑っていた。
続く