「うふ、うふふふふふふ」
「……やけに楽しそうねえ」
「はうっ!」

にやにや怪しい笑顔を浮かべていたその子は、私の顔を見た瞬間凍りついていた。

「とと、とととと、遠野先輩っ! 何故ここにっ!」
「さあ、どうしてかしらねえ。強いて言うならば貴方が妙てけれんなものを書いている予感がしたから……とか?」

極上の笑顔を見せてあげて、それから名前を呼んだ。
 

「……久しぶりね。瀬尾」
 
 



「トオノの為に鐘は鳴る」
その45






「はわ、はわわわわ」

声をかけるまで私の存在に気付かなかったから眺めさせてもらったけれど。

瀬尾の描いていた本は実に興味深い……もとい、不健全な内容だった。

「そんなものは没収させてもらいます!」

そして今後の参考に……いやいや。

「だ、駄目ですっ! それがないと次回のコミコミにー!」
「冗談よ。……まだ同人とやらを続けてたのね、瀬尾」

この子は瀬尾晶。

かつての私の後輩であり、色々と世話を焼いて上げた子だ。

蒼香の言う通り、テスト問題の予想や明日の天気などを当てるのが妙にうまい子だった。

「それは……同人はわたしの生きている証ですからっ!」

瀬尾は同人とやらの話をする時が一番目が輝いている。

それが何なのかというと、要するにこういうオタク向けの本のことらしい。

「そう。ならば頼みがあるのよ?」

そんな事はどうでもいいのだ。

私はさっさと用件を話してしまうことにした。

「た、頼み……ですかっ?」
「ええ。金を掘るの。その場所を見つけなさい」
「そ、そんな無茶苦茶な!」
「無茶でもやるのよ!」
「人間には出来る事と出来ない事が……はうっ?」
「?」

瀬尾は私の後ろを見て驚いたような顔をしていた。

「誰かいるの?」

振り返っても誰もいない。

「何なの?」
「……」

瀬尾はなんともいえない顔をしていた。

「……受けます」
「は?」

そして口から出て来たのは意外な言葉。

「その依頼、受けさせて頂きます」
「……どういう風の吹き回し?」

いくらなんでも態度が変わるのが早すぎる気がする。

「その……ちょっと……見えてしまいまして……」
「見えて?」
「な、なんでもありません。協力するんだからいいじゃないですかっ」
「……」

どうにもうさんくさい。

「……ま、いいわ」

手伝ってくれるというんだからそれ以上は聞くまい。

「ご主人サマ〜? ご奉仕するニャン?」
「ウホッ! モエモエー!」
「とにかくさっさとここから出るわよ……」

これ以上ここにいるとどうにかなってしまいそうだった。

「は、はいっ」

瀬尾を連れて店の外へ。

「また来て下さいねぇ〜?」

ご丁寧にフリフリミニスカートのメイドが見送ってくれた。

「……二度と来ませんよ」

メイドは翡翠と琥珀だけで十分である。

「そんな、勿体無いです。メイドさんかわいいのに」
「何か?」
「……なんでもアリマセン」
「宜しい」

この従順さが瀬尾のいいところよね。

満足満足。

「おーい」
「秋葉ちゃーん」
「ん」

羽居たちが私たちのところへ向かってきた。

「瀬尾は手伝ってくれるそうよ」

ぽんと背中を叩いてやる。

「あ、は、はい。未熟者ですが宜しくお願いしますっ」

深々と頭を下げる瀬尾。

「まあそうしゃちほこばらんでいいさ。気楽にいこうや」
「宜しくね〜」
「……?」

二人の対応に瀬尾は不思議そうな顔をしていた。

「どうしたの?」
「い、いえ、その、遠野先輩と大分印象が違うなあと」
「それはどういう意味かしら?」
「ああっ! いや、深い意味はなくてっ!」
「じゃあ一体……」
「……っていうかおまえさん、質問なんだが」
「何?」

瀬尾を問い詰めようとすると蒼香が口を挟んできた。

「あたしらに瀬尾が手伝う事を紹介するって事は、あたしらも仕事のメンバーに入ってるって解釈してもいいのかい?」
「……仕事の?」
「だから金を掘りに行くんだろ?」
「ああ……」

そういえば蒼香たちがいるのはそれが目的だからなんだっけ。

「そうね。人数はいたほうがいいわ。でも……」

蒼香はまだいいとしよう。

「羽居。あなた土なんか掘れるの?」
「わたしは無理だけどー」
「……笑顔でそんな事言われても」

こっちはどう対応すればいいのやら。

「でもそいつ、魔法の人形持ってるんだぜ」

蒼香がそんな事を言った。

「人形?」
「これだよー」

と羽居が取り出したのは、どこぞで見た事のあるキノコの人形だった。

「魔法の人形ってことは動くの?」
「そうなの。通りすがりの魔法使いさんに動くようにして貰ったんだ」
「……」

それはまあ実に羽居らしいというかなんというか。

「そいつが案外強いんだよ。あたしら二人で平気で旅が出来るくらいにさ」
「ふーん……」
「土だって簡単に彫れちゃうよー」
「……じゃあ、その人形だけ借りて」
「残念だが羽居の命令がないと動かない」
「……」

にこにこと笑っている羽居。

「……わかったわ。貴方もいらっしゃい」
「やったぁー!」
「はいストップ! 抱きつきは禁止よっ!」

先手必勝。このままだとまた抱きつかれるところだった。

「えー? どうして?」
「どうしてもです」

抱きつかれたらまたあの不愉快な胸の重圧がかかってくるじゃない。

「……っくくくっくく」
「蒼香! 笑うんじゃないの!」
「あは、あははは」
「瀬尾っ!」
「わあっ! ごめんなさいっ!」
「まったくもう……」
 

ニゲロ、ニゲロ、ドアヲアケロー

「……なにこの音は」
「あ、アタシだ」

ポケットから携帯電話を取り出す蒼香。

「はいはい? ……あー。募集? してるけど?」

電話の相手としばらく話す。

「バイトしたいんだってさ」

それから私の顔を見てそんな事を言った。

「……まさかあの広告で?」
「ああ。よっぽど金に困ってるんだろうなあ」
「大丈夫なのかしら」
「やる気はありますってよ。看板前にいるらしいから顔だけでも見たらどうだい?」
「そうね……」

人数が多い事に越した事は無さそうだし。
 
 
 
 
 

「すいません、バイトを申し込んだのは……」

看板の前にいた人に声をかける。

「はい。わたしです……げえっ!」
「あ、あなた……! イカ、イカじゃなくて……」
「四条つかささん?」
「そう! 四条さん!」

彼女はかつて私の才能と美貌に嫉妬し、陰険な嫌がらせをしてきた人物なのである。

「なんで貴方がここに!」
「どうして遠野さんがバイトの募集を!」
「……金の捜索を手伝う要員が必要だからです」
「お、お金が欲しいからに決まってるでしょ!」
「……ふーん?」

四条さんは半ば逆ギレみたいな状態だった。

「雇ってあげるわ。ギャラはちゃんと払うわよ」
「な、なによそれっ! もしかして滅茶苦茶にこき使うつもりでしょ!」
「滅相もありません」

思いっきりそのつもりだけど。

「あ、あの、四条さん。手伝ったほうがいいと思いますよ?」

そう言って瀬尾がこそこそと四条さんに近づいていった。

「なによあなた! …………え?」

そして耳元で何かを囁かれた後、顔が一変する。

「わ、わかったわ。やるわよ。ええ。やればいいんでしょう?」
「……」

一体瀬尾は何を話したというんだろう。

「瀬尾、あなた……」

何を知っているのと聞こうとした瞬間。
 

「アサガミオールスターズ結成だね〜っ」
 

羽居の言葉で思いっきりずっこけてしまうのであった。
 

続く



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