「ではっ!」

私はかけ足で病院を後にした。

「いにょうにょー!」
「邪魔!」
「ひでぶっ!」
 

病院を出た瞬間出てきた謎の物体は星にしておいた。
 
 

「トオノの為に鐘は鳴る」
その10









「……さてと」

確か東南にハイキングコースがあるとか言ってたわね。

「まずは東と」

さすがに町の外まで物体は追いかけて来ないようだ。

「……ん?」

少し進むといかにも怪しげなはしごが地下へ伸びていた。

「これは……まさか」

嫌な予感がしつつもそこを降りてみる。

「ボンソワール! 知得留です」
「さようなら」
「ああちょっと待ってください! 月並みですが敵を倒せばお金を稼げますよー!」

有益な情報ではあったけど、どうもあの人は苦手だ。

一体何がしたいんだろう。

「敵を倒すね……」

はしごを出て南へ行くと何匹かのモンスターが歩いていた。

「町人の平和のためにも駆除して置くべきね」

ずばっ!

モンスターを倒すと確かにお金を落としていった。

「……これってどういう理屈なのかしらね」

お金なんて持っていてもしょうがないと思うのだけれど。

「まあいいわ」

手に入るんだからよしとしよう。

「……」

そしてまた怪しげなはしごがあった。

「少ししか進んで無いのに……」

それでも一応は降りてみる。

もしかしたら宝箱があるかもしれないからだ。

「ボンソワール! 知得留です」
「……」

そこにはさっきの穴に潜んでいたはずの知得留先生が立っていた。

「……あ、あなたどうやって移動を?」
「それはもう、先生ですから」

まるで説明になっていなかった。

「で、何の用なんです?」

話を聞かなきゃこの人はいなくなってくれなさそうだ。

「ええ。ホーキ山なんですけれど、行くなら入り口の『オバケサボテン』を倒さなければなりません」
「……オバケサボテン……」

私はサボテンに手が生えただけというシュールな物を想像してしまった。

「オバケサボテンはもう倒しましたか?」
「いえ、これから向かうところですから」

この人がいるとわかっていたらはしごを降りなかったのに。

「アレはなかなか手強いですよ。なんならコーチしてあげてもいいですが」
「……貴方が?」
「どうです? 教えて欲しいですか?」
「教えて欲しい……じゃなくて、貴方が教えたいだけでしょう?」

そう聞き返すと知得留先生は苦笑いをした。

「まあそうとも言いますね。知識あるものの宿命です」
「なんでもいいですよ。話してください」

この際得られる情報はなんでも聞いておくべきだろう。

「では……まず城下町で盾とノコギリを買うんです」
「盾とノコギリね……」

まずはそれを買える分のお金を稼がなきゃいけないわけだ。

「けどそれだけでは十分とは言えません」
「他にも何か必要だと?」
「はい。続きを聞きたいですか?」
「……意味ありげなフリはいいから全部話して下さい」

この人にまた会いに来なきゃいけないのは正直しんどかった。

「仕方ありませんねー。まず、この辺りにはノコギリで切れる木がたくさんあるはずです」
「……そりゃ木ですからね」

切れないノコギリだったら欠陥品だろう。

「ノコギリを使って出来る限りのコトをやってみて下さい。そうすればきっと道は開けるはずです!」

びしっと明後日の方向を指す知得留先生。

「わかりました。ありがとうございます」

一応お礼を言って私ははしごを昇っていった。

「わたしも忙しい身なのでこの程度の事しか出来ませんが、頑張ってくださいね」
「……」

忙しいならこんな地下になんか潜んでなきゃいいのに。
 
 
 
 
 

「……ふう」

しばらく地味に雑魚を倒し続ける事でなんとか盾とノコギリを買えるだけのお金が溜まった。

「さっちんにお金さえ取られなければ……」

こんな苦労もしなくて済んだのに。

「覚悟してなさいよ」

啓子さんには悪いけれど、ちょっととっちめてやらないと気が済まなさそうだ。

「さてと」

とにかくアイテムを買いに町まで戻ろう。

「……」

アリマに戻るとまた井戸の前に謎の生物が座っていた。

「うにょー」

今度は遠くから私の様子を伺っているようだ。

「……何なのかしらね」

他の人が通っていてもまるで気に止めていないのに。

「動物にも私の気品が伝わったという事かしら?」

すると町人たちはこの珍生物よりもニブチンという事になってしまうけれど。

「まぁ……兄さんの育った町ですしね……」

変なところで鈍いのかもしれない。

特に気にする事もないだろう。

「すいませーん」

さっさと道具屋でアイテムを揃えてしまう。

「……これでいいのかしら」

盾はまあ格好がつくけれど、それでノコギリを構えている姿はなかなか奇妙だ。

「後は木を切っていけば……」

自ずと道が開ける。

本当だろうか。

「どうも胡散臭いのよねえ」

不安を抱きつつも外へ出て行く。

「試しにどれか切ってみようかしら?」

そのへんを見回してみた。

「アキハー!」
「ん」

するとどこかで聞いた声が。

「都古?」

そう、都古の声だ。

「はぁはぁ、やっと追いついた」
「どうしたのよ?」
「さっきノコギリを買ってったのが見えたから。あのね、勝手にその辺の木を切っちゃ駄目だからねっ」
「……言いたい事はわかるけど、切らないと話が進まないのよ」

つまり無意味やたらな自然破壊はよくないということだ。

「なんかエライ先生が作った、すぐに生えて簡単に切れる木があるんだって。それなら切ってもいいんじゃないかな」
「……すぐに生える木ねえ」

一体どういう理屈なんだろうか。

「形が違うからすぐわかると思う……あ。あそこに生えてるみたいなやつねっ」

都古が指差した先にはしゅっしゅっとジャブを放っている怪しげなサボテンがあった。

多分あれがオバケサボテンなんだろう。

私が想像したものより遥かにシュールな物体である。

そして、その両脇に周りに生えているものと違う色の木が生えていた。

「あのサボテンの両側の?」

都古が差したのはこっちだろう。

「そう。さくっと切れるはすだから」
「……ふーん」

多分知得留先生が切れと言っていた木もこれだろう。

「……って先生?」

もしかして「すぐ生える木」を作ったのも知得留先生?

まさかね。

「ありがとう、都古。さっそくやってみるわ」
「うん。頑張ってね!」

都古は元気良く駆けていった。

「……打ち解けると案外いい子なのねえ」

最初はなんてムカツク子供だろうと思ったけれど。

「二人同じ義兄を持った妹同士」

やはり何か通じ合うものがあるのだろう。

「よしっ!」

都古のおかげでやるべき事もはっきりした。

「さあ、切って切って切りまくるわよっ!」
 

私はさっそくそのすぐ切れてすぐ生える木とやらを切断し始めるのだった。
 

続く



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