果たしてどれだけの人がそれをわかるんだろうか。
「まあ、言ってみただけなんですけどね」
「さいですか」
ホエホエ歌われたらどうしようかと思った。
「まあ正月なんですし、まったりいきましょう。まったりと」
「うん」
正月といったらゴロゴロして過ごすものだからな。
「遠野家のお正月」
「羽突きっていうのは元々勝ち負けを競うゲームではなく、どれだけ続くかを楽しむゲームなんです」
「へえ」
「罰ゲームで墨を塗るってことだけが特化しちゃってて殺伐としますけど」
「そうだな……」
マンガとかでも最初はほのぼの、いつのまにか殺伐としている気がする。
「最後は顔じゅう真っ黒になったり……」
「ベタですけど基本ですねえ」
なんて事を話していると。
「兄さん、いらっしゃいますか?」
「あ、うん。琥珀さんもいるよ」
「そうですか。入りますよ」
扉が開いた。
「お……」
そこにいたのは着物姿の秋葉。
「いいじゃないか」
秋葉は黒い長髪なので非常によく似合っていた。
「そ、そうですか。どうも」
顔を赤らめる秋葉。
「そうですねえ。胸がないほうが着物が映えると……」
「琥珀。何か言ったかしら?」
「……あー、はい。わたしが着たててあげたんですよ。素敵ですよねー」
何で琥珀さんは自分から地雷を踏みたがるんだろうなぁ。
確信犯なのは間違いないけど。
「こほん」
大きく咳払いをする秋葉。
「兄さん、あけましておめでとうございます」
「あ、うん。おめでとう」
そういえばまだ秋葉と挨拶してなかったな。
「今年もどうぞ宜しくお願いします」
「こちらこそ」
「志貴さん、わたしへの挨拶はないんですかー?」
「……」
敢えて琥珀さんをスルーする俺。
「志貴さん クィッ こっちを クィッ むいて クィクィ きづいてクィッ」
「……こういっては なんだけど、あけましておめでとう。今年もよろしく」
「はいっ」
琥珀さんはとても満足そうだった。
「何をやっているんです?」
「いやこっちの話」
間違いなく秋葉にはわからない話である。
「おこたえします。それは……」
「あー、琥珀さん、そっちに入ると終わらなくなるから」
「それもそうですね」
「……?」
秋葉の頭の上にはてなマークが浮かんでいた。
「まあいいです。兄さんに用事があったんですよ」
「ん?」
「これです」
そう言って秋葉が取り出したのは。
「……羽子板?」
「ええ。もちろん失敗したら罰ゲームです」
「……」
思わず琥珀さんと顔を見合わせてしまう。
「なんといいますか……予想通り?」
「ベタだね……」
「だから何の話ですか?」
「いや、気にしないでくれ」
まあ正月ってのはお約束とベタを繰り返すものである。
「それで、いかがですか?」
「ん、別にいいよ」
顔面墨だらけにされそうだけど、それはそれで正月だなあって感じがするし。
「じゃ、行きますか」
「はーい」
三人で庭へと向かう。
「あ、やっほー志貴。おめでとー☆」
「帰って下さい」
「なんでよー。妹つめたーい」
そこにいたのは着物姿の翡翠と普段着のアルクェイドだった。
「ひ、翡翠ちゃんハァハァ……もえ……萌えぇええええっ!」
「琥珀さん少し黙ってようね」
「ただのお茶目じゃないですかー。いやですねえ、もぅ」
まったくこの人は。
「で、翡翠に聞いたんだけど。羽子板とかいうのやるんだって? わたしも混ぜてよ」
「何を言っているんですか! 私は……」
「秋葉さま。秋葉さま」
くいくいと秋葉の袖を引っ張る琥珀さん。
「何!」
「ごにょごにょごにょごにょ」
「……」
なんかもうあからさまに怪しい。
「なるほど。そういう考え方もあるわね」
俺は新年早々騙されそうになっている妹を救うべきなんだろうか。
「……」
翡翠のほうを見ると諦めたように首を振っていた。
「それもそうか……」
全てはなるようにしかならないのである。
「二十壱式波動球っ!」
ドゴォ!
マンガみたいな勢いで吹っ飛んでいく秋葉。
「どうしたの妹ー? わたしの波動球は百八まであるのよー」
アルクェイドは変なマンガに感化されてしまっていた。
「な、なんの。まだまだです!」
自分は吹っ飛んでいながらも羽をちゃんと打ち返していた秋葉。
羽はゆっくりと空を飛んでいた。
恐ろしい。
何が一番恐ろしいってあの勢いに耐えられる羽が一番恐ろしい。
「しょうがないなぁ……ほらっ」
チャンスボールとばかりにアルクェイドが軽く打ち返す。
「全力でやってみなさい?」
「……上等ですね!」
その態度が秋葉のカンに触ったようだった。
「勝負ですっ! この命尽き果てるまで!」
秋葉、それは死亡フラグだ。
「えいっ」
「っ!」
アルクェイドの打ち返した柔らかい反撃に追い付けない秋葉。
ぽとっ。
「はーい、またわたしの勝ちねー」
「〜〜〜〜〜〜っ!」
さてこれで何度目の敗北だろうなぁ。
「そーれ行くよ翡翠ちゃーん」
ぱこん。
「えいっ!」
ぽこん。
「ナイスショットー!」
こっちのほうはそろそろ50回くらい続いてるのかな?
実に平和な光景だった。
「あっはっはー。妹にヒゲ書いちゃったー」
「つ、次です! 次で勝ちます!」
そろそろ止めてやるべきなんだろうか。
秋葉ではどう頑張っても勝てそうな気配がなかった。
「待ちなさい!」
「お?」
「その勝負、わたしが代わりに戦いましょう!」
「……シエル先輩」
正月から最終武装な服はどうかと思いますよ。
「あらら。いいのかしら? シエルもヒゲモジャにしちゃうわよ」
「何を言っているんです。わたしの名を忘れたのですか。弓のシエルですよ」
「……なるほど。ちょっとは楽しめそうかな」
「ちょっと! 私を無視して話を進めないでくださいますか!」
びしっとシエル先輩を指差す秋葉。
「ならこうしましょうっ」
「お?」
いつの間にか琥珀さんが割り込んできた。
頬にはうずまきがひとつ書かれている。
「全員でやって、落とした人が全員から書かれるってことで」
「あ、それいいわねー」
「なるほど。面白そうです」
「……珍しくいいこと言うじゃないの」
「あっはっはっはっは……」
またさらに混沌を招くような事を……
「じゃあみんな、輪になってー」
わらわら。
「志貴さま、お手柔らかにお願いします」
「うん」
まあ翡翠相手に本気出す相手はいないだろう。
「うふ、うふふふふ……」
「……琥珀さん、その笑いは止めようね」
しかしまあ、こう言うのもなんだけど。
「じゃあ、準備はいいかしら?」
なんていうか。
「いつでもいいですよ!」
新年だっていうのに。
「せーのっ!」
ぱしっ、すぱっ、こーんっ。
「えーいっ!」
「……やっぱ俺狙いかよっ!」
なんで俺たちはこう。
ちゅどーんっ!
「ぐはぁっ!」
進歩がないんだろうなぁ。
まあ、それでこそ俺たちって感じもするけど。
「さ、罰ゲームですね」
「どこに書こうかなー」
「兄さん、これもルールです」
「志貴さん、ごめんなさいねー」
「ちょ、待って、そこはダメ、アッー!」
今年も色々と、大変な一年になりそうだ――――。
「ぐすぐす、もうお婿にいけない」
どこにラクガキされたかは……聞くな。
完