琥珀さんの提案で毎度お馴染みのメンバーが集合していた。
要するにアルクェイドとシエル先輩と遠野家一同である。
「また下らない事を考えているんでしょう」
「あはは。変な事ではありませんよ。懐かしいものを見つけたもので」
「懐かしいもの?」
「はい。これです」
そう言って琥珀さんが取り出したのは確かに懐かしいものだった。
「ウノか……」
「Unoうを鍛える以下略」
「それってローカルルールがとんでもないアレですよね?」
シエル先輩が尋ねる。
「そうです。ドロ4をドロ2で返せるのですらローカルですから」
「え? マジで?」
あれって基本ルールじゃなかったのか。
「本来はドローを出されたらほぼ無条件で取らないといけないんですよ」
「それは……」
プレイして凄くストレスが溜まりそうな気がする。
まあドローが一周して帰ってきてしまった時の悲しさも格別だが。
「スキップ重ねとか数字重ねもローカルです」
「……そうなんだ……」
そのへんはもう常識として存在してたんだけどなぁ。
「じゃあ今回はどういうルールでやるの?」
アルクェイドが聞いた。
「今回はドロー返しあり、数字重ねあり辺りですかね」
「俺はそれが普通だと思ってたよ」
「ですね。遠野家でもそれが基本でした」
「へえ」
「これでも強いですよ、私は」
秋葉が不敵に笑っていた。
「なんか超攻撃的なプレイをされそうな気がする」
「当たらずも遠からじですねえ」
くすくすと笑う琥珀さん。
「まあモノは試しでやってみましょう」
「だな」
そんなわけでメンバー全員にカードが配られた。
「……む」
俺のカードは数字ばっかりで英語がほとんどなかった。
しかも色が赤と緑にばかり偏っている。
数字が微妙に被ってるのがまだ救いか。
ドロ4とか来たらヤバイなあ。
「では家主である秋葉さまからー」
「当然よ」
ちなみに順番は秋葉、シエル先輩、アルクェイド、琥珀さん、翡翠、俺である。
俺が最後なのになんとなく悪意を感じなくもない。
「ではこれで」
秋葉が場にカードを出す。
「お?」
「えー? いきなりリバースですか?」
秋葉が出したカードは順番が逆転するカードだった。
「サンキュー秋葉」
これで俺の順番が早くなった。
「いえいえお気になさらず」
ちょうど場も赤カードだったので適当にチョイスして出しておく。
「……これを」
翡翠が数字が同じカードを出して黄色に変わる。
黄色は持ってない……まずいな。
順々と回っていくが、俺の番までカードは黄色のままだった。
「アルクェイド。いきなりドロー2はないでしょう?」
「だってあれしかなかったんだもん」
などとカードをばらしているマヌケを尻目にカードを引く。
「お」
俺が引いたのはドロー4だった。
こりゃいいもんを手に入れたな。
いつでも出せて相手に4枚取らせる上に、場の色まで変えられるカード。
ウノで最強のカードである。
これを切り札としておくためにオレは。
「……」
あえてもう1枚カードを引き、それで手に入れた数字のカードを出した。
これは突っ込まれると非難轟々される非常に危険な作戦である。
「あらあら、もうですか?」
くすくすと笑う秋葉。
そうしてられるのも今のうちだぞ。
「……」
翡翠が場に4枚のカードを置いた。
色が緑に。
「って4枚?」
「数字が同じですから」
「……うわ、ほんとだ」
翡翠が並べたカードは全て7のカードだった。
「うう、UNOの女王はまだ健在なのね……」
琥珀さんが渋い顔をしていた。
「ウノの女王……」
「翡翠は強すぎるんですよ」
秋葉までそんな事を言っている。
「……」
ウノってほとんど運のゲームじゃなかったっけなぁ。
「よっと。青ね」
「……んなっ」
アルクェイドがスキップカード。
「残念でしたね先輩」
意地悪く笑い、秋葉がカードを出す。
次は俺か。
「うーん」
場のカードは青。
しかし数字が同じなので一応カードは出せる状態ではある。
どうしたもんだろう。
ここはひとつ、ウノの女王という翡翠を牽制しておくか。
「そらっ!」
さっき引いたドロー4を場に置く。
「兄さん……えげつないですね」
「これも勝負だからな。俺は黄色を指定する!」
黄色は俺も持っていない。
しかし翡翠が色を黄色から緑に変更したのだから、黄色を持っている可能性は低いということだ。
「チャレンジ」
翡翠は平然としたままそんな事を言った。
「ん?」
「志貴さま、手札を見せてください」
「……なんで?」
「ウノにはものすごく知られてないルールとしてドロー4へのチャレンジがあるんですよ」
「な、なにそれっ?」
そんなルール聞いた事ないぞ。
「公式だと、ドロー4のカードは他に出すカードが無い時しか出しちゃいけないんです」
「……マジで?」
「で、出した人が本当に場と同じ色のカードがないかをチャレンジでチェック出来るんですよ」
「そんな馬鹿な」
そんな事されたら手札が全部ばれちゃうじゃないか。
「で、他にあった場合はそのカードに差し替えた上で出した人が4枚取らないと駄目なんです」
「それじゃ出すだけ不利じゃないか」
「なかった場合は出された者がペナルティも含めて合計6枚取らなきゃいけないんで、リスクもありますよ」
「……つまりどうしろと」
「他に出せるものがあるなら出して下さいって事です。4枚引かなきゃ駄目ですけどね」
「くっ……」
なんて事だ。作戦が裏目に出るとは。
「で、どうなんです?」
「……あるよ」
渋々ドロー4を下げて数字カードを出す。
そして4枚を引くことになった。
「これも勝負です。申し訳ありません」
場に置かれたのはリバースのカードだった。
「ウノ」
さらに最後の1枚宣言である。
「……」
この場合、俺から翡翠に攻撃するにはドローが一周しないと無理だ。
そして今翡翠の隣にいるのは琥珀さん……
無理だ。
「くっそ……」
悔しさ紛れにドロー2。
「私に八つ当たりしないでくださいっ!」
結局そのまま翡翠が勝利してしまい、調子の狂った俺はビリになってしまった。
「もう一回だ!」
「……無駄だと思いますけどね」
2度目の対戦はさっきの逆襲とばかりに秋葉のドロー2攻めだった。
翡翠を真似してドロー4チャレンジをしてみたけれど、慣れてないルールだけに全然駄目。
さらにカードが増えてまたもビリになってしまった。
「も、もう一回!」
負け。
「もう一回だ!」
負け。
「あ、あと一回だけ! 一回だけでいいから!」
負け。
「お願い、やらせて! 一回、ほんとに!」
「……なんか別のモノに聞こえてきますねえ」
「うぐぐぐぐぐ……」
何度立ち向かっても駄目だった。
1位は常に翡翠で、俺は最下位。
翡翠を負けさせようとやっきになったのが駄目だったのかもしれない。
こういう時に言うセリフはひとつだった。
Unoではなく。
「オオオオオーーーーーーーーノォォォオオオオオオオオー!」
なんてこった。
完