もっと言えば今日はクリスマスイブのほうだ。
何が違うのかはよくわからないけど。
「きょおはっー、たのっしいー、くっりっすっまっすー。へぇーい!」
「あはは……」
いささかハイテンションすぎるが、琥珀さんが楽しそうにしているのを見るのは悪い気分じゃなかった。
「クリスマスあれこれ」
「さて志貴さん、クリスマスといえばなんでしょう」
「なんでしょうと言われても」
「思いつくものをなんでも仰って下さいな」
「ケ……ケーキ?」
「はい。もちろんおっきなケーキをご用意させて頂きました!」
「へえ」
そういえば前々からでかいのを作ると意気込んでた気がする。
「みんなで揃ってローソクを消すんですよー」
「それは誕生日のほうじゃない?」
そもそもなんでクリスマスにケーキなのか。
キリストの誕生日とかそういうのはあんまり意識しないし。
強いて言うなら「ケーキを食べれる日だから」とでもいおうか。
「ブッシュ・ド・ノエルをクリスマスに食べる事が多いですが」
「あー。あのロールケーキみたいなやつね」
あれも結構美味いんだよな。
「あれはフランス語でクリスマスの薪という意味があります」
「そのまんまなんだ」
「ええ。そのまんまですね。由来にも様々な説がありまして」
「ふーん」
「まあそういうのはどうでもいいんですよ。お祝いなんですから」
「はぁ」
なんだかよくわからないけどおめでたい日だと。
「こういうのは騒いだもの勝ちなんです。同じアホなら踊らにゃソンソンですよ」
「琥珀さんってクリスマスは特に好きだよね」
「そりゃあもう。騒いだぶんだけの見返りありますから」
「見返り?」
「まあ、それは本命なので後回しにするとして」
「あはは」
まあ何を言いたいのかはなんとなくわかるけど。
「他には何がありますかね?」
「んー。クリスマスツリー?」
「ええ。基本ですよね」
これもやはり何故飾るのかは謎だ。
まあお祝いなんてものに深い意味を求めるほうがおかしいが。
門松だってどうして飾るのかわかってる人なんかほとんどいないだろう。
「発祥はドイツでして、日本では……」
毎度お馴染みマニアックな知識を提供してくれる琥珀さん。
こういう時は本当に生き生きしている。
「他には何があるでしょう?」
「うーん」
最大の疑問はだ。
これだけ色々な雑学知識を持っている琥珀さんがだ。
「やっぱりサンタクロースかな」
「ですよねー。サンタさんのプレゼントは楽しみですもんね」
何故未だにサンタの存在を信じきっているかという事である。
だがそんな事を聞けるわけがない。
この、琥珀さんが滅多に魅せない純粋な瞳の輝きを見て、どうして夢をぶち壊すような事を言えるのか。
「えーと……」
曖昧に笑う俺。
「ああ。志貴さんはサンタさんがいないと仰りたいんですか?」
「えっ」
と思ったら琥珀さんのほうから話題を振ってきた。
まずい、俺はどう答えるべきなんだろう。
「そりゃ世間ではサンタなんかいないという意見が大多数ですよ」
「ま、まあそれはね」
といってもテレビとかでそういう事を言うのはまずない。
偶然知ってしまったとか、親や友人がばらすとかそんなパターンだろう。
そういえば都古ちゃんはどうなんだろうな。
「そもそもサンタクロースの由来は聖ニコラウスの伝説でして」
「いや知らないけど……そういうのを知ってても、その」
琥珀さんはサンタがいると信じているのか。
「二代目三代目のサンタがいてもおかしくないとは思いませんか?」
「……そういうもんなんだ」
「ええ。グリーンランド国際サンタクロース協会というのも存在しますし」
「そんなものあるの?」
「公認サンタクロースというのも存在するんです」
「そうなんだ……」
ただそれは物語にあるようなトナカイに乗ってプレゼントを配るサンタとはちょっと違う気がする。
「そもそも日本でサンタクロースを知らないという人間がどれだけいるでしょうか」
「確かに知らない人は少ないだろうけど」
「多くの人がその名前を知っている。つまり存在しているということです」
そういう問題じゃないと思う。
「その理屈だとゲームやアニメのキャラも実在する事になっちゃうよ」
「サンタクロースはきちんとした人物としてあるじゃないですか」
「小説の登場人物だってそうだって」
「……なるほど、志貴さんはどうしてもサンタさんの存在を否定したいようですね」
「え」
しまった、いつものノリで返してしまっていた。
サンタを信じる事は悪い事でもなんでもないのに。
「い、いや、いたらいいなとは思うけど」
「いいなではなく、いるんです」
「……むぅ」
実際問題、この遠野家には琥珀さんの為に毎年プレゼントを用意してくれる翡翠サンタさんがいるわけで。
そういう意味では確かに存在していると言える。
「そうだね。うん。俺が悪かった」
「わかってくださったようで嬉しいです」
「ははは……」
まあサンタ云々の話はこの辺にしてと。
「クリスマスってツリー飾ってケーキ食べて、後はサンタを待つだけじゃない?」
他になんかあったっけ?
「違いますよー。何度も言いますが、お祭りなんですから騒がないと損なんです」
「大貧民でもやる?」
「それはそれで捨てがたいですが。なんかこうロマンティックな雰囲気とかー」
「……それは祭りと正反対だと思う」
「どっちも楽しみたいんですよー」
まあ、こういう我侭だったら許してあげるべきなんだろうな。
「ちなみに別の意味で性なる夜って選択肢もありますが」
「い、いや、それはちょっと……」
確かにそそられるものはあるが。
「冗談ですよ。サンタさんに失礼じゃないですか。まったく」
「あはは……」
安心したような残念なような。
「さて。そろそろみんなで集合しましょうか。やっぱり大勢のほうが楽しいですもんね」
「あ、うん」
言われて立ち上がる俺。
「でも、それなら最初からみんなで集まればよかったのに」
そう呟くと聞こえてしまったのか、恥ずかしそうにはにかんでこんな事を言った。
「ですから、恋人同士っぽいクリスマスも楽しみたかったんですよ」
「あー……」
普通のカップルの場合イブにそれが普通なんだろうけど。
今回はまあ、サンタさんに権利を譲るべきだな。
「じゃあクリスマス明けにデートって事で」
「それは素敵なプレゼントですねー」
嬉しそうに笑う琥珀さん。
「さ、行きますよー」
ドアを開けて高らかに歌い出す。
今年のクリスマスは楽しくなりそうだ。
「まっかなあったっまっのー。あっきはさっまーはー。いっつもみんなのーわっらいものー」
「……その歌は秋葉の前では歌わないほうがいいと思うよ」
完