その日は突如不機嫌になってしまったアルクェイドとの追いかけっこで捜索が終わってしまうのであった。
「屋根裏部屋の姫君」
第七部
その21
「なあいい加減機嫌直せってば」
「……」
次の日、アルクェイドは屋根裏部屋に篭ったままであった。
「何が悪かったのかわからないけど……」
「……」
そう言うと不機嫌な顔をして降りてきた。
「志貴のそーいうところはキライ」
「ご、ごめんなさい」
思わず謝ってしまう俺。
まあ互いに不満を言いあえる関係ってのは悪くない。
「それと、別にただ機嫌を損ねたから降りてこなかったわけじゃないわよ」
「そうなのか?」
「ええ。レンに話を聞いてたの」
「あー」
そういえば手伝ってもらってたもんな。
「なんだっけ、ほら有彦?」
「有彦がどうかしたのか?」
まさかレンに襲いかかったとか?
あいつならやりかねんぞ。
「夜の街を歩いてたみたいなんだけど」
「なんだ。あいつはそういうのはしょっちゅうだよ」
むしろ最近は大人しすぎたくらいだ。
「いないと思ったら九州のほうに遊びに行ってたとかさ」
「別にそれはいいんだけどさ。今出歩かれるのは不味いんじゃないってこと」
「あー」
かといって「死徒とかいうのがうろついてるから夜の街を歩いちゃダメだぞ」なんて言えないし。
「変に説明すると逆に首突っ込んでくるぞアイツは」
「ふーん。ま、頭に入れておいたほうがいいと思うわよ」
「……そうだな」
また助ける事が出来なかったら……いや。
「志貴、怖い顔してる」
「ん」
言われて強張っている顔に気付き、にやっと笑ってみせる。
「まあ大丈夫だろ」
有彦の悪運度合いは異常だからな。
何かに取り憑かれてるんじゃないかって思うくらいだ。
「そうね。あっちはあっちで保護者いるから大丈夫でしょ」
「保護者?」
イチゴさんの事か?
「で、レンの話なんだけどちょっと気になる事があってね」
俺の聞きたい事と別の話が進んでしまった。
けど結局はそれを解決しないとどうしようもないんだから、このまま聞くべきだろう。
「なんだ?」
「行こうと思った場所と違う場所に行っちゃったっていうのよ」
「ん?」
「道を間違えたとか、そういうレベルじゃなくて。全然違う場所」
「ワープでもしたってのか?」
「んー。実際そうなってみないとわからないわね」
「それじゃ意味ないだろ……」
「変な力を持ってるってことはわかったじゃない?」
「……まあな」
どうやら俺が敵対する相手はまた物騒な力の持ち主のようだ。
「いざとなったら志貴がずばーっとやっちゃえば平気よ」
「だといいけど」
そんな都合よく話が進むかなあ。
今までなんとかなってきちゃってるからアレだけど。
「とりあえず今日はレンの向かったほうを調べてみましょ」
「だなぁ」
結局俺らが調べたところは何にもなかったわけだし。
「後は時間までどうやって暇つぶしするかだけど……」
「そうだな」
まだ夕方をちょっと過ぎたくらいだから結構時間はあるのだ。
「夜に備えて寝ておくってのもありよね」
「あー。うん。確かに」
これから何日徘徊するかわからないし、寝不足になりそうだもんなぁ。
「……じゃ、一緒に寝よっか?」
「ばか。それじゃ備えにならないだろ」
「えー。だってー」
口を尖らせ指を交差させているアルクェイド。
「……」
いや、そんな事している場合じゃないと思うんだけど。
確かに最近ご無沙汰……いや待て。
こいつの「一緒に寝る」は文字通りほんとに一緒に寝るだけだった気がする。
まあどのみち「まともに寝れない」という意味では変わりないけど。
「そういう事なら……」
と承諾しようとしたその時。
「志貴さん、アルクェイドさんいらっしゃいますかー」
「う」
割烹着の悪魔の声が聞こえてきた。
あの人タイミング狙って現われたんじゃないだろうな。
「秋葉さまがお呼びなんですがー」
「秋葉が?」
「何だろ?」
「さあ……」
秋葉はある意味琥珀さん以上に呼ばれる理由がわからないからなぁ。
9割説教なのでいい予感はしないのだが。
「ま、行くしかないだろ」
「そうね」
案の定というかなんというか、秋葉の話はお説教であった。
曰く、晩御飯に食べるために買わせておいたプリンがなくなっていたと。
もちろん犯人はアルクェイドである。
「えー。だって美味しそうだったんだもん」
「子供ですか、貴方はっ!」
プリンでムキになる秋葉も同レベルだと思うんだが。
「あそこのプリンは滅多に手に入らないんですよ!」
「そうですそうです。わたしが30分も並んで買ったんですよー?」
「悪かったわよ。今度何かで埋め合わせするから。なんなら同じ物を空想具現化する?」
「そーいうインチキ技は禁止」
というわけで明日の朝はそのプリンが売ってる店に並ばなくてはいけなくなってしまった。。
「面倒な事になっちゃったわね」
「おまえのせいだろ」
「それはそうだけどー」
ちなみに俺が「機嫌を損ねて降りてこない」と思っていた時間のほとんどは寝ていたらしい。
それで目が覚めた後、台所でプリンを以下略ということである。
その後、レンと話している間に俺が「なあいい加減〜」と話しかけたわけだ。
心配して損した。
「そんなわけでさっさと事件を片付けちゃいましょ」
まるで楽に出来てしまうような言い草である。
「志貴、捕まって」
「ん? おう」
と手を取った次の瞬間。
「うわー!」
俺の体は宙を舞っていた。
「ちょ、お、おまえ!」
「しゃべると舌噛むわよ?」
まるでマンガみたいな光景。
俺とアルクェイドが空を飛んでいる。
正確にはただのジャンプなんだろうが。
その滞空時間といい、距離といい……
やっぱりこいつはとんでもないやつなんだなぁ。
「よっと」
着地。
どう降りるんだと心配だったが、ふわりとマットに乗るような柔らかさに包まれて着地できた。
風を上手く使ったんだろうか。
「ここがレンの探してたあたりね」
「うーん」
ただの公園にしか見えないんだが。
「あ」
「どうした?」
「みーっけ」
「なんだって?」
尋ねている間にアルクェイドはさっきの調子でひょいひょい飛んでいってしまった。
「こら、待て!」
声をかけても届かない。
「……どうしろってんだよ」
取り残されたのは俺一人。
もういっそ帰って寝ちゃおうか……なんて事を考えてしまうのであった。
続く
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