「それにですね、志貴さん」
「……なに?」
「それがシエルさんの家じゃなくて秋葉さまの部屋のほうが怖くないですか?」

俺はその言葉を聞いた瞬間もう完全に逃げられない事を悟った。

「あ、それいいわねー。ねえ志貴、どうする?」

アルクェイドは満面の笑みを浮かべて尋ねてくるアルクェイド。

秋葉を盾にされては俺の選択肢はひとつしかないわけで。

「あーもう、好きにしてくれ」
 

俺はやけ気味に言い放つのであった。
 
 







「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その2









「はーい。志貴さんの快い承諾を頂けましたねー」
「いや、琥珀さんの陰謀にはめられたって感じだけど」
「陰謀だなんてそんな。策略だと言って下さい」
「……」

どっちにせよ大差無い気がする。

「じゃあ、早速行きましょうよ」

アルクェイドがそう言って俺の腕を引っ張った。

「こらこら。連絡もなしにいきなり行く気か?」
「連絡って何をするのよ」
「だから、これから遊びに行くって」
「志貴。それでシエルがはいどうぞなんて言うと思う? 門前払い食らうだけよ」
「む……」

それもそうか。

いい返事が期待できるわけがないのである。

「志貴さま。お土産を持っていけばいきなりの訪問でも構わないと思うのですが」

すると翡翠がそんなことを言った。

「お土産か。それが無難かもなあ」

なるだけいいものを持っていけば先輩も許してくれそうな気がしなくもない。

「おみやげ? わたしも欲しいな」

何を勘違いしてるんだか嬉しそうなアルクェイド。

「ばか。俺たちが先輩に持っていくんだよ」
「えー? なんでよ」
「いきなり遊びに行って手ぶらじゃ失礼だろ。先輩にだって先輩の都合があるんだしさ」

まあこいつに礼儀だの云々を要求するほうが難しいかもしれない。

そのへんの勉強がアルクェイドにはまだまだ必要なのである。

「むー……。じゃあ何を持っていくの?」

アルクェイドは一応先輩にお土産を持っていくことは承諾したようだった。

「え? そりゃ……」

なんだろう。

先輩といったらやはりカレーだが。

「シエルと言ったらカレーよね。カレー粉でも持っていったら喜ぶかしら」
「……」

いかん、アルクェイドと同レベルの発想をしてしまった。

「それは喜ばれるかもしれませんが……ケンカを売っているのかと取られかねませんねー」

苦笑している琥珀さん。

「うーん……」

だがむしろ快く出迎えてくれるんじゃないかと思う考えもあったりした。

つまりまあ、それくらい先輩はカレー好きということである。

「シエルさまは女性なのですから、やはりデザートの類が宜しいと思います」

そこへ翡翠の意見。

「そうなのか」
「はい」

よし、それは覚えておこう。

女性はデザートの類を喜ぶ、と。

「デザートなら駅前デパートのゼリーがオススメですねー。低カロリーで美味しいと人気のものです」
「なるほど」

低カロリーというのも女性には重要なポイントのようだ。

「そんなのどうでもいいじゃない。食べられれば」

だがこいつにはそんな気遣い必要なさそうだった。

アルクェイドは食事には無頓着なのである。

ただ以前好きなものを聞いたら「志貴の料理」と返って来てかなり照れくさかったことがあった。

「そんなことないですってー。ほんとに美味しいんですよ。一遍食べたら忘れられません」
「へえ。そんなに美味しいんだ」
「美味しいです。芸能人もご用達らしいですねー」
「ふーん……」

そこまで言われるとちょっと俺も食べてみたい気になってきた。

「じゃあ俺たちの分も一緒に買って、みんなで食べるってのがいいかもな」
「あ〜。それならわたしにもお土産で買ってきていただけると嬉しいんですが〜」

急に猫なで声を出す琥珀さん。

「姉さん。それなら秋葉さまのぶんも買ってきていただくべきだと思います」
「そうだね。秋葉さまも喜ぶと思うし」
「うーむ」

デザートというものはそんなに効果があるもんなんだろうか。

「まあとりあえず買っていくけど……いくらくらいするの? それ」
「あ、はい。だいたいですねー」

琥珀さんから値段を聞いて俺は仰天した。

「……そんなに高いの?」
「いえ、普通だと思いますが?」
「むしろ安価な部類に入ると思います」
「マジか……」

俺は財布を開いてみる。

「全然足らなさそうだねー」

アルクェイドがそれを覗き込んでそんなことを言った。

「誰のせいでこうなったと思ってるんだ……」

ほとんどの出費はアルクェイド絡みだというのに。

「志貴さん志貴さん」
「ん?」

財布の中身とにらめっこしていると琥珀さんが俺を呼んだ。

「お金なら出しますよ?」

そしてなんと一万円を差し出してくれた。

「い、いいの?」
「はい。トイチで利子がつきますけれど」
「……十日で一割?」
「いえ、十時間で一割です」
「姉さん。そのような事をしたら秋葉さまに報告いたしますが」

非難の目で琥珀さんを見ている翡翠。

「じょ、冗談だって。ええと、おつりだけ頂ければいいのでどうぞ」
「あ、うん。ありがとう」
「とほほ……」

琥珀さんはとても残念そうであった。

「こ、琥珀さん、本気じゃなかったよね?」

俺は苦笑して尋ねる。

「えー? それは、まあ、なんというかー」

なんとも歯切れの悪い返事である。

「……」

本当にこの一万円借りて大丈夫だろうか。

「志貴さま、なんの心配もなさらなくて結構ですから」
「う、うん」

まあ翡翠がいるから大丈夫だろう。

俺はとりあえず財布の中にそれを押し込んだ。

「それからこれがそのデパートとお店の場所、ゼリーの名前です」

翡翠がさらさらとメモを書いて渡してくれる。

「ありがとう。助かるよ」

それもついでに財布の中へ。

「いえ。それでその……」
「ん? なに?」

やや顔を赤らめている翡翠。

「その。わたしにも出来ればひとつお願いしたいのですが」
「な〜んだ。翡翠ちゃんだって食べたいんじゃないの〜」
「つ、ついでにです、ついでに……」
「……うーむ」

なんだかもうこれだけでデザートの魔力を垣間見た感じである。

「わかった。うん。じゃあ人数分ちゃんと買っておくよ。どんなのか楽しみだな」
「頼みますね〜」
「宜しくお願いします」
「むー」

ふと気付くとアルクェイドが顔をしかめていた。

「どうしたんだ?」
「ねえ志貴。わたしたちデザートを買いに行くんじゃなくて、シエルの家に遊びにいくのよ?」
「あ」
「う」
「……」
 

どうやら本末転倒になっていたようであった。
 

続く



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