さも当然のように俺が一緒のように扱われてもな。
「麻雀とかどうです?」
「二人でやってもな」
「脱衣ですよ。だ、つ、い」
「俺が素っ裸になるオチが見えてるから嫌だ」
「つれないですねぇ」
「俺はつれないんだ」
いつも俺が琥珀さんに従うと思うなよっ。
と言いながら毎度付き合ってるんだけど。
「ではたまには志貴さんから何か提案してくださいな」
「俺が?」
「はい。何か昔懐かしい遊びとかありましたら」
「……ふむ」
いつもと趣向が違って面白いかもしれない。
「じゃあさ、ブロックって知ってる?」
それは休み時間に流行った黒板を使う遊びである。
「休み時間に」
「こうやって線を引くんだよ」
「はぁ」
家に黒板があるわけがないのでノートでやることにした。
ノートの端っこのほうにまっすぐの線を引く。
「で、ブロックを書くんだ」
俺は青いペンでブロックを書いた。
「このブロックを交代で置いていくんだけどさ。タテヨコナナメ、4つ並べた時点で勝ちなんだ」
「シンプルですが難しそうですね」
「うん。ちなみに線の下にも置けるんだけど」
赤いペンで青ブロックの下にブロックを書く。
「上にブロックがないと下には置けないってルールがある」
「なるほど」
「やってみる? 琥珀さん青でいいから」
「ええ、じゃあ取り合えず」
「はーい」
交互にブロックを置いていく。
タテヨコナナメ。
これがまた揃いそうで揃わない。
「ここに置くと……」
「貰った!」
「え」
琥珀さんの一瞬の油断を突いて上にブロックを描く。
「ああっ?」
俺の赤ブロックがナナメに4つ並んでいた。
「負けちゃいましたねー」
「どう?」
「んー、面白いですが」
「ですが?」
「ギャラリー受けは悪そうですね」
「まあ、それは……」
そもそも誰かに見せるようなゲームじゃないもんなぁ。
「他に何かありません?」
「えーと似たようなゲームで……」
実はこのゲーム、ゲーム名を知らなかったりするのだが。
「こうやって棒を何本も書いて」
多分棒取りとかそんな感じの名前だろう。
「線を引いて消していくんだよ」
「なるほどなるほど」
「で、棒はヨコに並んでいるやつならいくらでも取れるんだけどタテは取れないんだ」
「はー」
「で、最後の一本を取ったほうが負け」
「負けなんですか?」
「勝ちじゃ簡単すぎるからね」
結構たくさん棒を書いてみたけど、実はあんまり意味がなかったりする。
「やってみて」
「はぁ」
琥珀さんは遠慮しがちに端っこの3本くらいに線を引いた。
「これでいいんですか?」
「うん」
次は俺の番だ。
「よっと」
「ええっ?」
俺はタテに4列あった棒のうち2番目の列の端から端まで一気に引いてしまう。
「そんなのありなんですか?」
「っていうか基本だね」
これで数を減らしてからが本当の勝負なのだ。
「ならわたしもー」
琥珀さんも俺の真似をして一気に線を引いていく。
違うのは、俺は一番端のひとつだけを残しておいたということだ。
「よっと」
もちろんこんな線の引き方をしてたらすぐに無くなってしまうので次からは少なめに引いておく。
「えーと……」
序盤の一気さと後半の慎重さのギャップが激しいゲームである。
「はい、どうぞ」
「うん」
一本一本と線が引かれていく。
「……ここを引いてと」
そして最後に俺の残しておいた棒が残る。
「負けちゃいましたね」
「まあ慣れてるからさ」
これに限った事じゃないけど、ある程度やり込むと必勝パターンが見えてくるからな。
「学校でこういう遊びをされていたんですか」
「休み時間は短いからね」
10分の中で遊べるちょっとしたものをみんなで考えていたものだ。
「こう両手をグーにして」
犯人が逮捕された時のようなポーズをしてみせる。
「親指が立てられるでしょ?」
「はい」
「いっせーので数字を言って、その数字が合ってたら腕を一本下ろせるんだ」
「二回勝てば勝ちってことですか?」
「そうなるね」
このゲームの名前もまた曖昧だったけど。
「なんか知らないけど0はタコって言わなきゃいけない決まりだった」
だからゲーム名も多分タコなんだろう。
「それは学校によって名前とか違いそうですねえ」
「だろうね」
地方によっても全然違うだろう。
「ってわけでやってみる?」
「はい」
お互いに指を向け合う。
「ああ、そういえば昔テレビでスマップが指スマって名前でやってたな」
「全国的なんですかねえ」
「かも」
俺たちはテレビで放映される前からその遊びを知っていた。
発祥は一体どこなんだろうな。
「ってわけで琥珀さんからいいよ」
「そうですか? じゃあ……」
親指を小刻みに動かしフェイクをかける俺。
「いっせーの、に!」
琥珀さんは親指を両方立てていた。
「ふ」
そして俺の親指も2本。
「駄目だったね」
「あー。難しいですねえ」
ちなみにこのゲームはあらかじめ自分のあげる指を決めて置く事である程度勝つ確立を上げる事が出来る。
例えば4なんて自分が2本あげて、勝つ相手が2本あげた時しか揃わないからな。
「いっせーの、に!」
1本の指をあげた俺。
「あ」
琥珀さんも左の指だけがあがっていた。
「これでまず一勝と」
左手を下げる俺。
「うー、いきなりピンチですね」
実はそうでもなかったりする。
俺は今まで0、1、2という3つの数字を出す事が出来た。
しかし左手が無くなった事で2を出す事は出来なくなったわけだ。
一方琥珀さんは3の数字を出せるまま。
俺が数字を合わせられる可能性のほうが低いのである。
「いっせーの、たこ!」
「う」
「あはっ。勝っちゃいましたね」
琥珀さんは指をあげておらず、俺も上げる事が出来なかった。
まあこれで確率は五分に戻ったわけだ。
というか、このゲームで確率どうこうとか考えるのは間違ってる。
直感で数字を言って、合ってたら勝ち。
その程度の大雑把さで十分なのだ。
「いっせーの、さん!」
「……?」
「だあ! しまった!」
などと無の境地に達すると状況的にあり得ない数字を言ってしまったりするので注意だ。
「わたしの番ですねー」
「くっ……」
これを失敗したら負けか。
俺が出せるのは0か1か。
単純な2択。
それだけに難しい。
ええい、ままよっ。
「いっせーの、たこっ!」
「……」
「……!」
「……負けた」
「あはっ、やっと勝ちました〜」
琥珀さんはものすごく嬉しそうな顔をしていた。
「ちぇ」
ほとんど運に左右されるゲームとはいえ悔しい。
確率? なんだっけそれ。
「今のゲームは面白かったですねえ」
「応用で指全部使うイカってのもあるんだよ」
「単純な名前ですねぇ」
「俺もそう思う」
とりあえずひとつ言える事はだ。
「悔しいからもう一回勝負だ」
「望むところですよー!」
というわけで俺たちは丸っきり学校の休み時間そのものな盛り上がりを楽しむのであった。
完