「よし遠野! 今日は体育の日だ!」
「もう過ぎてるよ」
「だが今日は体育祭だ! つまり体育の日だ!」
「……ああ、そうだな」

本日は晴天なり、絶好の運動会日和。

「そして体育祭と言えばッ!」

びしっと明後日の方向を指差す有彦。

「輝くふともも! 食いこむブルマ! まるで夢のようだ!」

大声でそんなことを騒ぐこいつを、オレは殴るべきなのだろうか。

「ジークブルマー! ハイルブルマー!」
「……」

ごんっ!

いい感じのスピードの野球ボールが有彦に直撃した。 

「……手が滑りました」

ナイスボール、秋葉。
 
 


「夢であるように」







「こんなことでやられてたまるかっ!」
「ちっ」

有彦は無駄に生命力が高かった。

「あのー、志貴さーん。競技を開始しますよー」
「……わかった」

なおこの体育祭の主犯……もとい主催者は琥珀さんである。

そんなわけでメンバーも時空を超越したんだかなんだかのはちゃめちゃメンバーだ。

「遠野っ! オマエには負けんぞっ!」
「はいはい」

チーム代表は俺と有彦。

俺のチームはおなじみ秋葉に翡翠、琥珀さんに先輩とアルクェイドだ。

有彦チームは弓塚にシオン、イチゴさんにななこちゃんとレン。

「……どうなる事やら」

メンバーがメンバーだけにろくなことが起きそうになかった。

「第一の競技、障害物競走ですっ!」
「いよっ! 待ってました!」

障害物競走とはコースに仕掛けられている障害物を攻略して以下略。

「うちのチームからは翡翠ちゃんを推薦しますっ!」
「じゃあこっちはさっちんだ!」
「さっちんって呼ばないでよぅ」

というわけで初戦は割と平和なメンバーのようだ。

「よーい、どんっ!」

だっ!

一斉に駆け出す。

「よっしゃ!」

何故か有彦も外から追いかけていた。

「何やってんだ……」

気になるので俺も後を追う。

「オマエも好きだなあ」
「なんの話だよ」
「ん」

有彦が指差した先。

「ぶっ!」

翡翠と弓塚が網の中でもがいていた。

四つんばいの姿勢で這うように進む姿。

揺れるブルマ。

「おお……」

なんてまばゆい光景だろうか。

「有彦」
「どうした」
「俺間違ってたよ!」

ブルマは素晴らしいっものだったんだ!

「いいってことさ」

がしっ!

手を握り合って友情を確認する。

「そんなことより追うぞっ!」
「応っ!」

ここに二人のバカが誕生した。

「はむっ……あむっ……ううんっ……」
「ちゅぱ……はぁ……んっ……あっ……」

飴玉を探して白い粉に舌を這わせる姿。

「んっ……!」

見つけてそれを飲み込む表情。

「えろいな」
「ああ」

さすがは琥珀さんが考えたイベントである。

っていうかこのために翡翠を出したとしか思えない。

「えいっ」
「やあっ!」

何故かマットで前転!

「き、きついよおっ……」
「……これは……あぅっ……」

狭いマットの間を進む謎の空間!

「ゴ、ゴールッ……」
「……はあっ」

もはや勝敗なんてどうでもよかった。

「二人とも満点だったさ!」
「素晴らしい走りだった!」

ガン!

ゴン!

「……真面目に運動会やろうな」
「ああ、そうだな」

戻ってきた俺たちには痛いゲンコツが待っていただけであった。
 
 

「遅いわよ!」
「ふふふ、わたしを甘くみないでくださいねーっ!」
「ウソッ、早いっ?」
「馬の蹄は伊達じゃないっ!」

やたらと白熱する100M走。

「ふ。この私が猫ごときに負けるわけがありません」
「……」
「ブルマ的にはレンの勝利だな」
「ロリだからなぁ」
「誰がまな板ですって!」
「そんな事言ってないからっ?」

同じ競技じゃんこれ50M走。

「ところでなんでイチゴさんは普段着なんだ?」
「見たいのか?」
「見たい」
「……わからん」

会話とは全く関係ないがスプーンレース。

「はぁ……」

琥珀さんは開始数歩で卵が割れてリタイアだった。

「ふ。ついにわたしの時代がやってきました!」
「あー先輩……」

これを言うのは非常に心苦しいのだが。

「カレーパンはないよ?」
「なっ……!」
「予測済みです」

シオンの勝利。

「ここからは団体戦でーす」

綱引き。

「えいっ!」
「うわあああああっ!」
「きゃああああっ!」

アルクェイド一人で十分だった。

「今度は挽回をしますよっ!」
「うふふふふふ。ついに反逆の時ですね……」
「セ、セブン! 飛ぶのは卑怯ですよ! ちょっと! ああっ!」

玉入れは向こうの圧勝。

「てか卑怯だろあれ!」
「さっきの綱引きだって似たようなもんじゃねえか!」
「……」

反論出来ないのが悲しい。

「本日の目玉ー!」

そしてやってきました二人三脚!

「わたしが志貴と組むー!」
「貴方では合わせるのは無理でしょう! わたしが!」
「兄さん、私ですよねっ!」
「志貴さん、当然わたしですよねー?」
「あ、あの、もし宜しければ……」
「あ、あはははは」

誰を選んでも後が怖そうなのは何故だろう。

「頑張ろうねシオンっ!」
「確実な勝利を約束します」

向こうは勝率を考えたコンビのようだった。

「……ちっ」
「ぶーたれてるんじゃないよ」

イチゴさんの差し金か……さすが侮れないな。

「先輩」

ここは俺も勝利を目指そう。

「はい。任せて下さいっ!」

この中では先輩が運動能力が高くかつ合わせる能力に長けている。

俺と先輩のコンビなら……
 

ずしゃあああああっ!
 

「ひ、ひきょうだぞ有彦……」
「バカめ、これは知略だ!」
 

有彦が食べていたカレーパンによってバランスを崩された俺たちはあえなく敗北するのであった。
 

「えー、色気シーンが足りないんでダンスでも入れたいんですがー」

琥珀さんはスマキにされた。

「ちょ、わたしがいないで誰が進行するんですかーっ!」

出て来たのはシオン。

「さて次の競技は借り物競争です」
「借り物競争か……」

地味に盛り上がるんだよな、あれ。

「俺が出るよ」
「ならオレが対抗だな!」

ついに有彦と勝負の時が来たようだ。

「逃げるなら今のうちだぞ」
「ほざいてろ」

スタート地点に立つ二人。

「よーい、どんっ!」

だっ!

スピードはほぼ同じ。

借りる物を探す速度で勝負が決まる!

「これだっ!」

地面に置かれた紙の一枚を選んで拾う。

『ツインテール』

「弓塚ああっ!」
「え、と、遠野くんっ?」
「行くぞっ!」
「あ……うんっ!」

弓塚の手を握って走り出す。

有彦はまだ手間取っているようだ。

この勝負貰った!

「はあっ……はあっ」

ゴールに向かって全力疾走。

「ゴールッ!」

そして弓塚と二人でゴールテープを切った。

「やったな弓塚!」
「う、うんっ! すっごい嬉しい!」

本来は敵チームの弓塚だが、俺との勝利を喜んでくれているようだった。

「……失格ですね」
「え」

しかしそんな俺たちに冷たく注がれる言葉。

「ど、どうしてシオンっ!」
「さつき」

びしっと弓塚を差すシオンさん。

「貴方の髪型は正確にはツインテールではありません」
「……っ!」
「そ、そうなのかっ!」
「……」

がくりとうなだれる弓塚。

なんてこった。

弓塚の髪型がツインテールじゃなかっただなんて……!

「はあっ……!」

そんな事をしている間に有彦が来てしまった。

「これでどうだっ!」

連れて来たのはレン。

「正解です」
「なんて書かれてたんだっ?」
「ロリブルマ」
「ぐっ……」

確かにレンそのものだ。

「で、でも年齢的にはレンは……!」
「志貴、それは禁句です」
「え」
「この場合のロリというのは見た目のことを意味します」
「ち、違うだろ、だって」
「……登場人物は全て18歳以上です」
「あ、ああっ……!」

なんだかわからない。

わからないけれど、その言葉には従わなければいけない気がした。

「俺の負けだ……」

だが有彦に負けたんじゃない。

なんだかよくわからないものに負けたんだ。

「これでオレたちの勝ちか?」
「いいえまだですっ!」
「……いつの間に」

琥珀さんが復活している。

「最後はリレーですよー!」
「ああ……」

競技としては基本である。

「負けんぞ遠野!」
「俺だって!」

アンカーは俺と有彦。

「そーれっ!」
「いっくよー!」

俺たちにバトンを渡すべく駆け抜ける少女たち。

「……」
「……」

互いに思うことはひとつ。

「揺れてるな……」
「ああ」

アルクェイドとイチゴさんの対決は目に見張るものがあった。

そんなこんなで。

「兄さんっ!」
「有彦さーんっ!」
「任せろっ!」
「勝つ!」

ほぼ同時にバトンを受け取った俺たち。

互いの意地をかけて。

今までの戦いを無駄にしないために。

全力で駆ける。

そして。

「あと少しよ志貴っ!」
「乾くん頑張ってー!」

ゴールまであと僅か!

「勝つ!」
「やらせんっ!」

抜きつ抜かれつのデッドヒート。

もはやどっちが勝ったっておかしくはない。

「あっ!」

ところが。

最後の最後で俺は大ポカをやらかした。

足をすべらせたのだ。

「なっ……!」

ガッ!

しかし!

オレの体は有彦にに触れ、有彦もバランスを崩していた。

「お、おまえっ……!」

倒れる有彦。

オレに文句を言おうとこちらに顔を向け。

「……!」

顔が。

俺の顔の間近に。

いや、待て、これは。

この位置、この角度、おい。

嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。

この運動会の幸せな思い出が、全部消えてしまう……!
 

「いやだあああああああっ!」
 

どうかしてる、本当にどうかしてる。
 
 

まさか、最後の最後が有彦とのキスシ―――――
 
 
 
 
 
 




あとがき
夢であるように……瞳を閉じて何度も願ったよ。
これが現実なのかそうでないのかは想像にオマカセしますw
志貴としては永遠に忘れたい記憶でしょうがww
その後の有彦の行方は誰も知らない。


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