「ねーねー志貴」
「ん?」

特にする事もなくまったりしているとアルクェイドが声をかけてきた。

「何かして遊ばない?」
「んー」

ゲームをやるとしたら琥珀さんの部屋に行かなきゃならない。

「トランプ……ってのも芸がないし」
「花札とか」
「お。いいね」

しかし手元にはなかった。

「……っていうかおまえの口から花札って単語が出てくるとは思わなかった」

あれは思いっきり日本産の遊びだと思うんだが。

「日本の事なら大体知ってるもの。カルタにメンコ、ベーゴマ」
「いつの時代なんだよそれは」

やっぱりこいつはどこかずれてる気がする。

「あ。じゃあかくれんぼっ!」
「……二人でやったってしょうがないだろう」

これが迂闊な発言だった。
 
 






「アルクェイドと遊ぼう」







「というわけで『だるまさんがころんだ』をすることになりました」
「……しかもゲーム変わってるし」

じゃあメンバーを集めればいいんでしょとアルクェイドが呼んで来たのは琥珀さんだった。

そうなると後はもう芋蔓式だ。

あっという間にいつものメンバーの集合である。

「ねえ琥珀。それってどんなルールだったかしら」

秋葉が尋ねた。

「はい。鬼がだるまさんがころんだと言っている間に近づいていき、鬼に触る事が出来たら勝ちなんです」
「で、言葉が終わって鬼が振り返った時には止まってないといけないんだよ」
「そう。動いてたら鬼に捕まっちゃうんですよー」
「へえ。面白そうじゃない」

にこりと笑うアルクェイド。

「あの、宜しいでしょうか」

翡翠が遠慮しがちに手をあげていた。

「なに?」
「わたしたちはともかく、アルクェイドさまやシエルさまは一瞬で鬼に近づけてしまうのでは……」
「……あ」

言われてみれば確かに。

「ゲームになりそうもありませんね」
「えー? なんでよー。やってみないとわからないじゃないのよ」

むくれた顔のアルクェイド。

「そうですよ。試しにやってみてもいいんじゃありませんか?」

何故か笑顔のシエル先輩。

「そうそう。ほら、わたしが鬼やったげるから」
「……そこまで言うならまあ」
「仕方ないですかねー」

そんなわけで場所を移動。

「ハンデとしてシエル先輩は走る事を禁止します」
「うわ。結構厳しいですね」
「そうじゃないとゲームにならないですから」

それこそ言った通りの展開になってしまうだろう。

「わかりました。そのハンデを乗り越えて勝ってみせましょう」

先輩は逆境にめげない人だった。

「みんなー。準備はいいー?」

遠くのほうのでかい木の手前で手を振っているアルクェイド。

「いつでもいいぞー」
「わかったー」

俺の声を聞いて後ろを向いた。

「だ・る……」
「よし……」

まずは様子見だろう。

俺はゆっくりと歩き始めた。

「甘いですね兄さん!」
「秋葉?」
「ま」

一方ものすごいスピードで走りだしたのは秋葉だ。

「こういうのは先手必勝なんですよ!」
「さんが……」
「張り切ってますねー秋葉さま」

琥珀さんは翡翠と一緒にのんびり歩いていた。

「転んだ!」

ぴたっ。

全員が時間の止まったかのように動かなくなる。

「……」

先行していた秋葉も平然とした様子で立っていた。

「あれ?」

そういえばシエル先輩はどこに行ったんだろう。

振り返れないからわからないけど、俺より後ろにいるってのは考えづらいのだが。

「あれ?」

アルクェイドも先輩がいないことに気付いたようだ。

「……ま、いっか」

まだ安全と判断したのか、再び後ろを向いて唱えだす。

「だーるまさんが」
「む」

今回は早い。

距離を稼ぐのは諦めバランスを崩さないようにしたほうがいいだろう。

「こ」
「……」

一歩。

「……」

次が来ない。

「くっ……!」

先を進む秋葉の動きが見るからにイライラしてるって感じだった。

「ろー」

進むべきなのか?

いや、これは罠だ。

「んっ!」
「!」

全員の動きが止まる。

「……ふ、ふふふ」

つんのめりそうな体勢だというのに秋葉は絶妙のバランス加減で静止していた。

「さすがは秋葉さま……」

琥珀さんの感嘆を漏らす声が聞こえた。

「だー」
「っ!」

緊迫感を失うようなやる気のない声。

俺は思わずずっこけそうになってしまった。

「きゃ、きゃあああああっ!」

びたん。

「あー。妹うごいたー」
「……ふ、不覚っ……!」

予想通りと言うかなんというか、最初の犠牲者は秋葉だった。

「おやおや秋葉さんがやられてしまいましたか」
「先輩?」

どこからともなく先輩の声が聞こえた。

しかし姿は見えない。

「上ですよ、上」
「上……?」

秋葉がアルクェイドのところに移動するまではゲームの時間としてはカウントされない。

それでも一応目線だけを動かして上を見てみた。

「白」

ざしゅっ!

「……」

動けない俺の真横に尖った枝が突き刺さっていた。

「何か見えました?」
「いえ何も」

なんて恐ろしい。

背筋には汗がだらだらと流れていた。

「続き行くわよー」
「あ、うん」

不満そうにアルクェイドの隣に座る秋葉の姿がなんだか妙に可愛くみえる。

「だーるま」

ひょいっ。

「……ああ」

しまった。ジャンプも禁止するべきだったのだ。

シエル先輩は木の上をひょいひょいと飛んで先へ進んでいた。

あれじゃ多少動いたって発見は難しい。

しかも移動距離は走るよりもかなり稼げてしまう。

「さんが……」

アルクェイドはシエル先輩の存在に気付いているんだろうか。

「ころんだっ!」
「うわっ」

もはやアルクェイドは先輩の射程圏内である。

「……あ。カレーのサービス券発見」
「!」

いやいくらなんでもそんなつまらない罠に先輩がひっかるわけがないだろう。

「……」

しかし先輩の隠れているだろう木がわずかに揺れていた。

「っていうか今日メシアンの大盛り無料デーだったわよね」
「あ、あああああああっ!」
「……あーあ」

先輩の叫び声が聞こえてしまった。

「はーい、シエルはっけーん」
「わ、わたしはこんな事をしている場合じゃないんです! 今すぐ行かないと!」
「ダメよまだゲームは終わってないもの」

どうやらメシアン大盛りデーというのは本当らしい。

「……く……うううう」

なんとも悔しそうな声をあげながら落下していくシエル先輩。

「みなさん! もうとっとと捕まっちゃって下さいっ!」
「……あはははは」

敵に回すととても恐ろしい人だった。

「じゃ、次行くわよ次ー」
「志貴さん。まずいですよこれ?」

琥珀さんが何故だか困った顔をしていた。

「何が?」
「いや、もうそろ決着をつけないと続いちゃう予感が……」
「は?」

言いたい事がよくわからなかった。

「後半の盛り上がりに期待です」
「……?」

翡翠はなんだかよくわからないけど燃えているみたいだし。

「だーるまさんが……」

まあいいや。気にしないでゲームを続ける事にしよう。

「ころんだ!」
 

続く



あとがき
さてこのあとの展開は。
1 SPIIはこの後の展開を面白くするアイディアをひらめく
2 レンと都古登場。ロリロリになる。
3 何も起こらない。現実は非情である。

さぁどれだ(ぉ



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