「な……ア、アルクェイドさん、どうしてここに?」
「志貴を助けに行くんでしょ? 手伝わせてもらうわ」
「……勝手にしてくださいっ!」

私はそう叫んで歩き出した。

「ちょっと待ってよ妹ー。せっかくなんだから一緒に行こうよー」
「誰があなたなんかとっ……」

話は一時間ほど前に遡る。
 
 

「ダウンタウン月姫物語」
プロローグ






「あ、秋葉さまっ!」

翡翠が私の部屋に慌てて入ってきた。

「……どうしたのよ翡翠。そんなに慌てて」

あの翡翠が慌てふためくなんてよほどの事態なのだろう。

けれど当主という立場上、私はあくまで平静を装っていた。

「し……志貴さまが……志貴さまがっ!」
「兄さんがどうしたのよ?」
「志貴さまが……さらわれましたっ!」
「な、なんですってっ!」

しかし翡翠の言葉に思わず叫び声をあげてしまう。

「……こ、こほん」

私とした事がはしたない。

「どういうことなのか説明して頂戴」
「は、はい……わたしと志貴さまで買い物に出かけていたのはご存知ですよね」
「ええ、食材の買出しよね」

普段は琥珀が主に食材の買出しを担当しているのだけれど、今日は兄さんが自分から行きたいと申し出てきたのだ。

「たまには家の手伝いもしたいからさ」

というのが兄さんの主張だったのだけれど、どうにも怪しいので翡翠という監視役をつけさせたのだ。

そんな兄さんがまさか誘拐されただなんて。

たまにらしくない事するからいけないんです、まったく。

「帰り道に、背丈の大きい人たちに囲まれてしまったんです。怖い顔の……不良という方たちでしょうか」
「不良……」

私にはイメージの沸かない人たちだ。

話の筋から察するに悪役なのだろうけど。

学ランにリーゼントとかいうあれだろうか。

「その人たちがわたしに絡んできたんです。『よお姉ちゃん、コスプレかい?』と」
「コスプレ……何の事かしら」

これもまたよくわからない。

なんとなく瀬尾辺りなら知ってそうな単語だけど。

「わたしはとにかく怖くて……志貴さまの後ろに隠れたんです。そうしたら今度は志貴さまが絡まれてしまって……」

話ながら震えている翡翠。

余程怖かったのだろう。

「ケンカにでもなったの?」
「い、いえ、わたしは志貴さまに逃げろと言われ……すぐにその場を離れたんです」
「……それでどうして兄さんがさらわれたと言えるのよ」
「は、はい。その後暫くしてその場所に戻ると……置き手紙がありまして」

そう言ってスカートのポケットから手紙を差し出す。

「見せて」

そこには汚い字でこう書かれていた。

『遠野志貴は預かった。返して欲しければ遠野秋葉一人だけで冷峰学園まで来い』

「冷峰学園……」

その名前には聞き覚えがあった。

遠野グループと肩を並べる巨大グループ藤堂家のお坊ちゃんが生徒会長をやっているとかいう学園だ。

昔、そのお坊ちゃんとのお見合いがあったけれど私は当然のように断った。

確か見合いが始まって五分くらいだったと思う。

「申し訳ありません。あなたは私のタイプではありませんので」

私の心には既に決めた相手がいたのだからしょうがない。

「まさかその時の事を逆恨みしてとか……」

確かボロ泣きしてたのよね、そのお坊ちゃん。

藤堂護とか言ったっけ。

「秋葉さま、何か心当たりがあるのですか?」
「あ、え、うん、ちょっと」

まさかとは思うけれど否定も出来なかった。

今更だけど罪悪感を感じちゃったし。

「……と、とにかく。向こうが私を指定してきたのであれば行くしかないでしょう」
「そ、そんな」
「私たちの名前を知っているという事は計画的は犯行だったみたいだし」

正確な理由はわからないけどとにかく兄さんが危険な状態なのは間違いないのだ。

まったく兄さんときたら、だらしない。

「危険です! 何があるかわからないのですよっ?」
「大丈夫よ。私もただやられるほどヤワじゃないわ」

そう言って私は髪の毛をかき上げた。

私には戦う力がある。

「不良の一人や二人私の檻髪でやっつけてあげるわよ」

私の檻髪で兄さんを助け出すのだ。

苦闘の末、兄と妹の感動の再会。

「……立場は逆だけどちょっといいかもね」

兄さんは私に感謝してくれるだろう。

評価も大幅アップするに違いない。

「危険です、そんな……」
「大丈夫よ。それで翡翠。この事は誰にも知らせないようにね。……特に琥珀には」

琥珀になんて知られたらややこしい事になってしまう。

「で、ですが」
「心配しないで。すぐ戻るから」
「……はい」

渋々ながら頷く翡翠。

「ですが、ヘルパーを呼ばせて頂きます。いくらなんでも秋葉さまだけでは心配です」
「……この手紙には私一人で来いと書いてあるじゃない」
「ええ、ですからその方はたまたま秋葉さまと同じ方向へ行くだけです」
「……」

こうなった翡翠は琥珀よりも兄さんよりも強情だ。

「……わかったわよ。何でも呼んで頂戴」

思えばこれが私の失敗だったのだ。

「かしこまりました。すぐに手配します。秋葉さまは正門前でお待ちください」
「期待しないで待ってるわ」
 
 
 
 

そして来たのが。

「な……ア、アルクェイドさん、どうしてここに?」

シエル先輩曰くのあーぱー吸血鬼だったわけ。

「志貴を助けに行くんでしょ? 手伝わせてもらうわ」

当たり前じゃないという顔をしているアルクェイドさん。

翡翠もどうしてよりにもよってこんな人を選んだんだろう。

そりゃ、戦闘向きだっていうのは納得するけど。
 

「……勝手にしてください!」
「ちょっと待ってよ妹ー。せっかくなんだから一緒に行こうよー」
「誰があなたなんかとっ……」

でもちょっと待って。

不良との戦いではアクシデントもつきものよね。

敵を攻撃するフリをしてアルクェイドさんを狙う……とか。

アルクェイドは志貴を助けるため。

秋葉は志貴を助けつつアルクェイドを亡き者にするため。

悪の源冷峰学園へと歩き出した……
 

胸に秘めたそれぞれの目的だけが二人を繋ぐ……
 

「ふふ、ふふふ」
「何がおかしいの? 妹」
「いえいえなんでもありませんよ」
 

熱き戦いが始まる……
 
 

続く



あとがき
元ネタは知る人ぞ知る熱血硬派ですw
まあ有名な話ではありますが。
昔格ツクで作ってた「月姫物語」のストーリーバージョンとなります。
はちゃめちゃ格闘もの(?)っぽい感じになると思いますが
宜しければお付き合いくださいませー

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