秋葉は志貴を助けつつアルクェイドを亡き者にするため。
悪の源冷峰学園へと歩き出した……
胸に秘めたそれぞれの目的だけが二人を繋ぐ……
「ふふ、ふふふ」
「何がおかしいの? 妹」
「いえいえなんでもありませんよ」
熱き戦いが始まる……
「ダウンタウン月姫物語」
その2
「さてと」
私はまず隣の花園町まで来ていた。
隣と言っても花園町は徒歩で十分程度で行ける距離なのだけれど。
やはり町がひとつ違うと若干雰囲気が違うものだ。
「ねー妹」
アルクェイドさんは私の後ろをうろちょろしながらついてきていた。
「……その呼び方は止めてください。私は兄さんの妹であってアルクェイドさんの妹ではないのですから」
いえ、そもそも妹を妹という一人称(?)で呼ぶ事がおかしい。
「えー? 妹を妹以外になんて呼べばいいのよ」
「普通に名前で呼べばいいでしょう」
「……妹の名前って何だっけ? アキバ?」
「秋葉! あ、き、は、ですっ! 二度と間違えないで下さいっ!」
濁点ひとつで人に与える印象が思いっきり変わってしまうじゃないですかっ。
「あなたの近所の秋葉原?」
「原もいりませんっ!」
「面倒ね。やっぱり妹でいいわよ」
「……」
ああもう、こんなところで低レベルな争いをしている場合ではないのです。
「それで何の用ですか」
私はさっさと話を進めることにした。
「うん。冷峰とか言ったっけ。そこって遠いの?」
「そうですね。町を二つ三つ越えますから遠いと言えば遠いですが。徒歩で行ける距離ですよ」
「へぇ。なんだかピクニックみたいね」
そう言ってにこりと笑うアルクェイドさん。
「貴方ねえ、もう少し事の重大さを分かってもらえますか? 兄さんは誘拐されたんですよ?」
「大丈夫よ。志貴強いから。そのへんの高校生に負けるわけないもん」
「……」
一体全体、あの駄目朴念仁の兄さんのどこをどう見たら強いと言えるんでしょうか。
「兄さんが持ってるのはしぶとさだけですよ。そもそも喧嘩に強いなら誘拐なんてされないでしょう」
「んー。何か卑怯な手を使われたんじゃない?」
「そんな事をしなくても兄さんごときすぐに倒せそうですが」
「わかってないなぁ、妹」
「どっちがですか」
やはりこの人とは相容れないようです。
その能天気な顔もやたら無意味にでかい胸も気に入らないんですよっ。
「もういいです。行きますよ」
私は再び歩き出しました。
「あ、ちょっとー」
工事現場の脇を通り、曲がり角を通ろうとした矢先。
「ちょっと待ちな!」
目の前に見知らぬ学生が現れた。
「……どなたです?」
「うわ、見るからにかませ犬っぽい人ね」
「そういう事は心で思っていても口にしないものですよ」
「て、てめえらなめてんじゃねえぞっ!」
だんと強く足踏みをする男。
ふん、そんな威嚇でこの遠野秋葉が動揺するとでも思っているんですかね。
「……で、あなたは私たちに何のようですか」
「おまえらのようなやつを通すなと西村さんに言われている。黙って見過ごすわけにゃあいかないぜ!」
「誰ですかそれは。そんな方に知り合いはいないんですけれど」
「あ、ほら。あれよ。冷峰学園の刺客みたいなやつ。鉄砲玉ねっ!」
思いっきり学生の顔を指差してそんな事を言うアルクェイドさん。
「バ、バカにしやがって……」
「ほら、怒らせてしまったじゃないですか」
「ん? あれ? ごめんね? ホントの事言っちゃって」
この人本気で言ってるんでしょうか、それともわざと言ってるんでしょうか。
「どっくーんと言わせてやるぜー!」
アルクエィドさんへ殴りかかる男。
「やる気?」
構えるアルクェイドさん。
しかし。
「アダ、アダダダダダ!」
次の瞬間、男の腕は何者かに押さえられていた。
「おいおい女性に手を挙げるたぁ感心しねぇなぁ」
「……乾さん?」
そこに立っていたのは兄さんの悪友、乾さんだった。
「おう乾さんだ。秋葉ちゃん、元気かい?」
「え、ええまあ元気ですけれど」
「そうか。そりゃよかった」
男の腕を押さえつけながら平然と話を続ける乾さん。
「な、なんだおまえ……何者だっ!」
「オレの名前は乾有彦。テメエも不良やってんなら聞いた事くらいあるだろう」
「なっ……あの赤き流星の一番弟子かっ?」
ゴスッ!
地面にひれ伏す男。
「誰が一番弟子だ。姉貴は姉貴で関係ないっつーの」
どうやら赤き彗星とは乾さんのお姉さんの事らしい。
一体どんな人なんだろう。
「つ、つよすぎる……しく、しく、しく」
男は白目を向いていた。
結局名前も正体もわからずじまいである。
「あなた確か志貴の知り合いよね? どうしてここに?」
アルクェイドさんが乾さんに尋ねる。
「いや、ちょいと花園高校の知り合いに用がありまして」
「花園高校」
花園高校は名前の通り花園町にある高校だ。
スポーツで有名なのだけれど、不良だらけの学校としても有名だったりする。
「……あ、いや、誤解しないでくれ。そんなよからぬ連中と付き合ってるわけじゃないからさ」
苦笑する乾さん。
「あ、いえ、そんな」
「秋葉ちゃんたちこそ、どうして襲われてたんだ?」
「そいつ、冷峰学園の鉄砲玉なのよ」
「……冷峰? いや、こいつ白鷹工業の制服着てますけど?」
アルクェイドさんの言葉に乾さんは首を傾げていた。
「うわ、また新しい高校が出てきた」
「この周辺には高校が多いんですよ」
熱血高校、花園高校、白鷹工業高校、宝陵高校、谷花高校エトセトラセトセトラ。
「ややこしいわね。みんなひとつにしちゃえばいいのに」
「それぞれの校風やレベルがありますからね。そういうわけにはいきませんよ」
内部抗争などで揉めている高校もあるらしいけれど、私たちの通っている高校は平和そのものである。
「むー。以前、冷峰の生徒会長が周囲の高校を支配して手足のように使ってたって事件があったらしいけど」
「そんな事件があったんですか……」
「なんでも生徒会長の復讐のためだったらしい。それの再来なのかもな」
「……」
とすると、今回のこれも同じパターンの可能性は高い。
「秋葉ちゃん、もしかして何か事件に巻き込まれてるのか?」
「そうなの……もがっ!」
私は慌ててアルクェイドさんの口を押さえつけた。
「い、いえ、なんでもありませんよ。今のはそう……ナンパ! ナンパに遭ってて困っていたんです!」
「え? 冷峰の鉄砲玉とかなんとかってのは」
「アルクェイドさんのジョークですよっ。嫌ですよもう乾さんってば」
乾さんの肩を指で撫で回す。
よく琥珀が兄さんにやってだらしない顔をさせている技だ。
「え? あ、なんだ、そうなのか。はは、ははは」
見事ひっかかってくれる乾さん。
男の人ってどうしてこう単純なんでしょう。
「ではごきげんよう」
「おう。ごきげんようっ」
乾さんは笑いながら去っていった。
「はぁ。何なのよ妹」
むくれているアルクェイドさん。
「あまり大所帯で行くと行動を悟られますから」
「そういうもんなのかなぁ」
「……これから先、厄介な旅になりそうですね」
おそらくまた冷峰学園からの刺客は現れるのだろう。
楽な旅ではなさそうだ。
「えー? 敵が襲ってきたほうが楽しくていいじゃない。冒険活劇?」
「はぁ……」
ああ、私もこの人みたいにバカになりたい。
続く
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