この人まで冷峰の味方だというのですか?
「ずいぶんな小細工してくれたじゃないの」
ぎろりとその人を睨み付けるアルクェイドさん。
けれど彼女はそれを意にも介さないように笑っていた。
「ふっ。わたしが冷峰四天王のヘッド、シエルです」
「ダウンタウン月姫物語」
その12
「……シエル」
「驚いているようですね」
睨みあうアルクェイドとシエル先輩。
それはそうでしょう。この二人はライバルなのです。
先ほどのアルクェイドさんの険しい表情はシエル先輩の存在に気付いたからだったんですね。
「埋葬機関の人間が情けないわよっ! カレーに買収されるだなんてっ!」
ずべしゃあっ!
シエル先輩は勢いよくひっくり返っていた。
「そ、そんな訳ないでしょうっ! そんな下らない理由で式神まで使うはずないじゃないですかっ!」
「……む。違うの?」
ああもう、一瞬でシリアスなシーンが台無しです。
「式神とは一体?」
「単純な動きの出来る人形みたいなものです。素材は紙なんですけれど、わたしレベルになるとなかなか強力なのが作れちゃったりします」
えへんと胸を張るシエル先輩。
「ではもしかしてさっき入り口で襲ってきた男子生徒は……」
「ええ。式神ですよ。まさか普通の学生さんをアルクェイドと戦わせるわけいかないでしょう?」
確かにアルクェイドさんが本気を出したら大抵の人間では相手にならないだろう。
一子さんとの戦いの時は攻撃力を加減していたけど遠慮はしていなかった……みたいな感じだったし。
「さっきのあのネロ造とかロア助とかふざけた名前のやつらもそうだったのね?」
「ええ。せっかくですからゲストとして作っちゃいました。さすがに強さは再現出来ませんでしたけれど」
「ロア助の性格の悪さは完璧でしたね」
「……あれは自分で作っててちょっと不愉快でした」
苦笑するシエル先輩。
だったらもっとマシなのを作ればよかったと思うのだけれど。
「……結局あいつらにおびき寄せられちゃった形よね。ちぇ。もっと早く気付けばシエルの出番をなくせたのに」
「ヘッドの出番がなくちゃ困ってしまいますね」
それにしてもなんなんでしょう、この二人のほのぼの感は。
最初はあんなに緊迫していたというのに。
「そう。冷峰四天王ヘッドとか言ったわね。なら他のヤツよりも事情に詳しいわけ?」
「まあ……一応はそのつもりですけど」
「なら、詳しく聞かせてもらいましょうかね」
構えるアルクェイドさん。
「秋葉さん、離れていないと巻き添えを食らいますよ」
「え、あ、は、はい……」
さすがの私でもこの二人の戦いに割り込むつもりはありません。
大人しく見学しているとしましょう。
「あれ? 黒鍵は使わないの?」
「ええ。今日は素手でやらせてもらいますよ」
「……何かの作戦?」
「さあ、来なさい。わたしがあなたを地獄へ連れて行ってあげましょう」
「上等っ!」
ばしいっ!
アルクェイドさんとシエルさんの拳がぶつかり合う。
「いっくわよー! ニトロアタック!」
気に入ったのか、一子さんの使っていた技をまたも使うアルクェイドさん。
「ふ」
シエルさんが軽く左へ避けてそれを避ける。
「……え?」
シエルさんの真後ろには、巨大な穴が開いていた。
「ちょ、ちょっとちょっとちょっとちょっとおおおぉぉぉぉぉ……!」
アルクェイドさんの声がだんだん遠ざかっていく。
ちゅどーん!
そしてものすごい号音が響いた。
「……死んだんじゃないですか?」
「大丈夫ですよ、アルクェイドですから」
「ま、まあそれはそうなんですけど……」
どうやらニトロアタックという技は一子さんだからこそ使いこなせた技で、アルクェイドさんには不向きのようです。
「……いったあああい! よくもやったわねえっ!」
暫くした後、穴から勢いよく飛び出て来るアルクェイドさん。
「ほら」
「よい子の皆さんは真似しないで下さいねとナレーションを入れるべきですね」
まあ誰も真似しないでしょうけれど。
「あなたが勝手に自滅しただけではないですか」
「う」
顔をしかめるアルクェイドさん。
「ここは巨大な穴が開いている場所です。いつものような機敏な動きは出来ませんよっ!」
「そ、それはあなただって同じじゃないの!」
確かにこの場所ではやれる事は少なくなってしまいそうです。
「ちっちっち。この場所だからこそ出来る事というのがあるのですよ」
そう言ってアルクェイドさんにキックを放つシエルさん。
「なによそんな攻撃」
横に避けようとしましたが、そこには例の巨大な穴が。
「……くっ」
渋い顔をしながらバックステップ。
「逃がしません」
シエルさんは右ストレートを放ちながらそれを追いかける。
「甘いっ!」
その拳を狙いすましたように蹴り上げるアルクェイドさん。
「うわっ……っと」
シエルさんの体が派手に宙を浮いた。
動きに逆らう事なく回転し、ふわりと着地。
「……ちぇ」
「まだまだですっ」
お互いに間合いを取ろうと左右に動き回る。
「ぬ……くっ……」
しかし例の巨大な穴が邪魔をし、アルクェイドさんは思うように動けないようであった。
「追い詰めましたよ」
そしてついに壁際に追い詰められてしまうアルクェイドさん。
「ふんだ。壁際がどうしたっていうのよっ。こんなもの逆境にもならないわっ」
「ふふふ。冷峰四天王のヘッドであるこのわたしにそんなセリフを言いますか」
さっと両手を開いて顔の横へ構えるシエルさん。
「受けてみなさいこの技をっ!」
「え……っ?」
しびびびびびっ!
「……痛っ、いたあっ!」
一瞬何が起きたのかわかりませんでした。
「さすがにしつこいですね。ですが!」
しびびびびっ!
「痛い、痛いっ!」
シエル先輩の放っているのは超高速のチョップ攻撃。
「まっはちょっぷからは逃げられませんよ!」
「……っ!」
ついに耐え切れなくなったのか、ダウンしてしまうアルクェイドさん。
「まだまだっ!」
しかしチョップのダメージはさほど高くないようで、すぐに立ち上がってみせた。
「無駄ですよ! この画面端でっ! あなたは小林ハメにはまってしまったのです!」
「こ、小林ハメ?」
しびびびびびびびっ!
「っあ……」
ばたん。
「この!」
しびびびびびっ!
ばたん。
「や、やったわねえっ!」
しびびびびびびっ!
ばたん。
「……か、完璧にハメられてる……」
小林という名前の意味はわかりませんが、これはどうやら本当に脱出不能の技のようです。
「こ、この……調子に乗らないでよっ……!」
果たしてアルクェイドさんはこの状況を打破できるのでしょうか?
「まあ、出来なくても私一人で兄さんを助けに行けばいいんですが」
むしろ私がこの勝負観戦していなくてもいい気がしてきました。
さて、どうしましょうか……?
続く
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