小林という名前の意味はわかりませんが、これはどうやら本当に脱出不能の技のようです。
「こ、この……調子に乗らないでよっ……!」
果たしてアルクェイドさんはこの状況を打破できるのでしょうか?
「まあ、出来なくても私一人で兄さんを助けに行けばいいんですが」
むしろ私がこの勝負観戦していなくてもいい気がしてきました。
さて、どうしましょうか……?
「ダウンタウン月姫物語」
その13
しびびびびっ。
ばたん。
しびびびびっ。
ばたん。
「まるで同じビデオを再生しているような展開ですね……」
倒され、起き上がり、また倒され。
ひたすらその繰り返し。
「ま、まだまだ……」
「……し、しつこいですよあなた」
なんだか攻撃をしているほうのシエル先輩が辛そうな感じです。
「しつこいのはシエルでしょ。ちょっとは別の攻撃もしてみなさいよ」
「ハメを解除した瞬間ハメ返される可能性があるので却下ですね」
「むぅ……」
どうやらこの勝負、先に音をあげたほうが負けになりそうです。
ですが。
「……あの、先輩。アルクェイドさん相手にそんな地味な体力の削り方じゃキリがないと思うんですが」
例えて言うならば巨大な木をカッターナイフか何かで真っ二つにしようとしているような、そんな無謀な挑戦です。
体力勝負じゃシエルさんに勝ち目はないでしょう。
「チリも積もれば山となります。一晩だろうが二晩だろうが続けてあげますよ」
「うわ、滅茶苦茶地味っ!」
「やられてるくせに何を言いますかっ!」
ばたん。
「……はぁ、はぁ」
肩で息をしているシエルさん。
「そんなんじゃもう限界なんじゃない?」
「な、なにを……まだまだです」
ふと気付くと、最初あれだけ高速だったチョップが、一挙一動が認識出来るようなスピードになっていました。
「限界みたいねっ」
シエルさんのチョップを受け止めるアルクェイドさん。
「反撃いくわよ〜っ!」
「ぬう」
そしてそこからアルクェイドさんの反撃が始まった。
「まっはぱーんち! まっはきーっく! ばくだんぱーんち!」
今までやられた鬱憤を晴らすかのような必殺技の連打。
「っ! まだまだっ!」
しかし腐ってもシエルさん、全ての攻撃を紙一重で受け流しています。
「ぬう……これならどう! 前田きーっく! 前田きーっく!」
シエルさんの左右を飛び回りながらの連続キック。
これも一体どの辺が前田なのかまるでわかりません。
「そ、それはハメじゃないですかっ!」
「小林ハメより難易度高いわよこっちはっ!」
何故か会話の成立している二人。
「暗号か何かなんでしょうか……」
まあ私には一生関係ない事なんでしょうけど。
「くっ……」
バックステップして壁に張り付くシエルさん。
「ならば新技! グライドチョップ!」
シエルさんは空中で不可思議な動きをしながらチョップを繰り出しました。
「うわあっ?」
まともに直撃を受けてひっくり返るアルクェイドさん。
「……やるじゃないのっ」
「ふ、ヘッドの名は伊達ではありませんよ」
「やっとまともな勝負になってきましたね」
最初は一体どうなる事かと思いましたけれど。
「何を安堵しているんでしょう、私は」
別にこの二人の戦いがどうなろうと知った事ではないというのに。
「行きますよっ!」
「やらせないっ!」
シエルさんの左ジャブ、右フック。
「しっ、しっ!」
左右に体を動かし避けるアルクェイドさん。
「左ボディっ!」
「ぬっ」
下半身を狙われ一瞬動きが止まった。
「チャンスっ!」
ここぞとばかりにシエルさんが右ストレートを放つ。
「甘いわよっ!」
カウンターでアルクェイドさんの右ストレート。
お互いのストレートが綺麗に交差し。
ズギャーン!
「ぐっ……」
「くうっ……」
お互いの頬を捕らえていました。
「……」
果たしてどちらが勝ったのでしょう。
「……ふ」
シエルさんが不適に笑いました。
「……」
アルクェイドさんががくりと膝を突く。
どうやらこの勝負は。
「さすが……です」
ばたん。
「え?」
なんと倒れたのはシエルさんのほうでした。
「はぁー。つっかれたぁ……」
アルクェイドさんが大の字にひっくり返る。
「あ、あなたが勝ったんですか?」
「ええ。シエルとの勝負は基本的にカウンターが決まったほうが勝ちなの。キリないから」
「……キリないでしょうねぇ」
シエルさんもアルクェイドさんも相当しぶとそうですし。
「そのためのマッハチョップだったんですけれどねー。あれでカウンター取るのは無理だったでしょう?」
むくりと起き上がるシエルさん。
「ええ。あれはちょっときつかったわ。対処法思いつかなかったもん」
「結局わたしの体力消費が大きくていつものパターンになってしまいましたけどね」
この人たち、毎度こんな戦いをやってるんでしょうか。
「……で、負けたんだから詳しい事情を聞かせて貰うわよ、シエル」
「はぁ。仕方ありませんね。何を聞きたいんですか」
聞きたい事はたくさんあります。
何故シエルさんが冷峰四天王をやっているのかとか。
「シエルが冷峰四天王ヘッドって言ったわよね。この先、わたしたちの邪魔をするやつはもういないの?」
「そんな事はありませんよ。わたしたちの雇い主がいますし、他にも何名か集めていたようですし」
「そうなんだ。まだ楽しめそうね」
にこりと笑うアルクェイドさん。
「何を喜んでるんですか。聞くべきはそういう事ではないでしょう?」
「む。じゃあ何を聞けばいいのよ」
「一応わたし、立場上あとひとつくらいしか答えるつもりないんで。よく考えて質問してくださいね」
「ぬ……」
そう言われると何を聞けばいいのか戸惑ってしまいますが。
「本当にカレーの誘惑で四天王になったんじゃないですよね?」
マヌケな質問だけど本当に聞いてみたいのはそれであった。
「ち、違います! 遠野君が誘拐されたと聞いて仕方なく! 仕方なくですよっ!」
「……不愉快な理由ですが、まあ納得してあげましょう」
兄さんを無事に返して欲しければ私たちを倒してこいと、そんな感じだったんでしょうね。
「シエルだったらそんな連中すぐ倒せたんじゃないの?」
アルクェイドさんが尋ねる。
「残念ですがその質問にはお答えできません。もう答える必要はありませんから」
「ちょ、ちょっと?」
ぼんっ!
次の瞬間黒い煙がわたしたちを包んでいた。
「ごほ、げほっ……ず、ずるいですよっ! 結局何も答えてないようなものじゃないですかっ!」
「質問の仕方が悪いですよ。まあ、ひとつ言える事は冷峰学園の門番には気をつけろということですね」
「門番っ? ちょっと待って、待ってよーっ!」
だっとアルクェイドさんの駆け出す音が聞こえる。
「……あ、あれ? ちょっと? これ、ま、またああああぁぁぁぁっ?」
そしてその声がまた一気に遠ざかっていった。
ちゅどーん!
遥か地下へ落下した音が。
「さて……行きましょうか」
不安要素はたくさんありますがとにかく行かなくてはいけません。
兄さん、どうか無事でいてくださいねっ。
「ちょ、ちょっと待ってっ! 置いてかないでよ、ねえってばー!」
「知りませんっ!」
続く
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