「……これから先、厄介な旅になりそうですね」

おそらくまた冷峰学園からの刺客は現れるのだろう。

楽な旅ではなさそうだ。

「えー? 楽しそうでいいじゃない。冒険活劇?」
「はぁ……」
 

ああ、私もこの人みたいにバカになりたい。
 
 

「ダウンタウン月姫物語」
その3







「しかしまあ……キリがありませんね」
「そうねー。どっから沸いてくるのかしら」

私たちは襲いかかってくる男子生徒たちを倒しながら進んでいた。

「しかも意味不明の事ばかり言ってきますし……」

秋葉ちゃんは俺のものだーとか、金髪美人のねーちゃんゲットーとか。

もちろん前者は軽く失神させる程度で済ませてあげましたが、後者はボコボコにしてさしあげました。

「ねえちょっとあなた聞きたいんだけど」

何人目かの男子生徒をとっ捕まえたアルクェイドさん。

「は、はい、なんでしょうっ?」
「……?」

そのとっ捕まえた男子生徒はどう考えても不良とは程遠いイメージだった。

「どうしてわたしたちを襲うの? 誰かの命令?」
「は、はい……こんなビラがうちの高校へ入ってきまして」
「……見せて下さい」

そのチラシを眺めてみる。

『君も美人の彼女をゲットだ!』

「……」

要約するのもあほらしいけど、このチラシに書いてある事は。

「わたしたちを倒す事が出来たら倒した相手の彼女になるって事?」

そういうことである。

「そ、そうです。女の子くらいなら倒せるだろうと」
「……そんな情報信じるバカがいるだなんて……」

なんだか頭が痛くなってきた。

「バカねー。そんな女の子殴るような男の彼女になるわけがないじゃない」
「……珍しく意見が合いますねアルクェイドさん」

というより常識的に当然だろう。

「す、すいません、もうしないので許して下さい」
「あなたの学校に戻ったら伝えなさい。この情報はデマだったと。いいわね?」
「は、はいっ!」

男子生徒は逃げ去っていった。

「しかしまずいですね」
「何が?」
「このチラシ、書いてある事はマヌケですが、得られる商品があまりに豪華すぎますので」

どこで手に入れたんだかわからないけど、そこには私の笑顔が写っていた。

しかも営業用の極上のスマイル。

女性に免疫のない男子生徒たちは一撃で撃墜されたんだろう。

ああ、美しさは罪というやつですね。

「そうねー。わたしが手に入るなんて豪華すぎ」
「あなたじゃありません。私の事ですっ!」
「えー? 妹よりわたしのほうがボリュームあるよ?」
「だまらっしゃい! 体の事を言っているのではないんです! あなたなんてこのチラシのどこにも載って無いでしょうっ?」

まったくなんて厚かましい人なんでしょうかっ。

「さっき倒した中には金髪のねーちゃんゲットって言ってたけど」
「ぬぬぬぬぬ……」
「お! いたぞ! 写真の女の子と……すっげえ美人がいるっ!」
「な、なんだって! その美人もゲットできるのかっ?」
「ああ。ウハウハだぜ!」
「ヒャッホー!」
「ほら、盛り上がってるじゃない」
「……どうやら再起不能になりたいみたいですね……」

私たちの進んだ道には男子生徒の屍が築かれていきました。

私が悪いんじゃないですよっ。これは正当防衛です、正当防衛!
 
 
 
 
 

「商店街ではさすがに襲ってこないみたいね」
「そうですね……」

桜町商店街に入るとさすがに男子生徒が襲ってくる事はなくなった。

「あのチラシ、どのへんまで配られてるのかしら」
「……周辺の全校に配られていたら最悪ですね」

前にも言ったけれど、このへんは高校の密集地帯なのだ。

女に飢えた男子生徒なんてそれこそ腐るほどいる。

「まあいいじゃないの。それってそれだけ妹が魅力的ってことなんじゃない?」
「あ、アルクェイドさん?」

意外でした。アルクェイドさんの口からそんな言葉が出るだなんて。

「写真に性格は写らないもんねー」
「……」

やはりこの人は敵です。間違いありません。

「あれ、あそこテックバーガーだって。美味しそう。ちょっと寄って行かない?」
「却下です。一刻も早く兄さんを助けなくてはいけないのですから」
「あ、そっか」
「あなたもう帰ってもいいですよ?」
「楽しいからやだ」

笑顔で即答。

「……」

そこにあるゴミ箱でも投げつけてあげましょうか。

「あ」
「今度は何ですか」
「橋があるわ」
「……花園大橋ですね。この辺では有名な場所です」

新宝川を通している橋で、利用者は結構多い。

というよりはこの橋を通らないと緑町へは行けない。

「魚とかいるかな」
「ちょ、先に行かないで下さいっ」

慌ててアルクェイドさんを追いかける。

「あ。お待ちしておりましたー」

そしてそこに最悪の人間の顔を見つけた。

「琥珀……こんなところで何してるの」

そう、そこにいたのは琥珀。

事件厄介ごとが大好きで、状況をさらにややこしくしてくれる元凶。

「嫌ですよ秋葉さま。こんな楽しそうな事をわたしに話してくれないだなんて意地悪です」
「翡翠が話したのね」
「翡翠ちゃんを責めないで下さいなー。わたしはたまたまチラシを拾って翡翠ちゃんに持って言っただけなんですから」
「……で、何の用なのよ」

確かに翡翠を責めたってしょうがないのだ。

悪いのは琥珀の性格なのだから。

「お二人のために情報収集をしてたんですよー。色々わかりました」
「ふーん。どんな情報?」
「ええとですね。志貴さんをさらったのは冷峰学園の『ダブルドラゴン』という二人組らしいです」
「ダブルドラゴン……」

どこかの映画のタイトルみたいな名前である。

「彼らはとても強いそうです。怪我をしないように気をつけてくださいね。油断すると痛い目を見ますよ?」
「大丈夫だって。妹はともかくわたしは強いから」
「あのですねえ」

先ほどまでの私の戦いぶりを見てなかったんでしょうかこの人は。

「あはっ。わたしは二人の味方ですよ。応援してます」
「……一応礼を言っておくわ。でも危険だから屋敷で待っていなさい」

ここで琥珀についてこられたら厄介な事になる。

「はい。そろそろお暇します。頑張ってくださいね。ではー」
「……?」

琥珀はいやにあっさりと引き下がってしまった。

「変ね」
「何が?」
「いえ……別にいいんですが」

琥珀の怪しい行動など気にしていたらキリがない。

「ダブルドラゴン……兄さんをさらったというからにはそれ相応の報いを受けて頂きますよ」

私は敵への怒りを燃やすのであった。
 

「妹こわーい」
「何ですってえ!」
 

続く


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