その笑顔はで私は確信した。
「覚悟なさいっ!」
琥珀を倒せばメカ翡翠は止まる。
「うわ、ちょっときゃーっ!」
ちゃっちゃと倒して進ませて貰いますっ!
「ダウンタウン月姫物語」
その20
「せいっ!」
首筋目掛けてチョップを放つ。
これで気を失わせておしまい。
ごきゃ。
「……ごきゃ?」
なんだかものすごく嫌な音が聞こえたような。
「ちょっとこは……」
次の瞬間私は我が目を疑った。
琥珀の首があり得ない角度で曲がっているのだ。
「ちょ、こ、琥珀っ? そんな強くやったつもりはないわよっ?」
がくがくと琥珀の体を動かす。
ぶち。ごろんごろん。
「……嘘」
地面を転がっていく、琥珀の頭。
「うわ、琥珀首ちょんぱ事件っ?」
メカ翡翠と戦っているにもかかわらず、アルクェイドさんがツッコミを入れてきた。
「真面目な顔で恐ろしい事言わないで下さいっ!」
そんなバカな、人の頭があっさり取れるだなんて。
「……そんなまさか」
じっと琥珀の胴体を見つめる。
「ん?」
首が取れた部分に銀色の物体が見えた。
「もしや」
アルクェイドさんが先ほど投げたダンベルを拾い、そこを殴ってみる。
「……機械……」
そこから現れたのは金属のパーツ。
そう。琥珀もメカだったのだ。
「あは、ばれてしまいましたかー」
地面に転がったまま言葉を喋るメカ琥珀の生首。
「……正体がわかっても不気味ね」
見ていてあまり気分のいいものではなかった。
「秋葉さまがわたしを首ちょんぱにするからいけないんですよ。メカ琥珀は突貫で作ったんでそんなに頑丈ではないのですから」
「なんでこんなものを作ったのよ」
頑丈でないロボットに一体何の意味があると言うんだろうか。
「メカ翡翠ちゃんはオートでも強いですが油断は出来ません。やはり命令する人間が傍にいたほうが確実です。ですが秋葉さまと直接対決したらわたしが負ける事は目に見えています」
「なるほど、それでメカ琥珀なわけ」
「ええ。命令さえ出来ればなんでもよかったんですけれど。メカ翡翠ちゃんがいるならメカのわたしもありかなーと」
「相変わらず卑怯な戦い方をするのね」
琥珀は私の攻撃できないような場所で悠々と命令しているわけだ。
「頭脳的な戦い方と言って下さい。実際メカ翡翠ちゃんの相手に必死でわたしを狙うだなんて考えてなかったじゃないですかー」
「そ、それは……もう過ぎた事です!」
「負け惜しみは見苦しいですよー」
めきょっ。
メカ琥珀の頭を踏み潰す。
「……」
それでようやく静かになった。
「琥珀の命令はこれでなくなったわ……」
メカ翡翠の動きも少しは鈍くなるはずだ。
「アルクェイドさん! そっちはどうですっ?」
「……どうもこうも……」
見るとメカ翡翠とぐるぐる円を描くように追いかけっこしているアルクェイドさんの姿が。
「何をやってるんです?」
「ずっと追いかけてくるのよ。頭を殴ったのが悪かったのかしら?」
「壊れたのかもしれませんね」
それならもう苦戦する事はないでしょう。
「アルクェイドさん、さっさとやっつけちゃいなさいっ!」
「……言うのは楽でいいわよね」
口をへの字に曲げて立ち止まるアルクェイドさん。
「必殺だぶるちょーっぷ!」
そして軽くジャンプしながらのチョップをメカ翡翠へ放った。
シャアン!
「はぐっ!」
天殺竜神拳で吹っ飛んでいくアルクェイドさん。
「防衛機能は生きてるみたいですね……」
メカ翡翠はしばらくアッパーを続け、ぴたりと動かなくなった。
「……あーもうっ! なんでわたしばっかりやられなきゃいけないのよっ。次は妹攻撃してよねっ!」
「わ、わかりましたよ」
渋々ながらメカ翡翠へ近づいていく私。
「バクマリュウジンキャク」
「え? ちょ、ちょっとっ!」
どげしっ。
「ぐうっ……」
メカ翡翠の蹴りをモロに食らってしまった。
「どう? 結構強いでしょ」
「……生意気な」
手に持っていたダンベルでメカ翡翠を殴りつける。
ごん。
「ガガ……ギギ」
「ふん、ちょろいもんです」
「テンサツリュウジンケン」
「え」
シャアンっ!
「きゃあああああっ!」
私の体は真上に吹っ飛ばされてしまった。
「……このっ!」
落下直前で受身を取る。
全く冗談じゃない。
何なのだろうこのメカ翡翠の頑丈さは。
「殴っても殴っても駄目なのよねー。カウンターでダメージ食らって痛い目を見るだけよ?」
「じゃ、じゃあどうしろというんですかっ」
「だから、わたしがやってたみたいに逃げるのよ」
「それこそキリがないでしょう?」
「まあねー。だから困ってたの」
「……ぬう」
いい方法があるはずです。
私の攻撃が通用しなくてももっとすごい衝撃を与えればあるいは。
「いえ……でも」
いくら敵の学園だからと言って、校内でアルクェイドさんに本気を出させるわけにはいきませんし。
「ん? 校内?」
そこで私は気がついた。
「そ、そうよっ。ここは三階なんだわっ」
「……だから何よ」
「わからないんですかっ! 見てください!」
そこを指差す私。
「ああ……なるほどね」
それでアルクェイドさんも理解したようだった。
「じゃあなんとかうまくそこに追い込んでみる?」
「ええ。やってみましょう」
これならばメカ翡翠といえども倒せるはずだ。
「ギギギ……」
首を180度回転させて私たちのほうを見るメカ翡翠。
「……来ますよ!」
メカ翡翠は体を回転させてこちらへと向かってきた。
「ほらほらこっちこっち!」
誘導するようにそこへ向かって駆けていく。
「せいっ!」
私はメカ翡翠の足元へダンベルを投げつけた。
「ガガ……」
一瞬動きを止めるメカ翡翠。
「ほらほら鬼さんこちらっ」
そのメカ翡翠へ向けて手を振るアルクェイドさん。
「バクマリュウジンキャク」
メカ翡翠はアルクェイドさんへ向けて突進を仕掛けた。
「今ですっ!」
「とうっ」
アルクェイドさんが横へ避ける。
そしてその後ろには全開に開かれた窓があった。
「さようなら」
メカ翡翠は空へ向かって飛んでいき。
しばらくの間の後。
ちゅどーん!
爆音が響くのであった。
「……終わりましたね」
「まさか窓から落下させるとはね……えげつないこと思いつくわ、妹」
「いいんですよメカなんですから」
あんな物騒な兵器は破壊していいに決まっています。
「あはっ。参りましたー。さすがは秋葉さまとアルクェイドさんです。完全にわたしの負けです。大した物ですね」
「うわっ?」
破壊したメカ琥珀の胴体のほうから声が聞こえた。
「……そっちのほうも喋れるのね」
「さあ、わたしたちを倒したんです。残っているのはエンディングだけですね」
「ん? 藤堂の居場所を教えてくれるって事?」
「ええ。藤堂さんは生徒会室にいるはずです。どうぞわたしたちのぶんまで頑張って下さいー」
「ちょっと琥珀っ?」
いくらメカ翡翠を倒したからと言って簡単に藤堂の居場所を教えるのはおかしい気がする。
何か裏があるんじゃないだろうか。
「なおメカ琥珀は機密保持のため5秒後に爆発します」
「え」
「なんですって?」
「5・4・3・2……」
「ちょ、ちょっとー!」
メカ琥珀の放つ強い光に私とアルクェイドさんは巻き込まれてしまった。
世界が真っ白になっていく――
続く
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