何か裏があるんじゃないだろうか。
「なおメカ琥珀は機密保持のため5秒後に爆発します」
「え」
「なんですって?」
「5・4・3・2……」
「ちょ、ちょっとー!」
メカ琥珀の放つ強い光に私とアルクェイドさんは巻き込まれてしまった。
世界が真っ白になっていく――
「ダウンタウン月姫物語」
その21
「けほっ……けほっ」
「あーあ、まったくひどい事するわねえ」
「……す、すいませんアルクェイドさん」
メカ琥珀が爆発した瞬間、アルクェイドさんは私を引っ張って遠くまで逃げてくれたのです。
「ん。怪我はない?」
「……ええ、まあ」
正直に言って。
私はアルクェイドさんに対して敵対的な対応しかしていませんでした。
なのに彼女はそんな私を助けたのです。
なんのためらいもなく。
「そっか。よかった。じゃあ、さっさと藤堂のところへ行きましょう」
「……」
もしかしたら、私のこの人へ対する苛立ちは、そういう人間の大きさみたいなものに対するものだったのかもしれません。
ただ、それを認めると自分の矮小さが浮き彫りになってしまうから認める事が出来なかった。
「アルクェイドさん……その」
「ん? なに?」
「その……ですね」
多分私は謝らなくてはいけない。
今までやってきた仕打ちを。
「なに? 胸が小さくなったの?」
「はっ……?」
アルクェイドさんは胸に手を当てている私を見てそんな事を言ってきました。
「それ以上小さくなったらもうどうしようもないわねぇ」
「何を訳の分からない事を言ってるんですか! 小さくなるはずがないでしょう!」
「あはは、冗談よ、冗談」
笑いながら逃げていくアルクェイドさん。
「待ちなさいこのっ!」
人がせっかく謝ろうとしていたのに……!
ああもう、やっぱりこの人にそういう気遣いなんてする必要ないですっ!
ないんですってば!
「ここかしら?」
「他にないでしょう?」
入り口に大きく書かれた『生徒会室』の文字。
ついに私たちは藤堂のいる生徒会室へ辿り着いたのです。
「どうする? 正面突破?」
「いえ……琥珀があっさりここを教えたということは、何かしらの罠があると思っていいでしょうね」
「そんな罠なんてぶち壊しちゃえばいいのよ」
「そんな無計画な……」
かちゃん。
「え?」
「あれ?」
入り口で揉めていると生徒会室のドアが勝手に開きました。
「あ、あれ? なんで人が……というか部外者さん?」
そして中から出てきたのは謎の女子生徒。
「あなた誰? あなたが藤堂?」
こういう時アルクェイドさんの非常識さは便利です。
「え? あ、違います。藤堂は生徒会長で……わたしは副会長の長谷部と言います」
軽く会釈する長谷部さん。
「ご丁寧にどうも」
どうやら今までの連中と違って話のわかる人間のようだ。
「私たち、藤堂会長に話があって来たのよ。会えるかしら?」
「あ。と言う事は会長が呼んだお客さんなんですね?」
「え? お客さんって……もがっ?」
「そ、そうですそうです。ええ、ちょっと色々あって遅れてしまったんですが」
私はうまく話を合わせてしまうことにした。
「ぷはっ。ちょ、ちょっと何よ」
「いいから静かに」
藤堂に会えさえすればしめたもの。
「あ、そうなんですか。ではご案内します。こちらへどうぞ」
彼はタダのぼっちゃんだから大した力はないはず。
不意をついて人質にしてしまおう。
「うふ、うふふ」
「……なんか妹が悪役っぽい笑いしてる」
「だまらっしゃい」
長谷部さんへ連れられ生徒会室の中へ。
「ふぅん」
他の教室と違ってそこだけはやたらと豪華な装飾がされていた。
「ここだけ別世界みたい」
「藤堂会長。お客さまがいらっしゃいました」
「うむ。待っていましたよい……げっ!」
私の顔を見た瞬間露骨に表情を変える藤堂。
「久しぶりね」
「な、なななな。なんで君がここにいるんだい遠野くん」
藤堂は部屋の端まで後退してしまった。
「あれ? 会長がお呼びになったんじゃ?」
「ずいぶんな歓迎どうもありがとう。他校の不良を利用、さらに冷峰四天王とあれこれ手を尽くしたみたいだけど……」
少しづつ歩いて行き藤堂を追い詰める。
「私たちを倒すまでには至らなかったようね」
「ま、待て! 何の話だっ?」
「とぼけないで! 久我峰や琥珀が言っていたわよ! あなたに命令されたと!」
「知らない! 何の話だっ?」
「貴方が私にフられた腹いせに兄さんをさらって復讐を企てた事はとうにばれてるんですよっ!」
どーん。
私は探偵のように言い切ってやった。
「会長。まだそんな事やってたんですか?」
顔をしかめている長谷部さん。
「待て。長谷部くん。誤解だ! 僕は何もやっていない! だいたいそれは君だって知っているだろう?」
「……そういえばそうですね。今回は会長にしては珍しくマトモでしたっけ」
「失敬な……」
「ちょ、ちょっと待って?」
どうも話がかみ合ってない。
「貴方が手下に命令して兄さんをさらったのよね?」
「だから本当に知らないんだ。君に兄さんがいたことだって今初めて知った」
「……」
おかしい。これはどういうことなんだろう。
「ねえ、長谷部だっけ? 今その藤堂会長サンは何をやってたところなの?」
「あ、ええ。はい。近々行う予定の冷峰学園文化祭の準備をしていたんですよ」
「文化祭……?」
「ええ。何度かライブを開いて絶大な人気を誇る学生バンドや伝説の女番長さんなどをゲストに呼んでの一大イベントです」
「……学生バンドと女番長」
前者はおそらく蒼香の事だろう。
後者は……一子さんだろうか。
「ふーん。あともうひとつ聞きたいのよ。なんで今日この学校ってこんなに人がいないの?」
「それは振り替え休日だからです。文化祭は日曜日の開催なんで。休みが先ってのも変な話なんですけどね」
「ふっ。それも大いなる計画なのだよ長谷部くん。先に休んで生徒諸君に力を蓄えて貰う事で当日絶大な力を発揮してもらうのだ」
「……とまあそんな理由でして」
苦笑いしている長谷部さん。
「じゃ、じゃあ、付近の不良学生を誘導したり冷峰四天王を作ったりとかは全然してないの?」
「そんな暇はない。だいたい冷峰四天王の彼らも文化祭の準備で忙しいはずだ」
「え、ちょ、待って。冷峰四天王というのは誰を指すんですか?」
「小林、木下、望月、平の四人じゃなかったかな?」
「ええ、確かそのはずですけど」
小林、木下、望月、平。
そんな人たちを私は知らない。
「……他に四天王なんていないわよね?」
「いるわけないだろう。そうしたら八卦集などになってしまうからな」
「……」
私の知っている冷峰四天王はシエル先輩、シオン、一子さん、久我峰のほうだ。
とするとこちらのほうは冷峰四天王の名を騙った偽モノだったということなのだろうか。
「どういうことなの……これは」
藤堂を見つけて事件解決のはずだったのに、事態はどんどんややこしい方向へ進んでいってしまうのであった。
続く
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