そんな人たちを私は知らない。
「……他に四天王なんていないわよね?」
「いるわけないだろう。そうしたら八卦集などになってしまうからな」
「……」
私の知っている冷峰四天王はシエル先輩、シオン、一子さん、久我峰のほうだ。
とするとこちらのほうは冷峰四天王の名を騙った偽モノだったということなのだろうか。
「どういうことなの……これは」
藤堂を見つけて事件解決のはずだったのに、事態はどんどんややこしい方向へ進んでいってしまうのであった。
「ダウンタウン月姫物語」
その22
「何なら彼らを呼んで来ても構わないぞ」
「別にそこまでしなくてもいいわよ」
知らない連中がこれ以上増えても困るし。
「長谷部くん。今日の四天王の予定はどうなっていたかね?」
「……だからいいってのに」
必要ないというのに話が進んでしまっている。
「今日はライブの予行演習を手伝わせているはずですが」
「ん」
すると、予期しなかった情報が手に入った。
「ライブ……蒼香のやつよね」
「ふっ。文化祭で行う予定のものは有名な学生バンドを多数招いている。月姫蒼香くんの率いるグループもそのひとつだな」
「なるほどね」
蒼香は本当に藤堂が呼んだということで間違いないようだ。
あの子だけは他の連中とかなり違う感じだったし。
「聞くけど貴方。シエルとかシオンとか久我峰とか知らない?」
「久我峰と言うのは遠野側の有名な一族だろう? ……それ以外は知らないな」
「本当でしょうね」
「神に誓って。だいたい僕はあのアホにやられてから悪行は控える事にしているんだよ」
「あのアホ?」
「い、いやなんでもない」
げほんげほんと咳払いをする藤堂。
何か嫌な思い出でもあるんだろうか。
「なら一子は? 乾一子って人なんだけど」
アルクェイドさんが尋ねる。
「ああ、伝説の赤い流星だろう? 彼女にはちょっとしたゲストを頼んでいるんだが」
ここでも一子さんは有名人のようだった。
「……ゲストって何のです?」
「彼女は不良のカリスマなんでね。熱血高校のアホと違った意味でだが。ちょっとした人集めのためだな」
「はぁ」
不良業界の事情はよくわからないけど、あの人がカリスマというのはなんとなくわかるような。
「……長谷部くん。一子さんへの招待状を持たせた使いは既に出したはずだな?」
「ええ。そのはずですけど。まだいらっしゃいませんね」
「うーん……」
腕組みをしてうなっているアルクェイドさん。
「どうしたんですか?」
「藤堂が黒幕だってわかったのは……いつだったかしら?」
「久我峰が勝手に話してくれたんじゃなかったでしたっけ?」
久我峰はこっちが聞いていないのにも関わらず勝手に黒幕をばらしてくれたのだ。
「そうよね。それと確か琥珀も藤堂に命令されたて言っていたわよね」
「ええ」
しかし当の藤堂は自分は悪い事など何もしていないと言う。
だから話がおかしくなってしまった。
誰かが嘘を言っているのだ。
「ねえ。一子への使いって誰に頼んだの?」
再びアルクェイドさんが尋ねる。
「確か女子生徒だったな。確か長谷部くんが頼んだんだよな?」
「え? 会長が頼まれたんじゃ?」
「……また話の食い違いが出てきたわね」
「ですね」
こういう些細な情報の欠如が積み重なって状況は混乱していくのである。
「リボンの子がそう言ってたぞ? 長谷部さんに頼まれましたと」
「え。わたしもリボンの子が会長にに頼まれたと言っていたのを聞いたんですが」
「む?」
「あ、あれ?」
またも意見の食い違い。
「そのリボンの子ってのが怪しいわね」
「……もしやリボンって」
ポケットを探る。
「こういうリボン?」
私はさっきメカ琥珀についていたリボンを取り出して見せた。
「そ、そう! それだ。そういうリボンをした子だったな。……しかし何故君がそれを?」
「貴方のお知り合いなんですか?」
「……ええ……まあ、ちょっとね」
その言葉でようやくこんがらがっていた糸がひとつになった気がした。
「なるほど……」
アルクェイドさんも納得したようである。
「つまり、全部あの琥珀とかいうメイドの企みだったって事でいいのかしら?」
「そういうことでしょうね」
まず琥珀はどうにかしてこの文化祭間近の冷峰学園へともぐりこんだ。
そして『藤堂からの招待状』を持って一子さんへ会い、本来の用件とは違う、『私たちへの足止め』を藤堂の依頼として渡したのだろう。
不良のカリスマの一子さんなら不良連中をいくらだって動かす事が出来る。
いや「一子さんの命令ですよー」と琥珀が言えば単純な連中はきっと動いていただろう。
襲ってきた連中の一部はそれだったのかもしれない。
さらに持ち前の口の上手さでシオン、シエル先輩や久我峰をうまく騙して冷峰四天王へ仕立て上げ、同じく邪魔をさせた。
「そもそも兄さんをさらわせたのも、琥珀の差し金だったのでしょう」
四天王を用意したってわたしたちが来なければ意味がない。
それで絶対に私が動く餌、兄さんをさらったのだ。
「さっき襲ってきた羽居って子も琥珀がだましたのかしら?」
「そう思って間違いないでしょうね。あの子をだますくらい琥珀ならわけないはずだもの」
琥珀にとっての不幸は私たちが予想外に健闘したことだろうか。
羽居には期待していなかったとしても、メカ琥珀、メカ翡翠のコンビで私たちを倒せるとタカをくくっていたに違いない。
だから悪役にする予定だった藤堂たちに会った事で全てのネタが割れてしまった。
そこまでは考えていなかったんだろう。
『あはっ。ついにバレてしまいましたかー。困っちゃいましたね』
「っ?」
するといきなり琥珀の声が聞こえた。
「琥珀っ! どこにいるのっ?」
「いえ、生徒会室にちょいと盗聴機兼マイクを仕掛けてありまして。話は全部聞いちゃいました」
「出てきなさい! もう全てばれてるのよっ!」
「あはっ。わたしは屋上にいますよー。エンディングは屋上でやるものです」
「そう……いい度胸じゃない!」
自分から居場所を教えてくれるなんて。
まな板の上の鯉とでも言うのかしら?
今日という今日はもう勘弁なりません。
「行きますよアルクェイドさん!」
「……なんかなぁ」
「ん?」
琥珀の言葉を聞いてもまだ何か考えているようなアルクェイドさん。
「何をしてるんです、早く!」
「え、あ、うん」
待ってなさいよ琥珀。
徹底的にとっちめてあげますからっ。
「琥珀っ!」
屋上への扉を勢いよく開く。
「うふふ」
夕暮れの屋上に彼女は立っている。
そして彼女は言った。
「全国の皆さんの予想通り、わたしが悪の大ボスの琥珀です!」
続く
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