「メカ琥珀は一体だけじゃなかったんですよー。そして」

そう、宙に浮かんでいたのはメカ琥珀だったのだ。

琥珀は、最後の最後にまで策を仕込んでいたのである。

「……っ!」

慌てて手を離す。

だが既に遅かった。

「メカ琥珀、だいばくはつ〜」
 

再び閃光が私を包みこんだ。
 
 

「ダウンタウン月姫物語」
その25




「……」

私の体は宙を舞っていた。

爆風に巻き込まれたのだろう。

体が熱い。

特に背中の部分がなにか柔らかいモノで……

「……?」

柔らかいモノ?

「はぁ。間一髪だったわねー」

後ろから声が聞こえた。

「……ア、アルクェイドさん?」

そこでようやく私の置かれている状態が理解できた。

私はアルクェイドさんに抱きかかえられているのだ。

「よっと」

アルクェイドさんは軽い足取りで地面へ着地し、私を地面へと降ろした。

「ど、どうして?」

アルクェイドさんは兄さんを探しに行ったはずなのに。

「んー。なんていうか虫の知らせってやつ? なんか嫌な予感がしたから帰ってきたのよ。で、大丈夫? 怪我はない?」
「……えと……はい」

私の体はどこも傷ついていなかった。

「そっか。よかった。ほとんど無我夢中だったから自信なかったんだけど」

にこりと笑っているアルクェイドさん。

「あ、あの、血が……」
「ん? あれ?」

アルクェイドさんの左腕から血が滴っていた。

「かわし切れなかったのかな」
「……」

それは私を庇ったためなのだろう。

「こ、これを」

私はハンカチをアルクェイドさんへ差し出した。

「ん? ああ、ありがと」

ぶっきらぼうにそれを受け取り、ぐるぐる巻きにするアルクェイドさん。

「……こ、こちらこそ、ありがとうございます、その、助けていただいて」
「いいっていいって。それよりも……」

ぎろりと琥珀を睨み付けるアルクェイドさん。

「覚悟はいいでしょうね?」
「こ……ここでアルクェイドさんが登場するのは計算外ですよっ」

後ずさる琥珀。

「そうでしょうね……」

私ももう駄目かと思っていた。

「ええ、わたしも妹なんてどうでもよかったんだけど」
「……」

助けてもらった手前、文句は言えないけどやっぱりこの人はムカつく。

「でも、一応ここまで一緒に来た仲間なわけだし」
「な、何を言ってるんですかっ」
「違う?」
「……」

多分、こういう事を平然と言えるのがこの人の魅力であり欠点なんだろう。

「……そうですね」

兄さんみたいな単細胞と相性がいいのがよくわかるような気がした。

「じゃあ、一緒にラスボス退治といきましょうか?」
「ええ。全力でやっちゃいましょう」
「え、ちょ、ちょ、待ってくださいよっ。メカ琥珀のないわたしなんてただのパンピーですよっ?」

確かに琥珀にはもう戦闘能力はないと言っていいだろう。

「しょうがないじゃないの。あなたが自分で爆発させたんだから」

それは全て自業自得というやつである。

「では……覚悟はよくて?」
「あ、あわわわわ」
「思いっきりいくわよーっ」
 
 
 
 
 
 

「そ……そんな馬鹿な……わたしの悪のぱわーが通用しないなんて……げろろんぱ」
「あっけなかったわね」
「まあしょうがないでしょ」

メカ琥珀は強敵だったけれど、生身の琥珀はあっさりと倒すことが出来た。

まあ私とアルクェイドさんでコンビを組んだんだから、誰が相手でも勝てやしなかっただろうけど。

「昔から秋葉さまにだけは負けたくなかったんです……」

うわごとのように呟く琥珀。

「まだ意識があるの?」

そんな琥珀に止めをさそうとするアルクェイドさん。

「……話させてあげて」

私はアルクェイドさんを制止した。

「……」

一瞬不満げな顔をしたものの、何も言わずにアルクェイドさんは引き下がってくれた。

「仕えていたときも……いつも……ですが……さすが遠野家当主です……わたしなんかより一回りも二回りも偉大です」
「当然でしょう」
「わたしはまた一から出直します……次はこうはいきませんよ……」
「……まだやるつもりなのあなたは」

まあ、琥珀らしいといえばらしいけど。

「よーく覚えていて下さいね……。がっくーん」

そして琥珀は気を失った。

「これで取りあえずおしまいね」
「そうですね。後は兄さんを探すだけです」
「そうねー。この学園のどっかに捕まってるんだろうけど」

一体どこにいるんでしょうか。

「探す必要なんてないさ。秋葉」
「……え?」

後ろから声が聞こえた。

「兄さん?」
「志貴?」

屋上の入り口。

そこに兄さんが立っていた。

「兄さん……本当に兄さんなんですか?」
「ああ。そうだよ」

やっと。ようやっと会うことが出来た。

思えば長い道のりだった。

けれどその苦労がようやく報われたのだ。

「さあ、俺の胸に飛び込んでおいで、秋葉」
「兄さん……っ」

私は兄さんへ向けて駆けよ……

「……ストップ妹」
「むぎゅっ!」

アルクェイドさんに引き止められた私は思いっきり地面とキスをしてしまった。

「な、何をするんですかアルクェイドさんっ!」
「違うわ、あれ」
「は?」
「おいおい。何を言ってるんだ? アルクェイド」

兄さんも呆れた顔をしている。

「あれは志貴だけど志貴じゃない。気配が全然違うの」
「……どういう意味です?」

兄さんだけど兄さんじゃない。

どういう意味なんだろう。

「あれと同じような志貴を見た事があるのよ。わたしをバラバラにした時に」
「バラバラに……?」
「ふ、ふふふふふ……ははははははっ!」

それを聞いた兄さんは、突然大きな声で笑い出した。

「に、兄さん?」
「いや、失敗したな。秋葉だけだったら気付かれなかったんだろうけど」
「……っ?」

違う。

私にもはっきりとわかった。

これは兄さんじゃない。

「残念だ。近づいてきたら肉片にしてやるつもりだったのにな」
「……アルクェイドさん。あれはどうなってるんですか?」
「うまく説明できないけど……志貴の中にある退魔衝動……七夜の血が目覚めた形とでも言うのかしら」
「退魔……衝動?」
「ええ。簡単にいうとわたしたちみたいなのを殺したくなる衝動?」
「……さらりと怖い事を言わないで頂けますか」

そんな物騒な衝動が、あの兄さんに?

「おまえたちをザンケーにショす! ゴクサイとチれ! ……フフフ。どうだい? かっこいいだろう秋葉っ?」

きらりと歯を光らせて笑う七夜(仮名)。

「……あの、アルクェイドさん? あれが七夜ですか?」
「ちょっと……ううん、全然違う気がしてきた」

単にかっこよさげな単語を羅列しただけの変な人に見えるんですが。

「と、とにかく、志貴はなんかおかしくなってるのよっ。正気に戻さなきゃっ」
「……それについては同意いたします」
「さあ、殺し合おうかっ?」

この兄さんを正気に戻すには戦うしか道はないようだ。
 

これが……正真正銘最後の決戦ですっ。
 
 

続く


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