琥珀はいやにあっさりと引き下がってしまった。
「変ね」
「何が?」
「いえ……別にいいんですが」
琥珀の怪しい行動など気にしていたらキリがない。
「ダブルドラゴン……兄さんをさらったというからにはそれ相応の報いを受けて頂きますよ」
私は敵への怒りを燃やすのであった。
「妹こわーい」
「なんですってえっ!」
「ダウンタウン月姫物語」
その4
「人が多めに見ていてさしあげてるのをいいことに……そこに直りなさい!」
「……またずいぶん時代錯誤なセリフね。妹センス古いんじゃない?」
「な……この! もう許しませんよっ!」
「うわ、ほんとにこわーい」
あははと笑いながら逃げていくアルクェイドさん。
「待ちなさい!」
私は当然アルクェイドさんを追いかけました。
「わ、行き止まり」
「ふふふ、追い詰めましたよ……」
マヌケなアルクェイドさんは河川敷に逃げていったので、川岸ですぐ追い詰めることが出来ました。
「なーんて、この川飛び越えちゃおうかな」
「フン、何を馬鹿な事を」
「出来るわよ? わたし」
「飛んだ瞬間檻髪で打ち落として差し上げます」
「……なかなかスリルがありそうね」
不適に笑うアルクェイドさん。
「上等です」
私も笑い返してやりました。
「おいおい、そっちからヤられにくるなんていい度胸してるジャン!」
「……は?」
すると背後から妙に下劣な声が聞こえてきます。
「え……えっ?」
しかもアルクェイドさんはその背後の人物に驚いている様子です。
一体誰がいるというのでしょう。
「何者です!」
私は振り返りました。
「貴様らに恨みはないが我らの力を冷峰学園に認めさせるため、倒させて貰うぞ」
「美人のネーチャンブッコロス!」
「ね……ネロ=カオスっ? どうしてあなたがっ?」
「ししし……シキっ?」
そう、そこにいたのは死んだはずの遠野シキでした。
そしてその隣にいる巨大な男はアルクェイドさんの知り合いのようです。
「カオス……? 知らんな。何の事だ?」
「とぼけないで! あなたネロでしょうっ?」
珍しくまともな顔をしているアルクェイドさん。
「確かに、我の名はネロ造と言う」
「ね……ネロ造?」
しかし次の瞬間マヌケな顔へ変わってしまった。
しょせんあの人にシリアスなんて無理な話なんです。
「そしてオレの名前はロア助! 発達した知性こそが暴力だと謳う虚ボロ巣のリーダーよ!」
「ろ、ろあすけ?」
「どうだ驚いただろう! 惚れるなYO! ベイベー!」
「……」
そしてどうやらこの方もシキとは別人の様子。
「ま、まあ世の中には三人は同じ顔の人がいるって話ですし」
「そうなの……? それにしちゃまるっきり同じ顔だけど」
「ですね……」
ここまで似ていると何かの陰謀を感じてしまいます。
「訳の分からん事を言っているぞ。どうするロア助」
「ヤってやるぜ! ウォンチュー!」
「……アルクェイドさん、どうしましょうか」
「んー。返りうち?」
「ですね」
こういう輩に手加減は不要です。
「全て奪いつくして差し上げます……!」
ぼこすかばかどこべきがすがすごすめきごきゃ。
「ちょ、ちょっと手を抜いちゃったかナ……疲れたから風呂屋へ行こうぜ、ネロ造」
「……おかしい……彼女らの肉体のどこからこれほどの力が……」
二人は倒れたままうわごとを呟いています。
「ボロゾーキンみたいになっちゃったね」
「顔が悪かったんですよ」
恨むなら自分の顔を恨んでくださいね。
「……さて行きますか」
「あれ? もう追いかけてこないの?」
「あなたを相手にする時間がもったいないと気付いたんです」
今の戦闘でだいぶストレス解しょ……ごほごほ。
「ま、いいか。それじゃ行きましょ」
「……何度も言いますが、さっさと帰って構いませんからね」
「やーよー」
私たちは河川敷を昇り、花園大橋を通り抜けていきました。
「おかーちゃーん!」
「ひ、ひえーっ!」
「しくしくしく……」
緑町へ入っても、あのチラシに騙されたらしい男子生徒の襲撃が止む事はありません。
「いくらザコといえども、こうも多いと鬱陶しいですね」
「そうね……もうちょっと手ごたえがないとねぇ」
本当にどこから沸いて出てきてるんでしょう、この人たちは。
「……仕方ありません。少し回り道をしましょう」
「回り道?」
「ええ。こちらです」
私は古びた倉庫を指差しました。
マルカ運送倉庫と書かれてはいますが、そこは完全に廃倉庫となっているようです。
「なんでこんなとこ通るの?」
「そのほうが狙われにくいでしょう?」
「そうかなぁ。余計に狙われやすいと思うんだけど」
「……なら貴方はついて来なくて結構です。いえ、最初からついて来なくてよかったんです」
錆びた扉を強引に開ける。
「むー、わかったわよ。行けばいいんでしょ?」
「来なくていいですってば」
天井の穴から差し込んでくる光で中は以外と遠くまで見渡せました。
「ほら、何もいないじゃないですか」
「あれー?」
「あれーじゃありません。さあ行きますよ」
「おっかしいなあ……ちょっと気配がしたんだけどなぁ」
「貴方の気配察知能力なんてアテには出来ません」
建物の入り口の地図で確認しましたが、この倉庫は二箇所入り口があります。
私たちの入ってきた入り口と、反対側の入り口。
そして反対側の入り口がちょうど緑町商店街のすぐ傍に繋がっているのです。
「ほら、もうすぐ……」
無人の倉庫内を進んでいくと。
かつん。
「!」
誰かの足音が聞こえました。
「アルクェイドさん?」
「わたしじゃないわよ」
「……じゃあ、誰なんですか?」
「さあ……」
などと話している間に出口はどんどん近づいて行きます。
「あ」
「何ですか?」
「誰か倒れてる」
「……?」
ちょうど私たちが出ようとしているそこの正面にその人は倒れていました。
「もーだめっ……ゆ、ゆるしてぴゅー……」
などと謎の言葉を呟きながら。
「誰でしょう?」
「あの、有彦だっけ? とかいう男が倒したヤツと同じ制服じゃない?」
「……とすると白鷹工業高校の生徒なんでしょうか」
外見は……まあお世辞にもかっこいいとはいえません。
あえて丁寧に言うならぽっちゃりしたチャーミングな感じの人でした。
「誰がやっつけたのかな」
「そんな事私が知るわけないでしょう」
かつん。
「……また足音?」
「もしかして……この人を倒した人なんじゃ」
私とアルクェイドさんは身構えました。
「そこっ!」
右腕をなぎ払うアルクェイドさん。
「わ、わわわわっ?」
すると天井近くから女の子のような声が聞こえました。
どさっ!
「い、いったぁ……」
いえ、事実女の子でした。
髪の毛をツインテールにまとめ、服装はシエル先輩と同じ制服を着ています。
その女の子が天井から落下して来たのです。
天井にでも張り付いていたんでしょうか?
「あっちゃぁ……見つかっちゃったよぅ。バレないように尾行しろって言われてたのに」
「あなた誰ですか? この人を倒したのはあなたなんですか?」
私は尋ねました。
「え、ええと、ごめんなさいっ、答えられませんっ」
深々と頭を下げるツインテール(仮)。
「どっかで見た事あるような気がするんだけどなあ……誰だっけ?」
その子を見て首を傾げているアルクェイドさん。
「どうしよう遠野君……大ピンチだよ、わたし」
なんですって?
「ちょっと貴方。今遠野とか言いませんでしたか」
「え? あ、え、ええとその……ごめんなさいっ!」
踵を返して駆け出すツインテール。
「ちょ、待ちなさい! 詳しく説明してもらいますよっ!」
「ちょっと妹。そっちだと引き返すことになるわよ?」
「構いませんっ! 兄さんの女性関係の方が重要ですっ!」
「……なんか矛盾してない?」
アルクェイドさんのツッコミは無視して、私は全力でそのツインテールを追いかけるのでした。
続く
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